このページはイラストで言えば、
「ココ」と書かれているところの内容です。
「(ABA自閉症療育の基礎37)オペラント条件付けー弁別刺激「弁別学習」(https://en-tomo.com/2020/09/10/discrimination-learning/)」
のページでは、
特定の状況下では強化し、特定の状況下では強化しないということを繰り返すと、強化された特定の状況下は「弁別刺激」の意味を持つように確立され行動が制御されます。このことは「刺激性制御」の確立とも呼ばれる
と書き、このような「特定の状況下では強化し、特定の状況下では強化しないということを繰り返す手続き」は「弁別学習」と呼ばれます。
「(ABA自閉症療育の基礎38)オペラント条件付けー弁別学習としてのDTT(https://en-tomo.com/2020/09/13/discrimination-learning-dtt/)」
ページ内では「DTT(離散型試行訓練:discrete trial teaching)」を用いた「弁別学習」のトレーニング例として、
「りんご」をみて「りんご」と応える
「いちご」をみて「いちご」と応える
「ばなな」をみて「ばなな」と応える
という基本的な語彙の確立の教え方を記載しました。
これらのページで見てきた「弁別」とは簡単に言えば「弁別刺激」の下で行動すること、
ある行動は特定の状況下(X)では出現するが、特定の状況下(Y)では出現しにくい
上の文章の特定の状況下(X)というものが「弁別刺激」であり、行動を出現させる刺激と言えます。
このような刺激に反応した場合「弁別」している、と言うのです。
このページでは「般化(Generalization)」という現象を解説しますが、「般化」は「弁別」とは対をなす概念だと言えるでしょう。
このことをこのページでは解説していきます。
「弁別」と同じように「般化」もABA療育にとってとても重要なものです。
ABA療育、般化(Generalization)とは?
ABA療育では(基本的には教えた)行動が、
「教えた人とは別の人の前で出現したとき = 人般化が生じた」
「教えた場所とは別の場所の前で出現したとき = 場所般化が生じた」
「教えた物とは別の物の前で出現したとき = 物般化が生じた」
「教えた場面とは別の場面の前で出現したとき = 場面般化が生じた (例えば、朝教えたことが夜に生起した時など)」
などの場合、上記のように考えます。
これらは順に「人般化」「場所般化」「物般化」「場面般化」と表現されることが多いのですが、これらの表現は基本的には「刺激般化」について述べた内容です。
私は専門家、また親御様とお話しする際でも「刺激般化」という言い方はほとんどしません。
もっぱら「人般化」「場所般化」「場面般化」、そして「般化」という名で呼び合うことが多いため、ブログタイトルは「般化」と記載しました。
これらの言葉は「刺激般化」を表しているのですが、「刺激般化」とはいったいどういう現象なのでしょうか?
Raymond .G .Miltenberger (2001) は
(強化によって)行動が強められたり、(消去や罰によって)行動が弱められたときの先行事象の条件は、かなり状況特定的な場合がある。
その一方で、先行事象の条件が幅広い場合や変動する場合もある。
行動の刺激性制御がかなり広範囲にわたるとき、すなわち行動が多様な先行事象に対して生起する場合、刺激般化が生じたと言われると述べました。
Raymond .G .Miltenberger (2001) の述べた
多様な先行事象に対して生起する場合とは一体どういう状況なのでしょうか?
