ABA自閉症療育のエビデンス王者EIBI
このページを読むことでLovaasの行った
「EIBI:Early Intensive Behavioral Intervention (早期集中行動介入)」
がいかに現在までに強いエビデンスを確立してきたかを知って欲しい。
このページの後にEIBI以外のABA療育のエビデンスについても紹介をしていくが、
EIBIが確立してきたエビデンスの量と質と比較すれば、2020年現在ではかなり差がある
と感じている。
「だから、療育手法としてはEIBIを選びなさいよ」ということを伝えたいわけではない(それは、のちのページで記載していく)が、
現状を知っておくことは大切だろう。
Lovaasの行ったEIBIは幸いなことに日本語版のマニュアルが販売されており、日本語タイトルはページ参考文献に記載してある(O.Ivar Lovaas,2003)。
以下の写真の本がLovaasの日本語マニュアルである。
値段もそれなりにするため購入の前にブログを読み進めて欲しいがマニュアルを読むと
LovaasのEIBIはDTT(離散型試行訓練:discrete trial teaching)という方法を多く取り入れ自閉症児に対して包括的に様々なこと(模倣の仕方や単語の意味の獲得、言葉の話し方など)を支援した
ことがわかる。
ABA自閉症療育ーEIBIのメタ分析
DTTについてはのちのブログページで解説をして行くが、
このブログページではEIBIについて10つのメタ分析を紹介しよう。
メタ分析は科学性のヒエラルキーで最上位に位置するものである。
※メタ分析については
「準実験/RCT /メタ分析/系統的レビューの解説(ABA自閉症療育のエビデンス4)(https://en-tomo.com/2020/03/28/hierarchy-2/)」を参照
10のメタ分析の内8つのメタ分析を表にした。
下線の1つ(Javier Virués-Ortega,2010)を除いて、他は全て「EIBIのみ」の研究をまとめたものとなる。
下線のものについても取り扱われたほとんどの研究がEIBIのものであったため表に入れた。
以降、文中や表で「介入(Intervention)」という用語が出てくるが、ABA療育では「支援」のことを「介入」と記載することが多い。
「介入=支援」と思って読んで欲しい。
上記8つのメタ分析において7つの研究でEIBIは有効性を支持すると述べられている。
「赤文字」の研究結果はEIBIについて肯定的、
「緑文字」は否定的とまでは言わないが、EIBIが自閉症児に対して効果的であるという証拠は見当たらないとした研究結果
である。
上記のように表に示した8の研究のほとんど全ての研究でEIBIは支持されている。
効果的ではないとした研究の補足
1件充分な証拠がなかったとした「緑文字」の研究(MICHÈLE SPRECKLEY・ROSLYN BOYD,2009) には反論がある。
彼らの研究について例えばK. Strauss・F. Mancini・ L. Fava (2013) は彼らの含んだ4つの研究中に、Glen O. Sallows・Tamlynn D. Graupner (2005) の研究が含まれなかったことを指摘した。
Glen O. Sallows他 (2005) の研究はEIBIを行って大きな結果を出した研究である。
K. Strauss他(2013) はこの研究が含まれていなかったため、MICHÈLE SPRECKLEY他 (2009) の研究では有効な結果を導き出せなかったという可能性を述べた。
K. Strauss他 (2013) が引用したGlen O. Sallows他 (2005)の研究とはEIBIのRCTであった。
彼らの研究はEIBIを2年間受けたグループが比較グループと比べて、IQや言語面で有意に良い結果を示したものであった。
Glen O. Sallows他 (2005)の研究はEIBIグループを受けた23人の子どものうち11人(48%)が普通学級に進学したという結果を残した(うち3人は補助が必要であり、うち3人は言語療法を受けていたが、著者によれば全員流暢に話をしたという)。
この研究は「RCT」なのでLovaasが行ったEIBIよりも研究の科学性が高くなる。
Lovaasが行ったEIBIの研究は
「O. Ivar Lovaas、1987年(ABA自閉症療育のエビデンス2)(https://en-tomo.com/2020/03/22/ivar-lovaas1987/)」
のページで詳しく書いたが、以下のイラストのように計画され、結果が出された。
EIBIで他に普通学級への進学率で優秀な結果を残した研究は例えばHOWARD COHEN・MILA AMERINE-DICKENS・TRISTRAM SMITH (2006)がある。
HOWARD COHEN他 (2006) の研究は「準実験」であった。
「準実験」は上でイラストに示したO. Ivar Lovaas (1987)の研究と同じ研究計画となる。
HOWARD COHEN他 (2006) の研究では3年間のEIBIプログラムを受けた21人のお子さんのうち17人が普通学級に進学した(17人中うち11人は補助が必要であった)。
EIBI、メタ分析をまとめたメタ分析
上記の8つのメタ分析に加えBrian Reichow (2012)とS. Kuppens・P. Onghena (2012)が行なったメタ分析の研究をさらにメタ分析した研究がある。
これはメタ分析自体が、個々の研究をまとめた研究であるのだが、「ここの研究をまとめたメタ分析を集め、さらにまとめました」というメタ分析研究となる。
EIBIについてはメタ分析の数も多いため、このようなメタ分析をさらにまとめた研究が可能にとなる。
Brian Reichow (2012) は当時出版されていた5つのメタ分析(表に含まれているオレンジの☆がついている研究)についてメタ分析を行った。
Brian Reichow (2012) は研究の結果として、
EIBIは自閉症の幼児に対して平均してIQ、そして適応行動を大幅に向上させることができる強力な介入方法であると結論付けた。
S. Kuppens・P. Onghena (2012)も当時出版されていた5つのメタ分析(表に含まれているピンクの○がついている研究)についてメタ分析を行った。
S. Kuppens他 (2012)は研究の中でEIBIは積極的にお子さんに対して介入をする(変化を促すために働きかけていく)アプローチであると述べた。
S. Kuppens他 (2012)は研究の結果として、
EIBIはあまり積極的に働きかけない介入方法と比較して、IQや言語能力、適応行動に対して過去のエビデンスを鑑みれば、少なく見積もっても中程度の利益はあると言うには充分であると結論付けている。
このページではEIBIについて主にメタ分析の研究を紹介した。
ページの冒頭でも紹介したがメタ分析とは現代の研究法において最高のヒエラルキーに位置するものである。
私見だが療育界隈の研究エビデンスでは「メタ分析」の存在そのものが珍しい。
それが10も数があるというのだから調べていく中で本当に驚いた。
調べていく中でいかにEIBIのエビデンスが強力かがわかった。
ちなみに2020年現在(3月30日時点)、まだ日本の療育分野において発表されたメタ分析研究は無いと思う。
過去の研究結果からEIBIが自閉症児に対して効果的であることは伝われば幸いであるがではEIBIとはどういうものなのか?
