
ABA自閉症療育でお子様に言葉を教えていて、「あー、ここが山場だなぁ」というプログラムが私の中でいくつかあります
例えば、
受容課題、設定の例としてはカードをお子様の前に並べ伝えたカードを選択してもらう課題があるのですが、ターゲットがりんごであった場合、最初の設定では、
りんごを1枚並べて「りんご」と伝え、りんごを取ってもらう
これは1枚しか無いカードを選べば良いので簡単でしょう?
それが何度か正解できたら、
次にりんごとぶどうの2枚を並べて「りんご」と伝え、りんごを取ってもらう
それが何度か正解できたら、
次にりんごとぶどうとバナナの3枚を並べて「りんご」と伝え、りんごを取ってもらう
と言うことを行うのですが、
実はここまではそんなに難しく無いことが多い、という印象を持っています。
私が難しいと感じているのは次のステップで、
りんごとぶどうとバナナの3枚を並べて「りんご」と伝えたときはりんごを取ってもらい、「ぶどう」と伝えたときはぶどうを取ってもらう
このように連続して同じ「りんご」を取り続けたステップの先にある「取り分け」のステップが1つの山場になるお子様がいます。

本ブログのタイトルに「質問弁別課題(質問の聞き分け課題)」と書きましたが、このプログラムの課題もまさにその山場の1つです
まずは簡単に「質問弁別課題」とは何かということと、どうしてこの課題が山場になるのかについて解説し、どのように実践していけば良いのかについて書いて行きましょう。
実践ではエラーレスラーニングを用いたアイディアをご紹介します。
「質問弁別課題」とは?
例えば「りんご」のカードを見せて、
・ これなに?
・ なにいろ?
・ どんなかたち?
・ なんのなかま?
上の4つの質問のうち、少なくとも2つの質問に答え分けられる。
またもう少し課題のレベルを下げたもので言えば、「赤い丸」のカードを見せ、
・ なにいろ?
・ どんなかたち?
の質問に答え分けられる。

※上のカードは、
「果物の絵カード(ABA自閉症療育教材)(https://en-tomo.com/2021/11/26/teaching-materials-fruit/)」
と
「形(色付き含)丸、四角、三角の絵カード(ABA自閉症療育教材)(https://en-tomo.com/2023/02/10/teaching-materials-shape/)」
にて入手可能
このようなことができることを目指して行う課題を私は「質問弁別課題」と呼んでいます。

できるお子様も結構できるのですが、このプログラム課題で詰まってしまうお子様もいて、
詰まってしまった場合なかなかクリアするのが大変だなぁと感じる課題の1つです
質問に対応して答え分けるこのステップができないということは、例えば、
「今日、なにしたの?」等の5W1Hを含む質問に答えられない
などといった、会話をする上での重要なプログラムの発展に進んで行くことが難しい可能性もあります。
質問をちゃんと聞いて、それに対応した形で答えられる
「質問弁別課題」ではそのことを目指します。
「質問弁別課題」で生じるエラーのパターンの主なものは、
「りんご」のカードを見せてお子様へ、
・ これなに?
・ なにいろ?
・ どんなかたち?
・ なんのなかま?
と聞いても全て「りんご」と答えてしまい、質問に対応して答え分けることができないというエラーパターンです。
同じように「赤い丸」のカードを見せ、
・ なにいろ?
・ どんなかたち?
と聞いても全て「あか」や「まる」のどちらかだけを答え続けてしまい、質問に対応して答え分けることができないが主なエラーパターンとなります。
また別のパターンとしてはずっと「あかい まる」と答え続けてしまう場合もあるでしょう。
「質問弁別課題」はどうして難しいのか?
実は「質問弁別課題」について過去に「言葉を聞き分ける練習「うん」「はーい」「いいよ」などを用いて質問を聞き分ける(ABA自閉症療育テクニック24)(https://en-tomo.com/2024/02/16/discriminate-words-and-questions/)」でも書きました。
上のブログページでは「生活の中で実践できる」方法をテーマに書ましたが、
今回のブログページでご紹介する「質問弁別課題」はもっと課題的です。

