大人の方が不安や恐怖で困っている場合の対応策の1つの方法として、
(1)不安や恐怖がどうして生じているのかを説明し、
(2)不安や恐怖に直面して慣れて行く必要があることを説明し、
(3)ホームワーク等を設定し不安や恐怖に直面して慣れて行く
ことによって支援し不安や恐怖に対応する方法があります。
(1)と(2)は専門用語では「心理教育」と呼ばれ、
(3)はエクスポージャーや行動実験などと呼ばれるものです。
大人の方が不安や恐怖で困っている場合には上記の手続きで良いかな、と思います。
大人の方に行うとき上記(1)〜(3)以外に、不安や恐怖に直面することのモチベーションが下がらないような手続きも入れながら行うのですが、
大人でもモチベーションが下がらないような手続きも入れながら行う必要があるのですから、
これがお子様が行うとなった場合には不安や恐怖に直面することへのモチベーションをどのように保つのか、ということが1つのポイントです。
また大人の場合は基本的に「不安や恐怖で(社会生活で)困っています」と自分自身なんとかしたいというモチベーションをそもそも持って来談されることがほとんどですが、
お子様の場合は親御様が連れて来るため、自分自身なんとかしたいというモチベーションをお子様自身が持っていない状態で来談されることがほとんどでしょう。

この「来談動機」が大人とお子様で違うと言う点は結構大事だと思っています
さてこのような状態から始まるお子様に対しての不安や恐怖への対応ですが、どのような方向性で対応をすれば良いのか、「正の強化」を取りに行く形で対応するという視点から見ていきましょう。
その前に簡単に「不安」や「恐怖」について、どのように対応することで克服することが可能なのかについて書いて行きます。

不安や恐怖はどのように対応すれば良いか?ー簡易説明
お子様の不安や恐怖への対応について、親御様が連れて来るため、自分自身なんとかしたいというモチベーションをお子様自身が持っていない状態で来談されることがほとんどと上で書いたこと以外に、
特に幼児期のお子様の場合は、
(1)不安や恐怖がどうして生じているのかを説明し、
(2)不安や恐怖に直面して慣れて行く必要があることを説明し、
(3)ホームワーク等を設定し不安や恐怖に直面して慣れて行く
という手続きが使えないことがあります。
それは、そもそも(1)(2)の心理教育パート部分が内容が難しく特に幼児期のお子様の場合、理解が難しいです。
幼児期のお子様に心理教育を行う場合はイラストを描いて例えば「コワコワ星人」と名付け、「コワコワ星人をやっつけよう」等の設定を作って、お子様にも分かりやすく説明することも有りかと思います(参考 John S March & Karen Mulle ,2006)。
が、少し言葉の発達が遅れていたり等すると、実際、個人的にはなかなか難しいなと思うこと多いです。
さて不安や恐怖はどのように対応すれば良いのでしょうか?
一言で言えば、
「不安である、恐怖がある状況に能動的に触れることで慣れる」ことによって克服が可能です。
(1)不安や恐怖がどうして生じているのかを説明し、
(2)不安や恐怖に直面して慣れて行く必要があることを説明し、
(3)ホームワーク等を設定し不安や恐怖に直面して慣れて行く
上の大人に対して行う手続きも「不安である、恐怖がある状況に能動的に触れることで慣れる」ことを行うための手続きとなります。
お子様が不安や恐怖は「正の強化」を取りに行く形で対応する
「不安である、恐怖がある状況に能動的に触れることで慣れる」ことによって克服が可能と上で述べました。
「正の強化」は『行動の前になかったものが行動ののちに出現し、行動が増えた場合を「正の強化」』と定義できます(参考 坂上 貴之・井上 雅彦,2018)。
『お子様が不安や恐怖は「正の強化」を取りに行く形で対応する』とは何でしょうか?
「正の強化」は上のように『行動の前になかったものが行動ののちに出現し、行動が増えた場合を「正の強化」』と定義できるのですが、
自発的に行動ののちに出現する結果を取りに行く行動です。
「自発的に行動ののちに出現する結果を取りに行く行動」であるために、「不安である、恐怖がある状況に能動的に触れること」が期待でき、
そして「不安である、恐怖がある状況に能動的に触れること」ができれば、「慣れる」は勝手に生じるので、結果的に「不安」や「恐怖」が克服できる、ということになります。
これを簡単に言えばお子様が「やってみたい」という気持ちを持って、不安や恐怖の対象に取り組む、と言い換えられるでしょう。
さて、大人の方が不安や恐怖で困っている場合は「不安の度合いはどれくらい下がりましたか」や「恐怖の程度は今、どのくらいですか?」と自分自身の不安や恐怖の状態をモニタリングしてもらい、
その程度が下がって行くことを報告してもらう中で「慣れ」が生じていることを感じてもらう、
ということを行うことがあるのですが、対象がお子様の場合、自分自身の不安や恐怖の状態についてモニタリングすることが難しいことが多いです。
そのためお子様の場合は、
「不安や恐怖でできなくて困っていることが、どの程度できるようになって行ったか」という、行動指標にて不安や恐怖への対応が上手く行っているかどうかを評価しましょう。

