ESDMのエビデンス(ABA自閉症療育のエビデンス17)

このページではNBIの1つある「ESDM:Early Start DENVER Model(アーリースタートデンバーモデル)」について引き続き紹介する。

※NBIとは「NBI(Naturalistic Behavioral Interventions:自然主義的行動療法)」のことである


このページでは「ESDM:Early Start DENVER Model(アーリースタートデンバーモデル)」のエビデンスを見ていく

ABA自閉症療育ESDMのメタ分析

ESDMの「準実験」や「RCT」の研究をまとめた「メタ分析」が確認できた。

※ 「メタ分析」については

「準実験/RCT /メタ分析/系統的レビューの解説(ABA自閉症療育のエビデンス4)(https://en-tomo.com/2020/03/28/hierarchy-2/)」を参照

Canoy. Jane P・Boholano. Helen B (2015) 2005年から2015年の間に行われたESDMの5つの研究をまとめメタ分析を行った。

研究には12ヶ月~63.7か月の258人が含まれた。

メタ分析の結果、効果の大きさはコミュニケーション、日常生活で必要なスキル、社会性の順で大きかったがそれらはメタ分析の結果としてはあまり大きな効果では無かった

残念ながらESDMのメタ分析結果からは、療育効果を大きく裏付けることは難しかったようである。

Canoy. Jane P他 (2015) の研究では「介入を行った量(時間数)」と「お子さんの年齢の若さ」についても分析された。

分析から「ESDM」の有効性は「介入を行った量」と「お子さんの年齢の若さ」に大きく依存すると結論づけられた。

これは簡単にいえば「たくさんの時間介入をした方がいいし、介入を開始するのは年齢の若い時期がいいよ」ということであり、これまでこのブログで述べてきたABAの療育内容と一致する。

EIBIもPRTもESDMでもお子さんの成長を促すためには関わりを多くし、密な時間を過ごすことが大切なようである。



ABA自閉症療育ESDMのRCT

前のページ「(ABA自閉症療育のエビデンス16)ESDMの良点・EIBIとPRTの弱点(https://en-tomo.com/2020/06/12/esdm/)」

で紹介をしたSally RogersとGeraldine DawsonがRCTを発表している。

※RCTについても

「(ABA自閉症療育のエビデンス4)準実験/RCT /メタ分析/系統的レビューの解説(https://en-tomo.com/2020/03/28/hierarchy-2/)」を参照


Geraldine Dawson・Sally Rogers・Jeffrey Munson・Milani Smith・Jamie Winter・Jessica Greenson・Amy Donaldson・Jennifer Varley (2010) は18ヶ月から30ヶ月の自閉症と診断された48人の子どもを、ESDMを行うグループ(24人)と地域で通常行われる療育のグループ(以下、A /Mグループと記載、24人)にランダムに振り分けた。

※ A /Mグループは研究中「assess-and-monitor group」と記載

RCT研究なので個々の研究としてのヒエラルキーは高くそこで示される研究結果には期待できる。

研究の途中に離脱者がおり最終的にESDMを行うグループ(24人)とA /Mグループ(21人)が残った。

Geraldine Dawson・Sally Rogers・Jeffrey Munson・Milani Smith・Jamie Winter・Jessica Greenson・Amy Donaldson・Jennifer Varley (2010)の研究概要

ESDMグループは訓練されたセラピストから1日2回、1回2時間、週に5日(1週間20時間)の介入が2年間行われた。ただ病気や休暇などもあり、研究が終わってみれば実際は平均介入時間は1週間あたり15.2時間であった。

研究ではペアレントトレーニングも半月に1回行われESDMの原則と特定のテクニックが教えられた。

両親は日常の生活の中でESDMを使用し、使用した時間数も記録するよう求められた。

例えば両親は食事、入浴、遊びなどの日常活動の間にESDMを使うように求めらたようである。

研究ではIQ、自閉症の症状の度合い、適応行動などがグループ比較された。



結果ESDMグループはIQにおいて有意な改善を果たした

また、2年後にはA /Mグループでは適応行動について発達の遅れがさらに加速したようだが、ESDMグループにおいては遅れはみられなかった。

加えて自閉症の症状度(診断)についてはESDMグループで7人(29.2%)の子どもの診断が改善されたが、A /Mグループで改善がみられたのは1人(4.8%)だけであった。

各グループに症状が重くなったお子さんもおりESDMグループは2人(8.3%)、A /Mグループでは5人(23.8%)の子どもは2年後、症状が重くなったとされた。

この研究で注目すべき1つの点はかなり若いお子さんが対象となっていることだろう。

研究に参加したお子さんは18ヶ月(1歳半)から30ヶ月(2歳半)でありこの年齢層の療育ニーズを満たすことを意識したと考えられる



ABA自閉症療育他のESDMの順実験

他のESDM研究で面白いと思ったものにValsamma Eapen・Rudi Črnčec・Amelia Walter (2013) が行った研究がある。

この研究は対照グループが用意されていないためエビデンスヒエラルキーこそ高くないものの研究が行われた背景はとても興味深い。

彼らの研究背景は「子どもの年齢が若い段階で介入を始めることは重要である」ことはわかるが、「1対1の介入はコストがかかりすぎるため、資源が足りない」ということであった。そのため彼らは比較的資源のかからない「グループ介入」を行っている

研究は平均年齢49.6ヶ月の自閉症児26人(うち、男性21人)を対象に行われた。

平均の介入期間は10ヶ月。参加者は施設に集められ15時間から20時間、グループでESDMが行われた。加えて1週間に2回、30分間(1週間に1時間)は1対1のESDMを受けた。

グループでESDMを行う際のスタッフと子どもの比率は1:4。また、1対1でESDMを行う時は、同じスタッフが継続して行った。研究中ペアレントトレーニングの実施はなかったが、希望した親にはオプションでペアレントトレーニングが提供された。

この研究には対照グループがいなかった。

そのためO. Ivar Lovaas (1987)の行なった「準実験」よりも、エビデンスのヒエラルキーは低い。

研究の結果ESDMを受ける前と受けた後で、特に受容言語とコミュニケーションの分野で有意な結果が得られた。



ここまでEIBI、PRT、ESDMとABAの療育手法についての解説を行ってきた。

ここまで長かったが、次のページでは最後に「JASPER:joint attention symbolic play engagement and regulation(共同注意の象徴的な遊びの関与と調節)」という、お子さんに対して行う療育手法を紹介して療育手法の紹介について一旦締めることとする。

次のページで紹介をする「JASPER」からは、私も感じている1つの療育問題が提起される。人によっては心にくるものがあると思う。



【参考文献】

・ Canoy, Jane P・Boholano, Helen B. (2015) Early Start DENVER Model: A Meta-Analysis. Journal of Education and Learning. Vol. 9(4) p314-327.

・ Geraldine Dawson・Sally Rogers・Jeffrey Munson・Milani Smith・Jamie Winter・Jessica Greenson・Amy Donaldson・Jennifer Varley (2010) Randomized, Controlled Trial of an Intervention for Toddlers With Autism: The Early Start Denver Model. Pediatrics January ; 125(1): e17–e23

・ O. Ivar Lovaas (1987)Behavioral Treatment and Normal Educational and Intellectual Functioning in Young Autistic Children. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 55(1) p3–9.

・ Valsamma Eapen・Rudi Črnčec・Amelia Walter (2013) Clinical outcomes of an early intervention program for preschool children with Autism Spectrum Disorder in a community group setting. BMC pediatrics 13