この章の目的は「エビデンス・ベースド・プラクティス(ABA自閉症療育のエビデンス1)(https://en-tomo.com/2020/03/15/evidence-based-practice/)」
でも記載したように「療育を選択する際の選択基準」について、一度考えてみる機会を提供するということである。
科学的な研究のヒエラルキーを知ることで「効果がある」とされるものは、どのような研究によって示されるのかを見て行こう。
このページと次のページで学ぶエビデンスのヒエラルキー(階層)を知ることで「どういった研究で示されるエビデンスが信頼できるのか?」について知ることができる。
エビデンスの強さ
科学的な研究にはヒエラルキーが存在する。
原田 隆之(2015)・西内 啓 (2013)はそれぞれ以下の表で上位に位置する方が研究によって示せるエビデンスの根拠が強いとした。
上で使用した文献を参考にまとめ、以下の表を作成した。
表の中から
1.ランダム化比較試験(RCT)のみのメタ分析
2.ランダム化比較試験(RCT)と準実験のメタ分析
3.準実験のみのメタ分析
4.ランダム化比較試験(RCT)
5.準実験
の5つに関しては研究の中で「統計の検定」が含まれるはずである。
簡単に「統計の検定」というものを紹介する。
人の行動を数値化する
人の行動は実は数値化することができる。
例えば「IQ」というものは何かテストを行い、そのテストの下でのパフォーマンスを数値化したものである。「社会性」や「抑うつ感」などの曖昧そうなものは「自身のアンケートや家族などからの聞き取り」によって数値化することができる。
カメラを使ってお子さんの目が合っている時間割合を数値化することや、精神状態を把握するため脈拍数など関連する生理指標を機器測定することもできるだろう。
もっと単純なところでは特定の行動について定義を決め、その行動について複数の人間がそれぞれ目視によって観察し、回数や割合を数値化する方法もある。
行動を数値化する際にできることは意外と多い。
算出した数値を統計にかける
統計には「記述統計」や「検定」など様々な種類はあるが人間から算出した数値を少なくとも2つの時点、もしくは少なくとも2つの対照と比較する。
統計の一例として「比較された数値の差が偶然(誤差)かどうか」を判断する方法がある。
偶然かどうかを検定し、統計的に「偶然である確率は低い」と判断できれば「統計的に有意」と言える。この「統計的に有意」という言葉は今後も出てくるので覚えておいて欲しい。
「統計的に有意」であった場合「偶然である確率は低い」ということになる。
結果をどのようにみるかと言えばO. Ivar Lovaas (1987) の研究を引き合いに出すと
上のイラストの「例えば、ココ」と書かれている部分の結果で「ABA療育を行うとIQの数値に有意差が出た」ことは、「統計的に偶然である確率が低く、長時間のABA療育を行った結果である可能性が高い」と読み解くことができる。
この例は「2つの対照を比較した」ものとなる。
ここで示される結果には少なくとも以下の2点が含まれることには注意が必要である。
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(1) 「可能性が高い」とまでしか言及できないこと、
(2) 示された結果というものを正しく記述すれば、この統計で示された結果は「同じ人たち」に対して「同じこと」をすれば「同じ結果になる可能性が高い」という内容となる
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(2)に関して、人間は十人十色であるため、全く「同じ人」を対象にすることは不可能である。これは自閉症児であっても変わらない。また人間は、時間経過により加齢や経験が生じるため、「私」という人間の再現も不可能である。例えば、1年後の「私」は「同じ」とは言えない。
時代背景が変化して行くことも重要である。例えば1987年にスマートフォンは存在していない。そのために「全く同じ環境を用意する」ことも不可能である。
2020年の子どもたちはスマートフォンが環境にあるため、1987年の子どもができなかったyoutubeを通していろいろなことを学習する機会が多くなっているかもしれない。
「同じ人たち」も、「同じこと」も再現することも不可能となれば、どうするれば良いだろうか?
そのことを解決するには追加の研究を行えば良い。追加の研究で、「同じような人たち」に対し「同じようなこと」をした場合、「似たような結果」が再現されるか確かめれば良い。
例えば「診断」や「年齢帯」、「IQ」などを統制(似たような人を準備)すれば「同じ人たち」の再現性が上がり、「行なった療育方法」も統制すれば「同じこと」の再現性が上がる。
自閉症療育の場合も再現回数が多かったり再現割合が高い場合、次回新しいグループに行ったとしても、同じような結果が再現される期待が高まって行くだろう。
このように追加の研究を重ねることで科学的な知見は厚みを増して行く。
上記の理由から1つの研究結果のみを参考にして「自閉症に対してはこれが効果的だ」と判断を下すことは非常にリスクを伴うことを覚えておこう。
何度か追加の研究がされていて再現されていることは重要である。
科学的な研究のヒエラルキーの上位に名を連ねている「メタ分析」というものは、類似した個々の研究をまとめた研究となる。
メタ分析が実施されるためには、既に同じような研究がいくつか存在するという前提条件が必要になるため、メタ分析の有無は「追加の研究」の存在を教えてくれるポイントになるだろう。
例えばLovaasの行った「EIBI:Early Intensive Behavioral Intervention (早期集中行動介入)」については少なくとも2020年の現在までに10件のメタ分析が確認できている。
この10件という量が非常に多いことは、読み進めていく中で感じていくことができるだろう。
EIBIのメタ分析はのちのページで紹介をしていく。
その前に次のページで表中のメタ分析を含む、ヒエラルキーの違いについて簡単に解説を行う。
【参考文献】
・ 原田 隆之 (2015) 心理職のためのエビデンス・ベイスド・プラクティス入門 エビデンスを「まなぶ」「つくる」「つかう」 金剛出版
・ 西内 啓 (2013) 統計学が最強の学問である ダイヤモンド社
・ O. Ivar Lovaas (1987)Behavioral Treatment and Normal Educational and Intellectual Functioning in Young Autistic Children. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 55(1) p3–9.