(ABA自閉症療育の基礎29)オペラント条件付け−罰の副次的効果

「(ABA自閉症療育の基礎25)オペラント条件付け−罰(https://en-tomo.com/2020/08/20/operant-conditioning-basic-punishment/)」

のページ内で「罰(Punishment)」とは

特定の状況の下(A)で、特定の行動(B)が生起したとき、特定の結果(C)が伴う。

その後、特定の状況の下(A)で特定の行動(B)が消失・減少した場合、それは罰と呼ぶ

と「罰」についてを紹介しました。


ページ内で

「強化」は行動を増加させる、対して「罰」は行動を消失・減少させると聞くと、「罰は強化の反対なんだな」と思うかもしれません

しかしまったく反対のことであるかと言えばそうではありません

例えば「罰」には「強化」には無い、行動を減らす以外の副次的な効果が伴います

と記載しました。


「(ABA自閉症療育の基礎28)オペラント条件付け−罰を使ったABA療育支援研究(https://en-tomo.com/2020/08/22/operant-conditioning-punishment-study/)」

のページではO. Ivar Lovaas・James Q. Simmons (1969)の研究を紹介し、「罰」が一瞬にしてお子さんの自傷行為を減らした研究をみてきました。

しかし私自身もそうですがABA療育では「罰」による行動のコントロールが推奨されません。

その理由はこのページで書いていく罰の副次的な効果があるからです。

のちのページでABA療育ではどういったケースで罰を使用する可能性があるかについて書いていきますが、このページでは「罰に伴う副次的な効果」について解説をします。


療育者がお子さんに「罰」を使うときの副次的な効果について知っていることは、
ABA療育を行うために必要なことです


罰の副次的な効果

「罰」は使用することで即効性のある強力な行動変容をもたらします

そのため私たちは日常の中で「罰」を使いがちです。

例えばお子さんが悪いことをした際、大きな声で叱咤するなどは「正の罰」として機能する可能性がありますし、

お子さんが悪いことをしたときにお小遣いの減額などをした場合も「負の罰」として機能することがあります。

「正の罰と負の罰のページ」

に「正の罰」と「負の罰」について書いていますが、このような結果を行動に伴わせると即効性のある強力な行動変容が起こることがたびたびあるのです。

「罰」を行った側(だいたいは親側)からすれば目に見えてわかるお子さんの行動の変化に強化され、その後も「罰」を使い続けることがあります。

しかし「罰」には以下に記載していくような副次的な効果があることを知ってください。


Enせんせい

「罰」の副次的な効果について知っていることはABA療育を行っていく上ですごく大切なことです!



罰の副次的効果1:攻撃行動や情動反応を引き起こすことがある

Raymond .G .Miltenberger (2001)人間以外の動物を用いた実験の知見から、痛み刺激を「罰子」として使用した場合、攻撃行動や他の情緒反応が生じることがあると述べています。

「痛み刺激」を「罰」として提示する上記の手続きは「正の罰」を使用した方法です。

例えばお子さんに対して「罰」を使用した場合にお子さんが逆上し、親御さんに手をあげたり、ものを壊すということもあります。

私が思う悪循環になってしまう例としては、例えば親御さんがお子さんに「叱咤」している状況でお子さんが逆上し部屋の物を投げまくったとしましょう。

親御さんはその様子にひいてしまい、叱咤を辞めたとします。

これはお子さん視点から見れば、物を投げる行動のあと、親御さんの叱咤の消失という結果です。


この結果はお子さんにとって「負の強化」として機能する可能性があり、今後、親御さんが起こったときにお子さんが物を投げる行動を強める可能性があります。

「負の強化」については

「(ABA自閉症療育の基礎20)オペラント条件付けー正の強化と負の強化(https://en-tomo.com/2020/08/15/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement1/)」

「(ABA自閉症療育の基礎21)オペラント条件付けー正の強化と負の強化で覚えておきたいポイント(https://en-tomo.com/2020/08/16/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement2/)」

を参考にしてください。


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「罰」を使用することがお子さんの攻撃行動や情動反応を産んでしまう可能性があることを知っておきましょう



罰の副次的効果2:罰の使用者の負の強化を強める

Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) は、罰は半ば条件反射的に用いられます。罰を与えることは単純で、即効性があるからです。つまり罰を使うことが負の強化を受け増大していくと述べました。

