シングルケースデザイン(SCD)介入を除去することでエビデンスを得る「ABABデザイン(逆転デザイン)」(シングルケースデザインと機能分析4)

本章「シングルケースデザインと機能分析」の1つ前のページでは「AーBデザイン」について概要を書いてきました。

本章でご紹介して行くシングルケースデザインSCDの方法はKpolovie Peter James (2016) の論文で紹介された5つ中、3つのSCDデザイン、そして「AーBデザイン」という4つの方法であるとここまで述べて来ました。


それらは以下のものです。


・ AーBデザイン

■ A→B→A→B design(逆転デザイン)

・ Multiple-baseline design(多層ベースラインデザイン)

・ Changing-criterion design(基準変更デザイン)


本ブログページでは上の中から「■」のついた「AーBーAーBデザイン(逆転デザイン)」について解説をして行きます。

※ 以下「AーBーAーBデザイン(逆転デザイン)」について本ブログページでは「ABABデザイン」と記述させてください



ABABデザイン(逆転デザイン)とは何か?

Ghaleb H. Alnahdi (2013)「ABABデザイン」について実験中の治療の導入と撤退を通して治療効果の信頼できる評価を可能にすると述べています。


1つ前のページ「シングルケースデザイン(SCD)最も簡易なパターン「AーBデザイン」(シングルケースデザインと機能分析3)(https://en-tomo.com/2022/08/12/scd-a-b-design/)」で「AーBデザイン」を説明したとき、

Raymond .G .Miltenberger (2001) のAーBデザインを最も簡単なデザインであると述べておりAはベースライン、Bは介入を意味すると述べたことを引用しました。


シングルケースデザイン(SCD)最も簡易なパターン「AーBデザイン」(シングルケースデザインと機能分析3)のサムネイル

Enせんせい

「AーBデザイン」同様に、「ABABデザイン」においても「Aはベースライン」、「Bは介入」というように捉えてください


<ポイント>

「AーBデザイン」の、

・ Aはベースライン

・ Bは介入


介入(Intervention)とはABA自閉症療育で言えば基本的にはお子様の行動を変えるために行った何かしらの関わりです。

ベースラインについては「ベースライン」とは何か?シングルケースデザイン(SCD)の基本(シングルケースデザインと機能分析2)(https://en-tomo.com/2022/06/17/what-is-a-baseline/)」のブログページにてご紹介をしています。


「ベースライン」とは何か?シングルケースデザイン(SCD)の基本(シングルケースデザインと機能分析2)」のサムネイル

Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) は「ABABデザイン」について、

・ 単一の独立変数の有効性を分析するのに用いられる

・ 行動に対する介入の効果をテストするため、介入の導入と除去を交互に繰り返す

と述べています。


「ABABデザイン」はどういったデザインかといえば、

Aフェイズでベースラインデータが収集され記録され、ベースラインデータが安定した時点で介入が導入され、Bフェイズが始まります。

Bフェイズで介入データが収集され記録され、介入データが安定した時点で介入が除去され、再度Aフェイズが始まります。

再び導入されたAフェイズでベースラインデータが収集され記録され、ベースラインデータが安定した時点で介入が導入され、Bフェイズが始まります。


これを図にしたものの1例が以下のようなイラストです。


ABABデザインの例

「ABABデザイン」では例えば上のようなデータが得られます。

「ABABデザイン」では、

介入フェイズ中の標的行動の量・比率・パーセンテージ・持続時間が、ベースラインと比較して増加したか減少したかを評価します。


「AーBデザイン」では、

Aフェイズでベースラインデータが収集されきろくされ、ベースラインデータが安定した時点で介入が導入され、Bフェイズが始まり、そこでデザインとして完結しました。

しかし「ABABデザイン」ではもう一度ベースラインに条件を戻し、測定し、再度介入のフェイズを導入します。


また今回、反転を2回行う「ABABデザイン」をご紹介していますが、3回反転を行った場合は「ABABABデザイン」と呼ばれることも知っておきましょう(参考 島宗 理, 2019)


