(ABA自閉症療育の基礎83)ABA自閉症療育で言葉・発語を教えるのに最適!マンドトレーニング

以前、言葉を出すことをどうやって教えて行くか?というブログページ、

「(ABA自閉症療育の基礎74)ABA自閉症療育で無発語・言葉の少ないお子さんの発語を出現させる、量を増やす(https://en-tomo.com/2021/01/22/first-speaking-technique/)」


(ABA自閉症療育の基礎74)ABA自閉症療育で無発語・言葉の少ないお子さんの発語を出現させる、量を増やすのサムネイル

について書いたときにちょっと出てきた「マンドトレーニング」。


このブログページでは言葉が少ない、または無発語のお子さんの言葉を出すためのテクニックを3つご紹介しまいた。


その3つは

・ 音声模倣

・ 表出課題

・ マンドトレーニング


Enせんせい

だったのですが私はこの3つの中で1番マンドトレーニングが得意で実際やりやすいと感じています


またマンドトレーニングはどのような発達段階のお子さんでも行うことができることも魅力の1つです。

そのためこのブログページではマンドトレーニングについて少し詳しく解説をしていきましょう!


Enせんせい

マンドトレーニングはABA自閉症療育でめっちゃ使えます!


このブログページでトレーニング対象とされる「マンド(mand)」とは、

小野 浩一 (2005)によれば遮断化、嫌悪刺激の存在などの確立操作によって自発される、他者に対して特定の行動を要求する言語行動です。

小野 浩一 (2005)の述べている「遮断化、嫌悪刺激の存在などの確立操作」については「(ABA自閉症療育の基礎48)オペラント条件付けー確立操作「遮断化」「飽和化」「嫌悪化」(https://en-tomo.com/2020/10/19/establishing-operation-type2/)」でまとめています。



マンドトレーニングとは何か?

マンドトレーニングとは「マンド」という「要求言語行動を教えるトレーニング」です。


「要求言語とは?」

・ 例えば欲しいものがあったときに「貸して」と言葉で言う

・ 例えば欲しいものがあったときに「欲しいアイテムのカード」を渡して伝える

・ 例えば欲しいものがあったときに「ジェスチャー」で表現して伝える

例えば、以上のような行動です。


例えばこういうような!

上のイラストは言葉で発声をして「貸して」と言っていますが、

自閉症のお子さんは言葉の遅れがありますがマンドトレーニングは「発声が伴わなくてもできる」トレーニングであることは知っておきましょう。


また以下文中に「マンド」という言葉が出てきたときは「要求」と読み替えて読んでください。


マンドトレーニングがやりやすい理由は、マンドが出現するタイミングは、既にお子さんが動機付けいているタイミングですので、そのマンドを叶えることが強化子となるからです。

そのためマンドトレーニングは行動に伴う強化子を非常に自然なものに設定できるため、個人的な体感としては学習スピードが早いトレーニングであると言えます。

例えば以下のイラストのような「これ何?」と親御様側が聞いて名前を答えさせるような課題はマンドトレーニングではありません。


このようなトレーニングはマンドトレーニングではありません

以上のような課題で例えば、お子さんが課題に答えた後にお母様から賞賛などの社会的強化子やお菓子やYoutubeが見れる媒体など物理的な強化子が提示されたとします。

お子さんは「社会的な強化子」や「物理的な強化子」をもらうために上のイラストで言えば「りんご」と答えるパフォーマンスを発揮するのですが、

りんごのカードをみて「りんご」と答え、結果として特に「お菓子やYoutube」などの物理的な強化子が伴うことはあまり自然ではありません。


自然な強化子が伴うことの大切さは「(ABA自閉症療育の基礎81)PRTを含むNBIで強調される自然で直接的な強化子を意識してABA自閉症療育を実践する(https://en-tomo.com/2021/03/05/contingent-reinforcement/)」で記載してきました。


(ABA自閉症療育の基礎81)PRTを含むNBIで強調される自然で直接的な強化子を意識してABA自閉症療育を実践するのサムネイル

上でご紹介した自然で直接的な強化子をご紹介したブログページでは、


・ 社会的強化子は自然で直接的な強化子となることが多いが、自閉症児の人への興味関心に影響を与えるため

・ 自然で直接的な結果によって行動を教えると般化しやすいから


の2点を自然で直接的な強化子をABA自閉症療育で使用するメリットとして記載しました。


マンドトレーニングは自然で直接的な強化子を使用する設定を作ることが非常に簡単なのですが、もし自然で直接的な強化子を設定できなかった場合は?


