DTT VS PRT(ABA自閉症療育のエビデンス12)

DTTとPRTを比較した研究

Fereshteh Mohammadzaheri・Lynn Kern Koegel・Mohammad Rezaee・Seyed Majid Rafiee (2014) が行った「A Randomized Clinical Trial Comparison Between Pivotal Response Treatment (PRT) and Structured Applied Behavior Analysis (ABA) Intervention for Children with Autism」というRCTの研究がある。

「Pivotal Response Treatment(PRT)」と下線の「Structured Applied Behavior Analysis (ABA) Intervention」を比較した研究となる。

ピンク色の下線Structured Applied Behavior Analysis (ABA) Intervention」と記載されている方法は内容が明らかにDTTであったため以後、DTTと記載していく。

※ Structured Applied Behavior Analysis (ABA) Interventionは「構造化された応用行動分析介入」などと和訳できるだろう

Fereshteh Mohammadzaheri他 (2014) はこの研究の中でDTTについて以下の3つのデメリットを述べた。


DTTのデメリット

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(1)1つできるようになるまでに時間がかかる

(2)結果が生じてもしばしば、一般化しない

(3)子どもが課題に参加する意欲がなく、破壊的な行動を示すことがある

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Fereshteh Mohammadzaheri他 (2014) は上の3点以外にPRTなどのNBIは特定のスキルだけでなく中核となるピポタル(動機付けなど)を対象としており、対象としなかった領域にも広範な利益をもたらすとも述べている。

DTTを実施した人であればオレンジ色で書いた上記の(1)ー(3)については頭を悩ませた人もいることだろう。

※ 「(ABA自閉症療育のエビデンス11)PRTのエビデンス(https://en-tomo.com/2020/06/05/prt-evidence/)」

でも記載したが、PRTの「P」は「Pivotal(ピポタル)」のことである

(2)の「結果が生じてもしばしば、一般化しない」というのは例えば


DTTでは教えたスキルが一般化しない(例えば他の人や場面で機能しない)


などのように、教えたスキルが他の人や場面では使用されない状態のことである。

DTTではABAの専門家とお子さんでトレーニングを行うが、専門家と行ったトレーニングによる成果が生活の中で必要とする場面で必ずしも出現するとは限らない。

そのためPRTではイラストのように「生活の中で名前を呼ばれて返事をすることを想定して支援する」のなら最初から生活の中で教えれば良いよね?というスタンスで療育を行う。



Fereshteh Mohammadzaheri他 (2014) の研究

このページで紹介するFereshteh Mohammadzaheri他 (2014) の研究に参加したのは6歳から11歳の30人(男:18、女:12)のお子さんであった。

この研究にも参加条件があり特記するものとしては「少なくとも2語文のコミュニケーションを使用することができた」こと、「IQが50以上」のお子さんが参加している。

参加したお子さんは既にDTTを全員が受けていたが研究開始に伴ってPRTグループとDTTグループに15人ずつランダムに分けられた。

PRTグループに振り分けられたお子さんはDTTの方法にPRTの「動機付け戦略」を組み入れた支援を受けたようだ。

介入期間は1週間に2回、60分間の介入を3か月(合計24時間)実施した。

研究の結果PRTはDTTと比較して、有意にお子さんのコミュニケーションスキルの向上に貢献したと述べられている。特に会話においてはお子さんが不適切に話を切り出してしまうことや、お子さんが使用する文の数などがDTTと比較して有意に増加した。

このページで前出の

「(ABA自閉症療育のエビデンス11)PRTのエビデンス(https://en-tomo.com/2020/06/05/prt-evidence/)」

でも記載したがPRTはお子さんのコミュニケーションを伸ばすことを得意としている。EIBIはどちらかといえば、IQの向上などに力を発揮する。

PRTとEIBIでは研究されてきた内容から得意分野があるように思う。



DTTとPRTの対比

Fereshteh Mohammadzaheri他 (2014) の研究ではPRTグループとDTTグループに行われた方法が詳しく対比され紹介されていたので表にした。

研究で使用されたPRTとDTTの方法は共通している部分と、共通していない部分があった。

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共通部分

・ 課題の機会を提供する際、実施者は子どもの注意を引く必要があった

・ 課題で用意される指示、質問や機会は明確であった

・ 子どもが適切な行動を行った後に、強化子(お子さんにとって魅力的な結果)が随伴された


共通していない部分

・ 課題や活動をDTTでは実施者が選択したがPRTでは子どもの選択に従った

 ※ ただしPRTでも子どもが危険な行為(自傷)や不適切な行為(自己刺激:常同行動など)を行なった場合には実施者がコントロールを持つ

・ 課題を行う際DTTでは現在教えたい課題を行うが、PRTでは現在教えたい課題に加えて「すでに獲得済みの簡単な課題」も加えて行なった

・ 提供される強化子(お子さんにとって魅力的な結果)はDTTの場合は介入と無関係で良かったが、PRTの場合は自然であるか望ましい行動に直接関連している必要があった

