本ブログページでは言葉を聞き分ける練習をご紹介したいと思います。
個人的には結構、大切な練習かと思ってるこの言葉を聞き分ける練習ですが、どういった練習なのでしょうか?
自閉症のお子様の中には、何かを聞かれたときなど『「視覚刺激」に反応』してしまって聞かれたことと違うことを答えてしまうことがあります。
例えば「これ 何に使うもの?」と言って「スプーン」を見せたとき、「スプーン」と答えてしまう、という感じです。
「これ 何に使うもの?」という質問はものの用途を聞いているのですが、ものの用途は「視覚刺激」には含まれません。
それは「スプーン」を見せたとき、用途は視覚的には見えないからです。
またこのとき、
まだスプーンの用途について知らないだけじゃないの?
と思われたかもしれません。
もちろんそういったこともあると思いますし、まだ「まだスプーンの用途について知らない」ことによって、上のような誤答を示す場合もあるでしょう。
ただ例えばスプーンを見せて「これ 何に使うもの?」と課題として取り組んだときにはできる。
例えば、スプーン、くつ、かさを順番に見せて「これ 何に使うもの?」と課題として取り組んでいるときには、
・ スプーン・・・ごはんたべるもの
・ くつ・・・・・はくもの
・ かさ・・・・・さすもの
と言い分けができた場合でさえも、
日常の中でふいにスプーンを見せて「これ 何に使うもの?」と聞いても「スプーン」と答えてしまう。
どんな練習が考えられる?
以上のようなことを課題として取り組む場合、例えば「質問の聞き分け課題」として取り組み、「スプーン」を見せ、
「これ なに?」「これ 何に使うもの?」「なにいろ?」など1枚のスプーンのカードを用いて質問を聞き分ける課題を行う、ということも良いでしょう。
カードでなくとも「りんご」のフィギュアを見せ「これ なに?」「なにいろ?」「どんな かたち?」「なかまは?」と聞き分ける課題を行うでも大丈夫です。
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上のような課題は「質問弁別課題(しつもんべんべつかだい)」や「質問の聞き分け課題」と私は呼んでいます。
上のような課題も日常の中でふいにスプーンを見せて「これ 何に使うもの?」と聞いても「スプーン」と答えてしまうと言うことに対して有効でしょう。
しかし今日は別の課題、日常の中でふいにスプーンを見せて「これ 何に使うもの?」と聞いても「スプーン」と答えてしまうことに影響するであろうと私が思っている課題をご紹介します。
生活の中で練習できるスキルですので、もし興味がある人は是非取り組んでみてください。
さて、スプーン、くつ、かさを順番に見せて「これ 何に使うもの?」と課題として取り組んでいるときには正しく答えられるにも関わらず、日常の中でふいにスプーンを見せて「これ 何に使うもの?」と聞いても「スプーン」と答えてしまう。
このようなとき、どういったことが起こり、誤答が生じているのでしょうか?
まずは最初にこのことについて「刺激過剰選択傾向」という考え方を簡単にご紹介しましょう。
お子様は刺激を過剰選択している?
スプーン、くつ、かさを順番に見せて「これ 何に使うもの?」と課題として取り組んでいるときには正しく答えられるにも関わらず、日常の中でふいにスプーンを見せて「これ 何に使うもの?」と聞いても「スプーン」と答えてしまう。
このことをどう捉えれば良いのでしょうか?