できることへのモチベーションを上げてから療育課題をスタートする

あまり自然ではない強化子を使用する場合は、得にお子さんの課題への動機付けが載っていない場合は、上のイラストのような設定を組んでから課題を行うことも少なくないでしょう。

上のイラストのようにアイテムができるという見通しを強化子にするだけでなく、「お勉強ができたら休憩にしよう」と勉強後の自由時間を強化子として使用することもあります。


このような設定が悪いか?と言えばそんなことはなくて、

「別に、例えば大人だって動機付けが上がらないけれど、お給料が入ってくるから、働いている人もいるじゃないか!」

とか思うかもしれませんね?


Enせんせい

そう!それは、その通り

だから私もこのような自然で直接的な強化子を使用しない場面で療育を行わないことが悪いと言っているわけではありません

私もこのような設定でも療育をします


だから上のような設定、「できたらこれをあげよう」という設定がダメだと言っているわけではなく、そういった設定も必要になってくるのですが、

マンドトレーニングでは本人がすでに動機付けいている強化子を取りに行くための適切な行動を教えるため、

自然で直接的な強化子の(本人が欲しいものをGETする)設定で練習することが比較的簡単であるという点が、マンドトレーニングが療育でやりやすいトレーニングです。

マンドトレーニングは取り組みやすい療育なんだということを知っておいてください。


このブログのページをいろいろと見たことがある人はピンときたかもしれませんが、

マンドトレーニングはABA自閉症療育の中では特に「NBI(Naturalistic Behavioral Interventions:自然主義的行動療法)」の文脈で取り入れられていることが多いでしょう。

例えばHeather K Jennett・Sandra L Harris・Lara Delmolino (2008)はマンドトレーニングと「DTT(離散型試行訓練:discrete trial teaching)」を比較した研究を行っています。

以下このHeather K Jennett他 (2008) の研究を参考にマンドトレーニングについて学んでいきましょう。



マンドトレーニングは例えばどういうことをするのか?

Heather K Jennett他 (2008) の研究は6人の自閉症児のお子さんを対象として、DTTとマンドトレーニングを比較した研究内容です。

Heather K Jennett他 (2008) の研究結果では、

マンドトレーニングの方がDTTよりも


・ 自立的に要求を行うようになった

・ 要求をより早く獲得した

・ マンドトレーニングを受けた方が、トレーニング中に反抗的な行動が少なかった


ことが示され全体的に見てマンドトレーニングは自閉症の子どもに要求をすることを教えるためのより効率的な方法であると述べられました。


Heather K Jennett他 (2008) の研究はDTTと比較している部分もすごく魅力的なのですが、

このブログページではマンドトレーニングとDTTの比較というよりは、主にHeather K Jennett他 (2008) の研究からマンドトレーニングの方法を見ていこうと思います。



Heather K Jennett他 (2008) で行ったマンドトレーニング

Heather K Jennett他 (2008) の研究ではどのようにマンドトレーニングが行われたのでしょうか?

以下詳しく見ていきましょう。


Heather K Jennett・Sandra L Harris・Lara Delmolino (2008)


研究で準備されたもの・設定

Heather K Jennett他 (2008) の研究にはそれぞれ3歳から5歳までの6名の自閉症児のお子さんが参加しました。

研究では2つで1つの機能を持つアイテムが12セット用意されました。

2つで1つの機能を持つアイテムとは例えば、


・ ミット と ボール

・ コンピューター と ゲーム

・ ジュース と ストロー

・ 紙 と クレヨン

・ カセットテープ と テープレコーダー


のようなものでした。

以上のようなアイテムは2つで1つの機能を持つアイテムですね。


以上の2つのうちの1つのみ(例えばボールとミットであればミットだけ)がセラピーを行う部屋に設置されました。

子どもは部屋を自由に歩き回ることができて、設置されたアイテムを自由に触ることができました。



研究の介入手続き

介入では例えばお子さんがアイテムに興味を持ったとき、療育者が「クレヨンが欲しい」とモデルのプロンプトを見せました。


このように療育者がモデルを出します

子どもが同じような行動を示したとき、褒め言葉と同時に30秒間ペアのアイテムで遊ぶことができました。

基本的にはこれだけ!!

(ちゃんとデータを取って上手く行っているかどうか、などの追跡も研究では行なっていますけど・・・、基本的な介入方法はこれ)


上手くモデルのプロンプトに反応できなかったときは?


