私はご家庭でABA自閉症療育を行うときにぶち当たるであろう壁が1つあると思っています。
それは「ABAを使ってお子様に何かを教えるとき、一体何を教えれば良いの?」という問題です。
教えるとき、「その教える何か」のことを「ターゲット」や「ターゲット行動」、「目標行動」などと呼ぶのですが、
「一体、今この子には何が必要なターゲットなのだろう?」「何を教えれば良いのだろう?」ということには頭を悩ませるかもしれません。
本ブログではこれまで「DTT」や「NBI」と言ったABA自閉症療育の方法について書いて来ました。
これは暗に『お子様に知らないことを知ってもらうために教えるときは、「DTT」や「NBI」を通していろいろとお子様に教えて行けば良いよ』と書いているのですが、「よし!やってみよう!」となったとき、
「どう教えれば良いの?」ではなく、「何を教えれば良いの?」が分からなくなってしまうこと、あると思います。
※ 「NBI」の代表格は「PRT」です
※ 「NBI」は「Naturalistic Behavioral Interventions:(自然主義的行動療法)」略です
※ 「PRT」は「Pivotal Response Treatment(機軸行動発達支援法)」の略です
※ 「DTT」は「Discrete Trial Teaching(離散型試行訓練)」略です
さて、本ブログページが本ブログサイト初見の方もいるでしょう。
始めて飛んできたブログページで専門用語が最初からバンバン書いてあったら見る気が失せるかもしれません。
いきなり「DTT」や「NBI」、「PRT」とかの単語が出て来たら難しそうに思って気持ちが萎えてしまいますね?
本ブログページでは「DTT」や「NBI」、「PRT」という単語は使わずに書いていこうと思います。
なぜなら本ブログページは「どう教えれば良いの?」ではなく「何を教えれば良いの?」のアイディアを共有するページだからです。
ですので是非、よろしければこのまま読み進めてみてください。
※ 後半にブログタイトルにもある「(おまけ:比較表現の教え方)」についても書いています
お子様に何を教えれば良いの?
さて、ではお子様に「何を教えれば良いの?」について正解はあるのでしょうか?
参考文献を見てみましょう。
例えばRobert L.Koegel・Lynn kern Koegel (2006) はPRTもEIBIでも、お子様が健常発達に近づくことが目標であると述べています。
参考文献の2006年当時と違い、現在は自閉症や発達障がいのお子様は「スペクトラム」という概念で考えらていることや、言葉の使い方の変化もあってあまり「健常発達」という言い方はしないかもしれませんが、
「周りのお子様ができていることができるように療育をする」と言い換えられるかもしれません。
この文章だけ見ても「何を教えて行けば良いか」についてあまり具体的だなと感じないでしょう。
具体的に何を教えていけば良いのかがわかりません。
他に例えばO.Ivar Lovaas (2003)の日本語版マニュアルには教えて行くことがかなり細かく書かれています。
900ページくらいある辞書みたいに分厚いマニュアルです。
ただO.Ivar Lovaas (2003)のマニュアルでさえも0から全てのお子様が始めて行く用に作られており、
例えば発語が可能なお子様がマニュアルの一番最初から教えて行く用途が適しているか、と言えばそんなことはないのではないかなと感じています。
本ブログページではこのようなとき、どのようにして「教える言葉」をターゲットとして選定して行けば良いのかのアイディアを2つの方向性からご紹介します。
本題の内容で困ったな、どうしようかと思っている人は是非ご参考ください。
兄弟児や周りのお友達を参考にする、普段の会話の違和感を覚えておく
私が提案する1つのアイディアは兄弟児や周りのお友達を参考にするです。
例えば下のお子様がいる場合、2歳くらいの下の子が「これ何?」と質問をしていたとすれば、お兄ちゃんも「これ何?」と質問することを教えても良い可能性があります。
「あぁ、これくらいの年齢でこういうことを言うようになるのか」という参考になるでしょう。
但し注意点としては例えば言葉の発達としてまだいくつかの名詞(ものの名前)が分かってなさそうな場合は、「これ何?」という質問よりも優先してまずはものの名前を教えてあげる、という順序も大切になってくることは注意は必要です。
また普段の会話中に「あれ?」と思うことを記録しておくことも良いでしょう。
会話の中での違和感を覚えく、ということです。
(1)例えば「今日 誰とあそんだの?」と聞いたときに「ブランコやった」と言った場合などは少し違和感が残ります
(2)また例えば「どうだった?」と聞いたときはいつも「楽しかった」とか答えない、なども少しの違和感を覚えるかもしれません
上で兄弟児を参考にすることを書きましたが、兄弟児以外に同年齢のお子様の様子も参考になるでしょう。
以下は、上で出した(1)(2)について、兄弟児以外を参考にする場合の例です。
例えば(1)の場合だと、保育園・幼稚園にお迎えに行ったとき、園にいる同年齢のお子様と少しお話しする機会もあると思います。
