親御様のやって欲しい方向性にお子様のモチベーションも巻き込む交渉、方法を具体的に示す必要性(ABA自閉症療育テクニック32)

例えば親御様はお子様が学校のクラスメイトと仲良くなって欲しいと思っているが、お子様は特に仲良くなりたいとは思っていない。

お母様の希望とは違い、お子様はクラスメイトと仲良くなろうというモチベーションがあまり無い、このようなことがあった場合、どうすれば良いでしょうか?


Enせんせい

さて、上で「お子様は特に仲良くなりたいとは思っていない」と書きましたが、ほとんどのお子様はクラスメイトと上手くやっていきたいと思っているし、例えばクラスメイトから褒められたり認められたりすることは嬉しいものです。

お子様の中には本当にお友達と仲良くなりたいとは思っていないように見えるお子様もいらっしゃいますが、

お友達に全く興味がない、というお子様は特に年長さん以上の年齢になると、ほとんどいないんじゃないかなと考えています。


例えばお子様は本当のところはクラスメイトと仲良くなりたいと思っている(少なくとも興味はある)ものの、これまでのクラスメイトとの関わりの中で自信を無くしており、

自分は上手く関わって行くことができないと考え、

お子様自身はお友達が欲しいものの、「特に友達が欲しいとも思っていない」と発言する、というケースもあるでしょう。

「親御様の希望とお子様の希望が違う場合」とは、このようなときも含んで考えてください。


本ブログでご紹介するのはお子様との「親御様のやって欲しい方向性にお子様のモチベーションも巻き込む交渉」と「方法を具体的に示す必要性」になります。

本ブログの内容で使用するテクニックは基本的にはお話し合いができるお子様を想定しました。

本ブログでは小学校3年生くらいの年齢のお子様を想定していますので、エピソード例については小学校3年生くらいのお子様をイメージしてください。


お子様とのお話し合い


自分の気乗りしないことを提案されてもモチベーションは上がらない

これはみんな共感できることでしょう。


お子様はクラスメイトと仲良くなろうというモチベーションがあまり無い、でも親御様はもっとお子様にクラスメイトと仲良くなって欲しいと思っていました。


もしお子様がクラスメイトに話しかけることに対し「やりたいと思っていない」場合、お子様へ「クラスメイトに話しかけてみたら?」と言ったとしても、

そのときはその場をやり過ごすため「うん。わかった」と返ってくるかもしれませんが実際にお子様が実行してくれる可能性は低いでしょう。


Enせんせい

そのため、このようなとき私は「親御様のやって欲しい方向性にお子様のモチベーションも巻き込む交渉」と「方法を具体的に示す必要性」を意識してお子様と話し合って欲しいと思います。

さて上で出した例、親御様がお子様にクラスメイトに自発的に話しかけるようになって欲しいと思っていた場合、どのように考えていけば良いのかをこれから見ていきましょう。



親御様のやって欲しい方向性にお子様のモチベーションも巻き込む交渉

上で本ブログでは小学校3年生くらいの年齢のお子様を想定していますので、エピソード例については小学校3年生くらいのお子様をイメージしてくださいと記載した通り、以下からそれくらいのお子様をイメージして読んで行ってください。


例えば、




Enせんせい

続きの会話を見ていきましょう。



お子様はここで「お友達がなわとびを誉めてくれるのは嬉しい」と言っています。

つまり「お友達がなわとびを誉めてくれること」が獲得できる行動を行うことについて、お子様はモチベーションを持てる可能性がある、と言って良いでしょう。


上で『会話の中できっとお母様は「お友達と一緒にやったら?」等、言いたかったでしょうが、一旦我慢我慢』と書きましたが、ここまで聞くことができたらお友達と関わることを勧めても大丈夫だと思います。

以下、会話の続きを見ていきましょう。

以下の会話ではなわとびを通してお友達と関わることをお子様へ勧めています。


ーー以上ーー


以上が事例です。

さて、ここまでが「親御様のやって欲しい方向性にお子様のモチベーションも巻き込む交渉」の内容となります。


本事例では親御様はお子様にクラスメイトへ自発的に話しかけるようになって欲しいと思っていました。

しかしお子様へただ「クラスメイトに自分から話しかけなさい」と言ってもモチベーションを持てない、という設定でした。


上の事例では会話を通してわかったこととして、お子様は「好きななわとびについてお友達が褒めてくれる」ことについては嬉しく思っていて、

「お友達がなわとびを誉めてくれること」が獲得できる行動を行うことについて、お子様はモチベーションを持てる可能性があることがわかりました。


ここまで分かった上で例えば、

お子様が、


上のことを親御様とお子様で合意してお友達にやってみよう、となったとします。


実は上のことは、



の2つの方向性を満たす内容です。


だと私は思います。


Enせんせい

私たちもそうです。

確かにその方が良いだろうなと思うことでさえも、自分自身が気乗りしないと行動が実行されません。


例えば?

等ですかね。


「まー、確かにその方がええかもけど」と思うかもしれませんが、気乗りしないでしょう?