子どもがモデル通りに行動できなかったり、5秒間反応がなかった場合でもまだアイテムに興味を示していた場合は再度、モデルのプロンプトが提示されました。

子どもがアイテムに興味を示している間は5秒−10秒毎にモデルのプロンプトを提示するという手続きが繰り返されました。

子どもが片方のアイテムだけで遊んでいて、もう片方のペアのアイテムに興味を示さなかった場合は15秒後アイテムを元の場所に戻すのですが、お子さんがまた同じアイテムで2分間同じように遊ぶことが確認された場合はそのペアのアイテムを部屋から除外し、次の日に戻しました。


以上のトレーニングを行うことで6名の自閉症児のうち5名の自閉症児が自発的なマンドを獲得していきました。

残り1名のお子さんはモデルのプロンプトがあればモデルに沿ってマンドを行うことができたのですが、モデルがない状況での自発的なマンドについては行うことができませんでした。


以上がHeather K Jennett他 (2008) の研究で行われたマンドトレーニングの概要です。


Enせんせい

Heather K Jennett他 (2008) の研究で1名、言葉での自発的なマンドが叶わなかったお子さんがいました

Heather K Jennett他 (2008) の研究では行われませんでしたが、

例えば「ジェスチャ」や「絵カード」を使用しマンドトレーニングを行っていれば、自発的なマンドを獲得できた可能性はあると私は思っています



生活の中でマンドトレーニングを教える

以上で紹介をしてきたHeather K Jennett他 (2008) の研究からマンドトレーニングのエッセンスを学ぶとすれば?

大切なことはマンドトレーニングとは、

子どもが興味を持ったアイテムを使って、要求する機会を作ってトレーニングする

という療育支援ということです。


Heather K Jennett他 (2008) の研究でもたくさんのアイテムこそ用意されているものの、子どもが興味を持ったものに対して要求する練習をしています。

Heather K Jennett他 (2008) は研究ですのである程度統制する必要があり、アイテムも全部の子どもに対して同じの設定で行っていました。


またHeather K Jennett他 (2008) の研究ではペアのアイテムをマンドさせるアイテムとして使用していましたが、

ペアのアイテムを用意することはあまり重要ではなく、お子さんが興味を持ちそうなものを用意できることが大切なことだと思います。


Enせんせい

これを日常のABA療育介入で運用しようとすればどのように行えば良いでしょうか?


ぼーっとで良いので、子どもが自由に動ける時間、観察をしてみてください。

だいたいフリーの時間に子どもが家にあるどんなおもちゃに興味を持って自発的に活動しているかが見えてきます。

それを可能であれば、書き留めておくとなお良いでしょう。


お母様

「アイパッドめっちゃ触っているやん」、「トランポリン結構乗っていたのね」、「ベットで寝転ぶの好きだな」、「ガラガラしたおもちゃずっと持っているな」、「パズル好きだったのね」


など子どもが興味を持ったアイテムがマンドトレーニングに利用できるアイテムです。

必要であれば少しおもちゃを買い足して環境を豊かにしても良いでしょう。

ここまでできたらマンドトレーニング可能です。


マンドトレーニングでは子どもが目的のおもちゃに行く前に先回りします。


子どもが興味を持ったものでマンドトレーニングを行うために、手に入る前に先回り!

以上のイラストのように先回りをしたら、モデルを見せてからトランポリンを飛ぶと言うように促します。

モデルを見て「トランポリン 飛びたい」とお子様が言えたらトランポリンを飛ばせてあげましょう(トランポリンを飛ぶことが強化子になる)。


Heather K Jennett他 (2008) の研究では1回のマンドに対して30秒間トランポリンに飛んだらまたマンドが出るまでトランポリンから離していましたが、

集中的にマンドトレーニングに取り組みたいのならばこのような練習機会が多い設定を手続きにすることは有効でしょう。

Heather K Jennett他 (2008) の研究では1週間に8−10回、1セッション20分間で組まれていますので、この研究を参考にマンドトレーニングの療育時間を毎週設定しても良いかもしれません。


Enせんせい

ある程度の期間、少しの時間でも良いので続けることは大切です


また特定の時間を決めないとするならば、

例えば今週は「牛乳」だけはマンドをしてから渡すというように「特定のもの」に対してマンドトレーニングの設定を組むことも良いでしょう

(お子さんがある程度高頻度で求めてくる強化子に限る)


