本ブログページではABA(応用行動分析)を専門にしている私が「衝動性が高い」ということについてどのように捉えているか、について書いていきます。
本ブログはABA自閉症療育ブログですので、お子様の子育てでいえば「衝動性が高いお子様」等、そういった言葉を聞いたことがあるかもしれません。
お子様の衝動性を捉えることにも有用な内容だと考えていますので、よろしければ最後までご覧ください。
本ブログページタイトルにも「衝動性」と「セルフコントロール」という言葉が入っていますが、これらは反対の言葉だと思ってもらって大丈夫です。
つまり、
例えば「衝動性が高い」とは「セルフコントロールする力が弱い」と言えます。
「衝動性が低い」とは「セルフコントロールする力が強い」といって良いです。

ABAで言う衝動性とセルフコントロールとはどういうものか?
Niklas Törneke (2009)は行動分析学(ABAのこと)のための2つの基本原理は、オペラント条件付けとレスポンデント条件付けであると述べました。
ABAではオペラント条件付けで条件付ける(学習させる)ことができる行動をオペラント行動、
レスポンデント条件付けで条件付ける(学習させる)ことができる行動をレスポンデント行動と呼ぶのですが、
本ブログページでテーマとなっている「衝動性」はオペラント行動の枠組みの中で考えられる理論です。
そして「衝動性」はオペラント行動の枠組みの中の「選択行動」という理論の中で捉えることができる事象となります。
実森 正子・中島 定彦 (2000) は、
反応した直後に小さな強化が得られる場合を「直後の小強化」
反応してもすぐには強化されないが後で大きな強化を得られる場合を「遅延後の大強化」
と述べ、
前者の「直後の小強化」を選ぶ場合を「衝動性」
後者の「遅延後の大強化」を選ぶ場合を「セルフコントロール」
というと述べました。
最初に簡単にABAの基本の”き”「強化」について少し解説
「強化」とは行動したのちに「強化子(きょうかし)」というものが伴うことで行動が増加することを示した言葉です。
「強化子(きょうかし)」というのを簡単に説明すれば「行動に伴う嬉しい結果/安心できる結果」と考えてください。
例えば、あなたの好きな人が消しゴムがなくて困っているときに(少し勇気を出して)消しゴムを貸してあげました。
すると好きな人が微笑んで「ありがと」と言ってくれたとします。
このとき、あなたの「消しゴムを貸す」行動は好意のある相手からの微笑みと感謝の言葉によって強められます。
この例で言えば「好意のある相手からの微笑みと感謝の言葉」があなたの行動を増やす「強化子」です。
もし今後あなたの好きな人が消しゴムがなくて困っている状況(消しゴムでなくとも困っている状況が)があったならば、
あなたが「その人を助ける」という行動は以前よりも強められているため、以前よりも行動しやすくなった、こうなった場合、これを強化と呼びます。
「強化」や「強化子」はABA(応用行動分析学)の基本の”き”です。

話を「衝動性」と「セルフコントロール」に戻す
話を戻して上記の内容から衝動性とは、
衝動性 = 遅れてくる大きな遅延大強化を選択せず、すぐに手に入る即時小強化を選択すること
と考えられます。
そしてセルフコントロールの観点から上の定義を言い換えると、
セルフコントロール = すぐに手に入る即時小強化を選択せず遅れてくる大きな遅延大強化を選択すること
です。

言葉が難しいと思うので即時小強化と遅延大強化という言葉をもう少しわかりやすい言葉にします
即時小強化 ・・・ 時間的に早く手に入る小さな、手に入れると嬉しい/安心する結果
遅延大強化 ・・・ 手に入るまでに時間はかかるけれども大きな、手に入れると嬉しい/安心する結果
また「セルフコントロールする力」という言葉を日常的なわかりやすい言葉にすると、
セルフコントロールする力 ・・・ 「我慢する力」や「コストはかかるけれども継続する力」
と考えてください。
「この子はなかなか我慢ができなくて・・・」と困っている親御様もいるでしょう?
そういうときABAのセルフコントロールという視点は役に立ちますよ!
さて、ABAでは衝動性やセルフコントロールについてここまで書いてきたように捉えられるのですが、日常の例を見て行きましょう。
以下は「衝動性が高い」という状態を示しています。