上のURLページ内では、
スプーン、くつ、かさを順番に見せて「これ 何に使うもの?」と課題として取り組んでいるときには正しく答えられるにも関わらず、日常の中でふいにスプーンを見せて「これ 何に使うもの?」と聞いても「スプーン」と答えてしまう。
このことをどう捉えれば良いのでしょうか?
正しく「これが正解である」という答えを示すのは難しいのですが、
例えばO.Ivar Lovaas (2003)の言った「刺激過剰選択傾向(しげきかじょうせんたくけいこう)」は参考になると思います。
O.Ivar Lovaas (2003)によれば、
「刺激過剰選択傾向」とは複合する刺激の要素の中の1要素、あるいは限られた範囲の要素だけにしか反応しないことを示した言葉です。
と書きました。
そして上のURL内で私自身が感じていることとして、
(1) 「聴覚刺激」よりも「視覚刺激」に引っ張られて反応してしまう
(2) 以前に答えて正答だった答えに引っ張られて反応してしまう
というお子様がいらっしゃると感じている、という私見を書いています。
詳しくは上記にあるURLページをご覧になって欲しいですが、自閉症(私は自閉症だけでなく、言葉の遅れの大きいお子様も含むと思っている)のお子様の中で上記の傾向を持っている方がいて、
そのような方はその傾向があるが故に「質問弁別課題」が難しくなっている、と個人的には考えているところです。
「質問弁別課題」を行う前の前提
上で、
例えば「りんご」のカードを見せて、
・ これなに?
・ なにいろ?
・ どんなかたち?
・ なんのなかま?
上の4つの質問のうち、少なくとも2つの質問に答え分けられる。
またもう少し課題のレベルを下げたもので言えば、「赤い丸」のカードを見せ、
・ なにいろ?
・ どんなかたち?
の質問に答え分けられる。
と、「質問弁別課題」について2パターンの課題をお伝えしました。
今回のブログページでは後者の「赤い丸」のカードを見せ、
・ なにいろ?
・ どんなかたち?
の質問に答え分けられる。
という設定で解説をして行きます。
「質問弁別課題」は行う前に前提のスキルとして、
・ 赤色のカードを見せて「なにいろ?」と聞いたとき「あか」と答えられる
・ 丸の描かれたカードを見せて「どんなかたち?」と聞いたとき「まる」と答えられる
上の2つが達成しているお子様から導入できる課題です。

上のイラストにあることができるようになっていることを前提として以下、エラーレスラーニングを用いた方法を見て行きましょう。
※上のカードは、
「色の絵カード(ABA自閉症療育教材)(https://en-tomo.com/2023/02/03/teaching-materials-color/)」
と
「形(色付き含)丸、四角、三角の絵カード(ABA自閉症療育教材)(https://en-tomo.com/2023/02/10/teaching-materials-shape/)」
にて入手可能
ABA自閉症療育の1つの山場「質問弁別課題」に対応するーエラーレスラーニング
お子様に「赤い丸」のカードを見せ、
・ なにいろ?
・ どんなかたち?
と質問を行い分けます。
今回は例として「赤い丸」のカードを見せどちらの質問をしても「あか」と答えてしまうお子様を想定して解説をしましょう。
今回ご紹介するのは、ABA自閉症療育の1つの山場「質問弁別課題」を切り抜けるための、エラーレスラーニングを用いた対応となります。

「エラーレスラーニング(Errorless Learning):無誤学習(むごがくしゅう)」とは最初から正解できるようヒントを多めに入れ、正解をさせる中で学習をさせる方法です。
特に今回のお子様のように「赤い丸」のカードを見せどちらの質問をしても「あか」と答えてしまうことが何度か確認できていた場合などに有効でしょう。
エラーレスラーニングではヒントを多めに入れて正解を促すのですが、この正解を促すヒントのことを「プロンプト(Prompt)」と呼びます。
今回の例では1トライアル目と2トライアル目に「なにいろ?」と聞き、3トライアル目には「どんなかたち?」と聞くとします。
プロンプト無しの正答はデータで「➕」と表記します
このようにプロンプト無しで正答できた場合は「➕」の表記を記載する、プロンプトがついて正解したときは「p /➕」、もしプロンプトをつけても不正解だった場合は「➖」と記載しましょう
今回、お子様は「赤い丸」のカードを見せどちらの質問をしても「あか」と答えるので、例えば1トライアル目と2トライアル目に「なにいろ?」と聞いた場合、お子様は「あか」と答えるため、特にプロンプトがなくとも正答する形になるでしょう。
これまでも「どんなかたち?」と聞いてお子様からは「あか」と返ってくることが何度も確認されていました。
今回の例では1トライアル目と2トライアル目に「なにいろ?」と聞き、3トライアル目に「どんなかたち?」と聞くため、
この「どんなかたち?」と聞く3トライアル目は「➕」を狙いに行くのでは無くプロンプトを強めに入れて「p /➕」を狙いに行きましょう。