刺激般化について、
実森 正子・中島 定彦 (2000) はある刺激への反応を強化すると、その刺激と同じ次元の他の刺激やその刺激と同じ要素をもつ刺激のもとでもその反応が増大することを刺激般化という。
と述べています。
これらをここまで学んできた言葉を使って「刺激般化」は、
強化されてきた弁別刺激に似た刺激の下では、同じように行動する確率が上がる
と言い換えられるでしょう。
つまり、強化されてきた弁別刺激に似た刺激の下で同じように行動したとき、「刺激般化」が生じたと言われるのです。
実森 正子他 (2000) が述べた「刺激次元」という言葉は聞き慣れないと思います。
「刺激次元」について杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)は
ある刺激の物理的特性であると述べ、
具体的には、形、丸さ加減、大きさ、高さ、重さ、光沢、色あい、明暗などである。
さらに、刺激次元とは、刺激同士の違いによっても記述できる。
たとえば、家と自動車とでは多くの次元が違いがある。
大きさ、形、重さ、材質などみな違う。
2つの刺激が持つ次元の違いが大きいほど、両者は弁別しやすい。
だから、家と自動車とを弁別するのは簡単だ。
と述べました。
杉山 尚子他(1998)の「刺激次元」の内容から「刺激般化」が生じるためには
・ 強化されてきた特定の状況(刺激)に似た状況(刺激)の下では、同じように行動が出現しやすい
・ 似た状況では、似た状況で強化されてきた行動を人間(人間以外も)は取りやすい
ことを覚えておく必要はあるでしょう。
なんだか当たり前と言われれば、当たり前のことに思うかもしれませんが知っていると使える大切な知識です。
Shira Richman (2001) は般化について直接教えていない様々な場面や状況、人に応じて適切な行動を示すこと。また、教えられた型どおりではない応答を示すことと述べています。
Shira Richman (2001) によれば般化は学習の最も重要な要素です。
刺激般化の例ー「物般化」
簡単な日常例として「物般化」の例を見てみましょう。
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例えば「乗用車」「トラック」「バス」を見て「くるま」と言っていた子どもがいたとします
お母さんはこの子が「くるま」と言うと、言葉の発達が嬉しくて笑顔になったり、褒めたりしていました
お子さんはあるときTVで滑走路を走る「ひこうき」を観て「くるま」と言いました
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お子さんは
「ひこうきにタイヤがついていたこと」
「道路に似ている滑走路を走っている動き」
「生き物では無い様子と、使われている素材の見た目の類似性」
「人が乗っている」
などの類似状況から「ひこうき」を「強化されてきた弁別刺激に似た刺激」と判断し「くるま」と言ったのでしょう。
もしかすると、別の子どもは「ふね」を見ても「くるま」と言うかもしれません
人によってどこまでの刺激を似ていると判断するかについては差こそあるものの、強化されてきた弁別刺激に似た刺激の下では同じように行動する確率が上がります。
「ひこうき」をみて「くるま」とお子さんが言ったとき、お母さんは「あれは、ひこうきよ」とお子さんに「褒める」ことをしませんでした。
お母さんからの強化子(褒めるなどの嬉しい関わり)が返ってこなかったため、
今後お子さんの中で「ひこうき」は「くるま」とは違うという「弁別」が生じていくでしょう。
狙って手続き化し、このようなことを行った場合は「弁別学習」と呼ばれます。
「(ABA自閉症療育の基礎36)オペラント条件付けー弁別刺激の確立、エピソード(https://en-tomo.com/2020/09/06/aba-operant-stimulus-control-episode/)」
のページでは「弁別刺激(Discrimination Stimulus)」が日常の中で確立するエピソードを紹介しましたが、ここまで読んだ上で見ればこのエピソードの中には同時に「般化」が生じていたことも見えてくるはずです。
さいごに
このページでは「般化」について解説をしてきました。
「般化」については詳しい言い方をすれば「刺激般化」と呼ばれ、
強化されてきた弁別刺激に似た刺激の下で同じように行動したとき、「刺激般化」が生じたと言われる
とこのページでは説明しています。
「般化」は「弁別」と対をなす概念です。
反対の概念だと考えてください。
「弁別」の範囲が狭いときには「般化」が生じていると言われます。
例えば、「ひこうき」をみて「くるま」とお子さんが言ったときはその例で「車=タイヤがある」などの課題解釈をしてしまった場合です。
対して、「般化」の範囲が狭いときには「弁別」が生じています。
お母さんから指摘をもらい、「ひこうき」をみて「くるま」とお子さんが言わなくなったとき、その例は「弁別が生じた」と言える例でしょう。
次のページではABA療育において「ポジティブな般化」と「ネガティブな般化」について述べていきます。
このことを考える中で「般化」と「弁別」の関係ももっと詳しく知ることができるでしょう。
【参考文献】
・ 実森 正子・中島 定彦 (2000) 学習の心理 第2版 サイエンス社
・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】
・ Shira Richman (2001)Raising aChild with Autism A Guide to Applied Behavior Analysis for Parents 【邦訳: 井上 雅彦・奥田 健次(2009/改訂版2015) 自閉症スペクトラムへのABA入門 親と教師のためのガイド 株式会社シナノ パブリッシング プレス】
・ 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)行動分析学入門 産業図書