正しく「これが正解である」という答えを示すのは難しいのですが、
例えばO.Ivar Lovaas (2003)の言った「刺激過剰選択傾向(しげきかじょうせんたくけいこう)」は参考になると思います。
O.Ivar Lovaas (2003)によれば、
「刺激過剰選択傾向」とは複合する刺激の要素の中の1要素、あるいは限られた範囲の要素だけにしか反応しないことを示した言葉です。
例えば日常の中でふいにスプーンを見せられ「これ 何に使うもの?」と聞かれた場合、
少なくとも「視覚刺激」のスプーンと「聴覚刺激」の「これ 何に使うもの?」の2つの範囲の要素に反応できなければ、この質問には正しく正解できません。
そして少し余談になりますが、ここに「文脈」が加わればもっと回答は複雑になります。
例えばスプーンを見せられ「これ いつ使うんだっけ?」と聞かれた場合、これからあなたがマジックショーをするという文脈であれば「ごはんたべる」は違和感があるかもしれません。
このとき「それは曲げて驚かせるときに使うんだ」という答えの方が、この文脈では自然な場合があるでしょう。
「文脈を含む」というのは高度なことです
本ブログページではそこまでのものは扱わず、日常の中でふいにスプーンを見せられ「これ 何に使うもの?」と聞かれた場合に「スプーン」ではなく「ごはんたべる」などの用途を答えられる、
ということをテーマとさせてください
「刺激過剰選択傾向」とは複合する刺激の要素の中の1要素、あるいは限られた範囲の要素だけにしか反応しないことを示した言葉でしたが、
自閉症、発達に遅れのあるお子様と私が関わっていて思うことは、お子様の中には、
(1) 「聴覚刺激」よりも「視覚刺激」に引っ張られて反応してしまう
(2) 以前に答えて正答だった答えに引っ張られて反応してしまう
というお子様がいらっしゃるように感じています。
「(1) 「聴覚刺激」よりも「視覚刺激」に引っ張られて反応してしまう」ですが、ここまで書いて来たように、
「これ 何に使うもの?」と言って「スプーン」を見せたとき、「スプーン」と答えてしまう、ということです。
上でも書きましたが、
「これ 何に使うもの?」という質問はものの用途を聞いているのですが、ものの用途は「視覚刺激」には含まれません。
このように示された情報の中の「視覚刺激」という限られた範囲の要素だけに反応してしまう場合、「(1) 「聴覚刺激」よりも「視覚刺激」に引っ張られて反応してしまう」という様子に見えます。
「(2) 以前に答えて正答だった答えに引っ張られて反応してしまう」ですが、
スプーン、くつ、かさを順番に見せて「これ 何に使うもの?」と課題として取り組んでいる場面、ここでは以下を正答だと考えてください。
・ スプーン・・・ごはんたべるもの
・ くつ・・・・・はくもの
・ かさ・・・・・さすもの
と言い分けをする課題を行っていました。
母:「これ 何に使うもの?(スプーンを見せる)」・・・子:「ごはんたべるもの」
母:「これ 何に使うもの?(くつを見せる)」・・・子:「はくもの」
母:「これ 何に使うもの?(スプーンを見せる)」・・・子:「ごはんたべるもの」
母:「これ 何に使うもの?(かさを見せる)」・・・子:「さすもの」
母:「これ 何に使うもの?(くつを見せる)」・・・子:「はくもの」
とここまで順調に来たとき、
母親がスプーンを見せて「これ 名前は何?」と聞くと「ごはんたべるもの」と誤答してしまう。
※ 連続で「用途」を聞いていたのに、名前を聞かれたら誤答する
このような場面、以前反応していた刺激という限られた範囲の要素だけに反応してしまう場合、「(2) 以前に答えて正答だった答えに引っ張られて反応してしまう」様子に見えます。
自閉症児や発達に遅れのあるお子様が本当に生態傾向として「刺激過剰選択傾向」という何かを持っているのかどうかという証明は難しいでしょう
しかし確かに以上の(1)(2)のような傾向のお子様がいて、正しく質問に答えることが難しい、ということがあります
さて、ここまで「刺激過剰選択傾向」という観点から例で出して来た誤答が生じる理由を考えて来ました。
上の方でも書いた、
「これ なに?」「これ 何に使うもの?」「なにいろ?」など1枚のスプーンのカードを用いて質問を聞き分ける課題や、
カードでなくとも「りんご」のフィギュアを見せ「これ なに?」「なにいろ?」「どんな かたち?」「なかまは?」と聞き分ける課題は、
「複数の刺激に反応する練習」になるため「刺激過剰選択傾向」の観点から考えても有効な方法かと思います。
今日は上でも書きましたが別の課題、
日常の中でふいにスプーンを見せて「これ 何に使うもの?」と聞いても「スプーン」と答えてしまうことに影響するであろうと私が思っている課題をご紹介しましょう。
「うん」「はーい」「いいよ」などを用いて質問を聞き分ける練習
この練習をする前には、事前準備として「うん」「はーい」「いいよ」などの応答ができるようになっている必要があります。
例えば「チョコレート食べたいの?」などで肯定系のYesを示すときにはお子様は「うん」と答えられる、
例えば「チョコレート食べたいひとー」など「ひとー」という語尾のときにはお子様は「はーい」と答えられる、
例えば「チョコレートわたすよ、いい?」など「いい?」という語尾のときにはお子様は「いいよ」と答えられる、
と言った感じです。
以上3つを例として出しましたが「わかった?」に対して「わかったよ」や「だれが欲しいの?」に対して「ぼく」などでも構いません。
大切なことはオウム返しになっていない応答系を少なくとも2つ(望ましいのは上のように3つ以上)は獲得している、と言う点です。
上の3例はオウム返し(お母様が言ったセリフをそのまま同じように返す)にはなっていませんね?
