ABAでは言語も行動と考えます。
本章、1つ前の「スキナーが唱えた言語行動の定義(ABA:応用行動分析学の言語行動2)(https://en-tomo.com/2024/04/19/definition-of-skinner-verbal-behavior/)」のブログページではスキナーの唱えた言語行動の定義として、
(1)発声は必ずしも必要ではない
(2)言語コミュニティの他者(メンバー)によって強化(罰)される
(3)「独り言」や「思考」も言語行動と捉える
(4)言語行動は「話し手」の行動
をご紹介し、これらを総括し、
本ブログではスキナーの言語行動について、
言語行動とは「話し手」と「聞き手」が存在する言語コミュニティ内で強化(罰)されることで成立する「話し手」の行動を指し、自分自身が「話し手」と「聞き手」ともなれる行動であり、発声は必ず必要ではない
と定義する、と述べました。
また上のブログページでも紹介しているのですがスキナーの言語行動では「話し手」の行動を「言語行動」、「聞き手」の行動を「ルール支配行動」と呼びます(参考 三田村 仰,2017)。
本ブログページでは「話し手」の行動である「言語行動」について書いて行きましょう。
スキナーは言語行動を7つに分類した
以下、スキナーの提唱した言語行動の分類をご紹介して行きますが、その前に少し「反応クラス」というものについて簡単にご紹介します。
例えば絵を見せて感想をお子様に聞いたとしましょう。
3人のお子様に絵を見せたとします。
3人のお子様、それぞれABCのお子様は絵を見た感想として、
・お子様A「きれい」
・お子様B「川、家ある。お姉さん笑っている」
・お子様C「川と家が書いてあって姉さんが笑っている綺麗な絵ですね」
とそれぞれ答えたとします。
お子様Aは単語で答えており、お子様Bは複数の単語を扱って答えることができており、お子様Cは複数の単語を扱うだけでなく助詞も扱え感想を述べることもできました。
上の例でお子様Cが「言語行動を高度に扱えている」とも言えるかもしれませんが、
スキナーの「言語行動」の分類は「単語が扱える」とか「助詞が扱える」などの分類ではありません。
扱える単語の数や構文の上手さといった点について、スキナーの言語行動では分類していないのです。
その「言語行動」が「どういった機能を持っているか?」という点から分類されます。
「言語行動」が「どういった機能を持っているか?」については「反応クラス」という言葉があるのですが、
「反応クラス」について以下William・O’ Donohue・Kyle E. Forguson (2001) を参考にご紹介しましょう。
行動は1回1回、何かしらの違いがあります。
例えば早口で言ったのか、ゆっくり言ったのか、大きな声だったのか、小さな声だったのか。
上の例で言えば扱えた単語数や助詞です。
これらの違いを「型(トポグラフィ)の違い」というのですが、この「型」へ注目し言語行動を考える、分析するということをスキナーは主張しませんでした。
スキナーは言語行動について「型」ではなく、「同一機能を果たすさまざまな反応」を包括するクラスとして扱うことを主張しました。
上で「同一機能を果たすさまざまな反応を包括するクラス」と書いているのが「反応クラス」のことです。
同一の機能を果たす「反応クラス」とは、同じ目的を達成するいろいろな反応形態を同一のものとして考える、ということになります。
ーー以上、William・O’ Donohue他 (2001) を参考にした部分ーー
「反応クラス」の例としてあなたが水を飲みたかったとしましょう。
あなたが水が飲みたいとき、
・ お母さんに「水ちょうだい」という
・ お父さんに「ねー、僕のど乾いたよ」という
・ 水道の蛇口から水をコップに入れる
・ 自販機で水を買う
などいろいろな「水」を手に入れることを目的とした「行動の型」がありますが、「水を手に入れる」という目的は一緒です。
上の例は全て見た目(型)は違いますが、このような「目的を叶えるための手段」が同じものを、同一の行動として考える
スキナーの「言語行動」はこのように反応クラスに注目し、「どう言った目的を持つ言語行動か?」という点から考察されます。
ここまででスキナーは「言語行動」について扱える単語の数や構文の上手さではなく、「同じ目的を達成するいろいろな反応形態(反応クラス)」によって「言語行動」を分類したことを書いてきました。
スキナーは「言語行動」を以下の7つに分類しています(参考 谷 晋二, 2020)。
(1)マンド(mand:要求言語行動)
(2)タクト(tact:報告言語行動)
(3)エコーイック(echoic:音声模倣行動)
(4)イントラバーバル(intraverval:言語間制御)
(5)ディクテーション・テイキング(dictration taking:書き取り)
(6)トランスクリプション(transcription:書き写し)
(7)テクステュアル(textual:読字行動)
※ 日本語部分は小野 浩一 (2005) も参考
7つもあって、また聞きなれない言葉の羅列で「うぇっ」となったでしょうか?