ということについて次のページでもう少し深く取り扱っていきたい。
【参考文献】
・ Brian Reichow (2012) Overview of Meta-Analyses on Early Intensive Behavioral Intervention for Young Children with Autism Spectrum Disorders. Journal of Autism and Developmental Disorders 42 p512-520
・ Brian Reichow ・ Mark Wolery (2009)Comprehensive Synthesis of Early Intensive Behavioral Interventions for Young Children with Autism Based on the UCLA Young Autism Project Model. Journal of Autism and Developmental Disorders 39 p23–41
・ Glen O. Sallows・Tamlynn D. Graupner (2005) Intensive Behavioral Treatment for Children With Autism: Four-Year Outcome and Predictors. AMERICAN JOURNAL ON MENTAL RETARDATION Vol 110, No6 p417–438
・ HOWARD COHEN・MILA AMERINE-DICKENS・TRISTRAM SMITH (2006)Early Intensive Behavioral Treatment: Replication of the UCLA Model in a Community Setting. Journal of developmental and behavioral pediatrics Vol. 27, No. 2, April
・ Javier Virués-Ortega (2010) Applied behavior analytic intervention for autism in early childhood: Meta-analysis, meta-regression and dose–response meta-analysis of multiple outcomes. Clinical Psychology Review 30 p387–399
・ K. Strauss・F. Mancini・ L. Fava (2013) Parent inclusion in early intensive behavior interventions for young children withASD: A synthesis of meta-analyses from 2009 to 2011. Research in Developmental Disabilities 34 p2967-2985
・ Maria K. Makrygianni・Angeliki Gena・Sofia Katoudi・Petros Galanis (2018) The effectiveness of applied behavior analytic interventions for children with Autism Spectrum Disorder: A meta-analytic study. Research in Autism Spectrum Disorders 51 p18–31
・ Maria K. Makrygianni・Phil Reed (2010)A meta-analytic review of the effectiveness of behavioural early intervention programs for children with Autistic Spectrum Disorders. Research in Autism Spectrum Disorders 4 p577-593
・ MICHÈLE SPRECKLEY・ROSLYN BOYD (2009) Efficacy of Applied Behavioral Intervention in Preschool Children with Autism for Improving Cognitive, Language, and Adaptive Behavior: A Systematic Review and Meta-analysis. The Journal of pediatrics Mar;154(3) p338-44
・ Nienke Peters-Scheffer・Robert Didden・Hubert Korzilius・Peter Sturmey (2011)A meta-analytic study on the effectiveness of comprehensive ABA-based early intervention programs for children with Autism Spectrum Disorders. Research in Autism Spectrum Disorders 5 p60–69
・ O. Ivar Lovaas (1987)Behavioral Treatment and Normal Educational and Intellectual Functioning in Young Autistic Children. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 55(1) p3–9.
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】
・ S. Kuppens・P. Onghena (2012) Sequential meta-analysis to determine the sufficiency of cumulative knowledge: The case of early intensive behavioral intervention for children with autism spectrum disorders. Research in Autism Spectrum Disorders 6 p168-176
・ Sigmund Eldevik・Richard P. Hastings and J. Carl Hughes・Erik Jahr・Svein Eikeseth・Scott Cross (2009)Meta-Analysis of Early Intensive Behavioral Intervention for Children With Autism. Journal of Clinical Child & Adolescent Psychology, 38(3) p439–450
・ Sigmund Eldevik・Richard P. Hastings・J. Carl Hughes・Erik Jahr・Svein Eikeseth・Scott Cross (2010) Using Participant Data to Extend the Evidence Base for Intensive Behavioral Intervention for Children With Autism. Journal on Intellectual and Developmental Disabilities Vol 115, 5 p381–405