Aフェイズ、Bフェイズ、Aフェイズ、Bフェイズを繰り返した場合を「ABAB」と呼び、

Aフェイズ、Bフェイズ、Aフェイズ、Bフェイズ、Aフェイズ、Bフェイズと繰り返せば「ABABAB」、

Aフェイズ、Bフェイズ、Aフェイズ、Bフェイズ、Aフェイズ、Bフェイズ、Aフェイズ、Bフェイズと繰り返せば「ABABABAB」と言うように、

「AB」とは繰り返したフェイズの数を表しています。



ABABデザインでなぜわざわざ反転をさせるのか?

Enせんせい

ここまで「ABABデザイン」をご紹介してきましたが、なぜわざわざと反転させてアセスメントをする必要があるのでしょうか?


日本行動分析学会 (2019) を参考に理由を述べて行きましょう。

以下オレンジ部分文章は日本行動分析学会 (2019)から引用しご紹介です。


しかし引用文の内容については心理学などを専攻した人は見覚えがあるかもしれませんが専門用語が出てきて少しわかりにくいかと思いますので、

引用後、私の方から噛み砕いて意味の解説もいたします。

※ 引用文中「反転法」と記載のものは本ブログページ「ABABデザイン」を示す


反転方も実験計画法の1つなので、独立変数の操作が従属変数の変化を生み出したという結論の妥当性、すなわち内的妥当性を高めるように作られている

内的妥当性を高めるためには、他の要因によって従属変数が変化した可能性を排除しなくてはならない

まず、従属変数の測定値は、独立変数の操作以外にも、測定の反復による測定への慣れや、偶然に得られた極端な測定値がその後の測定で平均値に回帰する傾向や、測定方法や測定装置に起きた変化によって変化する可能性がある

しかし、ベースラインデータの安定した傾向や、実験条件への移行に伴うデータの変化を確認できれば、それらの他の要因が関与していた可能性は小さいといえる


また実験参加者や被験体の成熟が行動に影響する場合のように、時間経過に伴って測定対象そのものが変化したり、偶発的な実験外の出来事が影響したりすることで測定対象そのものが変化したり、偶発的な実験外の出来事が影響したりすることでも測定値が変化する可能性がある

そして、それらの影響はベースライン条件から実験条件への移行と同時期に生じうる

そこで必要となるのが、独立変数を撤回して、ベースライン条件に戻す操作である

この再ベースライン条件で測定値が最初のベースラインデータの傾向に戻れば、測定対象そのものの時間的変化や実験外の出来事が実験条件のデータに影響していた可能性は小さいといえる

他方、測定値がベースラインデータの傾向に戻らなければ、実験条件については結論を保留にしなくてはならない


洗礼された文章ではあるのですが、慣れないとなかなか難しい文章ですね

以下、簡単に上の引用を解説しましょう。

本章ここまでは「ベースライン」と「AーBデザイン」についてご紹介するブログページを書いてきました。

そして、本ブログページでは「ABABデザイン」を扱っています。


Robyn L. Tate・Michael Perdices・Ulrike Rosenkoetter・Skye McDonald・Leanne Togher・William Shadish・Robert Horner・Thomas Kratochwill・David H. Barlow・Alan Kazdin・Margaret Sampson・Larissa Shamseer・Sunita Vohra (2016) は、

「AーBデザイン」は統計的分析でいう「準実験」的な立ち位置であると述べました。

そして「ABABデザイン」は「準実験」の立ち位置ではありません。

※ 準実験とは「科学的なエビデンスを持つ」という程の強い根拠がない統計的研究法の1つです


「ABAB」デザインは「準実験」の立ち位置でなく、

正しく行われた「ABABデザイン」によって得られた結果は科学的な根拠(エビデンス)を持つと考えることが可能になります。

対して「準実験」的な立ち位置である「AーBデザイン」で得られた結果は、個人的に意味はあると考えていますが、残念ながら科学的な根拠を持つとまでの強い結果とは言えません。

