このブログページでは「環境豊穣化法」という支援方法をご紹介します。
「環境豊穣化法」という支援方法はあまり聞いたことがないかもしれません
あまり本に載っていません
このブログページでは「環境豊穣化法」を知るため
R. Don Horner (1980) の研究、
「THE EFFECTS OF AN ENVIRONMENTAL “ENRICHMENT” PROGRAM ON THE BEHAVIOR OF INSTITUTIONALIZED PROFOUNDLY RETARDED CHILDREN」
を参考に書いていきます。
ABA自閉症療育でお子さんの支援をしていると「うちの子、一人遊びが苦手なんです」と余暇活動(自由時間)の過ごし方に悩んでいる親御さんも多いです。
「環境豊穣化法」という支援方法はお子さんの適切な余暇活動の過ごし方を練習するための1つのヒントとなると感じています。
余暇活動の教え方、環境豊穣化という方法ーR. Don Horner (1980)
「環境豊穣化法」とは一言でいえば、
環境内を豊富な強化子で満たし、適切な行動を増やそう、問題行動の出現を減少・消失させようという手続きです。
R. Don Horner (1980) は5人の知的障がいを持つ女性に対して研究を行いました。
R. Don Horner (1980)ー研究参加者
彼女たちは施設の中で35人で生活をしていました。
5人の女性たちは研究に参加するため35人の住民の中で
・ 1日1時間以内にプログラムに参加している
・ 「旅をする」というビジョンを持っていた
という理由で9人に絞られたそのあと、乱数表を用いられて絞られた5人です。
年齢はそれぞれ
12歳、12歳8ヶ月、9歳、14歳8ヶ月、13歳1ヶ月
そして、
IQについてはいくつかの指標れ計測されたものの、
例えば「Cattell Infant Intelligence Scale」というものの結果は全員が15よりも低い指標を持っていました。
彼女たちは全員スプーンで食事を取ることができましたが時折、スプーンを投げることがありました。そのため、ナイフとフォークでの食事はできませんでした。
彼女たちはトイレの失敗があり、そのためのお風呂と着替えは日課になっていました。
また、それぞれ異なった自傷・他害の行動を持っていました。
R. Don Horner (1980)ー研究で測定された行動指標
R. Don Horner (1980) の研究内容は
「問題行動が起こりやすい環境」と「問題行動が起こりにくい環境」を特定することと、「適応行動が起こりやすい環境」と「適応行動が起こりにくい環境」を特定することでした。
この研究で定義された問題行動は、
「他者(大人や子ども)への攻撃(叩く、ひっかくなど)行動」や「自傷行為」、「おもちゃを不適当に乱雑に扱う」などです。
この研究で定義された適切行動は、
「他者(大人や子ども)へ援助や愛情を求める行動」や「自傷行為」、「おもちゃを適切に扱う」などです。
R. Don Horner (1980)ー研究では行動をどう測定した?
研究内ではこのような問題行動をどのように測定したのでしょうか?
測定は午前8時から午後12時の間に交代制で行われたようです。
観察は1人の女性に対して1日5分間行われたようで、1人目を5分間観察したあと、2人目を5分間観察しました。
記録方法は5分間を15秒ごとの間隔に分けて、問題行動や適切行動が出現するごとにチェックを入れていきます。
このような方法は、
でご紹介した「全体インターバル法」に該当すると思いました。
※ 気になる人はイラストのURLからブログページURLをご覧ください
また1人が観察したデータを使用するのではなく、同時に独立した2人の観察者のデータを照らし合わせ、一致したパーセンテージから、行動観察評価の信頼性を補填しました。
※ ABAの研究ではこのような手続きを使用して信頼性を求めることが良くあります
R. Don Horner (1980)の研究設定
研究が行われた部屋ですが長さ7.6m、幅4.6m。
中にはメッシュで覆われた窓が複数あり、白黒テレビと2つのテーブル、7つの大人用、子ども用の椅子と安全器具付きの金属製のキャビネットが設置されていたようです。
R. Don Horner (1980) の研究内容は10のフェイズに分かれて行われました。
少し複雑なため噛み砕いて省略もし、フェイズ5までの内容でABA自閉症療育で私がお勧めしたい介入法で使えそうな内容を絞ってご紹介します。
この研究では例えば全10のフェイズのうち、最初のフェイズ4までは簡単に言えば以下のような設定が組まれました。
フェイズ1とフェイズ3
特に何もせず、この中に彼女たちを入れて観察しました。
このフェイズ1とフェイズ3は、次のフェイズ2とフェイズ4との比較条件です。
フェイズ2とフェイズ4
玩具や物などのアイテムをたくさん使って環境を「豊かにする(involved maintaining the “enriched” environment )」ことが行われました。
この条件は「フェイズ1とフェイズ3」と比較してたくさんのアイテムが部屋に置かれているだけでした。
どのようなアイテムが置かれたのかについてはのちに記載してあります。
フェイズ5
フェイズ5では玩具や物をたくさん使って環境を「豊かにする」フェイズ2、4の条件に加えて「分化強化(Diferential Reinforcement of Adaptive Behavior:DR)」という手続きが加えられました。
