「周囲児は自閉スペクトラム症が疑われる児童にどのように関わっているのか―小学校教諭から見た周囲児の行動メカニズム―(一柳 貴博,2021)」という論文を見つけ、
とても興味深かったので「ABA自閉症療育のエビデンス」の章にてご紹介いたします。
一柳 貴博 (2021) は論文中にこれまで自閉症のお子様の周囲児について焦点を当てた研究・実践は十分に蓄積されていないと書いていますが、
この論文の面白いなと興味を持ったところはまさにそこで、自閉症児に対して周りのお子様(周囲児)がどう接しているのかについて研究がされていることです。
自閉症児ではなくその周囲の児童に焦点を当てた研究は少ないんじゃないかなと思います
一柳 貴博 (2021)は、
自閉症のお子様に対してつらい思いをさせてしまうかもしれない周囲の行動を「要支援行動」と定義し、
過去3年間に「あったかなかったか」、またあった場合、「内容」「きっかけ」、「結果」について分析しました。
以下、一柳 貴博 (2021)の研究について見ていきましょう。
一柳 貴博 (2021) の研究
調査は国立・公立小学校を対象に調査は2019年5月から9月に行われました。
調査協力者は95名で、
95名の内訳は、86名が担任教諭、3名が自閉症学級で授業等を担当する教諭、特別支援教室・通常指導学級の教諭が1名、養護教諭が2名、回答不備により判別できない方が3名でした。
調査協力者は自閉症について書面にて説明を受けたのち、通常の学級に在籍する自閉症が疑われる児童1名を選び、
・ Autism Spectrum Screening Questionnaireの短縮版(以下、ASSQ)(自閉症に典型的な症状が当てはまるかどうかの質問紙)
・ フェイス項目(性別、学年、学級の児童数、学年のクラス数)
・ 過去3年間に「要支援行動」があったかなかったか
について答えました。
伊藤 大幸・松本 かおり・髙柳 伸哉・原田 新・大嶽 さと子・望月 直人・中島 俊思・野田 航・田中 善大・辻井 正次 (2014) によればASSQは保護者や教師など対象者をよく知る成人が評定する形式を取り、
自閉症に典型的に見られる社会性、言語、行動、興味の特徴が対象者に当てはまるか否かを問う27項目から構成され、
各項目について「いいえ(0点)」、「多少(1点)」、「はい(2点)」の3段階で評定を求め、
可能な得点範囲は0から54点であり得点が高いほど自閉症の特性が顕著であることを意味します。
今回一柳 貴博 (2021) の研究で使用されたASSQは上の参考文献の伊藤 大幸他 (2014) で開発されたものです。
短縮版で11項目で構成されており「いいえ(0点)」、「多少(1点)」、「はい(2点)」の3段階で評定するところは同じで、
一般児童を対象とした一時的なスクリーニングでは5点のカットオフ値が望ましいとされており、
研究では5点以上の回答を得たお子様を自閉症児と定義されています。
またフェイス項目を見ると周囲児のお子様は小学1年生から6年生までが対象となっていました。
そして上でもご紹介しましたが「要支援行動」とはこの研究で、
自閉症のお子様に対してつらい思いをさせてしまうかもしれない周囲の行動
と定義されています。
調査協力者95名のうち「要支援行動」が「ある」と回答した調査協力者は36名でした。
研究では「要支援行動」があった場合の「内容」「きっかけ」、「結果」について調査からカテゴリー分けしています。
以下、研究で示された分けられたカテゴリーについて見ていきましょう。
分類された「要支援行動」のカテゴリー
自閉症のお子様に対してつらい思いをさせてしまうかもしれない周囲の行動、要支援行動ですが、調査の結果、研究では以下の4つにカテゴリー分けされました。
※ ( )内は調査にて調査協力者によって書かれたエピソードの数、「・・・」に続くのは具体例
(1)からかい・悪口(14)・・・自閉症児をからかったりばかにしたりすること
(2)行きすぎた注意(11)・・・自閉症児に対しての注意が過度に強くなったり非難や否定的な表現になること
