相手の行動は自分の先行刺激で、自分の行動は相手の行動の結果(ABA自閉症療育での行動の見方22)

今日は少しABAで行動を見るときにややこしくなりがちなポイントについて書いていきましょう。


Enせんせい

タイトルにもある「相手の行動は自分の先行刺激で、自分の行動は相手の行動の結果」ということなのですが、これは一体どういったことでしょうか?


以前「(ABA自閉症療育の基礎76)子どもと親の相互作用ー支援者側もお子さんからの影響を受け、強化され、消去され・・・療育モチベーション(https://en-tomo.com/2021/02/07/child-parent-interaction/)」のブログページでは、

親御様が療育によってお子様の行動を強化したいと思ったとき、お子様の行動が親御様の望んだ方向に強化されたとき、実は親御様もお子様から療育行動が強化されている

というような内容を書きました。


「(ABA自閉症療育の基礎76)子どもと親の相互作用ー支援者側もお子さんからの影響を受け、強化され、消去され・・・療育モチベーション」のサムネイル

大河内 浩人 (2007) は行動分析という学問をあえて一言で表すことを試みるのならば、それは「個体と環境との相互作用を明らかにする学問」だと述べていますが、

上でご紹介したブログ記事は療育のモチベーションとしてお互いが強化を受け合う(罰も受け合う)という内容でした。


本ブログページでは少し別の観点で冒頭にも書いたABAで行動を見るときにややこしくなりがちなポイント、

「相手の行動は自分の先行刺激で、自分の行動は相手の行動の結果」ということについて解説していきます。


Enせんせい

本ブログの内容を知っておくことで自分自身も含めた範囲で行動を観察するときに役に立つでしょう


本ブログは家庭療育を推奨しているブログです。

そのため本ブログページでは「自分自身も含めた分析」について「親御様ーお子様」の2者間の行動を観察するときのケースで書いて行きます。


その前にまずは分析に使用する用語、

「A(Antecedent):先行状況(行動に先立つ環境)」「B(Behavior):行動」「C:(Consequence):結果」の流れを簡単に振り返りましょう。

ABAでは行動を観察する際に行動の前(先行状況)と行動のあとの結果部分を観察対象にすることが多いです。

このような行動と前後を含めた関係性は「三項随伴性(さんこうずいはんせい)」と呼ばれます(参考 Raymond .G .Miltenberger, 2001)


以下、三項随伴性を構成する「A(Antecedent):行動に先立つ環境、先行状況などと呼ばれる」「B(Behavior):行動」「C:(Consequence):結果」の流れについて見て行きましょう。



「A(Antecedent)」「B(Behavior)」「C:(Consequence)」の流れ

最初に上でこの関係性は「三項随伴性」と呼ばれると書いた「A(Antecedent)」「B(Behavior)」「C:(Consequence)」の流れで出てくる言葉の簡単な紹介です。

下のイラストをご覧ください。


三項随伴性を構成するABCのユニット

イラストに、

「A(Antecedent):先行状況」

「B(Behavior):行動」

「C:(Consequence):結果」

と書かれていますが、これらについて簡単に解説します。



「A(Antecedent):先行状況(行動に先立つ環境)」

中に「SD」と「EO」を記載がありますが、それぞれ、

「SD(Discrimination stimulus):弁別刺激」

「EO(Establish operation):確立操作」

と呼ばれるものです。


「SD:弁別刺激」とはその後の行動に影響を与える行動に先立つ環境であり、目で見えたり、鼻や皮膚で感じることができたり、聞こえる音といったように五感で感じる刺激と思ってもらって良いでしょう。

「EO:確立操作」とは例えば「空腹感」や「眠気」、「イライラ」や「不安感」などが当たり、「強化子の効力に関わる(参考 坂上 貴之・井上 雅彦,2018)」要素です。

EOについては正しい定義ではないと思いますが五感で感じる刺激というよりは身体の中で内的に生じている状態と捉えてもらえれば分かりやすいでしょう。

※ 「SD」「EO」について詳しくは「ブログ内検索窓」から「弁別刺激」「確立操作」と入れて検索いただくとこれらを主題としたブログページも出て来ます。大切な用語ですから是非検索して見てください



「B(Behavior):行動」

行動のことです。

ABAでは行動をオペラント行動とレスポンデント行動に分けて考えますが、ここで言う行動は「オペラント行動」のこととなります。

「オペラント行動」とは自身でコントロール可能な、自発できる行動と考えてください。


Enせんせい

「自身でコントロールできない、自発できない行動って何?」と思われたかもしれません


例えば「梅干しを見る → よだれが出る」という行動は、よだれの出現を自身でコントロールしているわけでもありませんし、自発して「今からやるぞ!」ということで行動が発生しているわけではないでしょう。

