反応潜時時間を利用して強化子として機能してそうかどうか判断する(ABA自閉症療育での行動の見方21)

ABA自閉症療育では正の強化子をお子様の適切な行動ののちに伴わせ、お子様の適正行動を増やしていくということが基本線です。

このとき「強化子」というのは、理論的には「お子様の行動を増やす結果」のことなのですが、

どういった結果がお子様にとっての強化子として機能するか、実際に行動に強化子を伴わせてみて「本当のところは」行動が増えたことを確認する必要があります。


大切なポイントです!

上で「本当のところは」と書いたのですがABAの本などで「褒める」という結果を強化子として紹介している書籍もあるでしょう。

しかし実際には「強化子」と呼ぶためには、上の赤文字で記載したように「行動に強化子を伴わせてみて、行動が増えたことを確認する必要」があります。

「褒める」ことが強化子として機能しているつもりでも、実際には強化子として機能していないことがあるのです。


例えば一言で「褒める」と言ってもいろいろな「褒める」があると思います。

『明るいトーンで抱っこをして「えらい!えらいぞー!」』と「褒める」のと、

「すごいね」とあまり感情を込めずに伝えるのでは雲泥の差があるでしょう。


Enせんせい

テキストに「褒める」と書いてあっても、やり方次第ではそれが強化子として機能するかどうか確認する必要があるということには気をつけなければいけません


このように「褒める」と言ってもその褒め方が強化子として機能しているかどうか確認する必要があります。

「強化子として機能しているかどうかを確認する」方法の1つとして、例えば基本的にはお子様が嬉しそうにしている様子があれば強化子として機能している可能性が高いです。


本ブログページでは「お子様が嬉しそうにしている様子」以外の、あなたがお子様の行動に伴わせた結果が強化子として機能しているかどうかの判断ポイントをお伝えします。

本ブログページで考えていくのはタイトルにある「反応潜時時間を利用して強化子として機能してそうかどうか判断する」方法です。


上でどういった結果がお子様にとっての強化子として機能するかどうか、本当のところは実際に行動に強化子を伴わせてみて、行動が増えたことを確認する必要がありますと書きましたが、

例えば、以下のグラフのような確認ができれば正しい可能性の高いアセスメントとなるでしょう。


お子様の名前は太郎くんとしています

上のイラストでは「ベースライン期(左から前5日間)」、「介入期(続くのち5日間)」を合計10日間表したデータです。

「ベースライン期」ではお子様が目を合わせてきたとき特に何もすることなくスルーしています。

「介入期」ではお子様が目を合わせてきたとき抱っこをしました。


そして10日間のデータは全て12時から12時10分までのリビングで遊んでいる時間に測定したとしましょう。

上のデータを見れば「介入期(続くのち5日間)」では目に見えて明らかに(ABAでは目に見える変化を大切にする)お子様が目を合わせてくる頻度が増加していることがわかります。

※ 縦軸は「太郎くんが目を合わせてきた回数」のデータ


そのため、この結果をどのように解釈するかと言えば、

お子様が自発的に目を合わせる行動に対して、「抱っこ」は強化子として機能した可能性が高い

という結論です。


Enせんせい

また正しい表現ではこのように「可能性が高い」と言う言い方に留め、慣例的にも断定することはほとんどない、ということも覚えておきましょう


上で示したデータの様に数日間のデータを正しく測定(例えば今回はデータを均一にするため測定場所、時間を統一している)し、得た結果から解釈することが本当は大切です。

但し、ABA自閉症療育をご家庭で行うといった場合にはここまで説明してきたように日を跨いでのデータ測定を毎回行う、ということはかなりハードルが高いと感じるのではないか、という印象を私は持っています。


そのためできれば「その日の間に強化子として機能しているかどうか判断できる」簡易的な方法があれば、便利でしょう。

本ブログページではタイトルにある「反応潜時時間を利用して強化子として機能してそうかどうか判断する」方法はそのような簡易的な方法となります。


個人的にご家庭でABA自閉症療育を行う場合ですが、お勧めは、

もしABA自閉症療育を行なっていて行き詰まったときは、ここまでご紹介したような日を跨いでのデータ測定を行い正しい状況把握を行う、

但し行き詰まっていないときは本ブログページでご紹介するような簡易的な方法を用いて毎日のABA自閉症療育の中で判断をして行く

です。


では以下から、本ブログページタイトルにもなっている反応潜時時間を利用して強化として機能してそうかどうか判断する方法について見ていきましょう。



反応潜時時間を利用して強化として機能してそうかどうか判断する

反応潜時時間を利用して強化として機能してそうかどうか判断するですが、まず「反応潜時時間(はんのうせんじじかん)」とは何でしょうか?