「罰」は行動に伴わせると即効性のある強力な行動変容が起こることがたびたびあります。

「罰」を行った側は目に見えて相手の行動が変化するので、その後も「罰」を使い続けてしまうのですが、このページで記載している副次的効果を見ていくと、行動を減らしたい場合には「罰」ではない他の方法を使用した方が賢明であることが伝わるでしょう。

親御さんの中には

・ 「罰」を使わないとお子さんのコントロールが取れないと思っている

・ 今まで「罰」しかほとんど使ってこなかったため、他の行動の減らし方を知らない

という方がいらっしゃいます。

このブログを通して、「罰」を使わないお子さんの行動の減らし方を一緒に考えていければと思います。


Enせんせい

「罰」は強力で即効性のある行動変化を引き起こします

そのため「罰」を使用した側が「負の強化」を受け、

今後も「罰」を使用する行動が増えてしまう可能性があることを知っておきましょう



罰の副次的効果3:罰を使用された側の回避行動を強化する

「回避行動」は「負の強化」になります。

「回避行動」とは嫌悪的な状況や刺激が出現しないよう行動することです。

罰を使用された側は、今後「罰」を喰らわないように、「罰」を喰らった状況や刺激を避けるように行動するようになるかもしれません

例えばお子さんが何か初めての取組を行ったとき(お母さんの似顔絵を描くとか、鉄棒をするとか)に失敗したとしましょう。

このとき親御さんが「なんでうまくできないの?」と叱咤したとします。

するとお子さんは「罰」を受けた場面を回避するようになる可能性があるのです。

例えばお母さんの前では「新しいことにチャレンジする」ことを回避してしまうようになるかもしれません。

これは多大なる学習機会の損失です。

また他にも、学校のエピソードをお母さんに話すたびに「もっといい点数を取りなさい」、「リレーで負けてはいけない」など、褒められることなく関わりの中で「罰的」な結果を繰り返したとします。

この場合、お母さんに「学校のエピソード」を話す場面を回避してしまうかもしれません。

もし将来「いじめ」や「非行」という問題が発生するリスクが高まった際、お母さんに学校のエピソードを相談できないということはリスクを上げる要因になると思います。


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「罰」を受けた側は今後、「罰」を受けないように

「罰」を避ける形で行動してしまう可能性があるのですが、

このことには上記のようなリスクが考えられます



罰の副次的効果4:慣れることやもっと悪くなることがある

ハトを使った動物実験の結果からですが、小野 浩一 (2005) を参考にすれば、「罰」を使用した際、行動は一時的に低下するのですが「罰」が極端に強くなければやがて以前と同じレベルかそれ以上に回復すると述べています。

実験からも明らかにされているのですが私の学生時代、先生が「罰」には耐性がつくと良くおっしゃっていました。

「罰」に慣れてしまうことは恐ろしいことだと思います。

例えば小さい頃から「叱咤」によってお子さんの行動をなんとかしようとしてきたお子さんが小学校に進学したとしましょう。

その場合、お子さんが先生に怒られたとしても、怒られ慣れているために、ほとんど効果がないかもしれません。

「罰」を使用し続け、「慣れる」ことにより以前と同じレベルかそれ以上に悪くなることを私たちは望みません。


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仮にあなたのお子さんだけ「罰」に慣れていて、他のクラスメートは「罰」に慣れていなかったとしたら?

先生が強く行ったとき、あなたのお子さんだけ先生の言うことを聞かないということが起こります

小学校の先生から「おたくのお子さんだけ、集団指示が聞けない」など言われるかもしれません



罰の副次的効果5:罰の来ない状況でさらに悪くなる可能性がある

実森 正子・中島 定彦 (2000) 罰によって反応が抑制されても、罰が来ない状況になればその反応は回復し、一時的に顕著な反応増加を起こす。これを罰の対比効果という。反応抑制は罰が継続して与えられている間だけなので、問題行動の根本的な解決にならないと述べました。

「罰の副次的効果4:慣れることやもっと悪くなることがある」と似ている内容になりますが、仮にお母さんの前では言うことを聞くようになったとしても、学校に行って先生の前で元の状態に戻ってしまうようでは問題の根本解決とはいえません


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例えば「家ではこの子は良い子なんです」という状況で困っていた場合

一度この状態に陥っていないかを見直すべきだと思います



罰の副次的効果6:全ての行動の全般的な抑制を導くことがある

James E. Mazur (2006) 罰はしばしば全ての行動の全般的な抑制を導き、特定の行動だけを罰するわけではないことを指摘しました。

James E. Mazur (2006) は例として教室の中で生徒が手をあげて質問をしたところ、先生が「それは非常につまらない質問である」と答えた例をあげています。

