このブログページではABA自閉症療育でも使用される「スモールステップ(Small Step)」の指導法と「シェイピング(Shaping)」ついてご紹介します。
「シェイピング(Shaping)」は日本語で「行動形成」と翻訳されているものです。
「スモールステップ」や「シェイピング」を実践していくためには「課題分析」の知識がある方が正しい実施が可能になります。
そのため、
「(ABAの基礎60)オペラント条件付けー課題分析、アセスメント方法(https://en-tomo.com/2020/11/21/aba-task-analysis/)」
で紹介した「課題分析」の解説ページを是非ご覧ください。
※ このまま読み進んでもらっても大丈夫なようには書いていきます
ABA自閉症療育ースモールステップとシェイピングの指導法
課題分析をかけ行動を個々の構成要素に分けたのち、このブログページで書いていく「スモールステップ」の指導法によって行動を「シェイピング」していきます。
ABA自閉症療育ースモールステップ
Robert L. Koegel・Arnold Rincover・Andrew L. Egel (1982) はスモールステップは新しい行動を形成する際に用いると述べました。
Robert L. Koegel他 (1982) によればスモールステップは言葉の指導にも有効であるようです。
「スモールステップとは?」を理解するとき山上 敏子 (1998)が参考になるでしょう。
山上 敏子 (1998) は指導の進め方について2つのポイントを紹介しています。
1つ目は「子どものできる行動から出発する」ことです。
子どもに新しい行動や複雑な行動を教えるときには、「これなら自分にもできる」あるいは「できそうだ」と子どもにやる気を起こさせなければいけません。
そのためには、できるだけ連続して多くの成功の体験をすることが必要になると山上 敏子 (1998) は述べました。
O. Ivar Lovaas (2003) も理想的な指導環境のもとでは成功と失敗は4対1の割合になり、成功が失敗を凌駕することで子どもはずっと学習に参加するようになると述べています。
お子さんに成功体験を積ませるよう心がけることは指導のポイントでしょう。
山上 敏子 (1998) の述べた2つ目のポイントは「子どものペースに合わせて一歩ずつ」行うことです。
課題分析を行なって教えていく目標行動が明確になったとします。
1つのステップが上手くいったとき親御様は嬉しい気持ちになるかもしれませんが、次の課題をいきなり難しくしてはいけません。
山上 敏子 (1998) はお母さんの教室と銘打ち、ペアレントトレーニングを行なっているのですが「100歩の階段も1歩から」というスローガンを掲げているようです。
このような考え方が「スモールステップ」の指導だと思ってください。
ABA自閉症療育ーシェイピング
内山 喜久雄 (1988) は「シェイピング」について、一定の目標行動に至るまでの行動をスモールステップの形で設定し、順次これを遂行させて、最終的に目標行動を獲得させることと述べました。
例えば山上 敏子 (2007) はシェイピングの例として、
落ち着きのない子どもに授業時間は椅子に座って授業を受けてもらいたいとすると、最初は子どもが3分くらいの短い時間でも椅子に座るとすぐ、
例えばシールを貼るなどして強化(これが強化子になっていればのことであるが)する。
これによって椅子に座る回数が増えてくると、次には強化の対象を前よりももう少し長い時間としだんだんと強化対象を目標に近づけていく。
と述べています。
スモールステップを設定し、目標行動に近づけていくためにシェイピングを行なっていくことでお子さんに新しい行動を獲得させていく、このような考え方が「シャイピング」の指導だと思ってください。
スモールステップとシェイピングは「今はまだできない行動」を教えることができる方法です
スモールステップやシェイピングは?