上では「チョコレート」を例に出したので、チョコレートで話を進めて行きましょう。
例えば、お子様がチョコレートを欲しい仕草を見せて来た場面を想像してください。
このとき、お母様がチョコレートを手に持ってお子様の欲求を誘発しても構いませんし、日常の中でお子様がチョコレートを欲しい仕草を見せて来た機会を利用しても良いでしょう。
以下のイラストは日常の中でお子様がチョコレートを欲しい仕草を見せた機会です。
上のイラストのようにお子様のチョコレートを食べたそうな仕草を発見し、お母様が「どうしたの?」と声をかけた、そののちの流れとして以下をご覧ください。
子:チョコを見ながら「食べる」
母:「チョコレート食べたいの?」
子:「うん」
母:「チョコレート食べたいひとー」
子:「はーい」
母:「チョコレートわたすよ、いい?」(チョコを渡す)
子:「いいよ」
と言った感じで「質問を聞き分け、応答を正しく行う練習」を行います。
お母様の行った質問に対応して正しく応答することが求められる課題です。
毎回同じでやってしまうとパターンが形成されてしまい「質問を聞き分ける練習」の難易度が簡単になってしまうと思うので、
子:チョコを見ながら「食べる」
母:「チョコレート欲しいひとー」
子:「はーい」
母:「チョコレート今たべるで、いい?」
子:「いいよ」
母:「チョコレートおいしいよね」(チョコを渡す)
子:「うん」
と言ったように、
慣れて来たら上のやりとりのように質問の「順番」や「内容」を少しずつ変形させるようにして行きましょう。
このように日常の中で練習をして行き、応答系のレパートリーが増えて来たらやりとりの中に入れるようにします。
例えば「わかったよ」という応答も可能になったとしましょう。
その場合は?
子:チョコを見ながら「食べる」
母:「チョコレート いる?」
子:「うん」
母:「わたしからわたすよ わかった?」
子:「わかったよ」
母:「今欲しいひとー」
子:「はーい」
母:「かっこよくできたね これでいい?」(チョコを渡す)
子:「いいよ」
など入れ込んでいけば良いと思います。
上のやりとりの例では太文字のところが「わかったよ」のやりとりです。
またこのような応答系ができてきたら「拒否」や「Yes/No構文」にもチャレンジして行きましょう。
拒否
例えば「拒否」ではお子様がチョコレートを欲しい仕草を見せて来た場面でわざとチョコレート以外のものを示し、「これで良い?」と聞き例えば「ちがう」などと拒否をしてもらいます。
「拒否」の応答を行いそこから上で出したやりとりの例に繋いで行く、もしくは上のやりとりの途中にこのような「拒否」の応答を挟むことも良いでしょう。
Yes/No構文
また「Yes/No構文」では「チョコレート、いる?いらない?」や「チョコレート、いらない?いる?」と言ったような形で質問し「いる」と答えてもらいます。
このとき「チョコレート、いる?いらない?」というパターンだけでなく、「いる?いらない?」の部分を逆にした「チョコレート、いらない?いる?」と言ったような形の質問も行うというところはポイントです。
「Yes/No構文」の応答を行いそこから上で出したやりとりの例に繋いで行く、もしくは上のやりとりの途中にこのような「Yes/No構文」の応答を挟むことも良いと思います。
またここまでご紹介して来た練習を行うときは、できるだけお母様は視覚的な動きを抑え聴覚刺激のみにお子様が反応することを意識しましょう。
それは、お母様は例で出したやりとりをするとき、姿勢などをあまり変えることなく、お子様から見た変化を「聴覚刺激」の変化のみに見えるようにする、ということになります。
そうすることで上で書いた「(1) 「聴覚刺激」よりも「視覚刺激」に引っ張られて反応してしまう」可能性をブロックすることが可能です。
