言語行動について「ABA:応用行動分析学の言語行動」の章で解説をしています。
ここまで本章で3つのブログページを書いてきました。
次のページから「聞き手」の行動、「ルール支配行動」に注目し解説を行って行くのですが、ここまで3ページに渡って書いてきた「言語行動」について本ブログページにて一旦まとめておきたいと思います。
言語行動のまとめ
ABAと言えば「強化法」や「消去法」、「機能分析」や「分化強化」、「トークン」などが有名なイメージです。
特にこのブログは「ABA自閉症療育ブログ」ということで書いていますので、自閉症のお子様への療育手法に対して興味を持ってブログを見にきてくださる人が多いと思います。
さてそのような中で本章でご紹介している「言語行動」は特に自閉症療育の中では少しマイノリティなイメージです。
でも「言語行動」そして次のページからご紹介をして行く「ルール支配行動」も私は同じくらい自閉症療育にとって大切な、そして使える知識だと考えています。
ここまで「言語行動」について、
・ ABAにおける言語行動、イントロダクション:おまけ【B.F.Skinnerの提唱した言語行動とチョムスキー】(ABA:応用行動分析学の言語行動1)
・ スキナーが唱えた言語行動の定義(ABA:応用行動分析学の言語行動2)
・ スキナーが唱えた言語行動の分類(ABA:応用行動分析学の言語行動3)
という3つのブログページを書いてきました。
繋がりのある内容となっていますので、本ブログページでもう一度おさらいをして、次の「ルール支配行動」をみて行きましょう
本ブログ内でも書いていますが、
本ブログでまとめている「スキナーの言語行動」は話し手の行動です。
そして次のページでご紹介して行く「ルール支配行動」は聞き手の行動になります。
ではまず、
ABAにおける言語行動、イントロダクション:おまけ【B.F.Skinnerの提唱した言語行動とチョムスキー】(ABA:応用行動分析学の言語行動1)
からみて行きましょう。
ABAにおける言語行動、イントロダクション
「ABAにおける言語行動、イントロダクション:おまけ【B.F.Skinnerの提唱した言語行動とチョムスキー】(ABA:応用行動分析学の言語行動1)(https://en-tomo.com/2023/11/03/introduction-of-verbal-behavior-in-aba/)」のページでは、
ABAでの言語行動の発展について、ざっくりと2つに分けるとすれば、
1、ABAに多大な貢献をしたB.F.Skinnerの提唱した言語行動
からの、
2、その後に登場した関係フレーム理論(以下、RFT:Relational Frame Theory)
の2つの流れを汲んで現在、発展をしていると私は思っていますと書きました。
例えば1のB.F.Skinnerの提唱した言語行動の考え方を重視した支援方法として「The Verbal Behavior Approach(VB:バーバルビヘイヴィア)」があり、発達障がいのあるお子様の言葉の促進に貢献していると述べました(参考 Mary Lynch Barbera・tracy Rasmussen,2007)。
そして2のRFTについてはNiklas Törneke・Steven C. Hayes (2017) は人間の言語と認知を分析するための理論であり、研究プログラムで、ここ30年ほどの間で開発されてきたと述べています。
B.F.Skinnerは1990年にこの世を去っていますがB.F.Skinnerの提唱した言語行動は現在も自閉症等の発達に遅れのあるお子様に対して貢献する知見であり、
またABAの中の言語行動の理論も現在もまだ洗練されている途中のものと言えるでしょう。
私たちが見ている「言語行動」は歴史的にどのような流れの中にいるのかを本項でご紹介したブログページでは書いて来ました。
次は2つ目のページ「スキナーが唱えた言語行動の定義」をみて行きましょう。
スキナーが唱えた言語行動の定義
「スキナーが唱えた言語行動の定義(ABA:応用行動分析学の言語行動2)(https://en-tomo.com/2024/04/19/definition-of-skinner-verbal-behavior/)」では、
スキナー(上で英語で書いたB.F.Skinnerのこと)が唱えた言語行動の定義について書いています。