例えばお友達に話しかけることが不安なお子様がいたとします。
お友達に話しかけるためのターゲットとして、朝「おはよう」とあいさつをすることを最初のターゲットにしました。
朝「おはよう」とあいさつをすることはターゲットになっているので今、できていない行動です。
朝「おはよう」とあいさつをするとき、お子様は不安からか緊張してあいさつができていません。
このとき「お母様があいさつをしたあと、続けてあいさつをする」とか「お母様と一緒にあいさつをする」とか、
お子様が自分一人であいさつをするではなく、「これだったらやっても良い」というレベルにターゲットを下げ行う、ということも大切です。
このようなターゲットのレベル調整も大切だ、というところを知っておいてもらった上で、
本ブログページ内で書いている『「正の強化」を取りに行く形で対応する』ことも大切なので、
このことについて書いていきましょう。
『「正の強化」を取りに行く形で対応する』とき、今から3つのパターンをご紹介します。
可能であればこれから書く3つのうち最初に示す2つのパターンを併用して対応をしてもらい、
2つのパターンで行けなかったとき、残りの1パターンも併用して行う、という方向性で対応してください。
パターン1:お子様の好きなキャラクター等を使って気持ちを乗せる
パターン1はお子様の好きなキャラクター等を使って気持ちを乗せるです。
これは可能であれば対応してもらいたい3つのうち2つのパターンのうちの1つになります。
パターン2と併用しましょう。
『「正の強化」を取りに行く形で対応する』ことを簡単に言えばお子様が「やってみたい」という気持ちを持って、不安や恐怖の対象に取り組む、と言い換えられると上で書きました。
パターン1のお子様の好きなキャラクター等を使って気持ちを乗せるは例えば、
・お友達にあいさつをすると、カッコ良い○○戦隊みたいだよ
・○○ちゃん(好きなキャラクターの名前)が、お友達にあいさつすることを応援してくれているよ
と言った感じでお子様の気持ちを乗せ「やってみたい」という気持ちにさせることです。
上手く行けば、あいさつをするという今、お子様にとって不安に感じていることを楽しみながら達成することが可能でしょう。
パターン2:社会的な強化子を使って気持ちを乗せる
パターン2は社会的な強化子を使って気持ちを乗せるです。
これも可能であれば対応してもらいたい3つのうち2つのパターンのうちの1つになります。
社会的な強化子とは人との関わりを取りに行く形で行動が生起する場合を言い、代表的なものは「褒め」です。
例えば「お母さんが褒めてくれるから、頑張る」と言った感じとなります。
またもし「お母様があいさつをしたあと、続けてあいさつをする」とか「お母様と一緒にあいさつをする」と言ったように課題レベルを下げてお子様が行えたとき、
あいさつをした相手のお子様から笑顔でおはようとあいさつが返ってきたとしましょう。
あいさつを行うことが不安だったお子様も、実際に相手からおはようとあいさつが返ってきたことが嬉しいかもしれません。
これはあいさつに伴う自然な強化子かと思うのですが、このとき「○○ちゃん(あいさつを返してくれた子)も、おはようって言ったら嬉しそうにしていたね」と言った形で、
あいさつをしたことで返って来る社会的な強化子に反応しやすくなるようお子様にフィードバックしてあげるのが良いでしょう。
パターン3:外付けの強化子を使って気持ちを乗せる
可能であれば対応してもらいたい3つのうち2つのパターンは以上の2つのパターンです。
もし上2つのパターンが難しい場合、外付けの強化子を使って気持ちを乗せる方法もご紹介します。
例えば、
・ あいさつができたら、あとでプリンを買ってあげる
・ あいさつができたら今度、動物園に連れて行ってあげる
と言ったようにお子様が欲しいアイテムや活動が手に入るという設定であいさつを行ってもらうことを促す方法です。
本来あいさつを行ったことで「プリン」や「動物園」は手に入りません。
「外付け(そとづけ)の強化子」は私がそう呼んでいる造語です。
本来あいさつは社会的な行動ですので、お菓子や外出という活動が結果として伴うのは不自然でしょう?
行動してもらうために交渉時、不自然な強化子を使用することを私は外付けの強化子と呼んでいます。

