ABA:応用行動分析コラム11は療育とは違いますがABAで硬式野球部の高校生を対象にスローイングを上達させたABAの研究をご紹介します。
私も高校球児でしたので
この研究からABAがスポーツなどのいろいろな分野に使えるということをご紹介することも知って欲しいですが、
私が知って欲しいのはこの研究で使用している介入方法もABA自閉症療育に応用することができる方法でしたので、本研究をご紹介しながらどういったところがABA自閉症療育にも応用できそうか?
という点についても書いていきましょう。
今回ブログの題材とする研究は安生 祐治・山本 淳一 (1991) の「硬式野球におけるスローイング技術の改善ー行動的コーチングの効果の分析ー」という研究です。
研究概要
研究に参加したのは硬式野球部に所属する高校生4名、それぞれ16歳、16 歳、17歳、16歳の男の子でした。
ポジションはそれぞれファースト、サード、キャッチャー、セカンドです。
平均練習時間は平日平均5時間、休日は平均7時間、野球部の部員数は10名で、試合成績は直近3ヶ月の中で3勝16敗という成績でした。
選手が練習するスローイングは距離27.4メートル(塁間距離)、スローイングはゾーンが決められ、以下のイラストのようなゾーンが設定されました。
Aゾーン:人間の肩のあたりを想定し、取りやすいスローイング
Bゾーン:人間がジャンプしたり腕を伸ばすことで捕球可能なゾーン
Cゾーン:捕球困難なゾーン
どうやってスローイングを教えたの?
研究ではスローイングの技術を課題分析しどういった要素がスローイングの上達に必要かを分析しています。
課題分析は以下の10個に分けられました。
1:右ひざを曲げ、腰の位置を低くする
2:後頭部に右手(ボール)を一直線に持って行く、後ろを大きくしない
3:左ひざを曲げた状態で投球方向に踏み出す
4:リリースの直前、右手首は後方に沿っている
5:ボールリリース位置は自分の頭の上方で行う、頭の後方では行わない、右肘は肩の線よりも上
6:リリース後、右手首を前方に屈曲する、人差し指と中指でボールを押す
7:右腕を前方にまっすぐ伸ばす、右肩が前方に向かっている
8:振り下ろした右手を左脚に、もしくはやや左側に振り下ろす
9:左脚をやや曲げたままで、体重をその左脚に乗せる
10:目標を見続けている
ボールを投げるという、スローイングの動作をすごく細かく分けると以上のような多くの要素に分解できます!
このように行動を細かいステップに分解することは「課題分析」と呼ばれるのですが、
ABA自閉症療育でもすごく使えます!
スローイングを以上の構成要素に分解しリストを選手に配布しました。
その後、選手がCゾーンにボールを投げてしまったときは罰として腕立て20回が課されました。
そしてコーチから見て方法が間違っていると見える課題分析の部分をコーチがモデルを見せる、言葉で教えることで指導しました。
(リストを使用して投げ方の方法が間違っていないかどうか指導する)
指摘後にコーチが「わかった?」と聞くのですが、もし選手がわからないと言ったときはもう一度指導を行いました。
また正しくできたときにはコーチは選手を賞賛しました。
↑↑↑上の緑色の下線部のところが介入・支援方法です。
細かく課題分析した要素の中で上手くできないところに焦点を当てて教えて行く!
これはABA自閉症療育にも応用できます!
研究の結果は?
以上の手続きで練習を行なっていくことで4人の選手のスローイング技術は変化していきました。
具体的には上で示された課題分析についての達成率が最初は0パーセントの選手も介入が始まったあとは課題分析にそった正しいフォームでスローイングができるようになりました。
しかし残念ながら
Aゾーン:人間の肩のあたりを想定し、取りやすいスローイング
Bゾーン:人間がジャンプしたり腕を伸ばすことで捕球可能なゾーン
Cゾーン:捕球困難なゾーン
においてCゾーンに投げることが減り、Aゾーン、Bゾーンに投げられる確率が上昇するという結果まではついてきませんでした。
そしてさらに研究を続けた
著者らはさらに研究を進めました。
先ほどの支援を一部修正、そして新しい支援も導入しました。
具体的には、
修正点:課題分析に足の踏み出す長さ、右ひざの曲げの角度を加える
新しい支援:選手に目標をよく見るように教示、プロンプトを入れる
ことを行いました。
そのほかは以前と同じです。
このように最初の支援が上手くいかなかったとき、方法を修正してまた目的に向かう!
この姿勢もABA自閉症療育に応用できます!!
いわゆる、ケースフォーミュレーションという方法です!!!