スキナーが唱えた言語行動の定義は以下の4点でした。
それは、
(1)発声は必ずしも必要ではない
(2)言語コミュニティの他者(メンバー)によって強化(罰)される
(3)「独り言」や「思考」も言語行動と捉える
(4)言語行動は「話し手」の行動
です。
本ブログページでも簡単に振り返って行きましょう。
(1)発声は必ずしも必要ではない
例えば谷 晋二 (2020) は、
ボタンを押すと店員がやってきて「御用はなんでしょう」とやってきてくれる
この行動は話し手が「すみません」と店員を呼ぶ行動と機能的には全く同一の機能を持っている
聞き手は店員で、店員がテーブルにやってくるという強化は聞き手によって提供されている
そのためこの場合のボタン押し行動は言語行動の1つである
というエピソードを紹介しました。
本ブログ内ののちでも書いていますがスキナーの定義した言語行動では必ずしも発声は必要とされていません。
例えば発達に遅れのあるお子様が何か欲しいときにハンドサインを行って要求をするとき、
これは発声は伴っていませんが言語行動の1つ「マンド」と呼ばれる言語行動です。
(2)言語コミュニティの他者(メンバー)によって強化(罰)される
例えば『「こっちおいで」というハンドサイン』をイメージしてください。
手の甲を上にして、指を折り曲げて相手に近くに来ることを示します。
この「こっちおいで」のハンドサイン、実はアメリカでは別の意味を持つようで「あっち行け」の意味を持つハンドサインとなるようです(参考 EXS BLOG サイト観覧日 2024.4.19)。
日本では日本人に対して「手の甲を上にして、指を折り曲げて相手に近くに来ることを示す」ハンドサインは、人が近くに来ることを求めるときに使用でき、そして成立する可能性が高いでしょう。
これは日本人が同じ「言語コミュニティ」に属しているからです。
「同じ言語コミュニティに属す」という意味は、その「言語行動」に対して共通認識や理解を持っている、ということになります。
そして上のハンドサインは「同じ言語コミュニティに属す」中で、「他者によって強化される(こちらの意図した通り、相手が動いてくれる)」ことで強化されるでしょう。
谷 晋二 (2020) はスキナーの言語行動を定義したとき、
【1】言語コミュニティの
【2】他者(メンバー)によって
【3】強化される
の3つの重要な要素が含まれると述べました。
(3)「独り言」や「思考」も言語行動と捉える
少しややこしいかもしれません
上で「言語行動」は「(2)言語コミュニティの他者(メンバー)によって強化される」と書きましたが、
他者の存在しない「独り言」や「思考」もスキナーの言語行動の定義では言語行動と捉えます。
例えば「今日食べる晩御飯の献立の手順を組むとき」や「どうして良いかわからないから、いろいろと対策を考えるとき」などは自分一人で成立する言語行動です。
三田村 仰 (2017) は独り言というのは「自分で言って、自分で聞く」という行動だ(話す行動と聞く行動)と述べています。
言語行動は「話し手」の行動ですが、「自分で言って、自分で聞く」という話し手と聞き手が両方自分になる、というパターンもあることを覚えておきましょう。
上でも書きましたが聞き手の行動は「ルール支配行動」というもので、次のページにて解説を行っていく行動になります。
(4)言語行動は「話し手」の行動
この4点目についてはこれまで上でも書いてきました。
スキナーは「言語」について「話し手の行動 = 言語行動」、「聞き手の行動 = ルール支配行動」と分類して考えた、と覚えておいてください。
以上、スキナーが唱えた言語行動の定義4点となります。
上記4点を踏まえ、スキナーの言語行動について本ブログでは、
言語行動とは「話し手」と「聞き手」が存在する言語コミュニティ内で強化(罰)されることで成立する「話し手」の行動を指し、自分自身が「話し手」と「聞き手」ともなれる行動であり、発声は必ずしも必要ではない
というように定義し扱って行くこととします。
次は最後に3つ目のページ「スキナーが唱えた言語行動の分類」をみて行きましょう。
スキナーが唱えた言語行動の分類
「スキナーが唱えた言語行動の分類(ABA:応用行動分析学の言語行動3)(https://en-tomo.com/2024/04/26/type-of-skinner-verbal-behavior/)」では、
