(ABA自閉症療育の基礎18)オペラント条件付けの起源「効果の法則」

Raymond .G .Miltenberger (2001)オペラント条件付け(Operant Conditioning)について「ある特定の状況である行動が生起したのちに強化的な結果が生じると、その行動が将来同じような状況で生起しやすくなること」と説明しました。

Raymond .G .Miltenberger (2001)の述べた「強化的な結果」という意味は、この章を読み進める中で理解できるでしょう。

オペラント条件付けでは「行動の結果」、「行動の後の環境の変化」が人の後の行動に影響を及ぼすことに注目します。

このことは「行動と環境が相互に作用しあって、行動が変化する」と読み替えることができるでしょう。



効果の法則(Law of effect)ーEdward L. Thorndike

「行動と環境が相互に作用しあって、行動が変化する」、「行動の結果」がその後の行動に影響を与えるということをB. F. Skinner(B. F. スキナー)以前に提唱した科学者としてEdward L. Thorndike(エドワード L. ソーンダイク)という科学者がいます。

小野 浩一 (2005) は行動を変化させる上で、行動の結果が重要な役割を果たしていることを最初に見いだしたのはThorndikeであると述べました。

坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) は自然淘汰としてのオペラントを「発見」したのはスキナーではないと述べ、発見者としてふさわしい人物としてThorndikeをあげました。

James E. Mazur (2006) Thorndikeについて動物の非反射的な行動が、その経験の結果としてどのように変容をしていくのかを系統立てて調べた最初の研究者であったと述べています。

Thorndike「効果の法則(Law of effect)」を発表した人物です。

「効果の法則」は大学で心理学を学んだことがある人は1度は授業で聞いたことがあるのではないでしょうか?

とても有名な法則です。


このページで「効果の法則」について一緒に学んでいきましょうね

「効果の法則」とは

William・O’ Donohue  & Kyle E. Forguson (2001)を参考にすれば

Edward L. Thorndike は1911年「効果の法則」を以下のように述べたようです。


同一事態でなされるいくつかの反応のうち、その動物にとって満足が伴う、すぐに満足をもたらすような反応は、他の条件が等しければより確実にその事態に結びつき、同様の事態でその反応はより容易に繰り返されるようになる。

動物にとって不快が伴う、すぐに不快に結びつくような反応は、他の条件が等しければ、自体との結びつきは弱められ、同様の事態でその反応はより生じにくくなる。

満足または不快が強くなればなるほど、結びつきの強度、または、弱化の程度はそれに応じて等しくなる


※ 申し訳ないのですが、私自身は1911年のEdward L. Thorndikeの原文は読めていません


Thorndikeの実験では、Thorndike自身が「問題箱(Pazzle Box)」と呼んだ小さな箱に空腹な動物(ネコかイヌかニワトリ)が入れられました(James E. Mazur, 2006)

もし、動物がそこでふさわしい反応をすれば、問題箱のドアが開き、その動物はドアの外へ出て外に置かれた食物を食べることができたという実験内容です(James E. Mazur, 2006)


今田 純雄・今田 寛 (1981) によれば

ネコの実験箱(※このページで問題箱:Pazzle Boxと呼んでいるものと同じ)に用いられた問題箱は15種類に及び、3種を除いては同じ大きさでした。

例えば「猫が箱の中の棒を押し下げれば、棒が回転して扉が開く」というような実験箱の中に猫を入れ、実験箱から猫が出られた際に「エサ」が食べられるという設定で実験が行われます。

