ABA:応用行動分析28は「最近私が眼鏡をかける理由、お子様が眼鏡やイヤーマフを付けるためには?」というタイトルで書いていきます
私は現在30代半ば、ずっと裸眼で過ごしてきました。
しかし今年ふとしたことが理由で眼鏡を作ることとなったのですが、眼鏡を作ってからの生活の変化(眼鏡をつける頻度の増加)についてABAの観点から何で私自身が眼鏡をかける行動がどんどんと増えていったのかを考察します。
ちなみに現在の状況は眼鏡をつけなくとも生活できるくらいに裸眼視力は保っており、PC作業をするときなどに眼鏡なしでも作業できるものの、眼鏡をかけた方が字がくっきりと見えてストレスが少ない、
というレベルの状況です。
この考察は個人的にはABA自閉症療育にも活かせると思っていて、
例えばお子様に私のように「眼鏡をつけてもらいたい」や「イヤーマフをつけてもらいたい」といったときの参考になるのではないかと考えています。
「眼鏡をかけること」「イヤーマフをすること」がどうやったらお子様の強化子になり、日常的につけてくれるようになるのか?
この点についても触れながら書いていくこととしましょう。
最初に私が眼鏡を作ることになった経緯について、少しお伝えさせてください。
なぜ眼鏡を作ることになったか?
ある日私の目に大きな「目イボ」ができました。私の生まれた地域(少なくとも私の実家)で「目イボ」と呼ばれていたそれは薬局の目薬などには「ものもらい」と書かれている症状です。
痛みが少しあったこと以上に顔の形が変わってしまっていたため眼科に行き薬をもらおうとしました。
そのとき眼科で視力検査を行ったのですがその結果に驚愕。結果は両目視力「0.4」という視力でした。
数年前まで「1.2」くらいだったのでショックな気持ちもありましたがそのままだと免許の更新もできないため、
お医者様から「眼鏡作りますか?」と言われて「はい」と答えました。
その日は「目イボ」も大きかったので眼鏡は「目イボ」が治ってから後日作ろう、ということになりました。
それから2週間ほど経ち「目イボ」はすっかり良くなり眼鏡を作る日がやってきました。
眼鏡を作る日も視力検査をしました。視力検査の結果両目視力「1.0」。
「え?0.4だったんじゃ?」意外な結果に驚きました。
説明を受けたところ、どうやら私は日によって視力にブレがあるという人間のようでした。
そんなことあり得るの?って思いましたが、確かに日によってひどくぼやけて見えたりする日もあったりしたから、そういうことなのかな?
また「乱視」があることがそのときにわかりました。
そのため「乱視用」の眼鏡を作ることにしました。
眼鏡を作るときに感じた難しさ
今まで例えば遊びで友達の眼鏡を借りて数秒つけてみる、などはやったことはありましたが眼鏡を作ったことなどはありません。
眼科では私に合う眼鏡を作るためにいろいろと検眼フレームのレンズを変えながら「これはどう?」「これは?」などと聞いてくれました。
こうして自分に合うだろうという眼鏡を作っていくんですね。
難しいなと思ったのは、どれを選んでもどうしても違和感があるのです。
これは今まで眼鏡をつけずに裸眼で過ごしている中で見てきた景色とは違う見え方(例えば輪郭がはっきりするなど)になるので当たり前かもしれません。
「どういった見え方が正解なのか?」がかなり曖昧な中で「これはどう?」「これは?」などと聞かれて、正解を見つけていかなければいけません。
例えば「これは近くははっきり見えますが、遠くがちょっと見えにくいです」とか「見えやすいけれど、光(部屋の天井にある電気)は2つに見えます」など、
特定の条件が良くなれば特定の条件で良くないところが出る、ということが当たり前で、その中で1つの眼鏡を作っていきます。
私は言葉でのコミュニケーションが可能だったことから何とか今お気に入りの1本を作ることができましたが、これがお子様、特に自閉症のお子様の場合は自分にフィットする眼鏡を作ることはとても大変だなと思いました。
特に私と眼鏡を作ってくれた方とのコミュニケーションで使用される言葉は曖昧で子どもには理解が難しいだろうと思うものも多かったです。例えば、
「光がくっきり見える?ぼやっと見える?」や「こっちの眼鏡は遠くがはっきり見えると思うんだ。次のやつはどうか教えてね」など、