(3)除け者・回避(12)・・・自閉症児を除け者や仲間外れにしたり、回避したりすること
(4)身体的攻撃(3)・・・自閉症児に対して身体的な攻撃をすること
以上のようにカテゴリー分けされました。
一柳 貴博 (2021) の研究では「身体的攻撃」の割合は少なかったことがわかりました
それ以外のカテゴリーについては特に大きな差がなくエピソード数が書かれている印象です
次に、以上のような「要支援行動」があったときに先生がどのように対応をされたのかについて見ていきます。
「要支援行動」があったとき先生の対応もカテゴリー分けされていますので見ていきましょう。
「要支援行動」があったとき先生の対応のカテゴリー
以下、調査の結果カテゴリー分けされた「要支援行動」があったとき先生の対応のカテゴリーを見ていきます。
※( )内は調査にて調査協力者によって書かれたエピソードの数、「・・・」に続くのは具体例
(1)話を聞く(11)・・・周囲児または周囲児と自閉症児を呼び話を聞いた
(2)自閉症児に対する関わり方を伝える(8)・・・例えば時には「遊ぼう」と声掛けしてみてやコミュニケーションの取り方を教えた
(3)自閉症児に対する理解を促す(2)・・・自閉症児の特性を理解してもらえるよう周囲児に話した
(4)教諭の仲介促進(3)・・・不満があったとき先生に話すようにさせた
(5)学級全体に話をする(3)・・・自閉症児が別室にいる際、クラス全体に話した
(6)話し合い(2)・・・自閉症児と周囲児を集めて話し合いをした
(7)他の教諭や保護者と情報共有(2)・・・担任から様子を聞いた(担任以外の先生がこの具体例を書いています)
(8)物理的配慮(2)・・・全体で集まるとき、並び方などを配慮して近くにしない
(9)謝らせる(1)・・・周囲児を呼び話を聞いて自閉症児に謝らせた
(10)自閉症児の行動への対応(1)・・・自閉症児の行動が目立たないよう先回りし自閉症児に声をかけておく
以上の10の対応がありました。
対応については多岐に渡り、いろいろなパターンがあることがわかります
特に多い「(1)話を聞く」と「(2)自閉症児に対する関わり方を伝える」ですが、この2つだけで50パーセント以上の割合を占めていますので、これらの対応は最も一般的な対応と言えるかもしれません。
さてこのような「要支援行動」ですが、どういった状況で生じるのでしょうか?
どういった状況で生じたのかきっかけの状況もカテゴリー分けされているので見ていきます。
周囲児が行う「要支援行動」のきっかけの状況のカテゴリー
以下、調査の結果カテゴリー分けされた周囲児が行う「要支援行動」のきっかけの状況のカテゴリーを見ていきます。
※( )内は調査にて調査協力者によって書かれたエピソードの数、「・・・」に続くのは具体例
(1)自閉症児が周囲とずれた行動や発言をするとき(14)・・・自閉症児はルールを守らず自分勝手している
(2)自閉症児が一人で夢中で遊んでいるとき(1)・・・自閉症児が一人で夢中で遊んでいるとき
(3)周囲児自身が落ち着かないとき(3)・・・周囲児が何かを我慢しているとき
(4)集団やグループで活動するとき(8)・・・集団やグループでの活動
(5)学級全体が落ち着かないとき(2)・・・隙間時間で周囲がバタバタしている状況
(6)教諭が不在のとき(5)・・・先生がいない場面
(7)先生が自閉症児を注意するとき(1)・・・自閉症児が先生から注意をされてるとき
以上の7つのきっかけの状況がありました。
特に多い「(1)自閉症児が周囲とずれた行動や発言をするとき」と「(4)集団やグループで活動するとき」はこの2つだけで50パーセント以上の割合を占めていますので、これらは最も一般的な周囲児が行う「要支援行動」のきっかけの状況と言えるかもしれません。
個人的な体感としても(1)と(4)が多いのは「そうやんなー・・・」という感じです
さてこのようなきっかけの状況で生じた「要支援行動」ですが、結果的にどのようになるのでしょうか?