・ お金を貯めて引越しをしたいと思っているが、毎日お酒を飲んでしまい(即時小強化を得る)、したいと思っている引越し(遅延大強化を得る)ができない
・ 友達と今よりも深く仲良くしたいと思っているが、簡単なトラブルですぐに怒ってしまい自分自身の不安感を収めることを優先し(即時小強化を得る)、友達と今よりも深く仲良くなる(遅延大強化を得る)ができない
・ ダイエットをして引き締まった身体を手に入れたいと思っているが、すぐに手に入る袋菓子をついつい食べてしまい(即時小強化を得る)、なかなか引き締まった身体を手にいれる(遅延大強化を得る)ができない
・ やりたいことをやるために自分の時間を作るために頼まれた余分な仕事を断りたいと思っているが、断るのも不安になり断ることができず仕事を受け(即時小強化を得る)、やりたいことをやるための自分の時間(即時小強化を得る)が持てない
上のような状態は「衝動性が高い状態」です。
上の例を参考に下は「セルフコントロールする力が強い」状態へ言い換えました。
・ お金を貯めて引越しをする(遅延大強化を得る)ために、好きだったお酒(即時小強化を得る)をお金が貯まるまで我慢した
・ 友達と今よりも深く仲良くしたい(遅延大強化を得る)ので、簡単なトラブルがあって不安になってもその不安を払拭するために怒る(即時小強化を得る)ことはせず、一旦落ち着いて相手の話を聞くよう我慢した
・ ダイエットをして引き締まった身体を手に入れたい(遅延大強化を得る)ので、好きだった袋菓子(即時小強化を得る)を体型が引き締まるまで我慢した
・ やりたいことをやるために自分の時間を作るため(遅延大強化を得る)に、頼まれた余分な仕事については少し不安なので受けてしまおうか(即時小強化を得る)と思ったものの、我慢して相手に難しいと伝えた
以上のように言い換えられるでしょう。
ABAで言う衝動性とセルフコントロールとは上のような状態のことを言います。
わかっちゃいるけどやめられない。なかなかセルフコントロールできない
衝動性を抑えセルフコントロールする力を高めることの難易度が高い領域もあるなと思っています。
例えば「禁煙」や「禁酒」などの内容はセルフコントロールすることの難易度が高いでしょう。
これらには薬物物質性の「依存」というものも関わってきます。
タバコやお酒、その他ドラッグは摂取しない時間が続くと身体が「接種したい」と感じる状態を作り出すため、依存性の高い物質を摂らない状態をセルフコントロールする、ということは更にセルフコントロールする難易度を高めるのです。
実際に身体を壊すまでお酒をやめられない人や、身体を壊したあともダメだと思いつつやめられない人もいます。
怖いことです。
ただそこまでの難易度でなかったとしても上で紹介をした「衝動性が高い状態の例」について皆様も当てはまるようなことがあるのではないでしょうか?
なかなかセルフコントロールをする、ということ自体も私はそんなに簡単なことではないように思います。
わかっちゃいるけどやめられない。
なかなかセルフコントロールできない。
なかなかお金を貯めることができないとか、ついつい怒ってしまうとか、健康維持のために時間を使えないとか、なかなか相手の誘いを断ることができない、とかです。

例えば私は「体型維持」や「掃除」が苦手で、長期的に見れば「健康維持」や「気持ちよく生活する」ために、
食事管理や運動、物を置く位置を決めたり週に決められた短い時間掃除をする等、
我慢(セルフコントロール)する時間を生活の中に取り入れれば、もっと生活の質は上がる、と、わかっていてもなかなかできません。
自分の人生のさまざまな場面でセルフコントロールを効かせることが上手な人もいるでしょう?
セルフコントロールは英語で「Self-Control」なのですが日本語にすると「自己管理」や「自己統制」になります。
セルフコントロールが上手い人というのは日本語に言い換えると自己管理が上手い人、と言えるでしょう。
自己管理が上手い人ということ、少しイメージしやすくなりませんか?
あまり痛い失敗をしずらい、というイメージでしょうか。
しっかりしている人、というイメージもあるかもしれません。
衝動性が高いお子様についてどのように捉えるか?
さて本ブログはABA自閉症療育ブログ。
自閉症や発達障がいのお子様は良く「この子は衝動性が高くて・・・」と言われることもあるでしょう?
少しだけ衝動性が高いお子様についてどのように捉えるかも書かせてください。
衝動性が高くて、というのは「我慢ができないんです」と言い換えても良いです。
そのようなことを聞いたことがある人もいると思います。
さて、「衝動性が高い」と言われるお子様についてどのように捉えれば良いでしょうか?
嶋崎 まゆみ (1997)は、
手や口を出したい衝動を我慢することによって周囲から適応的であると遇されること(遅延大強化)よりも、
衝動に駆られて行動することによってその場の欲求は満たされるが(即時小強化)、
結果的に罰を受けるような行動を選択してしまうことを意味している
同時に、この様な行動傾向は現実の生活場面では周囲の大人や仲間からも問題行動あるいは不適切行動とみなされがちである
と述べました。