「ABABデザイン」が介入効果の科学的な根拠(エビデンス)を示すのであれば、「偶然」などの要因を除いて「介入にこそ効果があった」と示さなければいけません。


「独立変数」、「従属変数」という用語が日本行動分析学会 (2019) の文中に出てくるのですが、

「独立変数」が「介入」、

「従属変数」が「介入によって行動が変化した結果」、

です。


「AーBデザイン」の場合はベースラインから介入へとフェイズを1度移行させるだけなので、もしかすると「たまたまその時期に介入以外の場面でスキルを使用したタイミングと重なった」などの要因を否定することができません。

しかし「ABAB」と2度操作を繰り返すことで以上のような要因を取り除いて、

「これは、ちゃんと介入の効果によって生じた行動変化やで!」という主張を強めることが可能です。

そしてデザインによって得られた主張は介入効果の科学的な根拠(エビデンス)を示す主張となります。


本項のタイトルは「ABABデザインでなぜわざわざ反転をさせるのか?」ですが、その理由の答えはこのような強い主張を持つため、ということです。

そして以上の内容が日本行動分析学会 (2019)の引用をかなり噛み砕いて書いた内容となります。

またもしかすると日本行動分析学会 (2019) の文中「実験計画法」という用語が出てきたことにも驚かれたかもしれません。


お母様

私は子どもに療育をしているのに「実験計画法」ってどういうこと!?


Enせんせい

「実験計画法」と言われると少し人間味がないように感じる人もいるでしょう


「療育」とは愛情味に溢れ、ハートフルにお子様と関わるイメージがあるでしょう。

私自身、お子様と関わるときは愛情を持って関わりますので、そのため「実験計画法」という言葉の人間味のなさに抵抗感を持つかもしれません。


しかし、お子様にとって介入効果の科学的な根拠(エビデンス)を示す程の強い主張のある介入方略を持っていることは、個人的には意味があると感じています。

お子様との関わり自体はハートフルで愛情に溢れている方が良いと思いますが、どういった方向で療育方略を考えて行くかということを考えるときは頭を切り替えてこのような科学的な行動の見方の方法を取ることも必要になってくるでしょう。


以下「ABABデザイン」の介入例を見て行きます。



ABABデザインの介入例

今回の仮想ケースに出て来てくれるお子様は「太郎くん」です。


「太郎(たろう)くん」

太郎くんはまだあまり人とコミュニケーションを取ることが難しい無発語の3歳の男の子です

家族構成はお母様、お父様、太郎くんの3人家族でありお父様は平日の仕事終わり19時ごろにだいたい家に帰ってきます

太郎くんのお母様は料理を作るのが好きで、お父様もお母様の手料理が大好きです

また太郎くんは偏食もあったため、食べられるもので太郎くんの充分な栄養素を摂らせようとすると調理には少し時間がかかってしまうという実情もありました

お母様が調理をしている時間はだいたい30分程度です

ただ、その30分はお母様にとってかなり苦痛を伴う時間でした

お母様が調理をしている30分間の間、太郎くんは癇癪を起こし泣くことが多かったのです

お母様は太郎くんが癇癪を起こして泣くたびに太郎くんのところに行き、機嫌が治るまであやします

またお母様は泣かないまでも「泣きそう」になったときも太郎くんのところに行き、機嫌が上向くように少しあやすのでした

そういった状況が続いており、困ったお母様は「太郎くんに料理をしているとき、癇癪を起こして欲しくない」という目的を持って私のところにやってきました

今、お母様は太郎くんの機嫌が治るようにあやす時間も調理時間30分以内の中でなんとかやっていましたが、鍋やフライパンに火をかけているときにあやしに行かなければいけないタイミング等もあり、少し危機感も持っています


