「親が自閉症児に与える影響(ABA自閉症療育のエビデンス20)(https://en-tomo.com/2020/06/16/parent-autism/)」
で親が早期介入の中で高い子育てストレスを感じていた場合、早期介入の利益が減ってしまうという研究を紹介した。
療育中、親が高い育児ストレスを持つのは非常に勿体ない。
親自身のQOLを上げるという目的もあるがこの理由からだけでも子どもにABA療育を行う際、親自身がストレスをコントロールできる価値が伝わるであろう。
自閉症児の親へのストレス対処介入MBPBS
このページで紹介する研究は
「マインドフルネスとメタ分析(ABA自閉症療育のエビデンス21)(https://en-tomo.com/2020/06/17/mindfulness-evidence/)」
で学んだ「マインドフル(Mindfulness)」
「PBS:Positive Behavior Support(ポジティブビヘイビアサポート)(ABA自閉症療育のエビデンス22)(https://en-tomo.com/2020/06/18/positive-behavior-support/)」
で学んだ「PBS(Positive Behavior Support:ポジティブビヘイビアサポート)」
を組み合わせた親のストレス対処介入法である。
それは「MBPBS:Mindfulness-Based Positive Behavior Support:マインドフルネスベースのポジティブビヘイビアーサポート」と呼ばれる方法となる。
「MBPBS」は「親御さん向け」の支援でありながら、子どもの問題行動も減らす方法でもある
思春期の自閉症児・知的障がい児を持つ親への研究
Singh NN・Lancioni GE・Karazsia BT・Myers RE・Hwang YS・Anālayo B (2019) は思春期の自閉症児・知的障がい児(以下、ID児:Intellectual Disability)を持つそれぞれの母親グループに対して「MBPBS」を行なった。
この研究には最初それぞれグループに母親55人ずつが参加したが、介入前に離脱者がおり、最終的には自閉症児の母親(47人)とID児の母親(45)人が残った。参加した母親には1人から3人の子どもがいたが、自閉症児やID児は1人だけであった。
研究は40週間行われ、自閉症児、ID児の母親に対して行われたトレーニングは同じものであった。最初の10週間はコントロール期間(ただ観察するだけ)で、効果を検証するために残りの30週間と比較される期間であった。
介入は小グループで行われた。
この研究は40週間続くが主な介入期間は3日である。
プログラム1日目はマインドフルネスのトレーニング、2日目はPBSのトレーニング、3日目はマインドフルネスとPBSのトレーニングで構成された。
たった3日間のプログラムを通して母親は「自分自身が瞑想を実践すること」と「子どもに対しての(オーダーメイドでの)PBS計画の開発」を学んだ。
研究の結果「MBPBS」を行うことで40週間後、自閉症児の母親・ID児の母親、両方のグループのストレスが有意に低下した。研究ではストレスに対して、充分な効果があると述べられている。
また両グループで母親ストレスが低下したことに伴い40週の間に、思春期の子どもたちの行動も変化していった。介入前あった子どもたちの攻撃的、破壊的な行動が徐々に減っていき、代わりに「母親の要求に応えよう」とする子どもの適切な行動が増えた。
この研究で定義された「攻撃的な行動」は「噛む」「叩く」「蹴る」などである。また、「破壊的な行動」とは「過度の要求」「不快なコメント」「大きな音を出す」などである。
自閉症者をサポートする親ではない人たちへの研究
Nirbhay N. Singh・Giulio E. Lancioni・Oleg N. Medvedev・Rachel E. Myers・Jeffrey Chan・Carrie L. McPherson・Monica M. Jackman・Eunjin Kim (2018) は研究で自閉症者を家庭内で世話する人たち(介護者)を対象に研究を行っている。この研究で対象になった人たちは親や家族ではなく、自閉症者の生活をサポートする仕事の人たちである。
何歳の自閉症者の生活をサポートしている人たちなのかは研究中に言及されていない。
この研究はRCTで介護者をMBPBSグループとPBSグループにランダムに割り当てた。
MBPBSグループは「マインドフルネスとPBS」を、PBSグループは「PBS単独」であった。
フルタイムでないなど除外基準はあったが、計147人もの参加者を募り、最終的には59人のMBPBSグループと57人のPBSグループのデータが残った。
研究は最初の10週間にトレーニングが提供され、その後30週間は介入データが収集された。
研究の結果MBPBSグループもPBSグループも効果的であることが示された。MBPBS・PBSの両グループは、介入によって介護者が自閉症者に対して思いやりを高めたり、バーンアウトや二次的なストレス、自ら知覚できるストレスの軽減に効果的であった。
両方のグループが効果を示したものの特にPBSとマインドフルネスを合わせたMBPBSグループの効果はより大きく、支援者の大幅な心理的改善を得ることができた。
彼らは先行研究から「PBS」は行動変化に焦点を当てた科学に基づいた実験的分野であり、「マインドフルネス」は行動するために自分の心を訓練するの経験的アプローチと述べている。
彼らによればこの2つのアプローチは相乗的で、2つのアプローチの組み合せが完璧な臨床的意味を成す。「PBS」は自閉症者の行動をより効果的に管理できるようにし、「マインドフルネス」は介護者がストレスを管理できるようにする。
是非見て欲しいMBPBSの論文
このページで参考文献に使用したNirbhay N. Singh・Giulio E. Lancioni・Oleg N. Medvedev・Rachel E. Myers・Jeffrey Chan・Carrie L. McPherson・Monica M. Jackman・Eunjin Kim (2018)の論文はオープンに観覧することができたものである。
データがものすごく綺麗に出ている。
特に「FIGURE3」が美しい。
是非タイトルをコピーペーストしてGoogle等で検索して欲しい。
MBPBSは親のストレス軽減だけでなく、子どもにとっても療育利益をもたらす可能性が高い。
ただし1点注意書きを加えたい。
このブログでは「早期療育」、いわゆる「幼児」向けの療育方法について多く紹介をしてきた。
紹介した「MBPBS」の研究は対象者のお子さんは幼児ではないと思うのでその点は注意して欲しい。
しかし個人的に幼児期の療育においても「MBPBS」は大きな効果をもたらすと考えている。
「MBPBS」は今後私も習得していきたい技術の1つである。
MBPBSの要素である「マインドフルネス」については私はまだ勉強途中である。
しかし「PBS」はその中で大切とされている「機能分析」や「ABAベースの戦略の考え方」などについて、このブログを通して理解できるものが多いだろう。
このブログを通してお子さんに対してのABA戦略を学んでいただければ幸いである。
それはお子さんの子育てに役立つだろう。
ここまでABA療育の科学的なエビデンスについて書いてきた。
次のページでは療育方法を選択するにあたって科学的な方法を採択したほうがいいと思う理由について書く。
【参考文献】
・ Nirbhay N. Singh・Giulio E. Lancioni・Oleg N. Medvedev・Rachel E. Myers・Jeffrey Chan・Carrie L. McPherson・Monica M. Jackman・Eunjin Kim (2018)Comparative Effectiveness of Caregiver Training in Mindfulness-Based Positive Behavior Support (MBPBS) and Positive Behavior Support (PBS) in a Randomized Controlled Trial. Frontiers in Psychology 7
・ Singh NN・Lancioni GE・Karazsia BT・Myers RE・Hwang YS・Anālayo B (2019) Effects of Mindfulness-Based Positive Behavior Support (MBPBS) Training Are Equally Beneficial for Mothers and Their Children With Autism Spectrum Disorder or With Intellectual Disabilities. Front Psychol. 2019; 10: 385. Published online 2019 Mar 6. doi: 10.3389/fpsyg.2019.00385