どちらにせよ教える期間・時間を決めて、ある程度一貫性を持って実施することが大切ですね



生活の中でマンドトレーニングを教える・注意点

生活の中でマンドトレーニングを行う際の注意点を記載していきます。

マンドトレーニングはHeather K Jennett他 (2008) の研究のように、

いろいろなものを部屋に配置してマンドを引き出す設定で行う場合もあるし、日常の中にある機会を利用して行なっていく場合もあるでしょう。

ちなみに私がよく行うのは後者なのですが、以下の注意点はこのどちらであっても注意して欲しい内容です。



マンドトレーニング・般化のコツ

上の日常で行うマンドトレーニングの解説では「トランポリン」を例に解説しました。

「トランポリン」の場合、部屋に常設してある可能性があり、普段はわざわざお母様に「トランポリン 飛びたい」と言わなくともトランポリンを飛ぶことが可能である場合が多いでしょう。

トレーニング場面ではトランポリンを飛ぼうとすると、お母様が割り込んでくるため、マンドスキルを使用してトランポリンを飛んでいるのですが、

普段はトランポリンが常設してあるためにマンドスキルを使用しなくてもトランポリンが飛べる、となれば日常の中で教えたマンドスキルが使用されない可能性があります。


このようなことを危惧するのであれば、例えば「スマホ 貸して」や「クッキー 食べたい」など、親側が管理できるアイテムでマンドトレーニングを行っていくことが1つのコツとなるでしょう。



マンドトレーニング・今の子どもの興味に寄り添う

マンドトレーニングは「今、子どもが興味を持っている」ものに行うことで効果が発揮されます。

そのためマンドトレーニングを行っている途中に、子どもが既にマンドしていたアイテムに興味を失っている場合はそのアイテムを使用したマンドトレーニングの実施は辞めましょう。

このことは徹底して欲しいのですが、理由は、子どもが欲しくないアイテムについて強めにプロンプトを出して今の気持ちに沿わない形でマンドトレーニングを続けてしまうと、場面に沿わない言葉の使用を教えることとなり、言葉の誤学習につながってしまうかもしれません。


お子さんの興味に気がついてトレーニングを開始することが大切です


マンドトレーニング・汎用性のある言葉を教えるのも良い

上の例では「トランポリン 飛びたい」とマンドすることをマンドトレーニングしていますが、もっと汎用性のある言葉を子どもに教えることも良いでしょう。

特にまだいろいろな語彙を獲得しておらず、且つ言葉の扱いもあまり発達していないお子さんの場合にこのことが言えます。


例で出した「(名詞:例ではトランポリン)+(動詞:例では飛びたい)」の2語文ではなく例えば、


・ 親御様と一緒にやる活動(抱っこやくすぐりなど)であれば「やる」

・ 親御様に手伝ってもらう活動(箱を開けておもちゃを出す、画面ロックを外すなど)なら「やって」

・ アイテムが欲しいときは「かして」


など、動詞の部分のみで且つどんな名詞が前に来ても通用しそうなワードを選択してマンドトレーニングします。


Enせんせい

このように教えてしまうと今後もう2語文で話さなくなるかもしれないとたまに不安になられる親御様もいるのですが、

そんなことはないのでこのレベルからマンドトレーニングを始めることもお勧めです


またマンドが出るか出ないかが重要ですので、言葉が不明瞭でも気にしないでください。

例えば「やる」が「あう」や「う」だけでも大丈夫です。

言葉の明瞭性はマンドが確立してから上げていけば良いでしょう。

基本は楽しく成功できることです!



マンドトレーニング・言葉を出すのが難しい場合

もしマンドトレーニングで「やる」、「やって」、「かして」などの言葉を不明瞭でも出すことが難しい、もしくはプロンプトが抜けずどうしても自発的なマンドの出現がない(ただし1日とかでは判断しない)、

このように言葉の表出によってマンドトレーニングが難しい場合は「ジェスチャー」や「絵カード」を使用してマンドトレーニングしましょう。


例えば絵カードならPECSとか、色々な方法がある!