以上のようなケースを想定しましょう。

これは仮想ケースです。


Enせんせい

少し話はそれますが「機能分析」という本章のあとで書いていくところでもご紹介しようと思っている仮想事例ですが、

今回は「シングルケースデザイン(SCD)」、「ABABデザイン」の文脈でこの仮想事例を用いて解説して行きます


一旦「ABABデザイン」の最初の「A」のところのベースラインを以下に示しましょう。



↑↑↑以上の状況が「現状」、つまり「ベースライン」です。


5日間のデータですが、お母様が調理をする時間30分間で太郎くんは平均10分泣いており、お母様は平均すると5回は太郎くんをあやしに行っていたことがわかりました。

※ データのプロット数を5にしていますが、ここは3など、状況により、お子様によってチューニングすること


私が提案した介入方法は以下のものとしましょう。


「太郎くんに3分間に1回、お母様から話しかけるようにしてください。

また、3分間に1回話しかけたとき以外で、泣きそうになったときは機嫌が上向くようあやしてください」


以上が介入方法です。


Enせんせい

めちゃくちゃシンプルですが、ABA自閉症療育ではこのようなシンプルな介入を用いるということも多くあることを知っておきましょう


お母様に提案した介入を行ってもらったとき、「ABABデザイン」の途中「AB」のところまでのデータを以下に示します。



5日間のデータで、お母様が調理をする時間30分間で太郎くんは平均1分泣いており、

お母様は平均すると3分間に1回関わる以外に、

2.8回は太郎くんをあやしに行っていたことがわかりました。


データの見方

折線グラフが太郎くんが泣いた時間を表しています。

棒グラフは3分間に1回、お母様から話しかける以外、お母様が太郎くんの様子を見て泣きそうになったときにあやしに行った回数を表しています。

ーーーー


「AーBデザイン」であれば、ここで終了し介入を続ければ良いです。

介入によって「泣きの時間」や「3分間に1回話しかける、以外のあやし」が減っているので、このまま介入を続けることも良いでしょう。

ただ、「ABABデザイン」の場合はもう一度ベースラインに状況を戻しますので、ご提案した介入方法「太郎くんに3分間に1回、お母様から話しかけるようにしてください」を辞め、

もとの状況(ベースライン)に戻します。


すると、以下のようなデータが出現したとしましょう。



もとの「ベースライン」の状況に戻したことによって、以前の状態へと太郎くんの癇癪と泣きが戻ってしまいました。

5日間のデータで、お母様が調理をする時間30分間で太郎くんは平均9.2分泣いており、お母様は平均すると5.4回は太郎くんをあやしに行っていたことがわかりました。

「ベースライン」に戻しているため「3分間に1回話しかける」という介入はこのとき撤去されています。


これは「ABABデザイン」の途中「ABA」のところまでのデータですね。


最後に「ABABデザイン」、「ABAB」まで行ったものが以下のデータになります。


「ABABデザイン」、「ABAB」まで行ったデータ

↑↑↑これが仮想ケースにて「ABABデザイン」を用い、得られた最終データです。


最終データでは、

5日間のデータで、お母様が調理をする時間30分間で太郎くんは平均1分泣いており、お母様は平均すると3分間に1回話しかける、以外に2.2回は太郎くんをあやしに行っていたことがわかりました。

「介入」に戻しているため「3分間に1回話しかける」という介入が導入されています。


以上のデータが「ABABデザイン」を通して得られたことから、

お母様が調理をする30分間において太郎くんの癇癪と泣きを減らすための介入方略としての「太郎くんに3分間に1回、お母様から話しかけるようにする」という方法は科学的な根拠(エビデンス)を示す程の有効性を持つ

と主張することが可能となります。


この後の方向性としては、「太郎くんに3分間に1回、お母様から話しかけるようにする」という介入は現段階、今のシチュエーションの太郎くんに対して有効である可能性が高いため、そのまま介入を続けていけば良いでしょう。