この条件では、適切な行動を行っていた場合、女性たちは社会的な賞賛(褒め言葉)と、ソフトドリンクまたは少量のマシュマロをもらうことができました。
分化強化はABA自閉症療育ではメジャーな介入方法です。
分化強化についてはまた別ページで扱っていきますが、
分化強化とは簡単に言えば適切な行動については強化子を提示し、不適切な行動については強化子を提示しない手続き
と考えてください。
R. Don Horner (1980)の研究で設定された豊穣な余暇環境
上で書いたようにR. Don Horner (1980)の研究では部屋にアイテムを多数設置することで余暇を過ごすことができる豊穣な環境が整えられています。
ここで置かれたアイテムの選択基準は、
(1)何らかの方法で操作することができる
(2)壊れにくい
(3)飲み込まれず、身体の開口部に突き刺さるリスクが低い
(4)武器として使用する場合は使いにくい
(5)武器として使用した場合、怪我をするリスクが低い
(6)汚れたときに清掃または廃棄できる
という基準で選ばれたようです。
具体的にはしゃべる、押すことができる、音が出る、話す、引くことができる様々なおもちゃ、
これらの他の具体物として書かれていたものは、
ボード、ロッキングチェア、ロッキングホース(馬)、人形、ボール、スポンジブロック、タイヤのインナーチューブ、大型のプラスチック製のくるま、ペットボトル、動物のぬいぐるみ、木製パズル
などでした。
以上のような時間軸に沿って豊潤なアイテム「なし」「あり」「なし」「あり」
を設定しました。
そしてその後、「あり+分化強化」の順に環境設定を設定し順次行動の変化を追い効果的な環境を探して行きます。
また彼女たちは特にこれで遊べという指示もなく部屋の中で自由に過ごすことができました。
このシチュエーションを日常の言葉で表すと「余暇活動時間」、「自由時間」と捉えることができるでしょう。
豊穣な余暇環境、R. Don Horner (1980)の研究結果
この研究はフェイズ10まで続く研究ですがこのブログページでは、
R. Don Horner (1980)の研究結果のフェイズ5までを示し、その後に考察をして行きます。
このフェイズ5までの結果についてだけでも、
ABA自閉症療育にとって有用な結果だと思います
フェイズ1(比較条件)では、
適切行動は21パーセント、
問題行動は71パーセントの確率で生じました。
フェイズ2(環境豊穣化条件)では、
適切行動は44パーセントに増加し、
問題行動は約70パーセント以下に低下したようです。
※ 適正行動と問題行動の割合を合わせると100パーセントを超えていますが、このデータをどう読み取れば良いか?がこの時点について私も少しわかりません。このことはこの後の結果でも続きます
フェイズ3(比較条件)に戻すと、
適切行動は18パーセントに低下し、
問題行動は約88パーセントに上昇したようです。
フェイズ4(環境豊穣化条件)に戻すと、
適切行動は50パーセントに上昇し、
問題行動は約79パーセントまで低下したようです。
フェイズ5(環境豊穣化条件+分化強化)を取り入れると、
適切行動は68パーセントに上昇し、
問題行動は約39パーセントまで低下したようです。
各フェイズの行動指標データを見ると以上のような結果でした。
R. Don Horner (1980)の研究結果考察、豊穣な余暇環境
豊穣な余暇環境「なし」「あり」「なし」「あり」ーフェイズ1から4
フェイズ1からフェイズ4までの結果を見ると、
問題行動は微量に低減し、適切行動は倍以上に増加しました。
生活環境をお子さんが興味を持っている、または好き(であろう)アイテムで満たすだけで、適切な行動は増加した
という結果はすごいと思いました。
環境設定を変えるだけで問題行動が微量ですが減少し、且つ適切な行動が倍以上になる可能性がある、ということだけでもこの研究は価値があると思います。
豊穣な余暇環境+分化強化ーフェイズ5
「環境豊穣化条件」に加えて「分化強化」を取り入れたフェイズ5では、
適切行動は68パーセントに上昇し、問題行動は約39パーセントまで低下しました。
何も操作を加えなかったフェイズ1は適切行動は21パーセント、問題行動が71パーセントの確率で生じていたことを考えると、
適切行動は約3倍以上生じるように変化し、問題行動は約半分の量まで減ったことになります。
ここまでの変化があれば、目に見える「有用な変化」と言っても過言ではないでしょう
この研究で行われた「分化強化」とは、
適切な行動を行っていた場合、女性たちは社会的な賞賛(褒め言葉)と、ソフトドリンクまたは少量のマシュマロをもらうことができるという手続きでした。
このように適切行動を積極的に強化し、増加させていくことを狙いました。
問題行動の減少は、
・ 問題行動を行っている間はソフトドリンクやマシュマロがもらえない
・ 適切な行動が増えていくことで相対的に問題行動が減っていった
という2点の理由によって生じたと考えられます。
B.F. Skinner (1963) は100回の反応が決して自発されないのであれば、100回ごとに強化する装置は全く効果がないであろうと述べています。
適切行動を強化して増やしていこうと思っても、そもそも適切行動が出現しないという状態であれば、強化することそのものが難しい
ということがあります。
行動を自発させる、そして自発させた行動をいかに強化するか?