以下、結果についてもカテゴリー分けされているので見ていきます。
周囲児の「要支援行動」の結果のカテゴリー
以下、調査の結果カテゴリー分けされた周囲児が行う「要支援行動」の結果のカテゴリーを見ていきます。
※( )内は調査にて調査協力者によって書かれたエピソードの数、「・・・」に続くのは具体例
(1)自閉症児と周囲児で喧嘩が起きる(9)・・・トラブルになり言い争いが起きる
(2)不満や苛立ちの未解消(2)・・・なぜみんなと同じことができないのかと周囲児が苛立たしさを持つ
(3)周囲児だけで楽しむ(2)・・・自閉症児以外で遊ぶ
(4)攻撃行動による楽しさを得る(1)・・・馬鹿にしたように笑う
以上の4つの周囲児の「要支援行動」の結果がありました。
この結果だけを見れば「(1)自閉症児と周囲児で喧嘩が起きる」だけで50パーセント以上の割合を占めているので、最も一般的な結果としては自閉症児と周囲児で喧嘩になることなのかもしれません。
今回テーマになっている「要支援行動」がそもそも「自閉症のお子様に対してつらい思いをさせてしまうかもしれない周囲の行動」なので、
以上の4つの結果は自閉症のお子様がつらい思いをしてしまうかもしれない周囲の行動の結果となっています
ここまでの結果では周囲児と自閉症児の関係性のネガティブな部分が示されました。
研究では「要支援行動」の他に「代替行動」も調査されています。
研究で調査された「代替行動」とは、
問題行動や気になる行動を減らすためにその行動と等価な代替行動(適切な行動)
のことです。
研究では「代替行動」もカテゴリー分けされました。
最後に研究で紹介されている問題行動や気になる行動を減らすためにその行動と等価な代替行動のカテゴリーを見ていき、
本研究からの私の思った意見を書いて本ブログページを終了したいと思います。
周囲児の代替行動のカテゴリー
以下、調査の結果カテゴリー分けされた周囲児が行う「代替行動」のカテゴリーを見ていきましょう。
周囲児が行う「代替行動」は、
問題行動や気になる行動を減らすためにその行動と等価な代替行動(適切な行動)
のことです。
※( )内は調査にて調査協力者によって書かれたエピソードの数、「・・・」に続くのは具体例
(1)一緒に遊んだり話したりする(13)・・・楽しそうにゲームの話をしていた
(2)自閉症児の特性に合わせた関わりをする(5)・・・周囲児が自閉症児もわかる遊びをし、一緒に遊ぶ
(3)自閉症児の特性に対して何もしない(12)・・・自分たちのことに集中している
(4)自閉症児の特性に対する不満を担任に伝える(1)・・・自閉症児には何もせず周囲児が担任に話を聞いてもらう
以上が研究で示された「代替行動」のカテゴリーでした。
「(1)一緒に遊んだり話したりする」と「(3)自閉症児の特性に対して何もしない」がほとんどです。
個人的には「(3)自閉症児の特性に対して何もしない」も悪くはないかもしれないものの、個人的にはそんなに自閉症児自身にとってポジティブなものではないかもしれないなという印象を持っており、
「(1)一緒に遊んだり話したりする」がより多くなっていけば良いなという印象を持ちました。
以下、一柳 貴博 (2021)の研究をここまで見てきて私の思った意見も書いて本ブログページを終了したいと思います。
自閉症児と同学年児やクラスメイトの関わりについて・私見
本ブログページでは自閉症のお子様に対して周囲児が行う「要支援行動」について調査した論文をご紹介してきました。
「要支援行動」とは、
自閉症のお子様に対してつらい思いをさせてしまうかもしれない周囲の行動
と定義された行動でした。
周囲児とは自閉症児とクラスメイトや学年が同じお子様です。
個人的にそうかもしれないなと同時に「やはり大切だな」と感じた点として、
周囲児が行う「要支援行動」のきっかけにて、周囲児が自閉症児に「要支援行動」を行う理由として最も多かったきっかけは以下のものでした。
(1)自閉症児が周囲とずれた行動や発言をするとき(14)・・・自閉症児はルールを守らず自分勝手している
上のカテゴリーが「要支援行動」のきっかけとして最も多く、そして次に多かったものも、
(4)集団やグループで活動するとき(8)・・・集団やグループでの活動
と自分勝手な活動ができない時間帯がきっかけとなっているカテゴリーです。
私自身例えば幼児期の自閉症のお子様を見ていて、
いろいろな要因でお子様が周囲とずれた行動や発言をする、集団活動のときに逸脱してしまう
ということを目にしたり、エピソードを聞いたりしてきました
例えば、
・ 静かにしなくてはいけないときに話してしまう
・ 走ってはいけない場所で走ってしまう
・ 「待ってて」と言われているときに動いてしまう
・ みんなで話し合う時間に一方的に話し続けてしまう
など、お子様によっていろいろなパターンがあります。
またお子様によっていろいろなパターンの形があるだけではありません。
例えば「大きな声を出す」という形のパターンを行っているお子様がいたとしましょう。
「大きな声を出す」という形のパターンが同じであっても介入方法(支援方法)が変わってきます。
このようなとき、機能分析によって行動の目的をアセスメントした上で代替行動を強化して行くことがセオリーとなりますが、
「目立ちたくて我慢できないず、大きな声を出してしまう」
と
「不安になって大きな声を出してしまう」
では介入方法が変わってくるでしょう。
例えば、
「目立ちたくて我慢できないず、大きな声を出してしまう」場合は、他に適切な場面、適切なスキルで周囲からの注目を得ることを介入する必要があるでしょうし、