嶋崎 まゆみ (1997)のように捉えれば「衝動性が高い」ということはお子様のの問題行動や不適切行動を見て行く視点としてとても大切です。
お子様のやっている行動について、
お子様のやっている行動は長期的に見ればそのお子様にとって不利な状況になる可能性が高い行動
である場合「衝動性が高い行動」と見ることができるでしょう。
例えば、
・ お菓子を食べたいと思ったとき、お菓子をすぐに手に入れるために大きな声で泣いて手に入れる(即時小強化を得る)が、この行動を行うことで集団の中で仲間としてはあまり受け入れられる(遅延大強化を得る)ことは少ない
・ お友達が使っているおもちゃが欲しいとき、おもちゃをすぐに手に入れるために相手を叩き手に入れる(即時小強化を得る)が、この行動を行うことで集団の中で仲間としてはあまり受け入れられる(遅延大強化を得る)ことは少ない
・ クラスでみんな座って先生の読む絵本を聞くとき、あまり面白くないのでもっと面白い園庭に出て遊ぼう(即時小強化を得る)と思ってすぐに教室から出て行くが、この行動を行うことで集団の中で仲間としてはあまり受け入れられる(遅延大強化を得る)ことは少ない
と言った行動です。

以上のような行動がいろいろな場面で散見された場合、そのお子様は衝動性が高い、ということができます
ポイントを2点お伝えしましょう。
ポイントは、
(1)即時小強化を得る行動は不適応に見えるが、本人にとっては意味がある(おもちゃがすぐ手に入る、楽しい時間が手に入る)
(2)その行動が集団の中で仲間として受け入れられないとお子様本人が気がついていないこともある
この2点です。
大人の場合は本ブログページで出してきた例にあるように、
・ 引っ越しのためにお金を貯めたい
・ 友達と深く仲良くするために怒りたくない
・ 引き締まった身体を手に入れたい
・ 自分の自由な時間を手に入れるために余分な仕事は断りたい
と自分で設定をした「目的」がある中で、その目的を達成するための行動が維持できなかった、
という形になるので自分自身でも「あぁ、またやってしまった」とセルフコントロールできなかったことに対して自覚があるでしょう。
ただお子様の場合は本人に自覚はないかもしれません。

お子様自身が自覚がないかもしれない、という点は「衝動性」と「セルフコントロール」をお子様の療育の視点に落とし込む時にはかなり重要なポイントだと個人的には思っています
「衝動性」と「セルフコントロール」の理論は時間を織り込んだ理論である
「衝動性」と「セルフコントロール」の理論は時間を織り込んだ理論である。
このことを知っておいて欲しいです。
時間を織り込むとは「強化子が手に入るまでの時間を織り込む」ということで、これは療育を行う上でもとても大切な考え方だと思います。
「そのお子様が大きな声を出すのは親御様の注目を引くことが目的だよ」や「そのお子様が頭を打ちつけるのは自分の欲しいおもちゃを手に入れたいからだよ」、「そのお子様が物を投げるのは課題から逃げるためだよ」、
上のように行動の目的を分析することをABAでは「機能分析」と呼び、「機能分析」は療育の世界では有名です。