ジェスチャーで教える場合は例えば「マカトンサイン」などを参考にジェスチャーを教えても良いでしょう。

マカトンサインはGoogleで検索すればどのようなものがあるか出てきます。


ジェスチャーの場合、教える際に言葉でのプロンプトは難しいですのでモデルもしくは身体誘導のプロンプトを用いて教えることとなるでしょう。

絵カードや写真を使って教える場合も同じでモデルもしくは身体誘導のプロンプトを用いて教えることが多いです。

絵カードや写真を使って教える場合は「PECS:Picture Exchange Communication System(ペクス:絵カード交換式コミュニケーションシステム)」などから、どのようなイラストや写真を使用するのか参考にしてみてください。


「ジェスチャー」や「絵カード」を使用してマンドトレーニングする場合も、ここまで示してきた言葉でマンドさせるマンドトレーニングと基本的には手続きは同じとなります。



マンドトレーニング・消去バーストの可能性も考える

お子様からの状況を見れば今まではマンドトレーニングなどしなくても強化子が手に入っていました。

お子さんから見るとすぐに強化子が手に入らない(マンドトレーニングの時間を挟む)ため、このことが消去手続きとして働き、消去バーストが生じてしまう可能性があります。


消去バーストについては、

「(ABA自閉症療育の基礎77)問題行動が発展し悪化するプロセスー消去バーストとシェイピング(https://en-tomo.com/2021/02/11/aba-problem-behavior/)」

で解説をしました。


(ABA自閉症療育の基礎77)問題行動が発展し悪化するプロセスー消去バーストとシェイピングのサムネイル

簡単に言えば、消去バーストを起こせばお子さんは泣く・叩いてくる・物を投げるなどかなり強く抵抗してくることも予測されます。

ここでお子さんが強く抵抗したからといって、そこでアイテムを貸してしまうと「悪い方向」に行動を強化してしまうかもしれません。

そのためもしマンドトレーニングで消去バーストを防ぐのならば、最初から少しプロンプトを多めにしておいて、お子さんの負荷をそこまで上げないことが重要です。


お子さんが消去バーストを行なってしまった場合は一旦、かなり簡単な、「肩を叩く(身体プロンプト付きでOK)」など何かしらの行動をお子さんにしてもらい、アイテムを貸してしまう。

これはお子さんが強い抵抗をしたからおもちゃが借りれたという学習を防ぐことができるかもしれない(絶対にできるとは言えない)、弱い法方ですがやらないよりはマシ、という方法です。

ですからその後は消去バーストが起こらないように、プロンプトレベルを調整して次回のマンドトレーニングから調整して行くという姿勢で取り組んでいきましょう。

また一応消去バーストが生じてしまい手がつけられなくなったときのために、怪我をしないように安全上の配慮をしておくことも大切です。



マンドトレーニングに確立操作の要素を加える

ブログページの上の方で記載していますが、

小野 浩一 (2005)がマンドについて遮断化、嫌悪刺激の存在などの確立操作によって自発される、他者に対して特定の行動を要求する言語行動と述べたことを思い出してください。


オペラント条件付けのユニットで言えば、確立操作は赤丸のところ

太文字の確立操作は上のイラストの「A:Antecedent」に位置する「強化子の効力」を操作するものなのですが、

確立操作の代表例「飽和化」と「遮断化」について簡単に紹介します。


・ 飽和化:強化子に多く触れ続けると飽和化が生じる(強化子に飽きてしまう)

・ 遮断化:強化子に触れない時間が長いと遮断化が生じる(強化子の価値が上がり、強化子を強く求める)


マンドトレーニングを効率よく行うのであれば、

飽和化が生じないようにあらかじめ強化子を制限しておき、制限を少し長めにかけ遮断化が生じているときにマンドトレーニングを行う

ことが良いでしょう。


簡単に言えば、

ずっとフリーな時間にiPadでYoutubeが見られる環境で過ごしているにもかかわらず、いざトレーニングですよと、トレーニングの時間だけマンドを行うとYoutubeが見られるという設定を開始しても、トレーニング時間までに既にYoutubeに対して飽き(飽和化)が生じている可能性があり、効率的にトレーニングできないかもしれません。

逆に、普段はフリーでYoutubeを見ていたとしてもトレーニングの2時間前からはiPadを隠しておいてYoutubeが見れない(遮断化)という状況を作っておいて、トレーニングの時間だけマンドを行うとYoutubeが見られるという設定を開始すると効率良くトレーニングできる可能性があります。

このように確立操作の要素を組み込んでマンドトレーニングを行うことは、より効果的なマンドトレーニングの時間となるでしょう。


Heather K Jennett他 (2008) の研究で1回のマンドに対してたった30秒しかアイテムを渡さなかったことも飽和化を防ぎ、遮断化を促進することを意図した手続きだったのだと思います。