スキナーが唱えた言語行動の分類について書いています。
スキナーの「言語行動」の分類は「単語が扱える」とか「助詞が扱える」などの分類ではありません。
その「言語行動」が「どういった機能を持っているか?」という点から分類されます。
上のURLリンクのページでより詳しく解説をしていますので、本ブログページでは簡易的にそれらの機能によって分類された言語行動たちを解説しましょう。
スキナーは言語行動を以下の7点に分類しました。
(1)マンド(mand:要求言語行動)
(2)タクト(tact:報告言語行動)
(3)エコーイック(echoic:音声模倣行動)
(4)イントラバーバル(intraverval:言語間制御)
(5)ディクテーション・テイキング(dictration taking:書き取り)
(6)トランスクリプション(transcription:書き写し)
(7)テクステュアル(textual:読字行動)
上のURLのブログ記事内でも述べましたが、特に良く意識したいのは(1)〜(4)までです。
そのため本ブログページにおいては(1)〜(4)について以下、簡単にそれぞれを見て行きます。
※ 上のURLのブログ記事内では(1)〜(7)を解説している
(1)マンド(mand:要求言語行動)
小野 浩一 (2005)は「マンド」について遮断化、嫌悪刺激の存在などの確立操作によって自発される、他者に対して特定の行動を要求する言語行動と紹介しました。
言語行動の分類を7点ご紹介しますが、マンドのみが確立操作というものによって引き起こされます
確立操作とは「空腹感」や「嫌悪感」と言った、内的な状態を含むのですが、マンド以外の言語行動は環境側の出来事(目にしたアイテム等や音声や文字)によって引き起こされることを覚えておきましょう。
マンドは日本語で「要求言語行動」、自分自身の要求を伝え、叶えてもらうことで強化を受ける言語行動です。
例えば『「暑いのでエアコンつけて」と伝え、エアコンをつけてもらう』や「手を肩に当て(発達に遅れのあるお子様が行うトイレに行きたいのハンドサイン)、トイレに行くことの許可をもらう」などとなります。
(2)タクト(tact:報告言語行動)
望月 望 (2007) はタクトは命名、記述、報告といった弁別刺激としての外界の事物による刺激性制御を受け、聴き手による社会的な般性強化刺激(「そうだね」「ありがとう」など)によって強化を受ける言語行動であると述べました。
三田村 仰 (2017) はタクトとは報告言語行動とも訳される話し手の行動のことで、例えば目の前のリンゴを見たときに「リンゴ」と声に出して言う行動であるとし、
これらの反応は養育者や周囲の人から「そうだね」「うんうん」「すごい!」などと言って強化されると述べました。
上で望月 望 (2007) が述べている「聴き手による社会的な般性強化刺激」とはこのような周りからの肯定的なリアクションのことです。
例えばお子様が目の前にトラックが走ったときに「トラック」と言ったり、ゲームを行っていて「楽しい」と言ったりすることはタクトです。
また上で望月 望 (2007) は「弁別刺激としての外界の事物による刺激性制御を受け」と述べていますが、
例えば『お腹が痛いときに「お腹痛い」と言う』ことや『頭の中で空想したエピソードを「ねーねー聞いて」と言って話す』というような、内的な状態を表現することもタクトの一つだと考えられます。
(3)エコーイック(echoic:音声模倣行動)
小野 浩一 (2005) はエコーイックについて他者の音声を刺激として、それと同じ音声を反復するおうむ返しの言語行動と述べました。
例えば、親が「ぶどう」と言い、その直後に子どもが「ぶどう」と言ったとき、親の言っていることを聞いて(にコントロールを受けて)、それがきっかけとなって反唱する行動はエコーイック行動と呼ばれます(参考 William・O’ Donohue他, 2001)。
エコーイックという言語行動は学習するときにすごく重要です。
例えばお子様は親からものの名前を教えてもらうとき上でも書きましたが「これは、ぶどうよ」と聞き「ぶどう」と模倣することで名前を覚えて行くことがあるでしょう。
小さなお子様だけがそのように学んでいるわけではありません
例えば英語を学ぶとき「シャドーイング」が有効だと聞いたことはありませんか?