以上「ABABデザイン」を使用した介入例をご紹介しました。

しかしここまで見てもらって「ん?」と思ったこともあるかもしれません。

次の項ではABABデザインの「使いにくい点」と「限界点」についても書いて行きます。



ABABデザインの使用しにくい点と限界点

Enせんせい

本項ではABABデザインの「使いにくい点」と「限界点」について書いて行きましょう


まず最初に「使いにくい点」をご紹介します。

ここまで太郎くんの仮想ケースを見てきました。


もしあなたが太郎くんのお母様だったとしましょう。

先ほど示した、お母様に提案した介入を行ってもらったとき、「ABABデザイン」の途中「AB」のところまでのデータをもう一度見てみます。


「ABABデザイン」、「AB」まで行ったときのデータ

この時点で介入は上手く行っており、お母様からすれば生活が以前よりも楽になっている可能性が高いでしょう。

今、状況が良くなっているにも関わらず「ABABデザイン」を実行するということは、もう一度、悪かったときの状況に戻ることを求めます。


Enせんせい

いかに「ABABデザイン」を行えば、科学的な根拠(エビデンス)を持つと主張できる程の強い介入方略を見つけることが可能!

と言われても、これは抵抗感があるでしょう?


David H. Barlow・Michel Hersen (1984) を参考にすれば、介入の除去について、除去することで取り返しのつかない症状の悪化をもたらすことは実験論文からそのような根拠は見当たらないようです。

しかしDavid H. Barlow他 (1984) を参考にしても「どうして(介入が上手く行っているのにもとに戻すの)ですか?」ということで抵抗はやはりあるようで、一定の成果が上がっているやり方を変更することはスタッフ(他の介入協力者)や家族にとってかなり困難なことである、と述べています。


このように実験計画法としては魅力的なものの、実際は療育を行っていく中で「ABABデザイン」に対して強い抵抗感が生じてしまうこともあるかもしれません。

個人的な意見としては、私が皆様に推奨しているABA自閉症療育は「実験」ではなく「家庭療育(臨床)」なので、個人的な見解としては「AB」の段階で上手く行っているのであればそのまま様子を見て「ABA」と2回目のベースラインに状況を戻さなくても良いと思います。


以上「ABABデザイン」の「使いにくい点」ですが「限界点」はどうでしょうか?

「ABABデザイン」の「限界点」としては例えば日本行動分析学会 (2019)が参考になります。


日本行動分析学会 (2019)は「ABABデザイン」を利用できない場合として、


(1)導入した実験条件を撤回できない場合

(2)実験条件を撤回しても導入前の行動が再現できない場合


2点を上げました。

※ 日本行動分析学会 (2019)では「ABABデザイン」は「反転法」と記載


「(1)導入した実験条件を撤回できない場合」とは例えば実験参加者に言語教示を与えると、それを完全に忘れさせることは難しいと言った場合です。

例えば「信号を歩いて渡る」ことを教えるとき、言葉で「信号は歩いて渡ろう!」と教えたとしましょう。

もう一度ベースラインに戻す場合、言葉で「信号は歩いて渡ろう!」という言葉を忘れてもらうという条件が必要なのですが、これはかなり難しいため、もとに戻すということができない場合があります。


「(2)実験条件を撤回しても導入前の行動が再現できない場合」は実験条件下で実験参加者や動物が何かしらの技能を身につけ、実験条件を撤回しても技能習得以前の状態には戻らない場合です。