相手から突然、実際にこんなことを言われたら「うん。またタイミング見てやってみるわ!」等返答して一旦、その場をやり過ごしそうでしょう?

そして、ずーーーっとやってみるタイミングは訪れないことを想像することも難しくありません。


気乗りしない中で「クラスメイトに話しかけろ」言ったとき、お子様も上の内容を聞いたときのあなたと似たような気持ちかも、です。

このように考えるとお子様が「あー、確かに」とか「それはやってみたいな」と納得したりモチベーションを持った状況を作ることがいかに大切かがわかると思います。


さて、ここまででお子様がモチベーションを持てるターゲットが設定できたとしましょう。


それは、

でした。


ここまで親御様とお子様で合意できたとき、次にやって欲しいのが「方法を具体的に示す必要性」を織り込むことです。

以下「方法を具体的に示す必要性」について見ていきましょう。


見ていきましょう!


方法を具体的に示す必要性

「方法を具体的に示す必要性」とは何でしょうか?

ここまでで、

を行うことの合意が取れいてるので、お子様も上のことを行うことのモチベーションを今持っています。


Enせんせい


私たちは「こうしよう」と決めていてもその方法の具体的なやり方が不明確であれば「実際にその場面にて行動を実行することができない」ということが起こりえます。

この例で言えば「いざ、学校に行って休憩時間を迎え、クラスメイトに見ていてと言おう」と思ったけれど「あれ、そういえばどうやってやればええんやろう?」や「いったい、いつやりだしたらええんやろうか・・・」となってしまって実行できない、

と言った感じです。


こうなってしまってはせっかく

にお子様本人もモチベーションを持ってくれていたとしても実行できないかもしれません。

そして実行できないことが続くとせっかく持っていたモチベーションも下がってしまいます。


そのため、


例えば?



このように、

について「いつ」「だれに」「どこで」「どうやって」「なにを」をお子様と話し合うことで具体的にイメージさせ実行する可能性を高めさせることができます。


ここまでできたのち、最後に可能であれば、

と言ってロールプレイまでできればかなり具体的になるのでお勧めです。

ロールプレイというのはお母様が花子ちゃん役になって一度、劇のように演じてみるという練習となります。


Enせんせい


さいごに

本ブログではお子様との「親御様のやって欲しい方向性にお子様のモチベーションも巻き込む交渉」と「方法を具体的に示す必要性」について書いてきました。


「親御様のやって欲しい方向性にお子様のモチベーションも巻き込む交渉」では、

の2つの方向性を満たす内容にすることが理想的です。


なので、最初はそれを目指すと良いと思います。

ただ、難しい場合も多いでしょう。


私のこれまでの支援の体感だと10回機会があったとき、5回くらいしか2つの方向性を満たす内容にまとめることが難しい、といった感じです。

難しい場合は「外付けの強化子」も用意しましょう。

外付けの強化子はできれば無い方が良いので、使用するのは交渉が難航する場合だけで大丈夫です。


「外付けの強化子」とブログ中、検索窓に打ち込んでいただければキーワードの書かれた記事が出てきますが例えば、

『「緊張」や「不安」に対して段階的に(できれば本人が正の強化を取りに行ける形で)エクスポージャーを設計する(ABA自閉症療育テクニック7)(https://en-tomo.com/2022/07/01/exposure-tips-for-toddlers/)』

などが参考になると思います。


『「「緊張」や「不安」に対して段階的に(できれば本人が正の強化を取りに行ける形で)エクスポージャーを設計する(ABA自閉症療育テクニック7)」』のサムネイル

「方法を具体的に示す必要性」については「いつ」「だれに」「どこで」「どうやって」「なにを」するかをお子様と話し合いイメージを通してお子様がどうやって行うのかを具体化し、可能であればロールプレイも行うことを推奨していることもご紹介しました。


さて、比較的に最近出てきたABAの1つに「ACT:Acceptance and Commitment Therapy(アクト)」というものがあるのですが、ACTでは「価値」を取り扱うことを1つ重要なこととして捉えます。

Steven C. Hayes・Kirk D. Strosahl・Kelly G. Wilson (2012) はACTにおいて価値とは自由に選ばれるものであり、進行中で、動的で、徐々に展開して行く活動パターンがもたらす言語的に構成した結果であると述べました。


私自身もこれは思うことなのですが人によって「興味があること」「好きなこと」「大切に思うこと」は違うのだなぁと感じることが多いです。

このこと自体は私は多様性の1つであり、個人的にはポジティブに捉えているのですが、ACTの考え方からも、

「社会的にこっちの方が良いとされているから、こうしなさい」と言った形でのモチベーションの誘導だけではなかなか難しい場面もあるな、と感じます。

それは、私たち大人も、そしてお子様もきっと同じでしょう。


本ブログの内容が誰かの日々の療育の参考になれば幸いです。

また、どうぞよろしくお願いいたします。



【参考文献】

・ Steven C. Hayes・Kirk D. Strosahl・Kelly G. Wilson (2012) Acceptance and Commitment Therapy The Process and Practice of Mindful Change 【邦訳: 武藤 崇・三田村 仰・大月 友 (2014) アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)第2版 星和書店】