このブログページではABA自閉症療育でも使用される「課題分析(Task Analysis)」というテクニックをご紹介します。
課題分析を理解するためには「行動は連鎖する」ということを知っておく必要があるのですが、このことについては
「(ABAの基礎59)オペラント条件付けー行動の連鎖化、刺激ー反応連鎖(https://en-tomo.com/2020/11/19/operant-conditioning-behavior-chain/)」
のブログページでご紹介させていただきました。
上のURLブログページで紹介した
行動は連鎖化して作られ、連鎖化しているがゆえに、細かく分解しようと思えばもっと細かく分解して理解できる、分析できる
という内容が「課題分析」では重要です。
それでは課題分析について見ていきましょう!
オペラント条件付けー課題分析(Task Analysis)とは?
日本行動分析学会 (2015) は課題分析について、
複雑な一連の行動がターゲットとなる場合、それを確実に作り上げるため、より細かい行動要素に分解し、各行動要素が成立するかどうかを評価することをいう
と述べました。
日本行動分析学会 (2015) を参考にすれば、
課題分析とは問題解決や行動形成の際に必要になるアセスメント(評価)テクニック
と言えます。
杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)は「課題分析」について、
(a)複雑な行動や
(b)いくつもの行動がつながって一連の行動になっているものを
(c)個々の構成要素に分けること
と述べました。
課題分析は様々な行動に適応することができます。
例えば山上 敏子 (2007) は子どもが靴下を履く行動の課題分析を紹介しました。
Shira Richman (2001)は「椅子取りゲーム」へ課題分析を適応する方法を紹介しました。
もっと複雑な行動では井上 雅彦 (1999) は「グラタン」を作る際の課題分析を紹介しています。
課題分析はこのように様々な行動に適応することが可能です
このように様々な行動に適応できる課題分析ですが、
Raymond .G .Miltenberger (2001) は課題分析の最初のステップとして、
課題を遂行するために必要となる全ての行動を明確にし、順に書き留めるべきである
と述べました。
Raymond .G .Miltenberger (2001) は介入前にしっかりと全ての行動を書き留めることが大切と述べています。
以下、坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) の行なった「カップ麺」を調理する課題分析からどういった内容をメモに書き留めるのかを見ていきましょう。
このように本当に色々な行動を分析する際に使用できるのが「課題分析」なのです。
オペラント条件付けー課題分析、アセスメントの例
坂上 貴之他 (2018) は「カップ麺」を調理する際の課題分析の例を示しました。
(1)フィルムをはがす
(2)カップ麺のふたを線まで開ける
(3)ポットから湯をカップの線まで注ぐ
(4)ふたを閉める
(5)タイマーを3分にセットする
(6)タイマーがなったらタイマーを止める
(7)ふたをはがす
以上がカップ麺を作るときの課題分析の一例です。
「一例」と書いたのには意味があって例えば人によっては、
(1)ポットに水を入れてスイッチを押す
(2)おはしを袋から出す
(3)カップ麺のふたを線まであける
(4)ポットの水がお湯になることを確認する
(5)ポットから湯をカップの線まで注ぐ
(6)ふたを閉める
(7)時計をみて3分間経過することを確認する
というものが適切な課題分析かもしれません。
個人に合わせて「課題分析」の内容を変更していく必要があります。
課題分析は人に合わせ、オーダーメイドで作るものです。
課題分析はあくまで課題達成を目的とした支援テクニックですので、より細かく紙に書き起こし分析した方が優秀であるということもないでしょう。
個人が目標行動を達成できるために課題分析を行うので、個人に合わせて適当である必要があります。
例えば、あまりにも細かいステップに課題分析し、
順に行動を教えて行こうとした場合、
余計に時間がかかってしまう可能性があります
上のカップ麺の例ですが例えば手先があまり器用ではなくカップ麺のふたを開けることが少し困難な個人に適応する場合は、
(1)カップ麺のふたの掴み口を右手の親指と人差し指で摘む
(2)カップ麺の容器、掴み口の反対側を左手で握る
(3)左手で握る力を強くし、右手を上にあげる
というような課題分析を組み込むことが適切でしょう。
このように課題分析は個人に合わせたオーダーメイドのものを作る必要があります。
オペラント条件付けー行動アセスメント、課題分析のポイント
ABA自閉症療育でお子さんに行動、スキルを教えていく際はこのブログページで紹介をしている「課題分析」はかなり使えますしABA自閉症療育での使用頻度も高いテクニックです。
しかし、慣れるまでは決して簡単とは言えません。
例えばPaul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) は、
複雑な行動を教えようとするときにぶつかる最も大変な問題は、
行動連鎖をどのようなステップで教えるか、
どんなリンクまたは構成要素が連鎖に含まれているか、
リンクをどんな順番でつなげるかを正確に決めることです
と述べました。
このように課題分析を最も大変な問題と述べる専門家もいます。
とはいえ、簡単ではないと言っても課題分析はやはり本当に有用なのです。
そのためここで、
私が普段「課題分析」を行うときに意識しているポイントを2つご紹介します。
このポイントが、他の専門家の方が同じようにやっている定番である!