例えばベースラインのときにくつしたを履くことが難しいお子様に対して、介入でプロンプトを使って自立してくつしたを履くことを教えたとします。

この場合、本人が習得した「くつしたをはく」という習得した技能を忘れさせることはかなり難しいため、もとに戻すということができない場合があります。


以上がABABデザインの「使いにくい点」と「限界点」です。


Enせんせい

最後に私が個人的に好んで使っている「ABABデザインを意識したアセスメント方法」をご紹介して、本ブログページを終了とします



個人的に使うABABデザインを意識したアセスメント方法

私が個人的に使うABABデザインを意識したアセスメント方法をご紹介しましょう。

私は面接場面で以下のように「ABABデザイン」を意識してアセスメントをすることがあります。


例えば「幼稚園」に抵抗感を持っているお子様がいたとしましょう。

年齢は何歳でも良いですが、年長さんくらいをイメージしてください。

お母様はお子様が「幼稚園」の何がそんなに嫌なのか、あまりアテがありませんでした。


お母様

この子、幼稚園が嫌みたいだけれど、幼稚園の何がそんなに嫌なのかしら・・・


以下の会話を見てください。


私:今日何食べたん?先生はハンバーグ食べたよ

子:今日はうどん食べた。うどん美味しいよ

私:おお!いいな!うどん!先生もうどん好き

子:僕もうどん好き!冷たいうどんがめっちゃ好き


・・・と何気ない会話をしているときのお子様の反応を見ておきます。

あとで解説しますが、これらは面接内で得られたやりとりの「ベースライン」です。


もう少し会話が深まってきたとき、


私:幼稚園では何して遊んでんの?

子:ボール遊び!ボール遊び大好きやねん

私:おお!いいな!誰とやってんの?(A)

子:じろうくん!じろうくんと遊ぶのめっちゃ楽しい(A)

私:そっか!ちなみに幼稚園のせんせいの名前って何やったっけ?(B)

子:・・・・・はなこせんせい(B)

私:そっかそっか!てかせんせいもボール遊び好きやってん!投げるのと蹴るのどっちが好き?(A)

子:なげる!投げる方が僕、得意やからね!投げるの上手いよ(A)

私:そっか!ちなみに幼稚園のはなこせんせいもボール遊び一緒にやるん?(B)

子:・・・・・知らない(B)


と、以上のような反応が観察されたとしましょう。


(A)や(B)というのは「(A)ベースライン」と「(B)ベースライン以外」を示しています。

「(B)ベースライン以外」というのは本ブログページで(B)を「介入」と表記してきたので違和感があるかもしれません。

ただ、どのように自分自身がお子様に関わって、どのような反応が返ってきたかを「ABAB」のデザインで見るということが重要になります。


(A)がベースラインとして考えられるため、「今日何食べたん?先生はハンバーグ食べたよ」、「おお!いいな!うどん!先生もうどん好き」など何気ない会話で「抵抗感を持たないであろう話題に対してのお子様の反応」をアセスメントしておくことが大切です。

その後「幼稚園では何して遊んでんの?」と聞いていますが、このときお子様の反応はベースラインとさほど変わらなかったとしましょう。

そうするとお子様が持っている「幼稚園に対しての抵抗感」は「お友達関係ではないかも?」と推測できます。

「抵抗感を持たないであろう話題に対してのお子様の反応」と違い、赤色太文字の(B)の部分でのやり取りでは「・・・・・」と反応が遅れて返っていたり、言葉数が減っていることが観察できました。

これは「抵抗感を持たないであろう話題に対してのお子様の反応」とは違うため、

もしかするとお子様は幼稚園の先生に対して抵抗感を持っている可能性があるな、とアセスメントすることができます。


Enせんせい

このように通常の状態を「ベースライン」として会話の中で測っておき、

反応が変化した話題に対して何かしらの意味があるのではないかと「ABAB」で挟んでアセスメントすることを私は結構やるのですが、

個人的には気に入っているアセスメント方法です


但しエビデンスの質としては例えば本来の「ABABデザイン」のようにとても高い、という程のものではないことには注意しましょう。


例えば私は「シングルケースデザイン(SCD)」において、日を分けてデータは採取した方が良いと考えています。

これは1日のデータだけ観察しても毎日コンディションが違う(例えば寝不足とか、金曜日にやっている好きなTVを見た後だったりとか)ため、データとしての客観性が薄くなってしまうと思っているからです。

そのため1日だけ、そしてそのタイミングのみで得られた以上の会話内のデータはかなり強い根拠を持つとまでは思いません。


しかし私はアセスメントの参考として扱っています。



さいごに

「シングルケースデザイン(SCD)」の論理構造は、ベースライン期を設定して何も介入を施さないときの標的行動のデータを収集したうえで介入を導入し、ベースライン期と介入期のデータの比較により、つまり従属変数の値の変化をみることにより、介入の効果、独立変数の効果を検出するというものです(参考 山田 剛史, 2000)