どのようなプロンプトを使うかと言えば例えばですが以下、
1トライアル目からの流れから記載します
1トライアル目:母「なにいろ?」ー子「あか」(➕)ー母「そう!すごいね(タッチする)」
2トライアル目:母「なにいろ?」ー子「あか」(➕)ー母「正解!えらい(くすぐる)」
3トライアル目:母「次変わるよ!(カードを強調して見せる)どんなかたち?まー」ー子「まる」(p /➕)ー母「頑張ったね!(頭を撫でる)」
このような感じです。
課題では「どんなかたち?」だけで「まる」と答えないと「➕」となりません。
上の青文字の3トライアル目には以下のプロンプトが入っているためデータは「p /➕」となります。
上の3トライアル目には、
・ 「次変わるよ」と注意を引く
・ カードを強調して見せ注意を引く
・ 「まー」と正答の「まる」の頭文字を伝え正答を促す
といった多くのプロンプトが入っています。

トライアルの続きを見てみましょう
4トライアル目:母「どんなかたち?」ー子「まる」(➕)ー母「そう!すごいね(タッチする)」
3トライアル目でヒントを出し正解していました。
そしてそののち『ー母「頑張ったね!(頭を撫でる)」』と強化的な関わりも行われていますので、お子様は正解であることを肯定されています。
そののちの4トライアル目はプロンプトなしで正当する確率も高いでしょう。

トライアルの続きを見て行きます
5トライアル目:母「どんなかたち?」ー子「まる」(➕)ー母「正解!えらい(くすぐる)」
6トライアル目:母「次変わるよ!(カードを強調して見せる)なにいろ?あー」ー子「あか」(p /➕)ー母「頑張ったね!(頭を撫でる)」
本ブログ中、
(2) 以前に答えて正答だった答えに引っ張られて反応してしまう
というこのような質問弁別課題に難しさを抱えるお子様の特徴を書きました。
上の特徴から、一度、「どんなかたち?」に対して「まる」で正解をしているので、今度は「なにいろ?」と聞いても「まる」と答えてしまう可能性があるでしょう。
※「なにいろ?」と聞いたら「あか」と答えなければ「+」にならない
そのため上のように質問が切り変わるタイミングで多量にプロンプトを入れて行き、エラーレスラーニングを実践して行きます。
※ 特に「どんなかたち?」から「なにいろ?」の切り替えのタイミングでプロンプトを入れなくてもエラーが生じない場合は、プロンプトを入れる必要はありません
「どんなかたち?」から「なにいろ?」の切り替えのタイミングが難しい場合は上で書いているように切り替えのタイミングでプロンプトを入れましょう
以下、イラストをご覧ください。

上のイラストのようにに質問が切り変わるタイミングでプロンプトを入れて行くのですが、トライアルを重ねる中で徐々にプロンプトを減らして行き、最終的にはプロンプトが無い形で正解できることを目指す、
これがエラーレスラーニングを用いたアイディアです。
※ プロンプトを徐々に減らして行く過程を「プロンプトフェイディング」と呼びます
※ 「/」が入っているところは、「/」が入っているところで休憩をしたことを表します
上のイラストの吹き出しの部分に使用したプロンプトを記載しました。
①「次変わるよ!(カードを強調して見せる)どんなかたち?まー」
②「次変わるよ!(カードを強調して見せる)なにいろ?あー」
③「次変わるよ!(カードを強調して見せる)どんなかたち?」
④「次変わるよ!(カードを強調して見せる)なにいろ?」
⑤「(カードを強調して見せる)どんなかたち?」
⑥「なにいろ?」
①〜⑤でだんだんとプロンプトが無くなって行っていることいることがわかると思います。
上の太文字になっている部分がプロンプトです。
⑥では太文字のプロンプトが無くなっていて17トライアル目の「どんなかたち?」と聞いてから「かたち」を答え(➕)、
18トライアル目の色を聞くトライアルで「なにいろ?」とプロンプトがない状態で「あか」と正しく色について正答しました(➕)。
「質問弁別課題」ではこの状態を狙って行きます。
上の例のようにプロンプトを減らして行くことで調整し、切り替えのタイミングでプロンプトがない状態でも➕が連続する(17と18トライアル)ことを狙ってみてください。
そののち「なにいろ?」という質問から「どんなかたち?」への質問の切り替え、
その後の「どんなかたち?」という質問から「なにいろ?」への質問の切り替えでも正答が続くことを目指して行きます。