そのような中で「今日 誰とあそんだの?」とか何人かのお子様に聞いてみて、周りのお子様がみんな正しく答えられるようであれば「これは練習しても良いかも!」と考える、と言った感じです。
(2)の場合はまずは例えばお子様の嫌いな食べ物とかを把握していた場合(仮にピーマンとする)、「ピーマン食べてどうだった?」とか聞いてみます。
お子様が「楽しかった」と言った場合(味について問いていますのでまだ「おいしかった」は良いかも)は、『あー、「どうだった?」には「楽しかった」と答えることがパターンになっているんだな』などと考えることができるでしょう。
このようなときも(1)と同じで保育園・幼稚園にお迎えに行ったとき、園にいる同年齢のお子様にリサーチしてみるのも良いと思います
保育園・幼稚園にいる同年齢のお友達へ質問をしてみて正しく答えられるかどうかを聞いてみれば良いでしょう
保育園・幼稚園にお迎えに行ったとき、園にいる同年齢のお子様にリサーチするのは親御様側の一定のコミュニケーション力が必要かもしれません。
もしここまで見てそれはかなり難しいと言った場合は先生に「周りのお子さんってXXXはできますか?」とか聞いてみても良いでしょう。
また少し派生系ですが、その年代を対象としたお子様向けのアニメや実写(お母さんといっしょ的な)も参考になると思います。
どういった言い回しをしているかとか、参考になることも多いでしょう。
先ほど上で書いたように、本ブログページで伝えたい内容は、
今何を教えようか困っていて、何を教えるかアイディアを考えるときの参考にする
ということです。
上で書いたように注意点として言葉の発達という順序は大切になってくるように思いますが、もし「何を教えようかな」と困っている、と言った場合にはここまで書いて来たことを参考にするのはいかがでしょう?
また他に「教えることにはどんなものがあるのだろう?」という教える範囲についての疑問も残るかもしれません。
そもそも私たちはどんな順序で言葉を獲得して来たのでしょう?
人によって言葉の得意不得意はあると思うものの、幼い頃に得たさまざまな経験を通して言葉は意識せずに覚えて行った(扱えるようになった)というイメージが強いのではないでしょうか?
あなたはあまり自覚なく言葉を獲得して来て、今、人とコミュニケーションを取るに至っている、という感じではないでしょうか?
例えば「あなたが最初に言った言葉はママだったよ」とお母様に言われたとして知っていたとしても、
それから「人に質問ができる」ようになったり、「あいずちができる」ようになったり、「時制を使って説明ができる」ようになったり、「受動態が理解できる」ようになったことを、
『あぁそうだ!僕は2歳の頃にものの名前を知りたいとき「これなに?」と聞けば良いことを教えてもらったなぁ』などと覚えている人はほぼ居ないと思います。
今上で「人に質問ができる」、「あいずちができる」、「時制を使って説明ができる」、「受動態が理解できる」と書きました。
<1> 人に質問をする
<2> あいずちができる
<3> 時制が扱える
<4> 受動態ができる
今この4つの例を書きましたが、この例を見て「あぁ、確かに言葉でコミュニケーションを取るときにそういったことって必要だな。意識していなかったけど言われればそうだな」と思われた方もいるかもしれません。
そして例えば「<1> 人に質問をする」を取り扱ったときだけでさえ、
・ 「これ何?」(5W1Hを使った疑問文)
・ 「ハンバーグ好き?嫌い?」(Yes?Noの疑問文)
・ 「これ、好きだったっけ?/嫌いだったっけ?/やっても良いですか?」(確認するときに使用する疑問文)
・ 「ハンバーグと焼肉どっちが好き?」(「どっち」の選択で聞く疑問文)
・ 「キャベツとなすとトマト、どれが好き?」(「どれ」の選択で聞く疑問文)
などこのように「<1> 人に質問をする」だけでも教えるパターンが多岐にわたるのです。
「<2> あいずち」も「うんうん」とか「へぇー」とか「わかる」とかいろいろあるし、
「<3> 時制」も例えば過去形一つ取っても「昨日」だけでなく「さっき」「この前」のようないろいろな言い方があるだけでなく、「昨日、昔大切にしていたおもちゃが見つかった」などのように過去形の文章の中に過去形を入れるパターンなども存在します。
「<4> 受動態ができる」と言っても「れる/られる」系統以外に「あげる/もらう」などの言い方が決まっている文句もあればそこに敬語も絡んでくればもっとパターンの分岐が分かれるでしょう。
このようなことを考えたとき「一体、言葉は何をどこの範囲まで教えればコミュニケーションとして成立するのか」と頭を悩ませるかもしれません。
そういったとき、私が参考にしたことのあるアイディアを以下、共有していければと思います。
教科書を参考にする
日本の1年生からの教科書を参考にして「時制」や「受動態」など、コミュニケーションに必要な言葉の構文を見つけて行っても良いでしょう。
昔、私が参考になったなと思ったのは高校のときに使っていた「英語の教科書」でした。
上の写真いかがでしょうか?
