(ABA自閉症療育の基礎33)オペラント条件付けー「正の強化の消去」と「負の強化の消去」

このページは、

「(ABAの基礎16)オペラント条件付けの基本ユニット(https://en-tomo.com/2020/08/07/operant-basic-unit/)」

で紹介したイラストでいうと


このページでは「(ABA自閉症療育の基礎16)オペラント条件付けの基本ユニット」で紹介したイラストの「消去(Extinction)」について書いています

イラストで「ココ」と書かれているところの紹介ページです。


「(ABA自閉症療育の基礎32)オペラント条件付けー「消去バースト」と「自発的回復」(https://en-tomo.com/2020/08/26/extinction-burst-extinction-induced-variability/)」

のページでは「消去手続き」を療育で行う場合「消去バースト(Extinction Burst)」「自発的回復(Spontaneous Recovery)」という現象が生じる可能性があることを書きました。

ABA療育で「消去手続き」を導入する際、「消去バースト」と「自発的回復」についての知識があることは重要なことでした。


それとは別に私が思う「消去手続き」を行う際の重要なことは、「正の強化の消去」と「負の強化の消去」は手続きの差について知っていることです。

Raymond G. Miltenberger (2001) 消去手続きは「正の強化」を受けてきた行動の場合と、「負の強化」を受けてきた行動の場合でそれぞれ手続きが異なることを指摘しました。


Enせんせい

・・・しかし、実は読み進めていってもらえればわかりますが

本質的には「正の強化の消去」と「負の強化の消去」は見方によっては

「同じ」とも言えます


「消去手続き」は一般的に「無視をする」ということとして紹介されることがあります

このページで書いていきますが「正の強化」においては確かに「無視をする=消去手続き」であるケースが多いのですが、変わって「負の強化」において「無視」をしてしまうと逆に問題行動が増えてしまう可能性があるのです。

このことは知っておいて欲しいことですので、このページで見ていきましょう。



「正の強化」と「負の強化」のおさらい

「強化」とは

「(ABA自閉症療育の基礎19)オペラント条件付け-強化とは?(https://en-tomo.com/2020/08/13/operant-conditioning-basic-reinforcement/)」

で記載をしましたが、

特定の状況の下(A)で、特定の行動(B)が生起したとき、特定の結果(C)が伴う。

その後、特定の状況の下(A)で特定の行動(B)が増加した場合、それは強化と呼ぶ

というものです。


「消去」は行動を消失・減少させますが、対して行動が増えた場合は「強化」と呼ばれます。

普段私たちが自発的に行っている行動がなぜ増えたり維持しているかと言えば、ABAの理論に従えば「その行動が強化されているから」です。

お子さんの問題行動、例えば「癇癪」「他害」「大声」「走り回り」なども多くはこの「強化」によって増加・維持していると捉えることができます。


このような「強化」は2種類に分けて考えることができて、

「(ABA自閉症療育の基礎20)オペラント条件付けー正の強化と負の強化(https://en-tomo.com/2020/08/15/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement1/)」

で紹介した「正の強化」と「負の強化」に分類できます。

上のURLページでは

「正の強化」を「提示型」の強化

「負の強化」は「除去型」の強化

と紹介し、

坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) を参考に、 

環境に何かを付け加えることによる環境の変化を「提示型」 

環境から何かを取り去ることによる環境の変化を「除去型」

というように考えることを紹介しました。


「(ABA自閉症療育の基礎20)オペラント条件付けー正の強化と負の強化」のページ内でも書いていますが、

「正の強化」は「行動」する前になかった環境が、行動の後に出現するという結果を受け、その後行動が増加した場合

「負の強化」は「行動」する前にあった環境が、行動の後に消失(もしくは低減)するという結果を受け、その後行動が増加した場合

です。


「正の強化」と「負の強化」、どちらの随伴性によってお子さんの問題行動が維持しているかを見誤ると、逆に問題行動を強化(増やす)してしまう結果につながることがあります。

「(ABA自閉症療育の基礎32)オペラント条件付けー「消去バースト」と「自発的回復」(https://en-tomo.com/2020/08/26/extinction-burst-extinction-induced-variability/)」