このような考え方が非常に大切です。
どうやって適切な行動を出現させるか?
ABA自閉症療育でお子さんの「適切な行動」を出現させるための最もメジャーな方法が「プロンプト」でしょう。
しかしプロンプトによって促すのではなくプロンプトがなくともお子さんが自発的に適切な行動を行ってくれることがあればそれがベストです。
そのためお子さんが自発的に適切行動を行う可能性を上げてくれるこの「環境豊穣化法」という支援方法は毎日のABA自閉症療育に活かせるヒントになると思います。
R. Don Horner (1980)の研究結果を考察ー注意点
個人的に感じた以上の研究内容を導入する際の注意点もご紹介します。
1つ目はこの研究は1980年と40年前に行われた研究です。
それからテクノロジーは進化し、子どもが手にする機器がインターネットに接続されている時代となっています。
例えば現代では「Youtube」という娯楽が存在しますが1つのアイテムから無限の刺激を生み出すことが可能です。
そのためR. Don Horner (1980)の研究設定を日常で行なった場合、
「ずっとYoutubeばかり見ている(1つのアイテムに固執する)」というシチュエーションに陥ることも考えられます。
このことを避けるために、1つのアイテムから得られる刺激が限定している例えばインターネットに接続されないおもちゃ(例、「ボール」「マグネットのお絵かきボード」「絵本」など)などのみをを用意する方が良いかもしれません。
2つ目はこの研究結果で得られた結果はあくまで「子どもの自由時間(余暇活動)が適切に過ごせる」という結果であるということです。
「余暇活動が上手く過ごせない」と悩んでいる親御さんも多いですのでこの結果も非常に有益なのですが問題行動は様々なシチュエーションで出現します。
この研究結果は「様々なシチュエーションの問題行動が減る」、「様々なシチュエーションで適切な行動が増える」というような結果ではありません。
例えばスーパーに行き、お菓子を買ってとねだった時、お母さんが断ると泣いて抵抗する。
こういったことに毎日悩んでいるというケースでは、この研究の手続きだけでこのようなシチュエーションの問題行動が消失する、ということは考えにくいです。
あくまでお子さんの余暇活動の過ごし方が上手くなる、という効果が期待できることを知っておきましょう。
余暇活動の教え方、環境豊穣化法は確立操作
最後に「環境豊穣化法」という支援技法はABA自閉症療育の枠組みで言えばオペラント条件付けの「確立操作」の枠組みであることをご紹介します。
James E. Carry・David A. Wilder (1998) は
正の自動強化によって維持されている問題行動に対する確立操作法には「環境豊穣化法」と「非随伴性強化法」があると述べています。
James E. Carry・David A. Wilder (1998) を参考にすれば、
「環境豊穣化」は「正の自動強化」によって維持している問題行動への介入方略であり「確立操作」を使った支援方法です。
さいごに
このブログページではお子さんの余暇活動を上手くする可能性がある「環境豊穣化法」を知るためR. Don Horner (1980) の研究を参考に解説をしてきました。
R. Don Horner (1980) の研究は一言でいえば、
環境内を豊富な強化子で満たし、適切な行動を増やそう、問題行動の出現を減少・消失させようという手続きでした。
James E. Carry・David A. Wilder (1998) によれば、
正の自動強化によって維持されている問題行動に対する確立操作法には「環境豊穣化法」と「非随伴性強化法」があります。
「非随伴性強化法」とは「Non Contingent Reinforcement:NCR」の日本語訳です。
実はこのブログページでご紹介したR. Don Horner (1980) の研究でも「フェイズ8」で「非随伴性強化法」が使用されていました。
「非随伴性強化法」は私もよく使う有用なABA自閉症療育の支援方法です。
次のページでは「非随伴性強化法」の紹介をご紹介して行きます。
※ 「非随伴性強化法」のことを普段私は「NCR」と呼び使用していますので、次のページでは主に「NCR」という書き方でご紹介していきます。
【参考文献】
・ B.F. Skinner (1963) Operant behavior. American Psychology, 18, 503-515 【邦訳 スキナー著作刊行会 (2019) B.F. スキナー重要論文集 Ⅰ 勁草書房】
・ James E. Carry・David A. Wilder (1998)Function Assessment and Intervention 【邦訳: 園山 繁樹 (2002) 入門 問題行動の機能的アセスメントと介入 二瓶社】
・ R. Don Horner (1980) THE EFFECTS OF AN ENVIRONMENTAL “ENRICHMENT” PROGRAM ON THE BEHAVIOR OF INSTITUTIONALIZED PROFOUNDLY RETARDED CHILDREN. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS. No13 473-491