直近のブログページでは「選択行動」について見てきました。
「選択行動」の理論はお子さんに「我慢」を教えるためのヒントが詰まっていました。
ここからは選択行動ではなく「行動の連鎖化(刺激ー反応連鎖)」について書いていきます。
「行動の連鎖化」について知ることでさらに深くABA自閉症療育でお子さんを支援していくことが可能となるでしょう。
ブログページの最後にも記載していますが「行動の連鎖化」は「課題分析」や「スモールステップ」というキーワードへつながる内容です。
行動をもっと丁寧に分析して行けよ
行動は連鎖するんだよ、バカヤロウ
テメー、
クライアントさんをリスペクトして、
もっと丁寧にやれよバカヤロウ
オペラント条件付けー行動は連鎖して形成される
Raymond .G .Miltenberger (2001)は「行動の連鎖化(Behavior Chain)」を扱った章の冒頭、
チューンガムを食べたいときには、次のような一連の行動をしなければならない。
(1)ポケットに手を入れ
(2)ポケットからガムを取り出し
(3)ガムを1枚引き出し
(4)包みを開け
(5)口の中にそれを入れる
ガムを食べることは少なくとも5つの単位行動から構成されており、それらの行動は適切な流れの中で順に生起しなければならない
と述べました。
「ガムを食べる」という行動は、実はこのように様々な行動が連鎖し形成されています。
ガムを食べると言うシンプルな行動も
このように、
細かく分けて考えることができるのですね
小野 浩一 (2005)は実験室におけるオペラント行動の研究では一般に、レバー押しやキー突きのような単一の反応が取り上げられるが、
自然場面の人間や動物の行動は、異なるクラスやトポグラフィからなる一連の連鎖として生じることが多い
と述べています。
私たちの生活の中で生じている出来事は、確かに実験で行なっているレバー押しなどの単一の行動と比べるともっと複雑なものかもしれません。
小野 浩一 (2005)の述べた内容にある、
クラスとは「反応クラス」と言われるもので、行動を引き起こす行動のクラスのことだと思われます。
同じ意味合い、機能を持った行動が「反応クラス」です。
同じ意図を持って行動したとしても私たちの1回1回行動はまったく同じということはあり得ません。
例えば中華鍋を振る動作は毎回同じということはあり得ないですが、同じ意図を持っていますので同じ「反応クラス」と言えます。
トポグラフィとは「行動の型」のことだと思われます。
これはわかりやすく目的を達成するための行動の連鎖化にはいろいろな形(ポケットに手を入れたり、ガムの紙を剥いたり)の行動が含まれるのですが、
「トポグラフィ」とは同じ目標を持った行動の形態のことだと思ってください。
「反応クラス」も「トポグラフィ」も同じようなもので、特定の目標を達成するための行動、と覚えておけば良いでしょう。
Raymond .G .Miltenberger (2001) や小野 浩一 (2005)が述べているように、
私たちの日常行動はいろいろな行動が連鎖することで形作られていることが多いです
オペラント条件付けー行動の連鎖を分解して分析する
これまでのオペラント条件付けでは、例えば下のイラストのような解説を行なってきました。
上のイラストのように、3つの場面に切り分けて行動を分析することを提案してきまいた。
これは、
(教室で積極的に授業に参加した男の子)
先生が「答えが分かる人」と言ったとき(A)
挙手して答えを応えると(B)
先生が褒めてくれた(C)。
というような場面の切り取りです。
この場面のようにこれまでは行動を3つの単位に切り取って紹介してきました。
しかし、行動は実はもっと細かく分けて分析することが可能です。
杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)の本、
「刺激反応連鎖と反応率随伴性」という章にわかりやすいエピソードと図が載っているのでご紹介しましょう。
エピソードには脳性麻痺の「朱美(あけみ)さん」という人物が登場します。
朱美さんが歩くためには、床に座っている状態からまず膝を持ち上げて膝で立ち、
次に足を持ち上げて両足で立ち松葉杖を使って歩くのですが、
彼女の歩く行動について杉山 尚子他(1998)は下の図のように描き表現しました(イラストは改変版)。
上のイラストのように、「歩く」という行動もかなり細かく分けて捉えることができます。
ここまでの内容で見てきたように、行動は連鎖化して作られ、連鎖化しているがゆえに、細かく分解しようと思えばもっと細かく分解して理解できる、分析できる