のページで「消去手続き」はABA療育では単独使用は推奨できないと書きましたが、単独使用をしないだけで消去は必要な療育支援選択手段の1つです。

そのため適切にABA療育で「消去手続き」が実行できるようこのページで「正の強化」の場合の消去と、「負の強化」の場合の消去について学んでいきましょう。



「正の強化」の場合の消去

「正の強化」は

「正の強化」は「行動」する前になかった環境が、行動の後に出現するという結果を受け、その後行動が増加した場合

の行動増加です。

例えば、


これは「正の強化」、「注意引き」の例ですね

のようにお子さんが「泣く」行動を行う前にお母さんの注目が存在せず、「泣く」行動の後にお母さんの「注目」が伴う結果が生じ、今後お母さんの注目が存在しない状況で「泣く」行動が増加した場合、これは「正の強化」になります。

上のイラストは、

お母さんの注目が存在しない(A)

泣く(B)

お母さんの注目が存在する(C)

このようにABCでまとめることができます。

この場合の「消去手続き」は「お母さんの注目が存在しない(A)」ときに、お子さんが「泣く(B)」行動をしても「注目しない(無視をする)(C)」ということです。

このような手続きを行えば、


お母さんの注目が存在しない(A)

泣く(B)

お母さんの注目が存在する(C)


であった随伴性が、

お母さんの注目が存在しない(A)

泣く(B)

お母さんの注目が存在しない(C)

となり、お子さんが「泣く(B)」という行動をしても「A」と「C」が変化しないということになります。

「正の強化」は「行動」する前になかった環境が、行動の後に出現するという結果を受け、その後行動が増加した場合

でしたので、お子さんが行動をしても行動の前のまま、行動のあとに何も起こらなければ「消去手続き」として機能し、今後、その行動が消失・減少していくことが期待できます

「正の強化」では、お子さんが行動したとしても行動する前の状況をそのままキープすればそれが「消去手続き」となるのです。

そのため、確かに「無視」をすれば消去は生じることになります。


Enせんせい

ただし「上手に無視する」というのは実はテクニックが必要です

表情や目線をお子さんに送るだけでも「無視」にならず、お子さんの問題行動を強化してしまう可能性があります



「負の強化」の場合の消去

「負の強化」は

「負の強化」は「行動」する前にあった環境が、行動の後に消失(もしくは低減)するという結果を受け、その後行動が増加した場合

です。


例えば、


これは「負の強化」、「逃避・回避行動」の例ですね

のようにお子さんが「泣く」行動を行う前にお母さんが課題を行おうとしていて、「泣く」行動の後にお母さんの「課題の撤去」が伴う結果が生じ、今後お母さんが課題を提示した状況で「泣く」行動が増加した場合、これは「負の強化」になります。

上のイラストは、

課題が存在する(A)

泣く(B)

課題が存在しない(C)

このようにABCでまとめることができます。

この場合の「消去手続き」は「課題が存在する(A)」ときに、お子さんが「泣く(B)」行動をしても「課題が存在する(C)」ということです。

このような手続きを行えば、

課題が存在する(A)

泣く(B)

課題が存在しない(C)

であった随伴性が、

課題が存在する(A)

泣く(B)

課題が存在する(C)

となり、お子さんが「泣く(B)」という行動をしても「A」と「C」が変化しないということになります。

「負の強化」は「行動」する前にあった環境が、行動の後に消失(もしくは低減)するという結果を受け、その後行動が増加した場合

です。

この場合は、お子さんが泣いたとしてもそのまま課題を辞めず続けることで「消去手続き」が生じます

課題を辞めずに続けることで『「行動」する前にあった環境が、行動の後に消失(もしくは低減)するという結果』が生じず、お子さんが泣いても環境変化が生じません

お子さんが行動をしても行動の前のまま、行動のあとに何も起こらなければ「消去手続き」として機能し、今後、その行動が消失・減少していくことが期待できます



本質的に消去とは?

