「(ABA自閉症療育の基礎29)オペラント条件付け−罰の副次的効果(https://en-tomo.com/2020/08/23/punishment-secondary-effect/)」
のページでは罰が持つ副次的な効果を紹介してきました。
ページ内で
1 :攻撃行動や情動反応を引き起こすことがある
2 :罰の使用者の負の強化を強める
3 :罰を使用された側の回避行動を強化する
4 :慣れることやもっと悪くなることがある
5 :罰の来ない状況でさらに悪くなる可能性がある
6 :全ての行動の全般的な抑制を導くことがある
7 :罰を受けた本人が罰を使用する可能性がある
8 :罰の使用者や場所以外では効果が期待できない可能性がある
9 :親以外が使いにくい
10:適切な何かを学ぶわけではない
の10点の罰の副次的効果について紹介しました。
そしてABA療育ではあまり「罰」の使用は推奨されないことを書きました。
上記の10点の罰の副次的効果の内、
2:罰の使用者の負の強化を強める
3:罰を使用された側の回避行動を強化する
についてこのページではもう少し詳しく説明していきます。
罰の副次的効果についてはABA療育を行うとき、知っておいた方が良いです
良ろしければ、
「(ABA自閉症療育の基礎29)オペラント条件付け−罰の副次的効果(https://en-tomo.com/2020/08/23/punishment-secondary-effect/)」
のページも見てみてください
オペラント条件付け-「負の強化」と「正の罰」のおさらい
「(ABAの基礎20)オペラント条件付けー正の強化と負の強化(https://en-tomo.com/2020/08/15/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement1/)」
では、負の強化について
「行動」する前にあった環境が、行動の後に消失(もしくは低減)するという結果を受け、その後行動が増加した場合、「負の強化」と呼ぶ
と記載しました。
例えば、
「
(お腹が痛いので薬を飲む女性)
お腹が痛くなったとき(A)
痛み止めの薬を飲むと(B)
痛みがなくなった(C)。
その後、お腹が痛くなったとき(A)、
痛み止めの薬を飲む行動(B)が増加した
」
というイラストの例は「負の強化」の例です。
「(ABAの基礎25)オペラント条件付け-罰(https://en-tomo.com/2020/08/20/operant-conditioning-basic-punishment/)」では
「罰」について
特定の状況の下(A)で、特定の行動(B)が生起したとき、特定の結果(C)が伴う。
その後、特定の状況の下(A)で特定の行動(B)が消失・減少した場合、それは罰と呼ぶ
と記載しています。
例えば、
「
(熱いスープで火傷をしてしまった男の子)
出来立ての湯気の出ているスープが目の前にあるとき(A)
スープに口をつけると(B)
舌を火傷した(痛みが走った)(C)
その後、出来立ての湯気の出ているスープが目の前にあるとき(A)
スープに口をつける行動(B)は消失した
」
は「正の罰」の例になります。
このブログページで出てきた「正」と「負」という用語については、
「(ABA自閉症療育の基礎27)オペラント条件付け−4つの随伴性と三項随伴性(https://en-tomo.com/2020/08/22/aba-contingency/)」
を参照していただければわかるでしょう。
「負の強化」と「罰」の相互作用
Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) は、罰は半ば条件反射的に用いられます。罰を与えることは単純で、即効性があるからです。つまり罰を使うことが負の強化を受け増大していくと述べています。
「罰」は行動に伴わせると即効性のある強力な行動変容が起こることがたびたびあります。
「罰」を行った側は目に見えて相手の行動が変化するため、その後も「罰」を使い続けてしまうことが起こるのです。
実森 正子・中島 定彦 (2000) を参考にすれば、罰の反応抑制は罰が継続して与えられている間だけなので、「罰」を辞めてしまった場合、元の状態に戻ってしまうため、「罰」を使っている側も「罰を使う」以外どうして良いかわからないという循環に陥ってしまうこともあります。
そのためどんどんと「負の強化」によって行動が強められていくのです。
罰を使用する側(ほとんどが親側)が「負の強化」を受けるとはいったいどう言う意味でしょうか?
また「罰」を受けた側に起こっている現象はどのようなものでしょうか?