先生は生徒たちのつまらない質問を減らすことを意図して上のように対応したのかもしれませんが、結果としてはその生徒だけでなくクラス全体の質問を減少させるという例を記載しました。

全ての行動の全般的な抑制を導くことがあるとすれば、

例えばお友達の前でおふざけの発言をしたとき、お母さんがお子さんを叱咤したとします。

お母さんからすれば「そういうことを言ってはいけません」という意味で叱咤したのですが、もしかするとお子さんはお友達とお話をすることや、お母さんの前でお友達と関わることが抑制されてしまうかもしれません。

これは多大なる学習機会の損失です。


また何をやっても「罰」を受け続けるという状態を続けると「学習性無力感(Learned Helplessness)」という状態を引き起こす可能性があります。

「学習性無力感」は「うつ病」のモデルとして考えられることもあります(参考 Christopher Peterson・Steven Maier・Martin Seligman, 1993)。


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あまりにたくさん生活の中で「罰」を使用してしまうと

行動の全体的な低下が起こる可能性があります

これは精神衛生上、良いとはいえません



罰の副次的効果7:罰を受けた本人が罰を使用する可能性がある

Raymond .G .Miltenberger (2001)「罰」を頻繁に用いる人を観察した人は、自分自身が同じような状況に出会ったとき、「罰」を用いやすくなると述べています。

お子さんが何か失敗したときやいけないことをしたとき、親御さんが決まって「叱咤」を行ったとしましょう。

同じような場面でお子さんは親御さんと同じ行動パターンを取る可能性が上がります。

例えば、お友達が失敗したときやいけないことをしたとき、お子さんはお友達に向かって「なにをやっているの!」と声を大きく、叱咤するかもしれません。

お子さんがお友達に対してこのように振る舞うことを望む親御さんは少ないと思います。


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例えば、幼稚園や小学校で言葉使いが悪いお子さんがいたとき

「きっと、家では親御さんはこう言う話し方をしているんだな」と考える先生もいます

自分がお子さんに普段使っている言葉使いや態度をお子さんは学び、使用することは知っておいてください



罰の副次的効果8:罰の使用者や場所以外では効果が期待できない可能性がある

先の

「ロバースのページ」

のページでは自傷行為を行う3人の精神遅滞児に対しO. Ivar Lovaas・James Q. Simmons (1969)が電気ショックを使って自傷行為を減らそうとした研究を紹介しました。

O. Ivar Lovaas他 (1969)の研究では「罰」として電気ショックを使用した大人の前では子どもは自傷行為を行わなくなったのですが、別の大人の前では自傷行為を行いました

また、研究では場所(部屋)が変わっても自傷行為を行うことが示されました。

お子さんの問題行動をなくそうと叱咤などの「罰」を使用した場合「自分の前でだけやらないようになって欲しい」という意図で行うわけではないと思います。


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もし自分以外の人、または「罰」を使用した状況以外ではまた問題行動が再出するとなれば、

それは本来の意図した結果とは違うと言えるでしょう



罰の副次的効果9:親以外が使いにくい

James E. Mazur (2006) 「罰」の問題点として専門家は「罰」を使用することに気が進まないかもしれないと述べています。

これも「罰」の副次的な効果と言えばそうではないかもしれませんが大切な点です。

もし親御さんが「罰」によってしかお子さんの行動のコントロールの方法を知らなかったとき、親御さんは「罰」を使ってお子さんと関われば良いかもしれませんが、

幼稚園や保育園、学校の先生や塾の先生、スポーツのコーチや音楽の先生など、

お子さんが関わる多くの他の教育者は、自分たちが「罰」を使用することを嫌がるかもしれません

もし親御さんが「罰」以外にお子さんの行動のコントロールの方法を知っていた場合、外で問題が起きても「○○と言って、褒めてあげてください」や「○○というように、ヒントを出してあげてください」など他の教育者が受け入れやすい提案をすることができます