スモールステップやシェイピングでは例えばいろいろな日常動作を教えていくことが可能です。
このように見ていくと、
「スモールステップ」とは課題分析した内容を一歩一歩飛ばさず、小さな階段を登っていくように無理のない、お子さんの「できた」を担保する療育姿勢のことと言えるでしょう。
「シェイピング」は「目的行動」に徐々に接近させていく技法を示します。
スモールステップとシェイピングの指導例ートイレでの排泄
宮下 照子・免田 賢 (2007) はトイレでの排泄を課題分析した表を紹介しています。
この表を参考に少し改変しスモールステップとシェイピングで排泄行動を教える手順を考えてみましょう。
トイレでの排泄を課題分析は以下のように行いました。
(1)トイレまで移動する
(2)ドアを開ける
(3)ズボン、パンツを下ろす
(4)便座に座り排泄する
(5)トイレットペーパーを取る
(6)トイレットペーパーで拭く
(7)水を流す
(8)ズボン、パンツを履く
以上のようにトイレでの排泄行動を分解し、課題分析が完成しました。
この時点で一度、現在お子さんがどこまで自立して出来ているのか?
を考えてみてください。
余談かもしれませんが、
トイレトレで悩んでいる多くの方は「(1)自立してトイレまで移動する」ということがまずできておらず、悩まれていることが多いように思います
ここの教え方もあるのですが、ここの教え方にフォーカスしてしまうとかなり長くなってしまうため、
このテーマについては別のブログページで今後ご紹介させてください
現在お子さんがどこまで自立して出来ているのかを振り返るってみたとき、
(4)便座に座り排泄する
までは出来ていることがわかったとしましょう。
この時点では親御様が自発的にお子さんのお尻を拭いてあげていたため、お子さんは排泄後はお母さんの顔をみてお尻を拭いてもらうのを待っているということが続いていました。
課題分析から次の目標行動は
(5)トイレットペーパーを取る
と分析していましたので「(5)トイレットペーパーを取る」ことが自立してできることが次の目標行動です。
言葉で「その紙を取って」と言う、指を指して促す、モデルを見せるなどを行いお子さんがトイレットペーパーを取る行動を促します。
このような「行動を促す支援」をプロンプトと呼ぶのですが「プロンプトとは?」については、
「(ABA自閉症療育の基礎42)オペラント条件付けー強化法とプロンプト(https://en-tomo.com/2020/09/27/reinforcement-prompt/)」
をご参照ください。
使用したプロンプトは徐々にフェイディングしていく必要があります。
参考「(ABA自閉症療育の基礎43)オペラント条件付けー強化子のリダクションとプロンプトフェイディング(https://en-tomo.com/2020/10/04/reduction-fading/)」
上のURLブログページ内ではShira Richman (2001) を参考に「身体的プロンプト」のフェイディングの例を書きましたが、
お子さんによって適切なプロンプトの種類、侵襲度(プロンプトの量や強度)が違いますのでオーダーメイドで行っていく必要があります。
「(ABA自閉症療育の基礎44)オペラント条件付けープロンプトのポイント(https://en-tomo.com/2020/10/07/prompt-point/)」で紹介した、
「プロンプト」はあくまで「適切な行動」を出現させる可能性を上げる手続きであることは忘れてはいけません。
そのため「プロンプト」は決して、強化とは違って今後も行動を出現させることを強める刺激ではないのです。
このことを意識し、
プロンプトをフェイディングしていくためにも「プロンプト」のもとで出現した適切な行動をしっかり強化し、行動を強めていくと言う姿勢を忘れないようにしましょう。
という内容は重要ですので「スモールステップ」と「シェイピング」を行っていく場合にも意識してください。
適切な行動を増やしていくことにプロンプトは重要ですが、その行動をしっかり強化することが最も重要です。
「プロンプト」、「強化法」、「プロンプトフェイディング」、「強化子のリダクション」を上手く組み合わせ、
「(5)トイレットペーパーを取る」
ことが自立してできるというターゲット行動を達成した他場合、
次は課題分析に従い
「(6)トイレットペーパーで拭く」を目標行動とし、同じように
「プロンプト」、「強化法」、「プロンプトフェイディング」、「強化子のリダクション」を上手く組み合わせて支援をしていきます。
「シェイピング」は「目的行動」に徐々に接近させていく技法ですので、
ここまで紹介してきましたがシェイピングしていくため方法として「プロンプト」、「強化法」、「プロンプトフェイディング」、「強化子のリダクション」を組み合わせて行っても構いません。
この組み合わせ以外のシェイピングのテクニックもブログページあとで記載しています。
このようなシェイピングを「スモールステップ」の姿勢で行なっていくのです。
どうしてもターゲット行動が達成できない場合
「課題分析」を行い、スモールステップの支援でシェイピングすべき直近のターゲットが明らかとなり、
「プロンプト」、「強化法」、「プロンプトフェイディング」、「強化子のリダクション」を上手く組み合わせて指導していったとしても、上手くいかないときはあります。
このブログページ既出の山上 敏子 (1998) の意見を参考にすれば、
あまり上手くいかない時期が続きすぎると親御さんも気持ちが重くなるでしょうし、お子さんも褒められる機会が少ないこともあり、やる気がなくなってしまうかもしれません。
これでは悪循環です。
ほんの僅かでも進んでいる感じがあればそのまま進めば良いと思いますが、
もし4回(1日1回の練習機会なら4日)連続で全く進捗がない場合は以下のことを試してみてください。
4回という基準は私の経験から来ている基準です
練習を進めても「(5)トイレットペーパーを取る」ことが自立してできないなら、
まず最初に行うのは「強化子の量や質」が適切かどうか?