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これらを踏まえ具体的にどのようにPRTとDTTで課題を行ったのか比較し下にイラストにした。

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【課題内容:支援者が「あれは何?」と聞いた時にお子さんが「赤い車」と答える】


使われた教材はDTTは市販のカードであったがPRTでは子ども向けのおもちゃが使用された。

※日本で言えば「くもん」や「こぐま会」の販売しているカードなどが該当するだろう

・ 「あれは何?」と質問をして答える機会をセットする際、DTTでは配慮されなかったがPRTではお子さんが手を伸ばした時にそのような質問を行うようにした

・ 子どもはDTTであってもPRTであっても「車」と答えた

・ DTTもPRTも支援者は「赤い車」と伝える

・ DTTもPRTも子どもは「赤い車」と伝える

・ DTTではおやつやステッカーが与えられ子どもが車で遊ぶが、PRTでは子どもと一緒に遊ぶ


以下イラストを見比べてみよう!


DTTの例

PRTの例

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上記の例を見てもらえると「NBIとEIBIの対比」で書いたようにPRTはDTTと比較して「自然さ」を強調していることが窺える。



Fereshteh Mohammadzaheri他 (2014) の続き

またこの研究には続きがあって翌年Fereshteh Mohammadzaheri・Lynn Kern Koegel・Mohammad Rezaei・Enayatolah Bakhshi(2015) はこの研究と同じグループのお子さんたちについて「破壊的な行動」に焦点を当てた研究を発表している。

このFereshteh Mohammadzaheri他 (2015)の研究で問題とされたことは支援者が自閉症のお子さんたちに何か課題を行おうとした際に子どもたとはしばしば「破壊的な行動」をみせるということであった。

研究内で「破壊的な行動」とは以下のように定義された。

「泣き叫ぶ」、「大きな声で叫ぶ」、「エコラリアや課題とは無関係の発声」、「課題や支援者に対して頭や体を遠ざけたり、叩いたり、つかんだりする」 、「アイテムをテーブルから振り払う」、「顔や口を手で覆って課題を避ける」、「椅子やテーブルに横たわる」、「椅子から立ち上がって離れようとする」などであった。

これは「課題に対しての非協力的な態度」と読み替えても良いだろう。

研究の結果DTTグループと比較し、PRTグループは上記のような行動が減り積極的な課題参加がみられたようである。

このページの上の方で記載した「(3)子どもが課題に参加する意欲がなく、破壊的な行動を示すことがある」という、Fereshteh Mohammadzaheri他 (2014) が述べたDTTについての3つのデメリットの1つが解決された結果となる。

このことはお子さんに何かを教えていきたいと思っているお子さんを持つ親御さんが、何かを教える際に壁にぶつかった時に救いになることが多い。

私はDTTを仕事で行っているしDTTに効果も感じているが「破壊的な行動(課題に対しての非協力的な態度)」のお子さんに対してはPRTのエッセンスを取り入れることでスムースに療育が行えることは体験として感じている

DTTは確かに効果があるように思うがPRT、ないしはNBIの知識を知っていること・技術を持っていることは療育生活において大きな武器になるだろう。


このページではPRTのRCTについて述べた。

実施されたRCTは今までブログ内で記載してきたDTTとPRTを比較した研究であった。

次のページでももう少しPRTを掘り下げて行こう。



【参考文献】

・ Fereshteh Mohammadzaheri・Lynn Kern Koegel・Mohammad Rezaei・Enayatolah Bakhshi (2015) A Randomized Clinical Trial Comparison Between Pivotal Response Treatment (PRT) and Adult-Driven Applied Behavior Analysis (ABA) Intervention on Disruptive Behaviors in Public School Children with Autism. Journal of Autism and Developmental Disorders, Sep; 45(9) p2899–2907.

・Fereshteh Mohammadzaheri・Lynn Kern Koegel・Mohammad Rezaee・Seyed Majid Rafiee (2014)A Randomized Clinical Trial Comparison Between Pivotal Response Treatment (PRT) and Structured Applied Behavior Analysis (ABA) Intervention for Children with Autism. Journal of Autism and Developmental Disorders volume 44, p2769–2777