テクニック:1チャンスに何度もマンドさせる

Enせんせい

最後に私がよく使うテクニックもご紹介させてください


1回のマンド機会の中で2回−3回マンドさせる機会を作り、その中でプロンプトフェイディングを行なっていきます。


文字にすると例えば以下の形です。

私「貸して(音声プロンプト)」 → 子「貸して」


Enせんせい

と、本来であればこの1回のやりとりで貸して欲しいアイテムをお子様に渡しても良いのですが・・・、、、、


(p0) 私「・・・」アイテムを見せて、子どもが自発的に「貸して」と言ってこないか観察する → 子どもは「貸して」と言って来ず、無言で手を伸ばしてアイテムを取ろうとする

↑最初にこれを確認し、以下マンドトレーニングスタート


1回目

(P1) 私「貸して(音声プロンプト)」 → 子「貸して」

(R1) 私「そう!貸してだね、上手いよ!もう一回!」(まだ貸さない)


2回目

(P2) 私「貸・・・?」 → 子「貸して」

(R2) 私「貸して上手い!」(まだ貸さない)


3回目

(P3) 私「ん・・・?」 → 子「貸して」

(R3) 私「はい!」と言って貸して欲しいアイテムを渡す(貸す)


青字の(P)ところがプロンプトとプロンプトに対しての子どもの反応、

赤字の(R)ところがお子さんの1回の「貸して」に対しての強化子(賞賛含む)


以上の例では1回アイテムを貸すまでに3回子どもに「貸して」と言ってもらい、1回目から3回目の間でプロンプトフェイディングを行なっています。

基本線としては素早く1回目のマンドから3回目のマンドが終了しお子さんに目的物を貸すまでをできれば15秒以内くらいにまとめられると良いでしょう。

しかし時間がかかっても良いので待つ、というのも1つの強力なプロンプトフェイディングの方法となりますので、このへんはお子さんに合わせて方法を調整して行くこととなります。

お子さんによって合う、合わないがあるため、実際にやって行く中で調整をして見てください。


こういった細かいテクニックもマンドトレーニングでは大切で使えます!

もし(p0)で私が黙っているタイミングで子どもから「貸して」と狙っているマンドがあったときにはすぐに貸してあげる。この場合は1回の機会に2回−3回のマンド機会を行う必要はないでしょう。

安定して狙ったマンドが出現するようになってくれば、貸してもらうまでの会話のターン数を増やす、語文数を上げてマンドさせるなど課題をレベルアップしていけば良いです。


上記のような1回の機会で2回ー3回のマンドを引き出すテクニックを使用した方がプロンプトフェイディングがし易く、私は特に良く行います。

少しテクニカルですが、もし興味があれば是非やってみてください。



さいごに

このブログページではマンドトレーニングについて解説を行ってきました。

このブログページで解説を行なった内容は、


・ マンドトレーニングとは何か?

→ マンドトレーニングとは「マンド」という「要求言語行動を教えるトレーニング」でしたね。

・ マンドトレーニングは例えばどういうことをするのか?

→ ブログページではHeather K Jennett他 (2008) の研究を参考にマンドトレーニングについて見てきました。

・ 生活の中でマンドトレーニングを教える

→ マンドトレーニングを行う際の注意点として「般化のコツ」、「今の子どもの興味に寄り添う」、「汎用性のある言葉を教える」、「言葉を教えるのが難しい場合」、「マンドトレーニング・消去バーストの可能性も考える」について解説しました。

・ マンドトレーニングに確立操作の要素を加える

→ では確立操作、特に代表的な「飽和化」と「遮断化」についてマンドトレーニングとの絡みを見ていきました。

・ テクニック:1チャンスに何度もマンドさせる

→ では特に私がよく使うマンドトレーニングの際のテクニックをご紹介しました。


以上、

・ マンドトレーニングとは何か?

・ マンドトレーニングは例えばどういうことをするのか?

・ 生活の中でマンドトレーニングを教える

・ マンドトレーニングに確立操作の要素を加える

・ テクニック:1チャンスに何度もマンドさせる


長かったですが、最後まで読んでくださってありがとうございました!

次のページではマンドトレーニングに近い指導法として「機会利用型指導法」というものをご紹介します。

「機会利用型指導法」についても知っておくことで日常に療育を取り入れるヒントとなるでしょう。


長かったですが最後まで見てくださってありがとうございました!


【参考文献】

・ Heather K Jennett・Sandra L Harris・Lara Delmolino (2008) Discrete Trial Instruction vs. Mand Training for Teaching Children With Autism to Make Requests. The Analysis of Verbal Behavior. 24, 69–85

・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館