見開き1ページ目次のところに構文の種類が羅列されています。
これは「高校英語」の教科書ですので上から順に教えて行けば良い、というわけではないと思いますが、
ざっくりと必要なコミュニケーションの構文種類を考えるとき参考になりました
例えば「比較表現」など私たちは普段意識せずに使っています。
療育で「対の概念(大きいー小さいなど)」、一般的に「反対語」などを教えていることが多いことを私は知っていましたが、
「AはBよりX」などの「比較級」についてお子様に教えているところをあまり知りませんでしたので英語の教科書で「比較表現」を見たときはお子様にそのときまで教えておらず「盲点だったな」と思いました。
それから私はお子様に「比較表現」も教えるようにしています。
ここからは本ブログタイトルにある「(おまけ:比較表現の教え方)」です。
比較表現の教え方
私が行っている比較表現の教え方を簡単にご紹介しましょう。
私が使用している他の方法ももちろんあると思いますし、もし他の方法で教えている人がいたら是非Twitterからメッセージいただければ嬉しいです。
上のイラストのように「(大きい)たろう」「(小さい)たろう」「(大きい)じろう」「(小さい)じろう」のイラストを用意します。
このときのたろう・じろうのサイズはA4紙を8分の1にしたサイズで、上のイラストのように目や鼻は描いておらず、ひらがなで「たろう」「じろう」など名前を書いていることが多いです。
また今回は例として「たろう」「じろう」を使用していますが「なつき」「よしお」でも良いと思います。
ただ、気をつけていることとしては、お子様の知っている人にいない名前を使用するようにしています。
これはお子様のイメージに居ない架空のお子様の名前を選ぶことで「僕の知っている○○ちゃんは大きい」などのバイアスが入らないように工夫をしている、というところです。
そしてその4枚あるイラストの横にA4紙2分の1サイズに切った白紙を置いておきます。
これで準備完了です。
私は4段階のレベルに分けてこの課題を考えています。
レベル1:「たろうくんが大きい」、「たろうくんが小さい」、「じろうくんが大きい」、「じろうくんが小さい」
例えば「たろうくんが大きい」の場合は「(大きい)たろう」と「(小さい)じろう」をA4紙2分の1サイズに切った白紙の上にペアとして置ければ正解です。
レベル2:「たろうくんよりじろうくんが大きい」、「たろうくんよりじろうくんが小さい」、「じろうくんよりたろうくんが大きい」、「じろうくんよりたろうくんが小さい」
例えば「たろうくんよりじろうくんが大きい」の場合は「(小さい)たろう」と「(大きい)じろう」をA4紙2分の1サイズに切った白紙の上にペアとして置ければ正解です。
レベル1では1人の大きさのみに反応して正解できたのですが、レベル2では2人の名前が出てくるので難易度が上がっています。
レベル3:「たろうくんがじろうくんより大きい」、「たろうくんがじろうくんより小さい」、「じろうくんがたろうくんより大きい」、「じろうくんがたろうくんより小さい」
例えば「たろうくんがじろうくんより大きい」の場合は「(大きい)たろう」と「(小さい)じろう」をA4紙2分の1サイズに切った白紙の上にペアとして置ければ正解です。
レベル2では「たろうくんよりじろうくんが大きい」、ピンク色に示された部分はレベル1の「じろうくんが大きい」と同じ文字列となっており、大きい方が個人的には(レベル3と比べると)わかりやすくなっていると思います。
レベル3では「たろうくんがじろうくんより大きい」と比較対象が文頭に出ており、「より」という言葉にレベル1や2よりもしっかりと反応できなければ正解できません。
レベル4:「レベル2」と「レベル3」を混ぜて実施する
そして最終的には「レベル2」と「レベル3」を混ぜて実施し、できることを目指します。
例えば、
1トライアル目:「たろうくんがじろうくんより小さい」(レベル3)
2トライアル目:「じろうくんよりたろうくんが大きい」(レベル2)
3トライアル目:「じろうくんよりたろうくんが小さい」(レベル2)
4トライアル目:「たろうくんがじろうくんより大きい」(レベル3)
5トライアル目:「たろうくんよりじろうくんが大きい」(レベル2)
6トライアル目:「たろうくんがじろうくんより大きい」(レベル3)
7トライアル目:「たろうくんよりじろうくんが小さい」(レベル2)
・・・・・・・
と言った感じです。
「大きいー小さい」だけでなく、変容系として以下のイラストのようなものを使えば「近いー遠い」など、他のものも実施できます。
これは『先生から見て、「えき」が「コンビニ」よりも近い』などで問題を出していく、という作りです。
個人的には「ひらがな」が読めるお子様にこの課題を実施しているので、まだ「ひらがな」が未習得のお子様には実施をしたことはありませんが、
例えば「赤い丸」と「緑の丸」を大小2パターンずつ(計4個)用意しておいて『「あか」より『みどり』が大きい」などの形でも実施できるでしょう。
以上、おまけとしてご紹介した私が現在使っている「比較表現」の教え方でした
本題に戻ると、本項で伝えたかったことは、私が参考になったなと感じたことがあったのは「英語の教科書」というエピソードだったのですが、
「日本語の教科書」とか「英語の教科書」は何の文法や構文を教えれば良いか考えるときに参考になるよ!