これを疑います。
強化子の量を多くしてみたり、変えて行動が変化しないかチャレンジして行きます。
次に「プロンプトの量や質」が適切かどうか?
プロンプトの侵襲度(量)や質を変えてみて行動が変化しないかチャレンジしてみましょう。
強化子の量や質の変更とプロンプトの量や質の変更を同時に行っても構いません。
もしこれらの量や質が適切かどうかの判断がつかない、もしくは適切ではあるが進捗が無いと判断した場合、
行き詰まってしまった、
・ 「(5)トイレットペーパーを取る」
をさらに課題分析します。
課題分析対象:トイレットペーパーを取る行動
(1)右手を伸ばす
(2)トイレットペーパーを掴む
(3)肘が伸びるところまでペーパーを伸ばす
(4)左手でトイレットペーパーの上についているふたを抑え
(5)右手でふたの近くまでペーパーを手繰り寄せ
(6)右手でペーパー全体を握り、下に引く
このように「課題分析をした内容をさらに課題分析」して細かく分けます。
「課題分析をした内容をさらに課題分析」を行い、「プロンプト」、「強化法」、「プロンプトフェイディング」、「強化子のリダクション」を上手く組み合わせて指導していくのです。
ここまで「プロンプト」、「強化法」、「プロンプトフェイディング」、「強化子のリダクション」を上手く組み合わせてスモールステップでシェイピングしていく手続きを紹介してきましたが、
シェイピングには別の方法もあるのでご紹介しましょう。
この方法についても知っておくことでシェイピングの幅が広がります。
消去バーストを利用したシェイピング
シェイピングは「漸次的接近法(ぜんじてきせっきんほう)」とも呼ばれるのですが、
これは徐々に目的行動に近づいていくというニュアンスの表現です。
Raymond .G .Miltenberger (2001)はシェイピングについて、
強化すると対象者はその行動を頻繁に示し始める。
そしてその行動をやめると、それに続き消去バーストが生じるようになる。
そのとき標的行動により近似した新しい行動を強化するようにする。
その結果、対象者は新しい行動をより頻繁に示し始め、前に生起していた行動は減っていく。
と述べています。
このような
消去バーストによって一時的に変容する元の行動の中から、目標行動に近い行動を拾って強化することでシェイピングするというテクニカルなシェイピングの方法が存在します。
この方法もかなり使えると個人的には思っています
プロンプトを使用してフェイディングしていくシェイピングはDTT寄り、
今紹介しているシェイピングの方法はフリーオペラントや自然主義的行動療法で重宝されるでしょう
DTT、自然主義的行動療法は「ABA自閉症療育のエビデンス(https://en-tomo.com/aba-therapy-evidence/)」の章の中で紹介しています
消去バーストについては、
「(ABA自閉症療育の基礎32)オペラント条件付けー消去「消去バースト」と「自発的回復」(https://en-tomo.com/2020/08/26/extinction-burst-extinction-induced-variability/)」
のページで紹介をしました。
私は後輩に消去バーストを教えるとき、
消去に伴って生じる、一時的な行動頻度・維持時間・強度の増加と、それに伴う、強化を取りに来るため一時的に行動変容が起こる現象
と教えています。
消去バーストを利用したシェイピングの例
消去バーストを利用したシェイピングとはどのような方法なのでしょうか?