イラストの例ではイラストサイズの問題もあり20トライアルで例を記載しましたが、もっとトライアル数が必要なお子様もいらっしゃるでしょう
お子様の状況に合わせてプロンプトを減らすペースを調整しましょう
1日でプロンプトがない状態まで持っていかず数日かけて持って行くことも良いと思います
イラスト中の「/(スラッシュ)」は休憩したタイミングです。
休憩では例えば「頑張ったね!ちょっと休憩しようか」等、伝えて30秒ほど好きなおもちゃで遊ぶ時間を持つことも良いでしょう。
但し、今回のイラスト例では書いていませんが休憩直後のトライアルではエラーが出やすいので、
・ 30秒よりも短い休憩にする
・ トライアルをゆっくりしたペースで行ってお子様が疲れないようにする
・ 休憩明けも少しプロンプトを多くしてエラーが出ないようにする
など、お子様の状況に合わせて休憩時間やトライアルのペースの調整を行います。
またもし仮にできるようになったとしても、「次の日には出来なくなっている」ことや「途中、休憩を挟むと休憩前と比べて明らかにパフォーマンスが落ちている」ことなどもあるでしょう。
他にもこのエラーレスラーニングの方法を使ってもなかなか上手く出来ない、ということもあると思います。
だからこそ「質問弁別課題」はABA自閉症療育の1つの山場と考えているのですが、根気強くやってできるように達成したい課題です。
例えばですが、もし難しい場合はプロンプトの量を調整、
6トライアル目:母「次変わるよ!(カードを強調して見せる)あかっていうんだよ、あか、まねして、あーか」ー子「あか」ー母「うん、あかだよ。あか、なにいろ?あか」
など「なにいろ?」と聞く前にお子様に「あか」と一度模倣させてから行う等、もっと多量にプロンプトを使用しても良いでしょう。

結局、プロンプトはいくら多量に使っても抜いて行くものなので、
お子様が最初に正解できる地点を探してあげる
その地点でプロンプトを多量に使うことになったとしても、
将来的にプロンプトは抜いていくので大丈夫
と私自身は考えています
やってみて難しかった場合は「質問弁別課題」を一旦、寝かしておくのも良いでしょう。
その場合は例えば「言葉を聞き分ける練習「うん」「はーい」「いいよ」などを用いて質問を聞き分ける(ABA自閉症療育テクニック24)(https://en-tomo.com/2024/02/16/discriminate-words-and-questions/)」でご紹介した、
『「うん」「はーい」「いいよ」などを用いて質問を聞き分ける』課題を日常で行ってみるなど、別の角度から聞き分ける課題を行ってみるのも良いと思います。
他にも例えば受容課題で「あかい まる」「きいろい しかく」「みどりの さんかく」をお子様の前に並べ、
・ 「あか とって」
・ 「きいろ とって」
・ 「みどり とって」
・ 「まる とって」
・ 「しかく とって」
・ 「さんかく とって」
と要素を聞き分ける課題を行い、例えば「あか」が取れたときに「そう!あかだね! これ、なにいろ?」と聞いて「あか」と答えてもらう、というのも良いでしょう。
こちらの場合は「質問が切り変わるタイミングの練習」とはなりませんが、要素に触れる機会があるため、全く意味がない、ということはないと思います。

さいごに
今回ABA自閉症療育の1つの山場「質問弁別課」と題してブログページを書いてきました。
この「質問弁別課」ですが、全てのお子様にとってというわけではないものの、本当に大きな山場となるお子様もいるなと感じている課題です。
私たちが日頃行っている会話は、相手の話した内容に合わせて共感したり、質問をしたり、賛成したり、否定したりします。
相手の言っている「言葉の内容」に対応する形で答えることを求める、この質問弁別課題。
お子様にはクリアして欲しい課題です。
またお子様の中には個人的には稀だとは思っていますが、本ブログページでご紹介した「質問弁別課題」は難しいものの例えば、
「せんせい きのう 公園 行ったんだ 誰が行ったんだっけ?」と言葉だけで聞くと「せんせい」、
「せんせい きのう 公園 行ったんだ どこに行ったんだっけ?」と言葉だけで聞くと「公園」、
「せんせい きのう 公園 行ったんだ いつ行ったんだっけ?」と言葉だけで聞くと「きのう」、
と答え分けられるお子様もいます。
そのとき私は「なんでこれはできるんやろう?不思議やなぁ」と思いますが、できるのは良いことですよね。
本ブログページでは、
(1) 「聴覚刺激」よりも「視覚刺激」に引っ張られて反応してしまう
とう、質問弁別課題に難しさを抱えるお子様の特徴を書きましたが、上のように言葉だけで聞くと答えられるお子様の場合もその影響を受けてしまっているのだと思います。
※ 本ブログページではカード(視覚刺激)を見せて「なにいろ?」「どんなかたち?」と聞く「質問弁別課題」について書いてきました
このような場合もやはり個人的には「質問弁別課題」に取り組んでいって欲しいなと思うケースです。
ABA自閉症療育テクニックの章の本ブログページでは「質問弁別課題」について書いてきました。
本ブログページの内容が誰かの参考となれば幸いです。
最後までご覧になってくださってありがとうございました。
【参考文献】
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】