「くっきり」「ぼやっと」「はっきり」と個人の中で生じる現象についてコミュニケーションを取るということは高度なコミュニケーションの技術だと思います。
眼鏡を作るときに感じた違和感
私の眼鏡を作ってくれた人は少し変わったことを経験させてくださったのかもしれません。
眼鏡を作ったときの以下の経験談を眼鏡を持っている人に話すと「そうなの?」と言われることも度々あったためにそう思っています。
私の眼鏡を調整してくれた方は検眼フレームに特定のレンズを入れたまま「眼科を出て、一度、道を歩いてきてみてください」という方法で調整をさせてくださいました。
より日常的な中で眼鏡の使用感を体験して欲しいということが意図だったのだと思います。
私は検眼フレームにあるレンズを入れて外に出て歩いたとき、衝撃的な経験をしました。
上のイラストのように道半分に自分が埋まったまま移動しているような感覚で道を歩くことがありました。
正直めちゃくちゃ気持ち悪かったです。
そして何度か試すうちに心地良い(違和感の少ない)レンズも見つけ、それを選択するに至りました。
しかし最後に見つけたレンズでさえ少しの違和感はあり、特に自分の横から人が歩いてきたとき、横目でそれを確認したときとレンズ越しで確認したときに距離感が全然違い気持ち悪かったことを覚えています。
正直最初に選択したとき、選択したものが「一番マシだった」という気持ちも少しあったことも正直な気持ちです
さて、このような経験をして私はメガネを作ることができました。
眼鏡にどのようにして慣れていったか
今まで仕事中、例えば人に「これ、見てください」と対面でパソコンの画面などを見せられたとき、ぼやけて見えていたので「え、ちょっと待って」と言って顔を近づけたりすることがありました。
でもメガネをかけることでそのようなことがなくなりはっきり見えました。
自身が仕事をするときにパソコンを使う場面でも文字がはっきりとみえたり、本を読むときに文字がはっきりと見えることで今まで以上に快適にその時間を過ごすことが体験できました。
これは私にとってはとても強化的な体験です。
また私は今まで眼鏡をかけていなかったため、初めて人前でかけているところを披露するのは正直少し恥ずかしさもありました。
これは初めて眼鏡デビューする人は少なからず感じるのではないかなと思いますがどうでしょう?
結果的には周囲の人は私が気にしていたほどは気に留めず、自然に眼鏡姿の私を受け入れてくれたように思います。
思ったより「眼鏡」について触れる人はいなかったのも意外でした。
20年以上付き合いのある地元の友達も触れてきませんでした(笑)
そんなに珍しいものでもないのですね、眼鏡。
だんだんと私は眼鏡をかける頻度が上がっていったのですが、ABA自閉症療育の観点からこのことを考えてみましょう。
冒頭書いたようにお子様に「眼鏡をつけてもらいたい」や「イヤーマフをつけてもらいたい」といったときの参考になると思います。
テーマは2つ。
1つは「どのように付ける行動が強化されていくか」、2つめのテーマは「周囲から何か言われるのではないかという不安」について書いていきましょう。
どのように付ける行動が強化されていくか
これは非常に簡単で今までと比較して快適と感じられることが多かったからです。
例えば私は「文字がはっきり見える」という快適さがあったため眼鏡を付ける行動が強化されていきました。
現在、感染者数は減ったとはいえまだコロナの渦中ですのでマスクをして眼鏡をすると眼鏡が曇ります。
そのため使用する前「曇り止め」をつけなければいけない(使用する日は毎日つけなければいけない)ことは少し面倒くさいです。
しかしそのコストを払ってでも得たい快適さが眼鏡にはありました。
このように自分にとって装着することが利益(快適)だと思えることが一番大切だと思います。
これをABA自閉症療育で考えたとき同じようにお子様本人にとって装着することが快適であることが大切で、快適であれば眼鏡やイヤーマフを付ける行動が強化されていくはずです。
と、いうことは究極的には作った(もしくは買った商品で)時点で結果は決まっているとも言えるかもしれません。
例えば私の場合は上で書いたような道半分に自分が埋まったまま移動しているような感覚で道を歩くことになるレンズを選んでいた場合、ストレスがかかり眼鏡をかける行動は強化されなかった可能性も高いと思います。