本ブログはABA自閉症療育のブログで、私自身もABA自閉症療育を主に行なってお仕事をしています
ABA自閉症療育を行なっていて良く使うキーワード、個人的に「覚えておいた方が良いな」と言うものは上の中のもの全てではありません
実際、使う言葉は(1)〜(4)までくらいで、(1)(2)が特に使われます
そのようなことも実情としてありますので気負わず、以下、見て行きましょう!
以下「(1)マンド(mand:要求言語行動)」からご紹介してきます。
マンドをご紹介して行く中で7つに分類された言語行動に共通するオペラント行動というものについてもご紹介をさせてください。
そのような理由からマンドの部分はボリュームが大きいです。
ついで「(2)タクト(tact:報告言語行動)」のボリュームが、「(3)エコーイック(echoic:音声模倣行動)」や「(4)イントラバーバル(intraverval:言語間制御)」もボリュームが少し多く、
その他についてはボリュームは少なくまとめてご紹介をする、本ブログページはそういった構成となっております。
(1)マンド(mand:要求言語行動)
マンドは「(ABA自閉症療育の基礎83)ABA自閉症療育で言葉・発語を教えるのに最適!マンドトレーニング(https://en-tomo.com/2021/03/18/aba-mand-training/)」
などで既に本ブログ内でご紹介したことがある用語です。
上のブログページでマンドトレーニングとは「マンド」という「要求言語行動を教えるトレーニング」とご紹介していますが、
「マンド」をご紹介したのちにこの度「言語行動」の章を作成することとなりました
本ブログで既出の「マンド」ですがABA自閉症療育ではかなりメジャーな用語となります。
小野 浩一 (2005)は「マンド」について遮断化、嫌悪刺激の存在などの確立操作によって自発される、他者に対して特定の行動を要求する言語行動と紹介しました。
確立操作について詳しくは「(ABA自閉症療育の基礎48)オペラント条件付けー確立操作「遮断化」「飽和化」「嫌悪化」(https://en-tomo.com/2020/10/19/establishing-operation-type2/)」
をご参照いただければ嬉しいなと言ったところなのですが、上で「オペラント行動」をご紹介すると書きました。
これからご紹介をして行く「オペラント行動」の解説の中で「確立操作」も触れていますので、そのまま読み進めてもらっても大丈夫です。
上でも書きましたが「オペラント行動」、本章では言語行動はオペラント行動だと既に過去ページでご紹介しましたが、「言語行動」の理解を深めるために「オペラント行動」を簡単にご紹介します。
上でも書きましたがオペラント行動はマンド以外のこれからご紹介して行く全ての「言語行動」の種類にあてはまりますので、ここで読み進めていくとき、覚えておいて欲しいです。
オペラント行動は「自発」、つまり、生態が能動的に出現させる行動となります。
生態が行動を自発させるとき、いきなり自発されるのではりません。
なにかきっかけがあり「〜のとき、〜の行動をする」というように「〜のとき」というきっかけがあります。
この「〜のとき」というきっかけはABAで「弁別刺激(Discrimination Stimulus)」と呼ばれるものです。
オペラント行動は「オペラント条件付け」で条件付け可能な行動です。
「条件付け可能」というのは「学習可能」と読み替えてもらって大丈夫で、「学習可能」ということは変化することができるという意味になります。
そしてオペラント行動を学習することが可能なオペラント条件付けは環境からの影響を受け、変化して行く行動です。
上の弁別刺激も記載されていますが、以下「オペラント条件付けの基本ユニット」をイラストでご紹介します。
左側、弁別刺激の下に「確立操作」がありますね?