これは集中して英語を聞き、さらにその模倣をして口ずさむという英語上達に効果的な学習方法です。
私は英語教育の専門家ではないのでシャドーイングのエビデンス等を示すことは難しく、見聞きした話ですが、エコーイックは大人が学習するときにも一般的に使用されています。
(4)イントラバーバル(intraverval:言語間制御)
小野 浩一 (2005) はイントラバーバルについて直前の言語を刺激として、そのあとに来るべき言語を自発する言語行動と述べました。
例えば、
・ 直前の言語「レッツ?」・・・自発する言語行動「ゴー!」
・ 直前の言語「3足す4は?」・・・自発する言語行動「なな」
・ 直前の言語「黄色い果物は?」・・・自発する言語行動「ばなな」
・ 直前の言語「日本の首都は?」・・・自発する言語行動「とうきょう」
・ 直前の言語「おおきな くりの〜🎵」・・・自発する言語行動「きのしたでぇ〜🎶」
これらはイントラバーバルの例です。
上の『直前の言語「黄色い果物は?」・・・自発する言語行動「ばなな」』はMary Lynch Barbera他 (2007) を参考にして記載した例ですが、
このような「質問に答える」ということもイントラバーバルとして分類される(質問に答えるがタクトに含まれるという意見も見たことがある)とすれば、とても重要なものとなるでしょう。
以上、スキナーの唱えた言語行動の分類中(1)〜(4)までをご紹介しました。
さいごに
いかがだったでしょうか?
本章「ABA:応用行動分析学の言語行動」で本ブログページ以前に書いた3ページについてまとめページを今回作りました。
ここまでで書いてきた内容は、言語行動のこれまでの発展そして研究の歴史は続いているということ、最初に提唱されたスキナーの言語行動の定義と分類でした。
スキナーの定義した「言語行動」は「話し手」の行動でしたが、次のページからは「聞き手」の言語行動について書いて行きます。
またその後、本ブログかなり上の方で出てきた、スキナーの言語行動のそののちに登場した関係フレーム理論(以下、RFT:Relational Frame Theory)についてもご紹介をして行く予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。
【参考文献】
・ EXS BLOG サイト観覧日 2024.4.19 https://exs-i.com/blog/ryugaku-info/us-life/hand-sign-come-on/
・ Mary Lynch Barbera・tracy Rasmussen (2007) The Verbal Behavior Approach How to Teach Children with Autism and Related Disorder 【監訳 杉山 尚子 訳 村上 裕章 (2021) 言語行動 VB指導法 発達障がいのある子のための言語・コミュニケーション指導 学苑社】
・ 三田村 仰 (2017) はじめてまなぶ行動療法 金剛出版
・ 望月 望 (2007) 第三章 言語行動ー言葉は身につくのではなく、いつも環境との共同作業 【大河内 浩人・武藤 崇 編著 行動分析 ミネルヴァ図書】
・ Niklas Törneke・Steven C. Hayes (2017) A Professional’s Guide to Using the Science of Language in Psychotherapy 【監訳:武藤 崇・大月 友・坂野 朝子 訳:大槻 友・大屋 藍子・上村 碧・佐藤 友哉・坂野 朝子 (2021) メタファー 心理療法に「ことばの科学」を取り入れる 星和書店】
・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館
・ 谷 晋二 (2020) 第二章 関係フレーム理論 【谷 晋二(編著) 言語と行動の心理学 行動分析学を学ぶ 金剛出版】
・ William・O’ Donohue・Kyle E. Forguson (2001) The Psychology of B.F.Skinner 【邦訳: 佐久間 徹 (2005) スキナーの心理学 応用行動分析(ABA)の誕生,二瓶社】