本ブログページではSCDの1つ、「(A)ベースライン」「(B)介入」「(A)ベースライン」「(B)介入」を繰り返すことで行う「ABABデザイン」についてご紹介しました。


「ABABデザイン」は本章1つ前のページでご紹介をした「AーBデザイン」と比べて、そこで得られたデータの客観性は高く、正しく行うことで科学的な根拠(エビデンス)を示す程の有効性を持っています。

但し上手く行っている介入を途中でやめてもとの条件に戻すということで抵抗感を持たれがちだったり、

忘れさせることが難しいスキルについては使用上の限界があることを書いてきました。


個人的には「先行子操作」と言われる介入を行うとき、ABABデザインは力を発揮すると考えています。

先行子操作については「(ABA自閉症療育の基礎64)オペラント条件付けー先行子操作で適切行動を増やし問題行動を減らす(https://en-tomo.com/2020/12/06/antecedent-control-procedures/)」でご紹介しましたが、

「環境要因を変える」という点で「ABABデザイン」と相性が良いと思います。

※ ちなみに本ブログ中に出てきた調理時間にお子様が癇癪を起こして泣いてしまうことを扱ったエピソードで用いた介入も先行子操作です


「(ABA自閉症療育の基礎64)オペラント条件付けー先行子操作で適切行動を増やし問題行動を減らす」のサムネイル

本章の次のページでは「Multiple-baseline design(多層ベースラインデザイン)」をご紹介しましょう。

「Multiple-baseline design(多層ベースラインデザイン)」は「ABABデザイン」と違い、ベースラインに戻すという手続きを取りません。

そのため「ABABデザイン」と違い臨床上使用することに対しての抵抗感も持ちにくいデザインです。


「Multiple-baseline design(多層ベースラインデザイン)」も「ABABデザイン」同様に正しく行うことで科学的な根拠(エビデンス)を示す程の有効性を持っています。


Enせんせい

臨床上使用することへの抵抗感が少ないこともあってか、

ABA自閉症療育の臨床研究で一番多く目にするなと思っているデザインです


次のページで「Multiple-baseline design(多層ベースラインデザイン)」についてみて行きましょう。



【参考文献】

・ David H. Barlow・Michel Hersen (1984) SINGLE CASE EXPERIMENTAL DESIGNS; Strategies for Studying Behavior Change 2/ed 【邦訳: 高木 俊一郎・佐久間 徹 (1988) 一事例の実験デザインーケーススタディの基本と応用ー 二瓶社 (改訂 2008)】

・ Ghaleb H. Alnahdi (2013) Single-subject designs in special education: advantages and limitations. Journal of Research in Special Educational Needs 

・ Kpolovie Peter James (2016)SINGLE-SUBJECT RESEARCH METHOD: THE NEEDED SIMPLIFICATION. British Journal of Education, Vol.4, No.6, pp.68-95, June 2016

・ 日本行動分析学会 (2019) 行動分析学辞典 丸善出版

・ Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) Applied Behavior Analysis for Teachers:Fifth Edition【邦訳 佐久間 徹・谷 晋二・大野 裕史 (2004) はじめての応用行動分析 二瓶社】

・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】

・ Robyn L. Tate・Michael Perdices・Ulrike Rosenkoetter・Skye McDonald・Leanne Togher・William Shadish・Robert Horner・Thomas Kratochwill・David H. Barlow・Alan Kazdin・Margaret Sampson・Larissa Shamseer・Sunita Vohra (2016)The Single-Case Reporting Guideline In BEhavioural Interventions (SCRIBE) 2016: Explanation and Elaboration. Archives of Scientific Psychology. 4, 10–31

・ 島宗 理 (2019) 応用行動分析学 ヒューマンサービスを改善する行動科学 新曜社

・ 山田 剛史 (2000) 6章 第2節 一事例実験 【(編)下山 晴彦 シリーズ・心理学の技法 臨床心理学研究の技法 福村出版株式会社】