この方法の例として杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)の著書に載っていたエピソードを参考に書いて行きます。
エピソードの中には40歳の「二郎」という青年が出てくるのですが彼は21歳のときに精神科に入院をしてから19年間、一言もしゃべったことがありません。
またこのエピソードには介入者として「洋子」という女性も出てきます。
ある日、洋子さんはたまたまチューングガムを落としてしまうのですが、二郎さんがそのガムに目を向けます。
このことからもしかすると二郎さんにとってガムが強化子になるのでは?
と洋子さんは思いつきました。
そしてある日、洋子さんは二郎さんの口元にガムを1枚持っていって、二郎さんがガムを見るまでずっと待つことを始めるのです。
二郎さんはガムを見て口にガムを近づけ、ガムを噛みました。
洋子さんが二郎さんに言葉を出させたかったので、二郎さんの唇が少し動くという行動をガムで強化して行くことを試みました。
ある日、洋子さんはいつものようにガムを二郎さんの前に出したとき、今までと違ってガムを渡さないという行動をとります。
すると二郎さんは何か音声を発したのでした。
このときにガムを渡すことで二郎さんの言葉を強化して行くことができます。
これがRaymond .G .Miltenberger (2001)が述べた、消去バーストを利用したシェイピングの例です。
上の例で赤色の下線が引かれている部分が強化子の停止(消去)の部分で、
青色の下線がそれによって生じた消去バーストの部分になります。
この例のように
あるレベルまで充分に行動を強化したのち、強化を停止する(消去手続き)を取ることで消去バーストが生じるのですが、
消去バーストによって生じた適切な行動に対して強化子を提示することによって適切な行動を強化する
という手続きです。
このようなシェイピングを「スモールステップ」の姿勢で行なっていくことがABA自閉症療育では大切になるでしょう。
さいごに
このブログページではABA自閉症療育で使用する「スモールステップ」と「シェイピング」の指導法について書いてきました。
スモールステップとシェイピングの指導法では最初に「課題分析」を行い、教えるべき直近の目標行動を明確にするところから始めます。
このような支援方法は何も自閉症療育だけに適応できる方法ではありません。
例えば舞田 竜宣・杉山 尚子 (2008) は組織マネージメントの本でサラリーマンの男性の「働く」行動を課題分析し、スモールステップで行動を良くしていくエピソードを紹介しています。
このブログページでは
ABA自閉症療育でかなり使用頻度の高い「スモールステップ」と「シェイピング」の支援法についてこのブログページでは書いてきました。
次のページでは「環境豊穣化法」というABA自閉症療育の環境操作のテクニックをご紹介していきましょう。
「環境豊穣化法」にはお子さんの余暇活動を充実させるヒントが詰まっています。
【参考文献】
・ 舞田 竜宣・杉山 尚子 (2008)行動分析学マネジメント 人と組織を変える方法論 日本経済新聞出版社
・ 宮下 照子・免田 賢 (2007) 新行動療法入門 ナカニシヤ出版
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS
【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】
・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】
・ Robert L. Koegel・Arnold Rincover・Andrew L. Egel (1982)Education and Understanding Autistic Children 【邦訳: 高木 俊一郎・佐久間 徹 (1985) 新しい自閉症療育ーその理解と指導ー 岩崎学術出版社】
・ Shira Richman (2001)Raising aChild with Autism A Guide to Applied Behavior Analysis for Parents 【邦訳: 井上 雅彦・奥田 健次(2009/改訂版2015) 自閉症スペクトラムへのABA入門 親と教師のためのガイド 株式会社シナノ パブリッシング プレス】
・ 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)行動分析学入門 産業図書
・ 内山 喜久雄 (1988) 行動療法 日本文化科学社
・ 山上 敏子 (1998) 発達障害児を育てる人のための親訓練プログラム お母さんの学習室 二瓶社
・ 山上 敏子 (2007) 方法としての行動療法 金剛出版