そして「確立操作」は弁別刺激と同じ「A(Antecedent): 先行状況」の枠組みの中に組み込まれています。
イラストの「AーBーC」は時間の流れを示しており「A(Antecedent):先行状況」のあとに「B(Behavior):行動」があり、そののちに「C(Consequence):結果」が生じる、
CとBが相互に矢印があるのはその結果を受けてB(行動)がそののちに影響を受ける、ということを現しています。
オペラント行動について佐藤 方哉 (2001) は、
オペラント行動とは、その行動が生じた直後の環境変化(刺激の出現もしくは消失という結果)に応じて、その後にその行動が生じる頻度が変化する行動であると述べました。
これはオペラント行動のユニークな考え方かと思いますが、人間の自発的な行動は「意思」や「やる気」や「性格」と言った、行動する前に存在する何かによって影響を受けて変わって行くのではなく、
行動をしたのちの「結果」によって強く影響を受け、変化して行くという考え方です。
オペラント行動は行動したのちの結果によって強く影響を受ける、
その上で、上のイラストに書かれている「行動の前」に存在する「弁別刺激」や「確立操作」はどういった意味を持つのでしょうか?
本ブログではこれらについて、
「弁別刺激」は行動を引き起こすきっかけ、「弁別刺激」が確立されるためには今までその「弁別刺激」のもとで強化子が提示されてきたという歴史を持っている
対して「確立操作」はそのような強化歴のある弁別刺激のもとで、その瞬間に行動を引き起こすかどうかの決定因
と「(ABA自閉症療育の基礎46)オペラント条件付けー確立操作と弁別刺激の違い(https://en-tomo.com/2020/10/13/establish-operation-discrimination-stimulus-difference/)」でご紹介しました。
例えばお腹がすいとき自発的に「クッキーちょうだい」とお母さんに伝えるお子様がいたとしましょう。
このとき目の前にいる「お母様」は弁別刺激です。
「確立操作」は、と言えば「空腹度」が該当します。
お子様はお母様が目の前にいるときはいつも「クッキーちょうだい」と言うわけではありませんね?