上で「正の強化」と「負の強化」の消去手続きの違いを見てきましたが、本質的には「正の強化」と「負の強化」で手続きは同じ

お子さんが行動をしても行動の前のまま、行動のあとに何も起こらなければ「消去手続き」として機能し、今後、その行動が消失・減少していく手続き

と言えます。


一度考えて欲しいのは、「無視」という言葉をどのように考えるか、というところです。

例えばこのページで例として示したような「課題が存在する(A)」→「泣く(B)」→「課題が存在する(C)」という一連の流れも「無視」と呼べるかもしれません

しかし「無視をする」と言われた場合、一般的にあるイメージからお子さんとの関わりを辞めて、目を合わせずに関わりを持たないことを「無視」として捉え「消去手続き」として実行した場合、

特にそれが「負の強化」であった場合にはお母さんが関わりを止めるということは「課題の中断・消失」という結果をお子さんに与えることになり、お子さんの問題行動を強化してしまうのです。



「消去」なのか、「罰」なのか

次のページでここまで紹介した「正の強化」「負の強化」「正の罰」「負の罰」、そして「消去」の5つの結果のまとめページを書いていきますが、

ここで少しだけ問題提起をしておきます。

「(ABA自閉症療育の基礎20)オペラント条件付けー正の強化と負の強化(https://en-tomo.com/2020/08/15/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement1/)」

で紹介した「正の強化」の例、

(教室で積極的に授業に参加した男の子)

先生が「答えが分かる人」と言ったとき(A)

挙手して答えを応えると(B)

先生が褒めてくれた(C)。

その後、先生が「答えが分かる人」と言ったとき(A)、

挙手して答えを応える行動(B)が増加した


「(ABA自閉症療育の基礎20)オペラント条件付けー正の強化と負の強化」
で紹介したイラスト

上のイラストでは「A(Antecedent)」の部分では存在しなかった「先生に褒められる(C:(Consequence):結果)」が、

「挙手をして応える(B(Behavior):行動)」ののちに出現します。

このような「A」のときになかったものが、「行動(B)」後に「C」では出現する、という随伴性の下ので今後行動が増えていく場合、正の強化です。


上のイラストは「正の強化」の例なのですがもし、この行動を「消去」しようとした場合は、

先生が「答えが分かる人」と言ったとき(A)

挙手して答えを応えると(B)

先生が褒めてくれない(C)

という結果が随伴する必要があります。

しかし「褒めてくれない」というのは記述としては正しくありません。

男の子に結果を与える先生も人間ですので、「褒めてくれない」ときは、何かしらの行動を行っているはずです。

教壇の上の先生は透明人間になったり、存在を消せるわけでは無いため「褒めてくれない」という言葉を「別の何か他の行動」に言い換える必要があります。


Enせんせい

「(ABA療育での行動の見方2)死人テスト・行動の過剰と不足(https://en-tomo.com/2020/06/29/behavior-view-base/)」


のページはABAで行動をどう捉えるかを書いたページです


興味のある人は是非みてください


そのため私たちは「無視をする」という言い方をするのですが、上のようなシチュエーションで「無視」をした場合を考えてみましょう。


例えば先生は大きな声で「馬鹿者!」と叱咤する、ということも褒めないという結果の1つですね。

また「表情を消して無視する」ということも1つの結果です。


大きな声で「馬鹿者!」と叱咤する結果は「罰」として機能する可能性が高いでしょう。

しかしこのようなシチュエーションで「無視をする」という結果は本当に「消去」として機能するでしょうか?

もちろん「消去手続き」になる可能性もあるのですが、男の子が小学生高学年くらいであった場合「先生は俺のことが嫌いなのか?」や「俺は先生に何か悪いことをしたのか?」、「周りの友達が俺が先生に無視されたことどう思っているだろうかー恥ずかしい」などの考えが生じる可能性があります。

この場合、「無視をする」という結果は「罰」として機能する可能性があるのです。

お子さんの行動に伴う結果が「罰」であったか「消去」であったかについては、その後のお子さんの行動頻度の減り方を追って見ていく必要があります。

次のページではこのことについて書いていきましょう。



【参考文献】

・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】