どうして「パターン3の外付けの強化子を使って気持ちを乗せる」がパターン1やパターン2と比べて劣っているのでしょうか?
パターン3の場合、あいさつをする目的は「プリン」や「動物園」が欲しい、ということが強く、「プリン」や「動物園」が無いとあいさつをしてくれない、ということになりがちです。
「プリン」や「動物園」が無いとあいさつをしてくれないとなると、本来の目的からはずれてしまうでしょう?
そのためもし「パターン3の外付けの強化子を使って気持ちを乗せる」を行うことになったとしても、
例えばあいさつができたのちはしっかりと褒めてあげるやカッコ良い○○戦隊みたいだよと声をかけてあげることや「○○ちゃんも、あいさつして喜んでくれていたね」などで、
パターン1やパターン2のみに移行できないかどうかも期待しつつ、行うようにしてあげてください。

さいごに
実際に行ってみると「パターン1のお子様の好きなキャラクター等を使って気持ちを乗せる」や「パターン2の社会的な強化子を使って気持ちを乗せる」ではお子様は実行してくれず、
「パターン3の外付けの強化子を使って気持ちを乗せる」を行うことになることも多いです。
不安や恐怖への対応は少し難しく感じるかもしれませんが基本の、
「不安である、恐怖がある状況に能動的に触れることで慣れる」ことによって克服が可能
ということ、
「自発的に行動ののちに出現する結果を取りに行く行動」であるために、「不安である、恐怖がある状況に能動的に触れること」が期待でき、
そして「不安である、恐怖がある状況に能動的に触れること」ができれば、「慣れる」は勝手に生じるので、結果的に「不安」や「恐怖」が克服できる、ということ
を知っておくと支援方法が浮かんでくるかもしれません。
もしお子様の不安や恐怖で困っている、と言った場合は本ブログを参考に支援方法を組んでみるのはいかがでしょうか?
【参考文献】
・ John S March & Karen Mulle (2006) OCD IN CHILDREN AND ADOLESCENTS:A Cognitive-Behavioral Treatment Manual,2nd Edition 【邦訳 原井 宏明・岡嶋 美代 (2008) 認知行動療法による子どもの強迫性障害治療プログラム OCDをやっつけろ 岩崎学術出版社】
・ 坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 行動分析学 行動の科学的理解をめざして 有斐閣アルマ