「お母様」が目の前にいて且つ、「空腹」という状態がかけ合わさったときに「クッキーちょうだい」が自発されます。
そしてこの「クッキーちょうだい」と伝える行動はそののちに実際にクッキーが手に入るという結果によって強化されることがポイントです。
「お母様」が目の前にいて且つ、「空腹」という状態がかけ合わさったときに「クッキーちょうだい」を自発しても「クッキーがもらえない」という結果が重なっていくと、
「お母様」が目の前にいて且つ、「空腹」という状態がかけ合わさったときに「クッキーちょうだい」は自発されなくなって行きます。
少し余談ですが、このテーマに関連する問題行動が形成されるルートの1つとしては、例えばクッキーがもらえないから「泣く」、泣くとどうしようもなくなってお母様がクッキーを渡すという結果が積み重なれば、お子様は言葉を使って要求しても仕方ないのでどんどん泣くようになってしまうでしょう。
上のようなことがあるので、オペラント行動は、
その行動が生じた直後の環境変化(刺激の出現もしくは消失という結果)に応じて、その後にその行動が生じる頻度が変化する行動である
と言われるのです。
話を「マンド」に戻しましょう。
望月 望 (2007) はマンドは物事を要求、命令したり、あるいは質問しそれに他者が答えてくれることで強化される言語行動であると述べました。
そして小野 浩一 (2005)を参考にすれば、マンドは確立操作(例えば空腹や満腹)の影響を受けるのですが、
谷 晋二 (2020) もマンドは摂取制限(※例えば空腹)、嫌悪刺激が存在する状態などの確立操作のもとで自発されると述べています。
空腹や満腹以外の確立操作で療育で知っておいて欲しい内容
例えばYoutubeが好きだと言っても普段自由に遊ばせていても3時間程度しかYoutubeを見ないお子様に対して5時間Youtubeを見せたとしても、Youtubeはお子様にとって強化子として機能する効力は失っていることでしょう。
逆に自由に遊ばせていておくと夕方までにYoutubeを3時間見るお子様に対してYoutubeを制限し30分しか見せていなかったとすれば、Youtubeはお子様にとって強化子として機能する効力は高まります。
上のYoutubeは「確立操作」の例で、前者を「飽和化(ほうわか)」、後者を「遮断化(しゃだんか)」と呼び、強化子の効力を変える操作の例です
マンドについて本ブログでは、
マンドとは確立操作のもとで、要求したアイテムや要求した通りに相手が動いてくれることで強化される言語行動
と記述させてください。
また上では「クッキーちょうだい」という音声刺激を使ったマンドをご紹介しましたが、絵カードやサイン、動作を用いてマンドを行うことも可能です。
Mary Lynch Barbera・tracy Rasmussen (2007) は「VB:Verbal Behavior」というABAの療育方法の書籍を書いていますが、お子様が好きなものや活動(強化子)が決まったら、VBで最初に教えることは要求の仕方ですと述べていますが、
マンドトレーニングはVB以外のABA自閉症療育でも、お子様自身のモチベーションを高めることができるため療育の導入として取り入れやすいものでしょう。
マンドは「command(命令する)」、「demand(要求する)」という単語がもとになっています(参考 William・O’ Donohue他,2001)。
(2)タクト(tact:報告言語行動)
望月 望 (2007) はタクトは命名、記述、報告といった弁別刺激としての外界の事物による刺激性制御を受け、聴き手による社会的な般性強化刺激(「そうだね」「ありがとう」など)によって強化を受ける言語行動であると述べました。
また谷 晋二 (2020) を参考にすれば、タクトは視覚的・聴覚的な刺激や触覚、臭覚、味覚などのさまざまなモダリティの刺激が弁別刺激となり、絵カードやサイン、動作を用いてタクトを行うことも可能です。
上の文章は少し難しいと思います。
三田村 仰 (2017) はタクトとは報告言語行動とも訳される話し手の行動のことで、例えば目の前のリンゴを見たときに「リンゴ」と声に出して言う行動であるとし、
これらの反応は養育者や周囲の人から「そうだね」「うんうん」「すごい!」などと言って強化されると述べました。
上で望月 望 (2007) が述べている「聴き手による社会的な般性強化刺激」とはこのような周りからの肯定的なリアクションのことです。
このような周りからの肯定的なリアクションを求めることで行動が精鋭化して行きます。
「肯定的なリアクションを求める」はポイントで、目の前のリンゴを見たときに「バナナ」と声に出して言っても、肯定的なリアクションが返ってくることは少ない(例えば「違うよ」などが返ってくる)でしょう?