研究を続けて行く過程で2名は野球部を辞めてしまっていたため残った2名に対して追加の研究が行われました。
これらの支援を続けることで、
2名については新しい介入を加えることで1人はAゾーンにボールが命中する確率が倍ほどになり、もう1名についても60パーセントほどAゾーンに対してのボールが命中する確率が向上しました。
スローイングが上手くなって良かったですね
研究結果からABA自閉症療育への応用
この研究は硬式野球部に所属する高校生に野球のスローイングの技術向上を狙った介入を行った研究です。
これをABA自閉症療育に応用できるポイントはどういったことがあるでしょうか?
以下、見ていきましょうね!
スローイングという行動を細かく課題分析した
研究ではスローイングという投球動作について10の細かいステップに分けて分析を行いました。
1つの行動を分解して分析するテクニックを「課題分析」と言います。
課題分析については「(ABA自閉症療育の基礎60)オペラント条件付けー課題分析、行動のアセスメント方法(https://en-tomo.com/2020/11/21/aba-task-analysis/)」
でご紹介をしましたが、特に日常動作などを教えるときには必要となってくる技術です。
どういったレベルで課題分析ができるのか?
ということの参考にこの研究で行われている課題分析も知っていることはABA自閉症療育で課題分析を行う上でヒントとなるでしょう。
この研究ではスローイングの動作についてかなり細かく課題分析がかけられていましたね。
高校生に対しても褒めている
「できたら褒めてくださいね」ということを用事や小学生のお子さんに対して行う療育では良く聞かれるでしょう?
「相手が子どもだからね!」
というわけではなくこの研究でも示したように、
高校生といったもっと年齢の上の人を対象にした研究でも上手くできたときに褒める、ということが強化子として機能することが期待されます。
例えば舞田 竜宣・杉山 尚子 (2008)はABAを使って会社組織をマネジメントして行く書籍を出版していますが、この本を参考にすると相手が大人(社会人)であっても褒めることは大切(強化子として機能する)です。
また、自閉症療育でお子さんを褒めることに加えて、
一緒に療育を頑張っているパートナーのこともしっかりと褒めることも忘れないように!
「助かる!」「ありがとう!」とか、言葉に出していきましょう
上手くいかなかったら別の要素を後から入れる
ABCゾーンを使用してデータを取っていますが、途中に新しい支援方法を導入する前はAゾーンへの命中率が最初上がりませんでした。
そのために著者らは新しい支援方法を導入したのですが、このことはとても大切です。
「(ABA自閉症療育の基礎79)ABA自閉症療育データを取る理由とデータが今日から取れる方法:データシート付(https://en-tomo.com/2021/02/20/abadata-meaning-simplemethod/)」
で「ABA自閉症療育でデータを取らないと上手く行っていないときに気がつけない、これはリスクだ」という内容を書いたのですが、
本ブログページでご紹介した安生 祐治他 (1991) の研究でも、
スローイングのフォームが綺麗になって行った点だけに注目してしまうと追加の新しい支援方法が導入されることは無かったでしょう。
肝心の「スローイングで正しい方向にボールを投げれているかどうか」というところのデータをちゃんと集めていたから、スローイングのフォームが綺麗になって行ったにも関わらず、さらに追加で新しい支援方法を導入する必要性に気がつけたのです。
そして逆にスローイングのフォームが綺麗になっているかどうかのデータをちゃんと集めていたから、正しい方向にボールを投げるための次の介入法(今やっている介入法の変更点)を計画できました。
このことは非常に大切なことだと思います
さいごに
このブログページでは硬式野球部に所属する高校生にスローイングを教えるという内容の研究を紹介しました。
そして後半はABA自閉症療育にも応用できるポイントを書きました。
私自身も高校生のときに硬式野球部に所属したのですが、私はスローイングがめちゃくちゃ下手くそだったんですね。
外野手だったのですが、大人になってから「外野やってました」というと相手から「へー、じゃあ肩が強いんですね」と言っていただくことが多くあります。
でも私はスローイングが苦手だったので肩は弱いんですよ
ただ正しい投げ方について大人からちゃんと教えてもらったことはありませんでした。
だから肩を強くしようと腕立てをしたり、ひたすら遠投したり・・・、そうして努力をしてきたのですが、この研究を見たとき「高校生のときの俺に、これ教えてくれよ!」という気持ちになりました(笑)
正しい方向で、正しく努力する。
最近はTVやネットでもこの言葉は良く言われているような気がしますが、
分析をし、正しい方向を探りながら試行錯誤し、正しいかどうか確認しながら努力する
このようにしていきたいものです。
【参考文献】
・ 安生 祐治・山本 淳一 (1991) 硬式野球におけるスローイング技術の改善ー行動的コーチングの効果の分析ー 行動分析学研究 6 p3-22
・ 舞田 竜宣・杉山 尚子 (2008)行動分析学マネジメント 人と組織を変える方法論 日本経済新聞出版社