「不安になって大きな声を出してしまう」場合は、不安になってしまう要因を聞き取り、必要に応じては環境設定やエクスポージャーを取り入れていきます。
※ エクスポージャーについて詳しくは検索窓からご検索ください
このように介入方法が変わってくるので「どうして」お子様がその行動をしているのか意味(もき的、機能)を探ることが重要です
また「大人の高機能自閉症者が語った反復・常同行動の意味・目的(自閉症4)(https://en-tomo.com/2022/02/11/autism-repetitive-behaviors-purpose/)」にてご紹介しましたが、
自閉症のお子様が状況に沿わない行動を行うとき、周りから見ても意味がわからないものの、実は本人なりに意味があって、「集中や覚醒を高める意味」や「ストレス、苦痛、興奮への対処の意味」を持つ場合もあります(参考 Iris Manor-Binyaminia・Michal Schreiber-Divonb,2019)。
お子様本人にとって意味のある行動である可能性も含めて考慮するのであれば、
「その行動をするとどんな感じ?」、「その行動から、どういった良いことがあるの?」など聞き取ってあげるのも大切かもしれません。
今回、一柳 貴博 (2021)の研究では、
「(1)自閉症児が周囲とずれた行動や発言をするとき」や「(4)集団やグループで活動するとき」に周囲児からの要支援行動が多く生じました。
自身の臨床経験として感じていたことですがこの2つが多かったことはすごく体験とマッチし、納得がいきます。
支援するとき「周囲とずれ」がこのような結果に繋がる可能性を意識し「周囲とずれていないかどうか」を正しく観察すること、
そして自閉症のお子様ができるだけ無理がなかったり、お子様本人が納得できる形で「周囲とずれ」を修正していけるよう介入していくことが大切だと思います。
幼児期、小学生、中学生・・・大人、と大きくなる中で周囲の人と関わりながら生きていくことになるでしょう。
そのような中で「(1)自閉症児が周囲とずれた行動や発言をするとき」や「(4)集団やグループで活動するとき」に生じやすい状況を軽減してあげることは自閉症のお子様にとってとても必要なことだと思いました。
また一柳 貴博 (2021)の研究では「要支援行動」だけでなく周囲児の「代替行動」についても調査されています。
「代替行動」は、
問題行動や気になる行動を減らすためにその行動と等価な代替行動(適切な行動)
のことでしたが、
「自閉症児も周囲児も共に楽しめる話題や遊びがある」や「自閉症児の趣味や特技が生かされる」のときをきっかけにこのようなポジティブな自閉症児と周囲児の関わりが見られることもわかりました。
一柳 貴博 (2021)は研究の考察で「既に生じている周囲児の代替行動を見つけ、その代替行動を増やして行くことが必要であると考えられる」と述べていますが、
このような「代替行動」が生活の中で増えていけば相対的に「要支援行動」が生活の中で減少して行く可能性があります。
今回ご紹介をした一柳 貴博 (2021)の研究から、周囲児との関わりを考慮したとき、
・ 「(1)自閉症児が周囲とずれた行動や発言をするとき」や「(4)集団やグループで活動するとき」に周囲児からの要支援行動が多く生じることを意識する
・ 「代替行動」を増やすために自閉症児が周囲児とポジティブな関わりが持てるようなスキル(例えば、相手と楽しく会話するために相手に質問をしたり、共感をしたりする)を教えることを意識する
を注意しようと思いました。
さいごに
今回一柳 貴博 (2021)の「周囲児は自閉スペクトラム症が疑われる児童にどのように関わっているのか―小学校教諭から見た周囲児の行動メカニズム―」という論文をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか?
冒頭でも書きましたがこの論文の面白いなと興味を持ったところはまさにそこで、
自閉症児に対して周りのお子様(周囲児)がどう接しているのかについて研究がされているところです
自閉症のお子様を支援するとき、自閉症のお子様の情報は比較的手に入りやすいものの、今回ご紹介をしたようなその周囲児、クラスメイトであったり、学年が一緒だったりするお子様の情報は少ないと思います。
そういった意味で私自身、とても参考になったし、勉強になった論文の1本でした。
お子様が幼少期から大きくなるについて周囲の人間と上手くやって行くことを期待される場面やフェイズが多くなって行くでしょう。
そういったとき、どういった場面やきっかけで周囲とのトラブルが生じる可能性があるのか、そういったとき参考にしていただければと思いました。
<参考文献>
・ 一柳 貴博 (2021) 周囲児は自閉スペクトラム症が疑われる児童にどのように関わっているのか―小学校教諭から見た周囲児の行動メカニズム― 教育心理学研究 69 巻 1 号 p. 79-94
・ 伊藤 大幸・松本 かおり・髙柳 伸哉・原田 新・大嶽 さと子・望月 直人・中島 俊思・野田 航・田中 善大・辻井 正次 (2014) ASSQ日本語版の心理測定学的特性の検証と短縮版の開発 心理学研究 https://doi.org/10.4992/jjpsy.85.13213
・ Iris Manor-Binyaminia・Michal Schreiber-Divonb (2019) Repetitive behaviors: Listening to the voice of people with high-functioning autism spectrum disorder. Research in Autism Spectrum Disorders 64 p 23–30