William・O’ Donohue他 (2001) は人の欠点をあからさまに口にするタクトは普通、賞賛されることはなく非難を受け、反対に人の新しいヘアースタイルを少々おおげさにタクトすればプラスのお返しが返って来て、そのタクトは対象物との間の機能的関係は強められると述べています。
タクトについて本ブログでは、
タクトとは他者に対して報告を行ったとき、他者から受ける社会的な強化子により強化される言語行動
と記述させてください。
マンドが確立操作の影響を受け自発される言語行動であったのに対し、タクトは環境内の事物・出来事を弁別刺激として自発させる行動です(参考 小野 浩一,2005)。
上でもご紹介をしたVBのMary Lynch Barbera他 (2007) は子どもがいくつかのものごとをマンドすることができるようになったら、タクトも教え始めましょうと述べています。
そして彼女は子どもにタクトを教える最も良い方法の1つは、お気に入りの強化子を写真撮影し、その写真を見せて子どもにタクトさせることですと述べました。
確かに自分が好きなもの(強化子)は目にするだけで楽しいです。
例えば私はポケモンが好きなのですが、ポケモンの図鑑などを見て楽しいと思えるのは、ポケモンが私にとって強化子となっているからでしょう。
お子様にタクトを強化したいとき、例えば私はのりものが好きなお子様の場合、一緒に道路で出会ったのりものを見て「あ!すごい!!」などと伝え、お子様に「トラック」と言ってもらうことを狙うことがあるのですが、
そのとき「ね!トラックやね!かっこいいね!」など、できるだけ他の人も言いそうな社会的な関わりを通してお子様に楽しんでもらえるように関わり、必要であればくすぐったり抱き上げたりします
私はABA自閉症療育で特に発語の少ないお子様にとってタクトをいかに増やすことができるかは、キーポイントになると考えているところです
同じものに関心を示して報告をし合う、会話の根幹にもなるであろうタクトが増えて行くことは大切なことでしょう。
またタクトは共同注意の能力にも関わっていると思います。
(3)エコーイック(echoic:音声模倣行動)
小野 浩一 (2005) はエコーイックについて他者の音声を刺激として、それと同じ音声を反復するおうむ返しの言語行動と述べました。
タクト・エコーイック含めマンド以外の言語行動は般性の強化子によって影響を受けるタイプの言語行動です。
※つまり人からのリアクションなどによって影響を受ける
例えば、親が「ぶどう」と言い、その直後に子どもが「ぶどう」と言ったとき、親の言っていることを聞いて(にコントロールを受けて)、それがきっかけとなって反唱する行動はエコーイック行動と呼ばれます(参考 William・O’ Donohue他, 2001)。
エコーイックについて本ブログでは、
エコーイックとは他者の音声刺激に対し、その音声刺激と同じ(または似た)反応を行ったとき、他者から受ける社会的な強化子により強化される言語行動
と記述させてください。
Mary Lynch Barbera他 (2007) は、
定型発達の子どもたちにとってエコーイックは学習に不可欠です
定型発達の子どもは、工事現場でブルドーザーが動いていると親に「あれは何?」と尋ねます
親は「ブルドーザーよ」と答え、子どもは「ブルドーザー」と復唱します
定型発達の子どもたちのほとんどは新しい言葉を1回か2回言っただけで習得するので、それをなん度も繰り返すことはありません
自閉症のある子どもは少し言葉が話せたとしても、誰かが言ったことをエコーイックできなければ、言語発達が遅れかねません
と述べています。
上の文章からエコーイックが発達に重要な役割を持っていることがわかるでしょう
言葉の獲得、発達にエコーイックは大切です。
ただ、自閉症について「おうむ返し」はネガティブに見える側面だと感じる人もいるでしょう。
例えばカナーという自閉症の世界で有名な学者の方がいるのですが、カナー自身による自閉症の症状論では高木 隆郎 (2009) を参考にすれば、
カナーは「言語症状」について、
「言語症状」は言葉を持たないことが多い、言葉を獲得しても遅れている、言葉をおうむ返しする例えば「Yes」と言ったときも「Yes」ではなくただ言葉を繰り返しただけ、遅延性反響言語(例えば昔見たCMのフレーズを繰り返す)がある
