本ブログページではABA(応用行動分析)はいったいどういうものなのか今回は「ツールである」という観点から私自身の想いを書いて行きます。
「ツールである」という観点から書いていくのですが、「ツールである」と言う観点以外にはどのような応え方があるでしょうか?
最初、導入部分としてこのことも少し考えてみましょう
例えば「応用行動分析(ABA)」は「行動分析(こうどうぶんせき)」という学問の上に成り立っています。
「応用」とはつかない「行動分析」とは「行動を分析する」学問です。
杉山 尚子 (2005) は1930年代のはじめに成立した行動分析学は1960年ごろから発見された行動の法則に基づいて、現実社会のさまざまな行動における問題を解決することに取り組んできたと述べました。
つまりABAとは「行動分析で培ってきた知識や技術を社会問題の解決に応用したもの」という答えができそうです。
※ ABAは応用行動分析のことでApplied Behavior Analysisの頭文字を取ってABAと呼ぶ
他にも「ABAはハーバード大学の心理学者だったB. F. Skinnerが創設した学問体系である」という言い方も「ABAとは?」に答えるとき、正解でしょう(参考 山本 淳一,2015)。
また例えばDonald M.Baer・Montrose M. Wolf・Todd R. Risley (1968) はABAについて、
・ 応用的である
・ 行動的である
・ 分析的である
・ 技術的である
・ システムが概念化されている
・ 効果的である
・ 般化的である
という原則を述べていましたのですが、
Donald M.Baer他 (1968) の述べている原則を持つことが特徴的である、「ABAとは?」という質問があったときそのように答えることも正解だろうと思います。
さて最後に例えば私が「ABAとは?」という質問を受けたとすれば?
例えば私は「ABAとは?」と聞かれると、
「行動の前後の文脈を織り込んで分析し、行動の意味を予測し、その後の行動に影響を与える方法」
のように答えると思います。
ここまで「成り立ち」「創始者」「原則」といった観点から「ABAとは?」ということを考えてきましたが、どのような切り口から見るかで同じ「ABAとは?」という質問に対しても答え方が変わってくるのです。
以下本ブログページのテーマであるABA(応用行動分析)はいったいどういうものなのかについて、「ツールである」切り口から考えて行きましょう。
ABA(応用行動分析)は便利なツール
あなたがもしABAを用いて療育や不安、恐怖、問題行動などを解決しようと思ったとき、ABAの知識だけでは「解決」を行うことは難しいと思います。
私はABAについて上で、
「行動の前後の文脈を織り込んで分析し、行動の意味を予測し、その後の行動に影響を与える方法」
と述べました。
ここで書いたようにABAでは行動の意味を予測することができます。
そしてこれまで培ってきた行動科学(行動分析)の知見から、どのように環境を変えれば行動がどのように変化するのか、について考えることができるでしょう。
例えばあなたが引っ込み思案だとすれば、このことを解決する方法は?
あなたが安心して主張することがやりやすい人を見つけ「ちょっと練習に付き合って欲しい」とお願いをして、主張する練習に付き合ってもらうことは良いかもしれません。
あなたは主張が上手くなったと感じることや、相手からのポジティブなフィードバック(「さっきよりも今の方が良かった」など)から強化を受け、行動が上手くなって行く可能性があるでしょう。
これはABAでシェイピングという技法を使ったという言い方で説明が可能です。
※ 他にもエクスポージャーを使ったなど他の説明の方法も可能でしょう
また例えばあなたが浪費家で「毎日の出費を抑えたい」と考えたとします
遅延大強化子という遅れてやってくる大きな強化子がリンクするように生活の中にヒントを多く散りばめる、このようなことが行動を維持させてくれる可能性があるでしょう。
このようなことは「セルフコントロール」という分野です。
また例えば、あなたがお子様の問題行動を解決したいと思ったとき、お子様がどうしてその問題行動を行っているのかの予測を立てる、
これは解決に貢献するでしょう
問題行動の目的を分析し、問題とならない手段でお子様が目的を達成できるように支援をする。
このような技法は「機能分析」と呼ばれます。
さて本ブログのテーマですが、ABAはツールであるということでした。
「引っ込み思案だ」「浪費家だ」「お子様の問題行動がある」これらに対して支援を行うとき、ABAは確かに貢献すると思うのですが、
実はABAの知識や技術だけでは、「引っ込み思案だ」「浪費家だ」「お子様の問題行動がある」ということを解決するのには足りません。
そしてここが私がABAはあくまでツールである、と主張をする理由となります。
一体、何が足りないのでしょうか?