問題があるときに「罰」以外でお子さんへの関わり方を知っていることは大切です。


Enせんせい

自閉症や発達に遅れのあるお子さんの療育では

専門機関や幼稚園・保育園・学校などの教育機関と連携をとって成長をサポートしていくことが多いです

自分以外のサポートをしてくれる専門家が受け入れやすい関わり方の手段を親側も意識することは大切でしょう



罰の副次的効果10:適切な何かを学ぶわけではない

これも「罰」の副次的な効果と言えばそうではないかもしれませんが大切な点だと思います。

「罰」は行動に伴わせることによって行動を消失・減少させるのですが、何か適切な行動を教える方法ではないことは意識しましょう。

例えば

「(ABA自閉症療育の基礎20)オペラント条件付けー正の強化と負の強化(https://en-tomo.com/2020/08/15/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement1/)」

のページで、

お母さんが台所で料理に集中しているとき、突然泣き出すお子さんがいてお母さんが困っていたとします。

お母さんはすぐにお子さんのもとに行き「何か怖いことがあった?大丈夫よ!」と慰めます。

しかし、お母さんが料理をしているときにこのお子さんはよく泣くのでした。

この場合は「お母さんの関わり」が「強化」となっている可能性があります(注意引き)。

このような「注意引き」の場合、お子さんに教えたい行動は、例えば「ねーねー母さん」と、自ら泣かずにお母さんにアクセスする行動です。

という例を書きました。

お母さんが料理をしているとき、お子さんを叱咤すればもしかすると泣き止むかもしれません。

しかしそれは同時にお子さんが「ねーねー母さん」などの適切なスキルを学ぶチャンスの消失とも言えるのです。


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お子さんが「不適切な行動」を行っているということは

本来、その状況で取るべき「適切な行動」を行っていないと言うことです

「罰」によって「不適切な行動」を減少させたとき、

同時に「適切な行動」の学習機会が消失することを覚えておきましょう



さいごに

このページでは罰の副次的な効果について見てきました。

このページでは罰の副次的な効果として、

1 :攻撃行動や情動反応を引き起こすことがある

2 :罰の使用者の負の強化を強める

3 :罰を使用された側の回避行動を強化する

4 :慣れることやもっと悪くなることがある

5 :罰の来ない状況でさらに悪くなる可能性がある

6 :全ての行動の全般的な抑制を導くことがある

7 :罰を受けた本人が罰を使用する可能性がある

8 :罰の使用者や場所以外では効果が期待できない可能性がある

9 :親以外が使いにくい

10:適切な何かを学ぶわけではない

の10点を紹介しました。


Jon・Baily & Mary・Burch (2006) は行動分析の初期段階では行動を減らすために「罰」が使われるのは珍しいことではありませんでした。

私たちは、「罰」というものの持つ副作用が重大なもので、誤用のリスクも高いことを学んできておりとても勧めることはできないと考えています。

行動分析家の倫理規定では、もし罰が必要な場合は、常に適応的な行動に対して強化子を与えることと並行して実施することを推奨していますと述べています。


このページで書いてきたように罰は即効性があり強い行動変容を起こす劇薬ですが、副次的な作用も大きく、あまりお勧めできるものではありません

どういった方略で問題行動などを減らしていくかについてはまた書いていきたいと思います。

次のページでは「負の強化」と「罰」についての絡みについてみていきましょう。



【参考文献】

・ Christopher Peterson・Steven Maier・Martin Seligman (1993) Learned Helplessness:A Theory for the Age of Personal Control 【邦訳 津田 彰 (2000) 学習性無力感 パーソナル・コントロールの時代をひらく理論 二瓶社】

・ James E. Mazur (2006) LEARNING AND BEHAVIOR:6Th ed. 【邦訳 磯 博行・坂上貴之・川合伸幸,訳 (2008) メイザーの学習と行動 日本語版 第3版 二瓶社】

・ 実森 正子・中島 定彦 (2000) 学習の心理 第2版 サイエンス社

・ Jon・Baily & Mary・Burch (2006) How to Think Like a behavior Analyst : Understanding the Science That Can Change Your Life 【邦訳: 澤 幸祐・松見純子 (2016) 行動分析的 ”思考法” 入門ー生活に変化をもたらす科学のススメー 岩崎学術出版社

・ O. Ivar Lovaas・James Q. Simmons (1969) MANIPULATION OF SELF-DESTRUCTION IN THREE RETARDED CHILDREN. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS No3, 143-157

・ 小野 浩一(2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館

・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】

・ Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) Applied Behavior Analysis for Teachers:Fifth Edition【邦訳 佐久間 徹・谷 晋二・大野 裕史 (2004) はじめての応用行動分析 二瓶社