1つ大切なポイントは「現在快適である」という強化されてきた眼鏡も最初は違和感があったということです。
例えばこの違和感は「最初からある程度快適(確かに見え方が良くなるななどの感覚はある)」ものの、つけ慣れていないために目が疲れる、などのデメリットを最初は受けました。
そのため快適ではあるものの、普段とは違うことからくるギャップによる違和感で、普通に何事にでもあることで、何事でもこのようなことには少し慣れるまで時間がかかり、多少のストレスを受けるということは普通だと思います。
自閉症のお子様は一貫した状況を好むという特性があると言われることがあるのですが(例えば参考 Robert L. Koegel・Amber A. Bharoocha・Courtney B. Ribnick・Ryan C. Ribnick・Mario O. Bucio・Rosy M. Fredeen・Lynn Kern Koegel, 2012)、
これは「繰り返し反復される行動や常同行動」や「こだわり」など、「変化に対する柔軟性の無さ」と関連するテーマなのですが、このような多少のストレスを受ける環境変化があった場合、
ストレスを感じたタイミングで非自閉症の方と比較して抵抗感が強く出る可能性もあると思いました。
そのため自閉症の場合、眼鏡やイヤーマフといった装着具がお子様本人に合っているかどうかについては以上の「変化に対する柔軟性の無さ」の期間も考慮して本人に合っているかどうかを観察する時間を取る方が無難なように思います。
言葉を扱うことができるお子様の場合は、例えば特定の刺激を見せ「眼鏡をかけたとき」と「眼鏡をかけていないとき」を比較させ「どっちが見えやすい?」と聞き、
かけたときの方が見えやすいと答えれば、「最初は慣れないから疲れると思うけど、かけていけば疲れなくなるからね」など伝えるなどで見通しを教えてあげることで納得につながり、安心するかもしれません。
例えば数週間、数ヶ月「全く快適ではない」と言われた場合は、一度器具の再調整も視野に入れても良いと思います。
やはり装着をしてマイナスな環境変化を生むということは微妙でしょう。
眼鏡やイヤーマフなどの装着具は生活を楽にすることが目的(視力矯正などの場合は別)になることが多いため、どのように体験しているかは重要です。
言葉を話すことに遅れのあるお子様の場合は装着することを促すことを繰り返しながら、その中でお子様の行動から観察していく必要があります。
眼鏡かけることを促すことを繰り返すこと中で「自発的に眼鏡をかける(イヤーマフを付ける)」ことがあるかどうかなど観察していきましょう。
このときお子様は「快適なので装着している」のか、「特定の場面でかけることを連続して促したため、こだわりとして特定の場面で眼鏡をかけることが定着してしまった」のか、正直なところ見極めが難しいと思います。
とはいえ「自発的に装着したかどうか」がポイントとなるはずです。
ですので「自発的に装着した」のちに動きに違和感がないかどうかを観察し、「快適」か「こだわり」かをアセスメントしていく必要があると思います。
周囲から何か言われるのではないかという不安
少し周囲の人からの評価が気になる年齢、言葉の発達があるお子様であれば恥ずかしさなどが関連し、人前で(今までつけていなかったのに)眼鏡をつけるということに抵抗感をお子様が抱く可能性はあるでしょう。
このような場合、本質的には「眼鏡をかけて人前に出たことがないからいろいろと想像し、どのような結果が返ってきたか体験していないため、どうなるかわからないので不安」、
言い回しは少し難しいですが上記のような状態です。
ですのでいかに実際に眼鏡をかけさせて周囲から評価される場面に出て「大丈夫だった」と感じてもらうことが大切でしょう。
ここについては「言葉で説明して納得してもらう」もしくは「大人が周りの人に説明をして安心してもらう」という方法をとることになると思います。
実際に眼鏡をかけて周囲の評価を受けたときに不安に感じている出来事が生じる可能性はあまり高くありません。
それくらい眼鏡がメジャーなアイテムで、あまり珍しいものではないからです(イヤーマフの場合は別かもしれません)。
周りの人から「似合っているよ」というポジティブな評価を多く受け「眼鏡素敵!つけたい!!」という「見える」という環境変化以外の社会的に受容されるという変化まであれば、眼鏡をつけて欲しいときには最高ですが(つけさせたい場合大人はそれを行った方が良いと思います)、