本ブログはABA自閉症療育ブログですが、もしあなたがABAを活用して行動を変えたい、誰かの行動を支援したいと思ったとき、ABAの分析をするだけでは足りないこの点も意識して行うことが大切だと思います。
ABA(応用行動分析)だけでは足りない理由
上で「引っ込み思案だ」「浪費家だ」「お子様の問題行動がある」という話を出しましたが、
他にも「怒りやすい」「嘘をついてしまう」「健康的な生活を維持できない」など、何にでも当てはまることだと思うのですが、これらの内容だけを見たとき例えば、
「引っ込み思案じゃなくなりたい」「浪費家をやめたい」「お子様の問題行動がなくなって欲しい」と考えたとしましょう。
「引っ込み思案じゃなくなりたい」「浪費家をやめたい」「お子様の問題行動がなくなって欲しい」と考えABAに取り組もうと思ったとき、これだけでは支援を行うときに足りません。
これだけではABAがツールとして機能しないんです。
少しもったいぶった書き方を続けてきたようにも思いますが、何が足りないのかと言えば、ここまでの内容では、
「それで、どうなりたいか?」が記述されていないことが足りません。
「引っ込み思案じゃなくなった姿はどう言った姿なのか(どのような行動を行なっていることがあなたにとっての引っ込み思案じゃないという姿なのか)」
「浪費家をやめてどうなりたいのか(浪費家を辞めた末どういった強化子を得る行動を行いたいのか)」
「お子様の問題行動がなくなった姿はどう言った姿なのか(どのような行動を行なっていることがあなたにとっての問題行動を行っていない姿なのか)」
これは言い換えると「何の行動を増やせば良いのか?(強化すべき行動)」が記述されていない
と言い換えられます。
例えば「お子様の問題行動がなくなった姿はどう言った姿なのか」ということを決めることはとても大切です
難しい課題(運筆のプリントなどをイメージしてください)が目の前に提示されると、泣いて癇癪を起こすお子様がいたとしましょう。
このときの問題行動とは「泣いて癇癪を起こす」ことなので、問題行動が消失するということは「泣いて癇癪を起こす」ことが無くなるということです。
ただ「無くなる」と言っても、スーンと気が抜けて動かなくなる、というのでは困ったものだと思います。
私たちは問題行動に注目が行きがちなのですが何か解決に取り組む際、「問題行動を行っていない姿(変化した後の姿)」にも注目をしなければいけません。
問題行動、泣いて癇癪を起こすが無くなったときのお子様の姿は?
・ 頑張って課題に取り組んでいる姿
・ 「やりたくない」と適切に主張する姿
・ 「一緒にやって」と助けを求める姿
そして以上のように、問題行動、泣いて癇癪を起こすが無くなったときのお子様の姿といってもいくつもの「泣いて癇癪を起こすが無くなった姿」の形があります。
ABAという学問で行動を促進することが可能ではあるのですが、
どのような方向性に行動を変化させたいのかについてまではABAは教えてくれません。
ここは、あなたが決めるのです。
ご飯を食べるときTVを見ることはダメなことですか?
ダメな家庭もあるし、OKという家庭もある
このように価値基準は人や家庭によって違うでしょう
どのような方向に行動を変化させるべきなのか、ここは本質的にはあなた自身があなたの良いと思う道徳や期待したい未来に沿って判断しなければいけません。
「本質的には」と書いたのは「どういった方向性に行けば良いのか迷っているのでアドバイスをくれ」と言われればカウンセラーやABAの専門家はアドバイスをくれることもあるでしょう。
ただしやはり「本質的には」自分で決めるのです。
決めるときの基準も人それぞれでしょう。
例えば「多くの人がそうしている」、「自分の趣向性」、「社会的な文化」、「法律」など基準もたくさんあります。
その中であなたが「どういう方向性」に行きたいのか。
「どういう方向性」に行きたいのかがあって、初めてその方向性に行くためのツールとしてABAが機能します。
さいごに
あなたがABAを活用して自分自身や誰かを支援したいと思ったとき、どういった方向性に行きたいのかの目的について自分自身の心の声と相談する、そういったことも大切だよ、
ということを書きたくて今回、ブログの内容にしようと決めました。
また今回この内容は「ABA:応用行動分析コラム」か本章の「ABA自閉症療育で使う基礎理論」のどちらの章で書こうか迷った内容でもあります
今回は「ABAを行う上で大切なこと」だと思ったため、「ABA自閉症療育で使う基礎理論」の章に入れました。
そのため内容は少し「コラム」寄りだったかもしれません。
本ブログページで書いてきたように「ABAはツール」です。
そのツールを使うためには「何の目的に向かって行くために使うのか」を決めなければいけないのですが、本ブログページはそのようなことを書いた内容でした。
ただし、もしあなたが漠然と困っていて「どうすれば良いかわかならい」状態でカウンセリングに行ったりABAの専門家に相談をすることは全然問題ありません。
カウンセラーやABAの専門家は「どのようになりたいのか」、「どうしたいのか」をより具体的に、あなた自身がまだ考えたり気がついていない角度からも、あなた自身の想いや考え、今後の方向性を一緒に考えてくれます。
例えばABAの1つ「ACT:Acceptance and Commitment Therapy(アクト)」では「価値」を取り扱うことを1つの重要なこととして捉えますが、
Steven C. Hayes・Kirk D. Strosahl・Kelly G. Wilson (2012) はACTにおいて価値とは自由に選ばれるものであり、進行中で、動的で、徐々に展開して行く活動パターンがもたらす言語的に構成した結果であると述べました。
ACTで言うところの価値とはまさに方向性を決めると言っても良いでしょう。
方向性を決めるときこれまで出会った人や読んだ物語、見てきた動画や自分が歩んできた人生で感じたり想ってきたこと、そういったものが含まれると思います。
どういった方向性に行くか決めるとき、それはあなたの奥深さが出る瞬間なのかもしれません。
【参考文献】
・ Donald M.Baer・Montrose M. Wolf・Todd R. Risley (1968) SOME CURRENT DIMENSIONS OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS 1. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS 1, p91-97 NUMBER1
・ Steven C. Hayes・Kirk D. Strosahl・Kelly G. Wilson (2012) Acceptance and Commitment Therapy The Process and Practice of Mindful Change 【邦訳: 武藤 崇・三田村 仰・大月 友 (2014) アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)第2版 星和書店】
・ 杉山 尚子 (2005) 行動分析学入門ーヒトの行動の思いがけない理由 集英社新書
・ 山本 淳一(2015) 「編:日本行動分析学会 責任編者:山本 淳一・武藤 崇・鎌倉 やよい ケースで学ぶ行動分析学による問題解決 金剛出版」 p12