以下、例を見てみましょう。
子:チョコを見ながら「食べる」
母:「はいどうぞ!」(近くにあったコップを渡す、腕は動かすが腕以外の身体パーツはあまり動かさない)
子:「ちがう」
母:「あ、これが欲しいんじゃないんだ?」(このときお母様は姿勢などをあまり変えないよう意識する)
子:「うん」
母:「チョコレート いらない?いる?」(このときお母様は姿勢などをあまり変えないよう意識する)
子:「いる」
母:「OK!じゃあ、チョコレート 取って欲しいひとー」(このときお母様は姿勢などをあまり変えないよう意識する)
子:「はーい」
母:「かっこよく 食べるのよ わかった?」(このときお母様は姿勢などをあまり変えないよう意識する)
子:「わかったよ」
母:「じゃあ 取ってわたすわよ いい?」(このときお母様は姿勢などをあまり変えないよう意識する)
子:「いいよ」
母:「はい どうぞ」(チョコを渡す、このときはお母様は姿勢など意識しなくても良い)
子:「ありがとう」
以上のようなやりとりのとき、お母様は姿勢などについては上の例の( )内のような意識を持って質問を行い、
お子様から見た変化が「聴覚刺激」の変化のみに見えるように意識して取り組んでみてください
また、特にここまででご紹介した「チョコレートが欲しい場面」などお子様の要求場面ではお子様のモチベーションを高く保つことが可能です。
そのためお子様もしっかりとお母様の声に耳を傾けて答え分けてくれる可能性が高まると思います。
さいごに
本ブログページでは自閉症、発達に遅れのあるお子様と私が関わっていて思うことは、お子様の中には、
(1) 「聴覚刺激」よりも「視覚刺激」に引っ張られて反応してしまう
(2) 以前に答えて正答だった答えに引っ張られて反応してしまう
というお子様が多いように感じていることを述べ、O.Ivar Lovaas (2003)の述べた「刺激過剰選択傾向」についても簡単に触れました。
また(1)(2)については、
「これ なに?」「これ 何に使うもの?」「なにいろ?」など1枚のスプーンのカードを用いて質問を聞き分ける課題を行う、ということも良いし、
カードでなくとも「りんご」のフィギュアを見せ「これ なに?」「なにいろ?」「どんな かたち?」「なかまは?」と聞き分ける課題を行うことなどが有効であろうことをお伝えし、
本ブログページでは別の日常の中で行うことができるだろう課題についてご紹介しています。
それは、日常の中で獲得した応答を使って、お母様の質問に聞き分けて正しく反応する練習でした。
その中で最後に少しご紹介した「拒否」や「Yes/No構文」のやりとりは、お子様と意思疎通するときにできたら便利なやりとりの1つです。
また別のブログページで「拒否」や「Yes/No構文」のやりとりの練習方法もご紹介できればと思っています
知識を増やして行く、例えば「スプーン」の名前を「スプーン」だと知っていたり、用途を「ごはんたべるもの」と知っている、
「どこにあるの?」と聞かれると「台所」と答えられるし、お子様のスプーンを見せて「だれの?」と聞くと「ぼくの」と答えられる。
上で「(2) 以前に答えて正答だった答えに引っ張られて反応してしまう」として課題の中で連続して行っているときは答えられる、これは知識として獲得していることを示していると思います。
知識として培ったものを本ブログページのような形で生活の中で応用し、使用できるようにするギミックを入れて行くことも大切でしょう。
今お子様が知識として知っているだろうことを、本ブログページのように是非生活の中で使用する機会を作ってみてください。
【参考文献】
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】