本ブログページで扱う「行動」は「オペラント行動 = 自身でコントロール可能、自発できる行動」を扱います。



「C:(Consequence):結果」

結果と書かれている中には、

「正の強化子:Positive Reinforcement」

「負の強化子:Negative Reinforcement」

「正の罰刺:Positive Punishment」

「負の罰子:Negative Punishment」

「消去:Extinction」

と記載があるのですが、上のどれかとして機能するいずれかの結果が入ります。


そのうち、行動を増やす結果は「正の強化子」か「負の強化子」のどちらかです。

そのうち、行動を減らす結果は「正の罰子」か「負の罰子」もしくは「中性刺激」が伴い「消去が生じる」のどれかにあたります。


本ブログページでは行動に伴った結果、そののちに行動が増えていく「正の強化子」が伴ったパターンで書いていきますが、

詳しくは上の「正の強化」「負の強化」「正の罰」「負の罰」「消去」のキーワードを検索窓に入れてキーワード検索をすれば専用ブログ記事も出て来ますので検索いただければ幸いです。

※ 「正の強化」「負の強化」「正の罰」「負の罰」「消去」について詳しくは「ブログ内検索窓」に入れて検索いただくとこれらを主題としたブログページも出て来ます。大切な用語ですから是非検索して見てください


佐藤 方哉 (2001) はオペラント行動とはその行動が生じた直後の環境変化(刺激の出現もしくは消失という結果)に応じて、その後にその行動が生じる頻度が変化する行動であると述べていますが、

「オペラント行動」が今後増えていくか、減っていくかについては「行動ののちの結果」の影響を強く受けると考えられています。


そのため「オペラント行動」では行動したあとに伴う結果は何が伴っているかというところを特に強く意識して分析をするのですが、行動の前も含めたここまでご紹介をして来た、


「A(Antecedent):先行状況(行動に先立つ環境)」

「B(Behavior):行動」

「C:(Consequence):結果」


の行動をまとめて考える(例えば観察・分析する)ということが一般的です。



比較的シンプルな設計で行動を観察するときの方法

以下のイラストを見てください。


お母様が欲しいおもちゃを持っている(A)お子様が手を出して身振りをする(B)お母様がおもちゃを渡す(C)赤い矢印は時間の流れを示す

上のイラストでは、

お母様がお子様の欲しいおもちゃを持っていて、お子様が手を出して身振りを行い、お母様がお子様へおもちゃをお子様へ差し出すイラストが描かれています。

赤い矢印の方向が時間の流れを示していることにも注目しましょう。


お子様の行動を真ん中に置いた視点で上の状況を観察したとき、


「A(Antecedent)」・・・お子様の欲しいおもちゃをお母様が持っている

「B(Behavior)」・・・お子様が手を出して身振りをする

「C:(Consequence)」・・・お母様がおもちゃをお子様へ差し出す


と行動を区切って観察することができます。


「お母様がおもちゃをお子様へ差し出す(C)」を行うことで今後、

お子様が「欲しいおもちゃが目に入る(A)」状況において「手を出して身振りをする(B)」が強められる(例えば増える)ことが観察されればどうでしょうか?


このような観察からわかることは、

「欲しいおもちゃが目に入る(A)」状況のもとでは「お母様がおもちゃをお子様へ差し出す(C)」ことは強化子として機能すると考えることができ、

この状況を上手く使えば「お子様が手を出して身振りをする(B)」行動を強化できるため、練習ができるという分析が可能です。


Enせんせい

この分析が可能になることでどういったことに発展するでしょう?


今お子様は「手を出して身振りをする」ことで要求をしています。

例えばこの分析が可能になると「練習ができるという」ということなので、

少し頑張ってもらい発声も伴わせるよう練習をして行くという方向性も見ることが可能です。

例えば「貸して」と言葉で言ってもらうところまで持って行く、という計画ができることになります。


このように計画できることは療育を行う上で有用でしょう。


また上の観察例では「お子様の今、できないことを練習するために必要な情報の観察」でしたが、

問題行動の観察・分析にも「A(Antecedent)」「B(Behavior)」「C:(Consequence)」の流れで観察することは有効です。


話を戻して上のイラストではお子様の行動を真ん中に置いた視点で上の状況を観察し、


「A(Antecedent)」・・・お子様の欲しいおもちゃをお母様が持っている

「B(Behavior)」・・・お子様が手を出して身振りをする

「C:(Consequence)」・・・お母様がおもちゃをお子様へ差し出す


という観察をご紹介しました。


Enせんせい

この観察はABAで行動を捉えるときに使用される一般的な行動の見方ですが、

この先度紹介する見方と比較すると少しシンプルであると言えるでしょう


このシンプルな行動の見方の方法だけでも充分ではあるのですが本ブログページではさらに発展し「相手の行動は自分の先行刺激で、自分の行動は相手の行動の結果」という行動の見方をご紹介します。

「親御様ーお子様」の2者間の行動を観察するときに、この視点を持つことでさらに拡張した行動の見方が可能になるでしょう。



「相手の行動は自分の先行刺激で、自分の行動は相手の行動の結果」という視点も含めて「親御様ーお子様」の2者間の行動を観察する


先ほどのイラストにお母様の行動を真ん中に持っていった観察も加えたもの

上のイラストでは、

お母様がお子様の欲しいおもちゃを持っていて、お子様が手を出して身振りを行い、お母様がお子様へおもちゃを渡すイラストに追記したイラストです。


先ほどのイラスト(イラスト上部分は)お子様の行動を真ん中に置いた視点で上の状況を観察したとき、


「A(Antecedent)」・・・お子様の欲しいおもちゃをお母様が持っている

「B(Behavior)」・・・お子様が手を出して身振りをする

「C:(Consequence)」・・・お母様がおもちゃをお子様へ差し出す


と観察できましたね?