「潜時時間」という単語について私はABAを始めてから知った言葉なので、あまり日常用語として浸透しているという言葉でもないのだろうなという印象です。


「潜時時間」とは「特定のキューののち、反応するまでの速さ」のことを表した言葉になります。


例えば、

私が「おはよう」と言うキューを伝え、そこから5秒後にあなたが「おはよう」と返せば「反応潜時時間」は5秒です。

私が「おはよう」と言うキューを伝え、そこから3秒後にあなたが「おはよう」と返せば「反応潜時時間」は3秒というようにカウントします。


ABA自閉症療育でお子様と関わるときはオペラント条件付けの「三項随伴性(さんこうずいはんせい)」を頭に置いて関わることが多いのですが、以下のイラストをご覧ください。


オペラント条件付け「三項随伴性(ABCの関係)」を表したイラスト

以上のイラストは「AーBーC」、行動に先立つ環境を「A」、行動を「B」、行動の後の環境を「C」と分けられています。

それぞれ、

「A(Antecedent):行動に先立つ環境、先行状況などと呼ばれる」

「B(Behavior):行動」

「C:(Consequence):結果」

の3つのフレームに分けているのですが、この3つのフレーム、行動と行動の前後(AとBとC)を併せて観察するとき『「三項随伴性」で観察する』と呼ぶのです。


「A(Antecedent)」は更に、

「SD(Discrimination stimulus):弁別刺激」

「EO(Establish operation):確立操作」

に分けられるのですが、

本ブログタイトルにある反応潜時時間を利用して強化として機能してそうかどうか判断する場合は「SD:弁別刺激」から「B:行動」までの反応潜時時間を測定することとなります。

※ 「SD:弁別刺激」がキューのことです


本ブログタイトルにある反応潜時時間はピンク色の→の区間を測っている

上のイラストピンク色の『「SD:弁別刺激」を出し終わる』から『「B:行動」が始まる』までの反応潜時時間をその日のうちに何度か測定しましょう。


もしあなたのお子様が、

『「SD:弁別刺激」を出し終わる』から『「B:行動」が始まる』までの反応潜時時間を測定したとき、反応潜時時間が徐々に短くなって行くことが確認できたとき、あなたが伴わせている結果は強化子として機能している可能性が高いです。


例を見ていきましょう。


Enせんせい

マンドトレーニング(要求言語訓練)の場面を想像してください


マンドトレーニングでは例えばお子様が好きなお菓子などを使って適切な要求表現を教えて行きます。

お子様はクッキーが好きだったとしましょう。


マンドトレーニングを何度も行うために、基本的には1回のお子様のマンド(要求)に対してたくさんのクッキー(例えば1枚そのまま)を渡すことはあまりありません。

お子様はマンドすれば好きなクッキーがもらえるため課題に対するモチベーションは高いです。

マンドトレーニングではお子様の要求場面を使用するため、お子様のモチベーションを高く保ったまま課題ができることが特筆点となります。


また例のお子様はまだほとんど発語が無いとしましょう。

発語できる音はほとんど母音の「あ」(たまに「キャ」なども言うが出す音のほとんどが「あ」)のみである、という設定にします。


マンドトレーニングについての詳細は例えば「(ABA自閉症療育の基礎83)ABA自閉症療育で言葉・発語を教えるのに最適!マンドトレーニング(https://en-tomo.com/2021/03/18/aba-mand-training/)」をご覧ください。


「(ABA自閉症療育の基礎83)ABA自閉症療育で言葉・発語を教えるのに最適!マンドトレーニング」のサムネイル

1トライアル目

ーーSD部分ーー

私:(クッキー1枚を砕いて少量にし、お子様の目の前に出す)

お子様:クッキーを取ろうと手を伸ばしてくる

私:「あ」と言う(お子様にして欲しい行動を示す)