という内容でした。
保育などの専門書も参考になる
最後に例えば発達検査の項目なども参考になると思いますが、心理士(師)の方なら知っていたとしても一般的に発達検査の項目を知っている人は多くないと思いますし、また知る機会も無いでしょう。
心理士(師)側も発達検査の内容を公にお伝えすることはあまり良いことだと思っていない人がほとんどだと思います(私もそっちより)。
また発達検査の項目も発達の全てを網羅しているかと言えばそんなこともありません。
専門書を参考にするでは例えば「保育」の本などは参考にするのはいかがでしょうか?
身体発達の「何歳でこれができるようになる」とか社会性の「何歳でおすすめの遊び」など参考になるはずです。
今、手元に河原 紀子 (2011) の「0歳〜6歳 子どもの発達と保育の本」があります。
右側に開いたページも載せていますが、内容は参考になりそうじゃないでしょうか?
「何歳でおすすめの遊び」などが参考にする場合、
例えばこの本には4歳頃に「曲に合わせて動こう」という活動が紹介されています。
演奏に合わせて歩き回り、演奏が止まったらその場で止まる
慣れて来たら曲調に合わせて動きを変え、この曲のときは「けんけん」、この曲のときは「カエルジャンプ」と動きを切り替える
など書かれているのですが、
「AのときはBをしてね。CのときはDをしてね」というルール
に対して4歳頃はこのような形で例えば「慣れていく」と書いてあるので、最初は言葉だけ理解できなくとも何度かやっていく中でルールを追加していく形であればこのような活動に参加することも可能なのだろう、と推測することができるでしょう。
保育の本はこのように活用できると思います。
あと海外の翻訳本でいえばこの本も参考になるでしょう。
心理の人から教えてもらった本で一時Amazonでも売り切れになっていた人気の本です。
この本を私は「何歳ではどんなことができるんやっけかな?」と辞書的に使っています。
おすすめは大型書店に行って実際に見てみて、自分が「見やすいな」と思ったものを購入するが良いと思います
さいごに
本ブログでは「お子様にどう教えれば良いか」ということを主に扱って来ました。
また今後も「お子様にどう教えれば良いか」ということを主に扱って行くことになると思います。
ただ本ブログページのテーマ、お子様に「どう教えれば良いの?」ではなく「何を教えれば良いの?」ということも療育をする上で大切なことでしょう。
本ブログページでは、
・ 兄弟時や周りのお子様を参考にする
・ 普段の会話中「あれ?」と思うことを記録しておく
・ 国語や英語の教科書を参考にする
・ 保育などの専門書を参考にする
というアイディアを書かせていただきました。
もし「何を教えれば良いの?」ということで困っている方がいらっしゃいましたら、上の中の何かを実践してみてください。
本ブログページが誰かの療育ライフに役立っていれば幸いです。
【参考文献】
・ 安藤 昭一・釜池 進 (1997) 三訂 エスト総合英語 -est 株式会社エスト出版
・ Dee C. Tay (2016) A Therapist’ s Guide to Child Development 【邦訳: (監訳)小川 裕美子・野沢 貴子 (2021) セラピストのための子どもの発達ガイドブックー0歳から12歳まで:年齢別の理解と心理的アプローチ 誠信書房】
・ 河原 紀子 (2011) 0歳〜6歳 子どもの発達と保育の本 Gakken保育Books
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】
・ Robert L.Koegel・Lynn kern Koegel (2006) Pivotal Response Treatment for Autism:Communication,Social, and Academic Development 【邦訳 氏森 英亞・小笠原 恵 (2009)機軸行動発達支援法 二瓶社】