上で描かれているイラストの下部分(お母様の行動を真ん中に持っていった観察)では、


「A(Antecedent)」・・・お子様が手を出して身振りをする

※ 先ほどの観察では「B(Behavior)」・・・お子様が手を出して身振りをするであったもの

「B(Behavior)」・・・お母様がおもちゃをお子様へ差し出す

※ 先ほどの観察では「C:(Consequence)」・・・お母様がおもちゃをお子様へ差し出すであったもの

「C:(Consequence)」・・・お子様がおもちゃを受け取る


と、お母様の行動を真ん中に持っていった観察では、

イラスト上部ではお子様の「お子様が手を出して身振りをする(B)」であった場面がお母様から見ると「A(Antecedent)」に、

そしてお子様の「お母様がおもちゃをお子様へ差し出す(C)」であった場面がお母様から見ると「B(Behavior)」となっています。

そして新しく「お子様がおもちゃを受け取る(C)」が追記されました。


私たちは行動を観察するときに便利だから特定の行動を真ん中に添え、その前後も加えてABCで行動を観察して行くのですが、実は行動は連鎖しており、続いている、

ということは覚えていると良いでしょう。

そしてどの視点から行動を見るかによってABCが変化します。

ブログタイトルにある「相手の行動は自分の先行刺激で、自分の行動は相手の行動の結果」です。


私たちは行動を分析する時、便利だから一部分を切り抜いて考えます。

ただ実際にはこのように行動の結果は連続して続いているのです。


ABAでは1つの場面を「A(Antecedent)」「B(Behavior)」「C:(Consequence)」の3つの流れ「三項随伴性」で捉えることが多いですが、

もしそれで上手く行かないことがあったときは今回ご紹介したように範囲を拡大して分析してみるのはいかがでしょうか?



さいごに

本ブログページでは「相手の行動は自分の先行刺激で、自分の行動は相手の行動の結果」ということについて、

お母様が欲しいおもちゃを持っている、お子様が手を出して身振りをする、おもちゃを渡す

という一場面を用いて解説を行ってきました。


ABAについて人に伝えているとき、お子様の行動を中心(ABCのB部分)に添えて分析することは伝わりやすいものの、

自分(本ブログの例で言えばお母様)自身を含めて拡大して分析することは少し難易度が高い(伝わりにくい)部分かと感じることがありました。


Enせんせい

私は本ブログページでご紹介した行動の見方はとても有用だと感じる場面もあり、知っておいて欲しいと思う行動の見方です

分析をするときの幅が広がるでしょう


自身を含めて拡大して分析することは少し難易度が高い理由について、多分ですが「自身を含めて拡大して分析」したとき、自分自身もお子様から「強化を受けている」、「罰を受けている」などを分析することになります。

『「強化」や「罰」をお子様が受けている』というところはスッと入りやすいものの、

自分自身も環境から影響を受けていることは、少し入りにくくなるのかもしれません。


特に自分自身(本ブログの例で言えばお母様)が強化を受けているとき「正の強化」だとわかりやすいのですが、「負の強化」だとわかりにくい、ということはあるように思います。

理由は「正の強化」ではポジティブな感情が乗って行動が増加していることがほとんどだと思いますが、「負の強化」ではネガティブな感情が乗って行動が増加していることがほとんどだからです。


Enせんせい

ネガティブな感情が乗って行動が増加しているとき例えば「こうすることは悪くなるかもしれないと思ってはいるものの、仕方なく(例えば他に手段もないので)やっている」ということもあるでしょう。

分析をしてそれが明るみになると、目を背けたいことに直面化されることになるので、抵抗が出るのかもしれません。

しかし必要なときにこのような分析を行うことは、私自身は自分自身が行っている関わりの対応修正のためにも必要だと感じています。


本ブログの内容が日々のABA自閉症療育のお手伝いとなれば幸いです。



【参考文献】

・ 大河内 浩人 (2007) 「大河内 浩人・武藤 崇 編著 行動分析 ミネルヴァ図書 p1-12」

・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】

・ 坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 行動分析学 行動の科学的理解をめざして 有斐閣アルマ

・ 佐藤 方哉 (2001) 【浅野 俊夫・山本 淳一・日本行動分析学会 (2001) ことばと行動―言語の基礎から臨床まで ブレーン出版】