ーーーーーーーー


以上がSDの部分です。

SDの終わり、つまり『私:「あ」と言ってお子様にして欲しい行動を示す』から反応潜時時間の測定が始まります。


そして以下、お子様の行動が始まります。


ーー行動部分ーー

(★1)お子様:クッキーを取ろうと手を伸ばし続ける

私:クッキーを取られないように伸ばした手を避ける

お子様:クッキーを取ろうと手を伸ばし続ける

私:クッキーを取られないように伸ばした手を避ける

※ このやりとりの最中「あ」と何度かモデルを出しお子様の「あ」を促しても良い

(★2)お子様:「あ」

ーーーーーーーー


以上が行動の部分です。


(★1)から(★2)と上で書きましたが、反応潜時時間の測定では、

(始まり)SDの終わり、つまり『私:「あ」と言ってお子様にして欲しい行動を示す』から反応潜時時間の測定が始まりから、(終わり)(★2)のお子様の適正行動の出現までの時間を測定します。


(★2)ののち、お子様は目当てのクッキーをGETでき、食べることができました。


ここまで解説したマンドトレーニングのまとめイラスト

また「※ このやりとりの最中「あ」と何度かモデルを出しお子様の「あ」を促しても良い」という注意書きがありますが、私は注意書きのようにお子様がなかなか適正行動が出ないとき、SDののち、プロンプト(行動のヒント)の意味合いでモデルを出すことも多いです。

プロンプトを出す場合は「そのプロンプトは(★1)から(★2)の間にある」というイメージで考えましょう。

※ SD部分で出した「あ」の音声とプロンプトとして出したモデルの「あ」は型は同じであるものの、目的が違うため別物と考えることには注意


ストップウォッチなどを用い正確に測定しなくとも大丈夫だと思っています。

心の中で一定間隔で「いーち、にー」と数えれば良いでしょう。

「反応潜時時間が短くなっているかどうか」の判断に使うと言うだけですので、正確な時間をカウントできるかどうかはあまり必要では無いと思います。


Enせんせい

例えば私は「呼吸」などの自身の生理反応のタイミングを一定にして回数をカウントして測ることが多いです


上で「1トライアル目」と書きました。

1トライアル目では「反応潜時時間」が15秒であったとしましょう。

お子様の行動が終了したら2トライアル目に入って行きます。

2トライアル目以降も手続きは同じです。


このようにして何度もトライアルを繰り返して行く「反応潜時時間」が1トライアル目では15秒だったものが何度か行なっていくうちに3秒になったとします。

何度か行なっていくうちにと書きましたが、例えばその日はマンドトレーニングを15回やったとしましょう。

結果としては15回目「反応潜時時間」は3秒となりました。

また12回目、13回目、14回目、15回目の反応潜時時間を平均すると「4秒」であることもわかりました。


このようになったとすればその結果をどのように解釈するかと言えば、

お子様が自発的に「あ」と言う行動に対して、「クッキー」は強化子として機能した可能性が高い

という結論を導き出せます。

これは「SD:弁別刺激」を出してからお子様の行動するまでの反応潜時時間が短くなっているからです。


今回は「クッキー」を題材にしましたが、SD後に


・ 「抱っこ」と言ってもらって(行動)、抱っこする(強化子かどうか確かめたい結果)

・ 特定のカードを取ってもらって(行動)、抱っこする(強化子かどうか確かめたい結果)

・ 特定の動作を模倣してもらって(行動)、くすぐる(強化子かどうか確かめたい結果)

・ 目が合ったとき(行動)、笑顔で頭を撫でる(強化子かどうか確かめたい結果)


など、SD設定して行なってもらう何の行動に対しても使えるテクニックです。


最後、簡単にではありますがどうして

『「SD:弁別刺激」を出し終わる』から『「B:行動」が始まる』までの反応潜時時間を測定したとき、反応潜時時間が徐々に短くなって行くことが確認できたとき、あなたが伴わせている結果は強化子として機能している可能性が高い

のかについてロジックを解説し、本ブログページを終了します。


ロジックも見て行こう!