と捉えていたようです。
「自閉症はおうむ返しが多い」と聞いたことがある人もいると思います。
しかしエコーイックが言語発達の一端を担っているという一面も大きいですので、極端にネガティブに思わなくても良いでしょう。
個人的には言ったことをおうむ返しできる能力が高いお子様は全員がとまでは言いませんが、言葉の獲得に有利な気もしています。
ABA自閉症療育で絵カードを見せてモデルの音声刺激を出し、モデルに反応して絵カードの名前を応えてもらい、
そのモデルを徐々にフェイディングして行き絵カードを見ただけで絵カードの名前を言えるようになる、というお子様の発語を促す手続きはまさにエコーイックを利用した手法です。
(4)イントラバーバル(intraverval:言語間制御)
イントラバーバルはエコーイックのように対応関係が存在しません。
「対応関係が存在しない」というのは、対応して同じことを繰り返す、ということが存在しないということです。
小野 浩一 (2005) はイントラバーバルについて直前の言語を刺激として、そのあとに来るべき言語を自発する言語行動と述べました。
例えば、
・ 直前の言語「レッツ?」・・・自発する言語行動「ゴー!」
・ 直前の言語「3足す4は?」・・・自発する言語行動「なな」
・ 直前の言語「黄色い果物は?」・・・自発する言語行動「ばなな」
・ 直前の言語「日本の首都は?」・・・自発する言語行動「とうきょう」
・ 直前の言語「おおきな くりの〜🎵」・・・自発する言語行動「きのしたでぇ〜🎶」
これらはイントラバーバルの例です。
上の例の『直前の言語「黄色い果物は?」・・・自発する言語行動「ばなな」』は質問に答える形となっています。
上で望月 望 (2007) を参考に「マンドは物事を要求、命令したり、あるいは質問しそれに他者が答えてくれることで強化される言語行動であると述べ」、
という部分から「イントラバーバルじゃなくてマンドってさっき書いてなかった?」という点で書いていることが矛盾するかもしれません。
『直前の言語「黄色い果物は?」・・・自発する言語行動「ばなな」』はMary Lynch Barbera他 (2007) を参考にして記載した例となるため、
「質問に答える」ということについては研究者によって意見の分かれる点なのかもしれません。
イントラバーバルの例を見てもらうと「直前の言語」に対応してのちに続く反応は予想しやすいものとなっていたのではないでしょうか?
William・O’ Donohue他 (2001) は任意に形成された刺激連鎖の強化歴によってこれらは生じていると述べています。
「直前の言語」に対応してのちに続く反応は予想しやすいのは、同じ言語共同体で過ごす人たちにとっての共通認識を表しているからでしょう。
そのような認識を持っており、言語行動として表現できることは大切です。
コミュニケーションの一環として私たちの周囲でも普通に行われていることではないでしょうか?
そしてそれらは他者からの強化を受けて維持しています。
特にMary Lynch Barbera他 (2007) に倣ってイントラバーバルが「質問に答える」という言語行動でもあるとすれば、この言語能力は私たちのコミュニケーションには欠かせないものだと言えるでしょう。
さて、本ブログ冒頭で、
「実際、使う言葉は(1)〜(4)までくらいで、(1)(2)が特に使われます」、
マンドの部分はボリュームが大きいです、ついで「(2)タクト(tact:報告言語行動)」のボリュームが、「(3)エコーイック(echoic:音声模倣行動)」や「(4)イントラバーバル(intraverval:言語間制御)」もボリュームが少し多く、
その他についてはボリュームは少なくまとめてご紹介をする、本ブログページはそういった構成となっております
と記載しました。
ここまで、
(1)マンド(mand:要求言語行動)
(2)タクト(tact:報告言語行動)
(3)エコーイック(echoic:音声模倣行動)
(4)イントラバーバル(intraverval:言語間制御)
(5)ディクテーション・テイキング(dictration taking:書き取り)
(6)トランスクリプション(transcription:書き写し)
(7)テクステュアル(textual:読字行動)