例えば4つの行動分類は有名で以下の4つの分類を聞いたことがあるかもしれません。
・ 注意引き
・ 要求
・ 逃避/回避
・ 自己刺激
の4つです。
お子様の自発的な行動には意味があるのだと仮定し、その行動の意味を行動の前後を含んで観察することで分析をする、このような機能分析の方法はABAではとても重要で使える技術ですが、
本ブログページでご紹介している「衝動性」と「セルフコントロール」の理論は「行動の機能の理論(機能分析を行うための理論)」とは重なっている部分もありますが少し毛色が違います。
「衝動性」と「セルフコントロール」の理論は強化子が手に入るまでの時間に注目した理論
であると言えます。
上でも書きましたが、
即時小強化 ・・・ 時間的に早く手に入る小さな、手に入れると嬉しい/安心する結果
遅延大強化 ・・・ 手に入るまでに時間はかかるけれども大きな、手に入れると嬉しい/安心する結果
でした。
上の内容によれば、衝動性の高さ、セルフコントロールの拙さが問題となる場合は、強化子を手に入れる際、少し時間がかかるその時間が待てない状態、と言い換えられるでしょう。
すると、もし衝動性の高さ、セルフコントロールの拙さが問題となる場合、方向性の1つとしては「強化子が手に入る時間が遅延されても大丈夫なように練習をする」という方向性が導けます。
強化子とは「行動した結果、手に入れたかった目的」です。
このように考えてもらって構いません。
そのため、上でご紹介した「行動の機能の理論(機能分析を行うための理論)」の内容で分析できるものです。
本ブログページでご紹介している「衝動性」や「セルフコントロール」の理論は、「行動した結果、手に入れたかった目的」ではなく、
「行動した結果、手に入れたかった目的」を手に入れるまでの時間に注目した理論、ということができます。
そしてもう一つとても大切なことも書いておきましょう。
セルフコントロールとは上でもご紹介しましたが、
セルフコントロール = すぐに手に入る即時小強化を選択せず遅れてくる大きな遅延大強化を選択すること
でした。
さて、ここまでの内容から「衝動性」と「セルフコントロール」の理論とは強化子を手に入れるまでの時間を扱った理論であることがわかりましたが、
「セルフコントロール」が成立するために必要な重要な条件として「遅れてくる大きな遅延大強化」という言葉はキーワードです。
「遅れてくる大きな遅延大強化」、これは時間が遅れてやってきた分、強化子が大きくなっている必要がある、ということなのですが、
例えば「1分後にレバーを押せばチョコレートが1つもらえる」と「3分後にレバーを押せばチョコレートが5つもらえる」のであれば、
もしチョコレートが強化子であった場合、「遅れてくる大きな遅延大強化」となる可能性があるでしょう。
しかし、「1分後にレバーを押せばチョコレートが1つもらえる」と「3分後にレバーを押せばチョコレートが1つもらえる」」となってしまうと、
遅れてきても強化子は大きくなっておらず、セルフコントロールは成立しません。
本項にて「衝動性」と「セルフコントロール」の理論については、
・ 「行動した結果、手に入れたかった目的」を手に入れるまでの時間に注目した理論
・ 強化子が遅れてやってきたときに大きくなっていないとセルフコントロールは成立しない
の2点も覚えておいてもらえればと思います。

さいごに
本ブログでは「衝動性が高いとはどういうことか?オペラント条件付けに時間を織り込んだセルフコントロールの理論」ということで「衝動性」と「セルフコントロール」について書いて来ました。
ABA自閉症療育で扱われる理論ではオペラント条件付けの理論が多く扱われており特にその中で「行動の機能の理論(機能分析を行うための理論)」に注目されることが多いです。
ただ「行動の機能の理論」だけでは行動の理解や支援の方向性を探る中で「衝動性」や「我慢」を考えることは不十分だと思います。
今回ブログで扱った「セルフコントロールの理論」がABA療育や人間の行動を行動化学で扱うときに使える理論なんだ、と覚えてもらえれば幸いです。
また次回のブログもどうぞよろしくお願いいたします!
【参考文献】
・ 実森 正子・中島 定彦 (2000) 学習の心理 第2版 サイエンス社
・ Niklas Törneke (2009) Learning RFT An Introduction to Relational Frame Theory and Its Clinical Application 【邦訳 監修:山本 淳一 監訳:武藤 崇・熊野 宏昭 (2013) 関係フレーム理論(RFT)をまなぶ 言語行動理論・ACT入門 星和書店
・ 嶋崎 まゆみ (1997) 発達障害児の衝動性とセルフコントロール. 行動分析学研究. 11, 29-40