猫が10分から15分しても実験箱から出て来れなかった場合には「失敗」としてカウントされました。

失敗した場合は「エサ」は与えられません。

このような実験を繰り返すとネコが問題箱から出てくるまでの時間が早くなっていきます

実森 正子・中島 定彦 (2000) によればこれは動物の行動が経験によって変容する過程を調べた初めての実験的研究であったそうです。



効果の法則、満足と不快

Thorndikeは実験から動物が問題箱から出てくるまでの時間が短くなった理由について、

坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) によれば

「満足をもたらした反応は、それが繰り返されるとその場面と強く結合して、より起こりやすくなり、不快をもたらした反応は、逆により起こりにくくなる」

という「効果の法則」から説明したようです。

「効果の法則」とは簡単に言えば

「いい結果が続いた行動は個体にとって満足が伴うので、繰り返されるようになる →   行動が強まる」

「不快な結果が続いた行動は個体にとって不快が伴うので、繰り返されなくなる →   行動が弱まる」

という内容が「効果の法則」ということができます。

非常にシンプルでわかりやすく、共感できるのですが「効果の法則」には小野 浩一 (2005) の本で書かれている内容の問題が残ったようです。

それは

『行動の結果がある個体に対して「満足」をもたらしたのか「不快」をもたらしたのかをどのように知るのか?』

という点でした。



B.F. Skinnerのアイディア

小野 浩一 (2005) は、

この『行動の結果がある個体に対して「満足」をもたらしたのか「不快」をもたらしたのかをどのように知るのか?』

という点についてはThorndike自身も気がついていたと述べています。

Skinnerはこの点を解決するため、「効果の法則」に修正を加えました。

ThorndikeSkinner考え方は以下のように表現できます。


小野 浩一 (2005)を参考に作成

小野 浩一 (2005) を参考にすれば、

Thorndike「行動 →   好ましい環境変化:行動増加」、「行動 →   嫌悪的な環境変化:行動減少」と考えたのに対し、

B .F .Skinner

・ 行動に環境変化が随伴した結果その行動が増加したとき、その変化は好ましい変化

・ 行動に環境変化が随伴した結果その行動が減少したとき、その変化は嫌悪的な変化

というように捉えました。

このように捉えることで「満足だったか?」、「不快だったか?」という視点で測ることはなくなります

それが個体にとって「満足だったか?」、「不快だったか?」を測る場合には、

行動に結果が伴いその後、行動が「増えたか?」「減ったか?」という視点で測り、「満足したか?」「不快なのか?」といった測ることができないものに言及することなく、客観的に測定できる指標(行動の増・減)から生態の状態を推測する

と考えれば良いのです。


Enせんせい

捉え方、発想の転換ですね!


小野 浩一 (2005) この考え方の転機によって、「満足」や「不快」といった生体の内部事象に言及することなく、行動を客観的に研究する道が開けたと述べています。


杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)効果の法則が行動分析学の基礎を作り、行動分析学が心理学の本当の基礎を作っていると述べました。

効果の法則が行動分析学(ABA)の基礎を作ったのであれば、ABAにとってThorndikeの貢献は測り知れません。


B.F. Skinner (1963)Thorndikeについて、Thorndike以前は行動の唯一論証できる原因は先行刺激であったと述べました。

※  「先行刺激」とは行動の前にある環境のことです

そしてB.F. Skinner (1963)は「効果の法則」は行動がその関数であることを示しうる重要な新しいクラスの変数を追加したと述べています。

Thorndikeの提唱した「効果の法則」により行動の後に伴う結果が、その後の行動に影響を与えるという研究が開けることとなりました。


このページでは「効果の法則」について紹介をしてきました。

次のページからはオペラント条件付けについて学んでいきましょう。



【参考文献】

・ B.F. Skinner (1963) Operant behavior. American Psychology, 18, 503-515 【邦訳 スキナー著作刊行会 (2019) B.F. スキナー重要論文集 Ⅰ 勁草書房】

・ 今田 純雄・今田 寛 (1981) ソーンダイクの問題箱実験再分析 : ネコの場合 関西大学リポジトリ,12-10 p99-122

・ James E. Mazur (2006) LEARNING AND BEHAVIOR:6Th ed. 【邦訳 磯 博行・坂上貴之・川合伸幸,訳 (2008) メイザーの学習と行動 日本語版 第3版 二瓶社】

・ 実森 正子・中島 定彦 (2000) 学習の心理 第2版 サイエンス社

・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館

・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】

・ 坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 行動分析学 行動の科学的理解をめざして 有斐閣アルマ

・ 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)行動分析学入門 産業図書

・ William・O’ Donohue  & Kyle E. Forguson (2001) The Psychology of B.F.Skinner 【邦訳: 佐久間 徹 (2005) スキナーの心理学 応用行動分析(ABA)の誕生,二瓶社】