以下、イラストを見てみましょう。
上のようなシチュエーションは、
「
(なかなか宿題をしない男の子)
宿題が終わっていないとき(A)
叱咤すると(B)
子どもが宿題をした(C)。
その後、宿題が終わっていないとき(A)、
叱咤する行動(B)が増加した
」
と記述できます。
これはお母さん側から見たときの随伴性です。
お母さん側から見ればおそらく不快な感情を産むであろうお子さんが宿題をしていないシチュエーションが叱咤によって取り除かれるため、お子さんが宿題をするという結果は負の強化子として機能する可能性があります。
お母さんからすると問題が解決したように見えるでしょう。
この結果は今後、お母さんの行動を強める可能性があるのです。
「罰」による行動変容はとても強力なので、もしお母さんがお子さんに宿題をさせたいと思ったときに別の介入方法を使用した場合、基本的には「叱咤」よりも目に見えて変化があり、即効性のある方法は見つからないでしょう。
※この場合はお子さんに「正の罰」を与えています
そのためお母さんからすれば叱咤する以外の方法がチープに見えてしまうのです。
これが罰を使用する側(ほとんどが親側)が「負の強化」を受ける理由となります。
お母さんの「お罰」を使う行動が「負の強化」によって増えてしまった場合
「(ABA自閉症療育の基礎29)オペラント条件付け−罰の副次的効果(https://en-tomo.com/2020/08/23/punishment-secondary-effect/)」
のページで見てきた「罰の副次的な効果」をお子さんが多く受ける可能性があります
罰には副次的な効果があり、長期的に見たときお母さんの「罰」が「負の強化」によって生活の中で増えてしまうのは
決して有意義な結果であったとはいえないと思います
子どもからみた場合
同じこの状況を視点を変えてお子さん側から見たらどのように見えるでしょうか?
「
(なかなか宿題をしない男の子)
宿題が終わっていないとき(A)
遊んでいると(B)
お母さんから叱咤された(C)
結果を受けて子どもの遊ぶ行動の頻度が激減した
」
まず母親から与えられた「正の罰」によってお子さんがそれまで行っていた「遊び」という行動が激減します。
これは「罰」の随伴性による行動変容です。
お子さんも「負の強化」行動をはじめる
このようなことが続くと、どのようなことが予測されるでしょうか?
お子さんも「負の強化」行動をはじめる可能性があることも知っておきましょう。
叱咤という「罰」によって「遊び」という行動が激減したとき、まるでロボットの電源がOFFにされたときのようにお子さんが活動を辞めてしまうわけではありません。
お子さんはお母さんからの叱咤という「罰子」(罰刺激、嫌悪刺激)を逃避する形で活動を始めます。
そのときに行う逃避行動は「宿題をする」という活動です。
お子さんのよってはもしかすると「もう、(宿題)やった」と嘘をつくかもしれません。
お母さんから提示されるであろう嫌悪刺激(叱咤)を避けるため、お子さんも「負の強化」行動を取るのです。
毎回怒らないと宿題をしない、ということもあり得るでしょう。
杉山 雅彦 (1989) は指導する際、嫌悪事態が導入されるとそれをescapeする形で学習が成立する。そこで形成された行勲は嫌悪事態が提示されなければ生起しないことになる。また嫌悪統制を受けた行動は一般に変動することが少なく、確実ではあるが拡大発展することが少なく、画一化しやすくなると述べています。
このことを考慮すれば、お子さんを「叱咤する」という結果によってお子さんの宿題をするという行動をコントロールしようとしたとき、
お子さんは「叱咤がなければ宿題をしない」という状況に陥ってしまう可能性もあるのです。
あなたは確かに、目の前でまだ宿題をしていないお子さんを見てイライラすることでしょう。
しかし一度、お子さんが宿題をする意味について立ち止まって考える必要があります。
それは「教師からのちゃんと子育てできていない」という評価を避けるためでしょうか?
それとも
「お子さんの知的好奇心を強める可能性にかけて、宿題に取り組ませたい」
他にも、
「自分のやるべき課題を計画してこなせるよう、自立を促すこと」
でしょうか?
もしあなたがお子さんの知的好奇心を伸ばすことや自立を促すことを目的として宿題に取り組ませたい場合、「叱咤」という親側の行動は目的達成から遠ざかる行為になる可能性があります。
あなたがお子さんを叱咤し宿題をさせたいと思ったとき、いったいどういった意図を持って今宿題をさせたいと思っているのかについて、一度立ち止まって考えてみてください。
さいごに
このページでは同じシチュエーションをお母さん側とお子さん側から観ています。
このページでは「負の強化」と「罰」が同じシチュエーションでも立場によってそれぞれが違う捉え方をすることを書いてきました。
このことは覚えておきましょう。
ここまで紹介をしてきましたが「罰」は行動を消失・減少させる結果操作です。
問題行動があった場合それを無くしたいと思うことは必然でしょう。
「罰」をABA療育で推奨しないとすればいったいどうやって問題行動を減らしたり無くしたりしていくのでしょうか?
ABA自閉症療育では「罰」を使うならば「消去」を使用するという推奨事項があります。
次のページからは「消去」についてみていきましょう。
【参考文献】
・ 実森 正子・中島 定彦 (2000) 学習の心理 第2版 サイエンス社
・ Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) Applied Behavior Analysis for Teachers:Fifth Edition【邦訳 佐久間 徹・谷 晋二・大野 裕史 (2004) はじめての応用行動分析 二瓶社
・ 杉山 雅彦 (1989) 自閉児の治療教育に関するHIROCo法の適用 心身障害学研究 13(2):131-139