反応潜時時間が徐々に短くなることが強化子として機能していると判断できるロジック

上の方で「例えば今回はデータを均一にするため測定場所、時間を統一している」ということを書きました。

これは太郎くんのベースラインと介入のデータ採取の際に「10日間のデータは全て12時から12時10分までのリビングで遊んでいる時間に測定した」という文脈です。


データというものは採取時間や採取場所などを変えてしまうと均一で統一されたものになりません。

例えばあなたが「お子様がお友達に話しかける」という行動を強化したくてデータを採取していたとして、それが基本的に保育園や幼稚園で発動して欲しい行動であった場合、土日に利用していないのであれば機会すらありません。

そのような園でのデータを採取したいときに土日を含めて測定しても土日のデータは機会がないため無意味なだけでなく仮に「0」という数値を土日に算出した場合、そのデータから導き出される結果に対しての解釈を歪曲してしまう可能性があります。


あなたが「SD:弁別刺激」を出してから『「B:行動」が始まる』までの反応潜時時間が短くなるとどのような現象が生じているのでしょうか?

答えは「お子様が強化子に触れることが早くなる」ことが生じています。

つまり「SD:弁別刺激」を出してから『「B:行動」が始まる』までの反応潜時時間が短くなるとお子様は「たくさん」強化子に触れることができるのです。


Enせんせい

ここで言う「たくさん」というのはどういうことでしょうか?


例えばあなたは毎日1時間、お子様とABA自閉症療育の時間を毎日の中で持っていました。

1時間という時間が制限された中で考えると、強化子に触れる回数は限定されます。

これは時間が有限だからです。


強化子に触れるためにも時間が必要になります。

私たちは皆んな24時間しか生活時間がありません。

24時間しかないため「療育時間」も有限であることはポイントです。


有限時間の中で強化子に触れる回数や時間を増やそうとした場合、お子様から見た時の1つの方法は「早く課題を達成して、早く強化子に触れる」こととなります。


Enせんせい

時間は有限ですから早く触れられれば触れられるほど多くの時間、強化子に触れることができると言えるでしょう


「早く課題を達成して、強化子に触れる」については、

「SD:弁別刺激」が出たときが「課題開始の合図」です。

「課題開始の合図」があり「早く課題を達成する」ことは「早く、そしてたくさん強化子に触れる機会を得る」ことなので、以上のことが成り立ちます。


例えば1時間の枠で見てみましょう。

1時間は60分であり、3600秒です。

「SD:弁別刺激」が出て5秒後に「B:行動」を始めるお子様、行動の時間もわかりやすく5秒、強化子に触れている時間は30秒としましょう(合計40秒)。

この場合「3600秒➗40秒=90回」強化子に触れることができます。


「SD:弁別刺激」が出て25秒後に「B:行動」を始めるお子様、行動の時間は先ほどと同じ5秒、強化子に触れている時間も同じ30秒としましょう(合計60秒)。

この場合「3600秒➗60秒=60回」強化子に触れることができます。


上の計算式は適当な値を入れ込んだものですが、20秒くらいのギャップで強化子に触れる機会は1.5倍ほどの開きがあり、意外と大きいなという印象でしょう。


強化子は行動を増やす結果ですが、別の見方をすれば基本的には私たちは強化子を取りに行くために行動をしているとも言えるのです。

そのため『「SD:弁別刺激」を出し終わる』から『「B:行動」が始まる』までの反応潜時時間を測定したとき、反応潜時時間が徐々に短くなって行くことが確認できたとき、あなたが伴わせている結果は強化子として機能している可能性が高いというロジックが成り立ちます。


「時間は有限」なので「療育時間も有限」だから、「強化子に触れられる時間も有限」ということがポイントです


さいごに

本ブログページではABA自閉症療育での行動の見方として反応潜時時間を利用して強化として機能してそうかどうか判断することについて書いてきました。

私たちはもしかするとABA自閉症療育を通して「しっかりと褒めているのにどうして行動が増えないのだろう?」と考えることがあるかもしれません。

例えば小野 浩一 (2005) は強化子について、行動に随伴させることによってその行動の生起頻度を増加させることができる刺激と述べています。

そのため例えばこのようなとき、逆説的かもしれませんが「行動が増えていないので、今、お子様に与えている結果(褒め)は強化子として機能していない」と考える方が建設的かもしれません。

そして、私はそのように考えて欲しいです。


ABAではメインウェポンが「強化子(特に正の強化子)」なので、強化子が機能することは大変重要なこととなります。

ただ機能したかどうかの確認は通帳に記帳される数字の様に分かりやすいものではありません。


本ブログページではABA自閉症療育でお子様の行動に対して伴わせている結果が強化子として機能しているかどうか判断する方法として反応潜時時間を利用して判断する方法をご紹介しました。

毎日のABA自閉症療育の参考になれば幸いです。



【参考文献】

・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館