不安というのは基本的にはネガティブなことが生じるだろうという予測に対して感じるものなので、
「思ったよりもネガティブなことは起こらなかった」という結果を体験するだけでほとんどが解決します。
もし眼鏡をつけたことでからかわれるなどの事態に遭遇してしまったら不運ですが、ケアが必要になるかもしれません。
もし眼鏡をつけて登園、登校していたお子様がある日「私は眼鏡が嫌い、つけたくない」など言い出したときはこのような可能性もあるため、理由を聞いてあげてください。
※ 頭ごなしに「つけなさい」というのは得策ではないでしょう
このとき理由を言っても親御様はきっと受け入れてくれないだろうし、理由をいうと起こられるかもしれないし、理由を言いたくない、という親子関係になっていないかどうかが肝です。
このような「からかい」や「仲間はずれ」といった本人にとって意味のあるリスクに直面したときのセーフティネットに親がなれるかどうか?ということは、普段の関わりの中で形成される関係性が大きいでしょう。
頭ごなしに否定する、怒るということを親側も衝動的に行わず普段からお子様の気持ちや意図を聞き取ることに努力する方が良いと思います。
さいごに
本ブログページでは装着具、眼鏡やイヤーマフについて私自身が今年眼鏡を購入したことから思いついて書いてきました。
30代半ばにもなれば目が悪くなるのだなとか、体力減ってきたな(階段しんど)とか、肉体的な変化を感じるようになって嫌になることもありますが、
このような変化があったからこそ、「眼鏡」の素晴らしさに気づいた30代半ば!
眼鏡ありがとう!周りから似合っているって言われるし、ビジュアル的にも満足しているよ(笑)
菅原 ますみ (2005) を参考にすれば、「発達」と言われると若い年齢の人を想像するかもしれませんが、加齢に伴って生じる変化も発達研究として研究がされています。
生まれてから死んでいくまでの変化を1つの発達と捉えるということです。
一般的にこのような視力の低下などの変化は老化と言われ戸惑い、ネガティブに考えられる事象かもしれません。
では大人になってからこのような肉体の変化を感じるようになったのかといえば、私は実は若いうちから自身の肉体変化に戸惑った時期があったと思っています。
例えば私は中学生の頃親に怒られてムカついて家の壁を蹴ったことがありました。
このとき寝床に戻ってから蹴ったので親は見ていませんでしたが、部屋の壁が破けて焦ったことを覚えています。
「え?」と思ったのですが、私も意識しないうちに肉体が成長し、力が上がっていたのですね。
このような自身の認識と肉体の変化とのギャップに戸惑う時期というのは、子どもの頃も大人になってからもあるのでしょう。
現在30代半ばですが、これから40代、50代と時間が進む中でそれをこれからも感じていくのでしょう。
本ブログページでは眼鏡、イヤーマフということを主に扱ってきましたが座り方の矯正椅子などでも同じような現象が生じるように思います。
「快適であること」が大切で、そしてそれはどのようにアセスメントし、フィットしているかどうかを確認していくかについて、本ブログページが参考になれば幸いです。
【参考文献】
・ 菅原 ますみ (2005) 横断的研究【中島 義明・繁桝 算男・箱田 裕司 (2005) 新・心理学の基礎知識 Psychology:Basic Facts and Concepts 有斐閣ブックス p360-361】
・ Robert L. Koegel・Amber A. Bharoocha・Courtney B. Ribnick・Ryan C. Ribnick・Mario O. Bucio・Rosy M. Fredeen・Lynn Kern Koegel (2012) Using Individualized Reinforcers and Hierarchical Exposure to Increase Food Flexibility in Children with Autism Spectrum Disorders. Journal of Autism and Developmental Disorders. 42(8): 1574–1581