『(ABA自閉症療育の基礎18)オペラント条件付けの起源「効果の法則」(https://en-tomo.com/2020/08/11/law-of-effect/)』
ではEdward L. Thorndikeの提唱した「効果の法則」について書いてきました。
杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)は効果の法則が行動分析学(※ ABAのこと)の基礎を作り、行動分析学が心理学の本当の基礎を作っていると述べています。
「効果の法則」のアイディアを発展させたのがB. F. Skinnerと先のページでは書いてきました。
このページからはB. F. Skinnerが発展させたオペラント条件付けについて書いていきます。
オペラント行動(Operant Behavior)
「オペラント」という単語はB. F. Skinnerの造語です(参考 小野 浩一,2005)。
小野 浩一 (2005) によればレスポンデントは「応答する(respond)」に由来し、オペラントは環境に「働きかける(operate)」に由来します。
このことからオペラント条件付けによって変化するオペラント行動は「環境に働きかける行動」と言えるでしょう。
佐藤 方哉 (2001) はオペラント行動とは、その行動が生じた直後の環境変化(刺激の出現もしくは消失という結果)に応じて、その後にその行動が生じる頻度が変化する行動であると述べています。
『(ABA自閉症療育の基礎1)ABAから見る行動の種類「レスポンデント行動とオペラント行動」(https://en-tomo.com/2020/07/11/learning-theory-respondent-operant1/)』
のページでは、
行動を「レスポンデント行動」と「オペラント行動」に分けて解説し、その中で
「環境から誘発される(環境に誘発されて、自分でコントロールができない行動)」行動はレスポンデント行動
「環境に働きかける(自分で自発できて、自分でコントロールできる行動)」ことができる行動はオペラント行動
と紹介しました。
オペラント行動とは、例えば「手を上げる」「右を向く」「話す」「~のように考えた」「~のように思うようにした」などです。
オペラント行動は「自発できて、自分でコントロールが可能」ということはポイントですので覚えておいてください。
オペラント条件付けの基本ー強化(Reinforcement)
オペラント条件付けは「行動の結果」によってその後の行動頻度が変化していくという理論です。
島宗 理 (2019) はオペラント条件付けについて、
オペラント条件付けの基本的な手続きは反応の直後に刺激を変化させることである。
この手続きによってその反応が含まれる行動の先行事象がその行動を喚起または抑制するようになったときに、オペラント条件付けが成立したことになる。
と述べています。
オペラント条件付けは行動のあとの「結果」が大切なのですが、行動の前、
ピンクマーカーで記載した「行動の先行事象」というものがあります。
「(ABA療育での行動の見方4)ABAの行動解釈。結果がその後の行動を左右する(https://en-tomo.com/2020/07/03/behavior-view-base2/)」
のページで「医学モデルの見方」を説明する中、
「朝友達に会ってあいさつをする行動」を取り扱い、あいさつをする理由が「友達を朝見かけたから」ではなく「友達からあいさつが返ってきた」という結果によって維持すると書きました。
上のイラストを見てください。
例えば仮に朝友達を見つけてあいさつをしたとしても「無視」をされた場合、今後「友達を見つけてもあいさつをしない」ようになるかもしれません。
とは言っても、「朝友達に会う」という「あいさつ」という「行動に先行する事象」が存在しない場合は「あいさつ」をする機会が訪れません。
「行動の先行事象」は行動を引き起こす機会を与えます。
しかし、機会が与えられた「行動の先行事象」の下で行動が生起するかどうかを決定するのは「行動のあとの結果」です。
「結果が大切」というのは、こういった意味だと考えてください。
「(ABA自閉症療育の基礎16)オペラント条件付けの基本ユニット(https://en-tomo.com/2020/08/07/operant-basic-unit/)」
のページで紹介した
はこのことを表現しており、
「A(Antecedent):行動に先立つ環境、先行状況などと呼ばれる」
ものの下で、
「B(Behavior):行動」
が生じます
そこには
「C:(Consequence):結果」
が伴うのですが、
その後に同じような状況下で行動の増加が見られた場合、強化と呼ばれます。
※ 「強化随伴性(きょうかずいはんせい)」、「オペラント強化」とも呼ばれる
以下「A(Antecedent)」、「B(Behavior)」、「C:(Consequence)」の3つのフレームについては「A」、「B」、「C」と略し記載していきます。
強化について私は、
特定の状況の下(A)で、特定の行動(B)が生起したとき、特定の結果(C)が伴う。
その後、特定の状況の下(A)で特定の行動(B)が増加した場合、それは強化と呼ぶ
と私は後輩育成をするときに教えています。
オペラント条件付け、強化の例
オペラント条件付けにおける強化の日常例を見てみましょう。
「
(教室で積極的に授業に参加した男の子)
先生が「答えが分かる人」と言ったとき(A)
挙手して答えを応えると(B)
先生が褒めてくれた(C)。
その後、先生が「答えが分かる人」と言ったとき(A)、
挙手して答えを応える行動(B)が増加した
」
「
(お腹が痛いので薬を飲む女性)
お腹が痛くなったとき(A)
痛み止めの薬を飲むと(B)
痛みがなくなった(C)。
その後、お腹が痛くなったとき(A)、
痛み止めの薬を飲む行動(B)が増加した
」
この2つの例は
特定の状況の下(A)で、特定の行動(B)が生起したとき、特定の結果(C)が伴う。
その後、特定の状況の下(A)で特定の行動(B)が増加した場合、それは強化と呼ばれる
という条件から、これらはどちらとも強化の例であると言えます。
このとき、行動を増加させた結果を「強化子(Reinforcer)」と呼びます。
小野 浩一 (2005) は強化子について、行動に随伴させることによってその行動の生起頻度を増加させることができる刺激と述べました。
※ ABAでは行動の前後の環境や変化について「刺激」と表現されることも多いです
強化は「正の強化」と「負の強化」の2つに分けられる
しかし実はこの2つの例は「強化」の例なのですが、それぞれ「正の強化(Positive Reinforcement)」と「負の強化(Negative Reinforcement)」の例です。
「強化」とは行動が増えることを表すのですが、行動が増える「強化」というものは、実は「正の強化」、「負の強化」の2種類が存在します。
ここで初めて「正の強化」、「負の強化」というキーワードが出現しました。
「正」と「負」とは、坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) を参考よれば「提示型(正)」と「除去型(負)」と呼ぶと分かり易いです。
「提示型(正)」と「除去型(負)」とは書かれていないですが、私がこの「提示」、「除去」という考え方について初めて触れたのは杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)の本でした。
非常に良い本だと思っていて、最初にABAを学びたい人には良くお勧めしています。
加えて最近のページの参考文献で頻出している小野 浩一 (2005)の本も良くお勧めする一冊です。
「正の強化」と「負の強化」について「提示型(正)」と「除去型(負)」という考え方で覚えていくことは非常に分かり易いと思います。
次のページから「正の強化」と「負の強化」について学んでいきましょう。
【参考文献】
・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館
・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】
・ 佐藤 方哉 (2001) 【浅野 俊夫・山本 淳一・日本行動分析学会 (2001) ことばと行動―言語の基礎から臨床まで ブレーン出版】
・ 坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 行動分析学 行動の科学的理解をめざして 有斐閣アルマ
・ 島宗 理 (2019) 応用行動分析学 ヒューマンサービスを改善する行動科学 新曜社
・ 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)行動分析学入門 産業図書