ABA自閉症療育で使える行動の見方
このページではABAでは行動を変えたい時、どのように変えたい行動を定義をするのが良いかについて書いていきます。
定義が必要な理由はABA療育ではお子さんの「行動を変えたい」のです。
ですから「行動が変わった」とわかるために「行動は測定ができる必要」があります。
そうでなければ「変わったかどうか」はあなたの主観で判断することとなってしまうのです。
これは、とても困ったことになります。
理想的には「あなたが変わったと思っている」という状況からもう一歩進み、あなた以外の他者からみても「この子は変わった」と客観的に判断できる必要があるのですがそのためには「行動を測定」できる指標に置き換えて考えることが必要です。
ABAで行動を見る方法の1つ、死人テスト
行動を定義するための1つの方法として「死人テスト」というものがあります。
杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)は「死人テスト」とは『死人でもできることは行動ではない』という考え方で「受け身」「状態」「非行動(~しない)」というものは行動ではない。広義には「死人にできない活動は全て行動である」と述べ、狭義では「筋肉または腺の活動」であると述べました。
「死人テスト」とは「死人でもできることは行動ではない」というABAの考え方です。
お子さんに対して「この行動を変えたい」と考えた時、死人にも可能である以下のような
「受け身=座らされる」これは死人にできるため、良い定義ではありません。
「状 態=音を立てず座ったままでいる」これも死人にできるため、良い定義ではありません。
「非行動=座らない」これも死人にできるため、良い定義ではありません。
※「受け身」「状態」「非行動」等の「行動しないことを維持し続ける」が目的となることもあります。例えば自傷行為(自らの頭を叩いたり、手を噛む)等があった場合、「やらない状態を伸ばす(例えば、Jescah Apamo-Gannon ,2016)」ことが目的になることもあります。ただ、学び始めの今は「受け身」「状態」「非行動」以外で定義立てるように考えましょう。
彼らによれば上記のような行動の捉え方はABA、もちろんABA療育を行っていく中で不都合が生じます。
例えば良くある親御様からのニーズとして「先生が話している時は静かにしていて欲しい」とか「買い物中はうろうろせずについてきて欲しい」などがあります。
「静かにする」、「うろうろしない」ということは杉山 尚子他 (1998) の定義にあてはめて考えると死人にもできる「死人テスト」をパスしない行動となり良い行動の定義(捉え方)ではありません。
ABA療育ではどう行動を捉えるか?
ではどのように行動をどう定義すればよいのか?
Raymond .G .Miltenberger (2001) は行動の『定義に際しては、対象者が示す行動を能動態で表すとよい』と述べています。
例えば杉山 尚子他 (1998) から引き合いに出した上記の3つの「死人テスト」をパスしない行動を能動態に変換してみましょう。
「受け身=座らされる」これは死人にできる→
「自分で座る」と能動態に変換!これは死人にできません。
「状 態=音を立てず座ったままでいる」→
「(座った状態で)30秒に1回口をムッと結び先生を見る」と能動態に変換!これは死人にできません。
「非行動=座らない」→
「座りなさいと言われて、いやだと拒否する」と能動態に変換!これは死人にできません。
↑↑↑上のように能動態で表記すると何が良いかというと「測定」できる行動になります。
「自発的に座った」、「口を結んだ」、「いやだと拒否した」は数えられる行動なのです。
行動を能動態で捉えるだけで何が違うかと言えば複数人が観察できてカウントできる。これが本当に大切になってきます。これは、主観を挟まない良い行動の定義と言えます。
死人テスト以外の問題行動の捉え方
「行動を捉える」となった場合Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008)が書いている『観察し、行動の「過剰」と「不足」に分類する』という見方も覚えておくと便利な知識でしょう。
行動が問題だと考えられる時はその行動が「過剰」なのか「不足」なのかを考えていくと便利です。
「行動の過剰」とは、
・ 45分の授業中、30回手をあげて発言する
・ 車で遊んでいた30分間、そのうちの20分間をタイヤを目の前で回す活動に費やした
・ 買い物で欲しいものがあった場合、買わないと泣く。10回その機会があると10回泣く
などです。
「行動の過剰」が問題となっている場合は「30回手をあげて」「そのうちの25分間」「10回その機会があると10回」という部分を10分の1に減らし「3回手をあげて」「そのうちの2分間」「10回その機会があると1回」というように減らせば問題は解決したように思います。
「行動の不足」とは、
・ 5人でディスカッションをする45分間、3回しか発言しない
・ 宿題をしている30分間、そのうちの2分間しかペンを動かさない
・ 欲しいものがあった時に言葉で要求しない。10回その機会があったとして言葉での要求は0回である
などです。
「行動の不足」が問題となっている場合は「1回しか発言しない」「そのうちの2分間」という部分を10倍に増やし「30回は発言する」「そのうちの20分間」というように増やせば問題は解決したように思います。
最後の例の「10回その機会があると0回」という「0回」の行動も、行動の不足と捉えましょう。
このような今は無い行動レパートリーを学習させていく場合(行動の不足が問題となっているケース)は、例えば別の記事で解説をしていきますがシェイピングという手法を用いて教えることができます。
イラストのように行動の問題を行動の「過剰」と「不足」で見ていく見方があります。
上記をまとめるとABAで「行動を変えたい」場合「行動が変わった」とわかるよう、行動は目で見て(観察して)測定ができる必要があるのです。
あなたが観察できるだけではなく、他者も同じようにカウントできるようになれば尚良いでしょう。
最後にこのページでは「便利」という言葉を使いました。
「分析」というものは何か課題がなければ必要のないようなものに私は思います。
何か課題があり乗り越えたい、解決したい。そう思った時に使うもので普段から常に分析していろとは思いません。
分析が必要な時それはマイナスの状況を減らすでも良いし、今ある状況からさらに良くするでもいいですが、何かしら「変化」を求める際このような行動の見方を知っていると役立ちます。
そう言った際に「便利」なツールとして行動をそのように捉えることを私はABA療育を行う者として今回のページでは記載いたしました。
是非みなさんも参考にしてみてください。
【参考文献】
・ Jescah Apamo-Gannon (2016)Functional Analysis Contingencies on Precursors: Response Hierarchy Relationship Hypotheses ,North American Journal of Medicine and Science Oct Vol 9 No.4
・ Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008)The ABCs of HUMAN BEHAVIOR:BEHAVIORAL PRINCIPLES FOR THE PRACTICING CLINICIAN 【邦訳: 松見純子 (2009)臨床行動分析のABC ,日本評論社】
・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】
・ 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)行動分析学入門 ,産業図書