のうち(1)〜(4)をご紹介して来ましたが、最後(5)(6)(7)については簡単な解説として終了したいと思います。
ディクテーション・テイキング、トランスクリプション、テクステュアル
ディクテーション・テイキングとは聞き取り書き行動で、音声刺激を文字にする言語行動です(参考 谷 晋二,2020)。
例えば「明日の準備物を伝えるぞ〜すいとうー、保険証ー・・・」と学校の先生が言って、ノートにメモを取る場合などがこれにあたるでしょう。
トランスクリプションも同じようなもので「書き写し」した場合を言います。
テクステュアルは文字を刺激としてそれに対応した音声を出したときです(参考 小野浩一, 2005)。
またこれまででは紹介できていないですが「オートクリティック(autoclitic)」というものもあって、例えば水を表現するとき、
「水だそうです」
「水だと思います」
「残念ながら水です」
というように言葉に付け加えられる部分について説明をしたものもあります(参考 小野浩一, 2005)。
ディクテーション・テイキング、トランスクリプション、テクステュアルは文字が介在していることが特徴的でしょう。
そのためアカデミックな活動をするときには必須の言語行動と言えるかもしれません。
さいごに
本ブログページではスキナーの提唱した言語行動の分類をご紹介するということで、
(1)マンド(mand:要求言語行動)
(2)タクト(tact:報告言語行動)
(3)エコーイック(echoic:音声模倣行動)
(4)イントラバーバル(intraverval:言語間制御)
(5)ディクテーション・テイキング(dictration taking:書き取り)
(6)トランスクリプション(transcription:書き写し)
(7)テクステュアル(textual:読字行動)
についてご紹介をして来ました。
特に上の(1)〜(4)がABA自閉症療育では重要なワードとなっています。
小野 浩一 (2005) の書籍に載っている表を参考に以下を作成しました。
自閉症、発達に遅れのあるお子様へ「言葉をどう促進していけば良いのか」は、とても関心が多いと思われる興味深いテーマです。
日々のABA自閉症療育の中でスキナーの提唱した言語行動の分類を意識して教えてみるのはいかがでしょうか?
きっとABA自閉症療育で役に立つと思います。
さて本章「ABA:応用行動分析学の言語行動」ではここまで「話し手」の扱う行動、言語行動をご紹介して来ました。
スキナーの言語行動では「話し手」の行動を「言語行動」、「聞き手」の行動を「ルール支配行動」と呼びます(参考 三田村 仰,2017)。
次の本章ブログページでは一旦ここまでの内容をおさらいするページとさせてください。
そののち「聞き手」の行動、「ルール支配行動」に注目し解説をして行きたいと思います。
【参考文献】
・ Mary Lynch Barbera・tracy Rasmussen (2007) The Verbal Behavior Approach How to Teach Children with Autism and Related Disorder 【監訳 杉山 尚子 訳 村上 裕章 (2021) 言語行動 VB指導法 発達障がいのある子のための言語・コミュニケーション指導 学苑社】
・ 三田村 仰 (2017) はじめてまなぶ行動療法 金剛出版
・ 望月 望 (2007) 第三章 言語行動ー言葉は身につくのではなく、いつも環境との共同作業 【大河内 浩人・武藤 崇 編著 行動分析 ミネルヴァ図書】
・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館
・ 谷 晋二 (2020) 第二章 関係フレーム理論 【谷 晋二(編著) 言語と行動の心理学 行動分析学を学ぶ 金剛出版】
・ 佐藤 方哉 (2001) 【浅野 俊夫・山本 淳一・日本行動分析学会 (2001) ことばと行動―言語の基礎から臨床まで ブレーン出版】
・ William・O’ Donohue・Kyle E. Forguson (2001) The Psychology of B.F.Skinner 【邦訳: 佐久間 徹 (2005) スキナーの心理学 応用行動分析(ABA)の誕生,二瓶社】