ということを覚えておくことが大切です。
もし困ったときには「今」よりももっと行動を細かく分析すれば解決に導けることがあるでしょう。
ABA自閉症療育の実施時も、
状況に応じて「朱美さんの歩く例」のように
行動を細かく分けて理解、分析することが必要な場合があります
Raymond .G .Miltenberger (2001)は行動連鎖はある系列の中で互いに生起する個別の刺激ー反応単位から構成されている。
そのため行動連鎖はしばしば「刺激ー反応連鎖(Stimulus-Response Chain)」とも呼ばれる。
連鎖の中の行動や反応は次の行動や反応の弁別刺激として作用するという刺激変化を生じる。
最初の反応は、その系列の2番目の反応の弁別刺激となる。
2番目の反応は、その系列の3番目の反応の弁別刺激となる。
このようなことが連鎖の全ての反応が順に生起するまで続く。
と述べているのですがこのRaymond .G .Miltenberger (2001)が述べた内容が、このブログページで一番伝えたい内容です。
とは言っても専門用語も満載で難しいと思うので、以下解説していきます。
「弁別刺激」や「反応」という専門用語も出てきて少し難しく感じたかもしれませんので上にABA自閉症療育、オペラント条件付けの基本ユニットを示したイラストを貼っておきます。
※詳しくは「(ABA自閉症療育の基礎16)オペラント条件付けの基本ユニット(https://en-tomo.com/2020/08/07/operant-basic-unit/)」を参照
このブログページ内では「反応」は「行動」と読み替えてください。
Raymond .G .Miltenberger (2001)の述べた内容について、
上で示した杉山 尚子他(1998)の紹介した「朱美さんの歩く行動」のイラストから考えていきましょう。
例えば、
「体重を前に移動」した行動により、「体が前に動く」という結果が生じ、その結果が弁別刺激として機能し、次の「杖を上げる行動」を導く
という内容をイラストで記載しているのですが、
これについて下のイラストで示していましょう。
イラストでは
「体重を前に移動」した行動により、「体が前に動く」という結果が生じ、その結果が弁別刺激として機能し、次の「杖を上げる行動」を導く
の部分を緑色の丸と四角の部分で加筆しています。
自身が行なった行動そのものが次には、次の行動を引き起こす弁別刺激を生成していることが伝わるでしょうか?
さいごに
ここまで書いてきたように、
私たちの日常行動は実はいろいろな行動の連鎖によって形作られていることが多いと思います。
ブログページでは行動は連鎖化して作られ、連鎖化しているがゆえに、細かく分解しようと思えばもっと細かく分解して理解できる、分析できる
と書いたのですが、いったい行動を細かく分析することに何のメリットがあるのでしょうか?
連鎖の中の行動や反応は次の行動や反応の弁別刺激として作用するという刺激変化を生じる
ことを学びましたが、だから一体なんだと言うのでしょうか?
実はこのページで学んできた、
行動は連鎖的に形成されており、連鎖的に形成される上では行動がその後、連鎖の弁別刺激になる
ということを理解すると「課題分析(Task Analysis)」というABA自閉症療育の支援技法が使えるようになり、困ったときに使える有用な技法に気がつくことができます。
そして「課題分析」ができるようになると「スモールステップ(Small Step)」や「シェイピング(Shaping)」というABA自閉症療育の支援技法が使えるようになるのです。
ABA自閉症療育だけでなく、
自閉症児の療育について少し調べたことがある人はこれらの「課題分析」や「スモールステップ」、「シェイピング(Shaping)」というワードを聞いたことがあるのではないでしょうか?
「課題分析」や「スモールステップ」や「シェイピング(Shaping)」はいろいろな場面、
例えば行政が行なっている発達支援の勉強会や資料などでも取り上げられるメジャーなキーワードです。
次のページではまず「課題分析」について見ていきましょう。
【参考文献】
・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館
・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】
・ 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)行動分析学入門 産業図書