ということまでを保証はできませんが、もし課題分析が難しいと思っている方は参考にしてみてください。
課題分析ポイント1ー行動の終了地点を決めスタート地点から考える
私がお勧めする1つ目の課題分析のポイントは、
最初に行動の終了地点を決めその後スタート地点から順に考えて行くことです。
私は課題分析を行うとき、最初に行動の終了地点を考えるところから始めます。
例えばお子さんに日常動作、くつ(※ ひもぐつではない)を履く行動を教えたいとしましょう。
最初に書き起こすのは、
(X)くつを履いた状態で立つ
という行動です。
「(X)」としたのは、この行動が終了する時点が課題分析の中で何番目に来るのかわからないからです。
このように最初に行動の終了地点を考えます。
次に私はスタート地点を考えます。
例えばくつを履く行動であれば、玄関の前に立つなどでしょうか?
この行動は(1)番になり、ここからは番号を振っていけます。
(1)玄関の前に立つ
(2)右足をくつに入れる
(3)右足を奥に押し込む(かかとが出るくらいまで押し込めばOK)
(4)左足をくつに入れる
(5)左足を奥に押し込む(かかとが出るくらいまで押し込めばOK)
(6)しゃがむ
(7)右のくつのロゴの部分を持って引っ張る
(8)左のくつのロゴの部分を持って引っ張る
(X)くつを履いた状態で立つ
最後に「(X)くつを履いた状態で立つ」の「(X)」を「(9)」に番号を打ち変えれば課題分析の完成
このように私は課題分析を行う際は、
最初に行動の終了地点を考え、次にスタート地点から順に課題分析を行なっていきます。
課題分析ポイント2ーイメージを行動に起こしながら行う
私が行なっている2つ目の課題分析のコツはイメージを行動に起こしながら行うことです。
課題分析を行っているとき私はまさにパントマイマー。
例えば上のお子さんがくつを履く行動の課題分析を行っているときも、
一旦立ち上がり、イメージを実際に動作してみます。
このように、
実際にイメージしながらくつを履く動作を行うことが大切です。
私は課題分析に書き留める項目が思いつくと一旦動作を止め、パソコンに項目を書き込みます。
そしてまた立ち上がって次の課題分析を書くためにパントマイムを始めるのです。
私はちょっと忘れっぽいところがありますので1つ1つ思いつくたびに書き留めることにしています。
なぜこのような行為をしているかって?
実際にイメージした教えたい動作を行ってみることで気がつけることは意外に多いです。
「あ、くつを履く最後、立ち上がる前にはロゴの部分を掴んで履く際は右足を入れたあとに左足も履いてから立ち上がるな!」
とか意外な部分に気がつくことができます。
机の前で頭を抱えて「この行動はどういうように分解できるんだー」と、頭を抱えていないで実際に動作してみましょう。
さいごに
このブログページでは「課題分析(Task Analysis)」というアセスメントテクニックを見てきました。
「課題分析」はABA自閉症療育でかなり使用頻度の多いテクニックです。
宮下 照子・免田 賢 (2007) は課題分析について、
ある課題を遂行するためにどのような下位行動が必要か分析すること。複雑な行動を構成する単位行動を1つひとつ調べるプロセスである
と述べました。
課題分析とは問題解決や行動形成の際に必要になる場合があるアセスメント(評価)テクニックです。
もし課題分析を行うのであればこのブログページで書いてきたように、
課題を遂行するために必要となる全ての行動を明確にし順に書き留めるべきで、
2つのポイント、
1つ目は最初に行動の終了地点を決めその後スタート地点から順に考えること、
2つ目はイメージを行動に起こしながら行うことを行なってみてください。
以上、課題分析の解説ページでした。
もしお子さんに何か行動を教えたいと思ったとき、何か解決したい行動問題があるとき、実践していただければ幸いです。
次のページでは実際に課題分析を行なったあとに行う、
「スモールステップ(Small Step)」と「シャイピング(Shaping)」の指導法について書いていきます。
【参考文献】
・ 井上 雅彦 (1999) 第7章 地域や家庭における生活に関する援助 4発達障害者の地域生活技能の指導 【小林 重雄(監修) 杉山 雅彦・宮本 信也・前川 久男 発達障害の理解と援助 コレール社】
・ 宮下 照子・免田 賢 (2007) 新行動療法入門 ナカニシヤ出版
・ 日本行動分析学会 責任編集:山本 淳一・武藤 崇・鎌倉 やよい (2015) ケースで学ぶ行動分析学による問題解決 金剛出版
・ Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) Applied Behavior Analysis for Teachers:Fifth Edition【邦訳 佐久間 徹・谷 晋二・大野 裕史 (2004) はじめての応用行動分析 二瓶社
・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】
・ 坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 行動分析学 行動の科学的理解をめざして 有斐閣アルマ
・ Shira Richman (2001)Raising aChild with Autism A Guide to Applied Behavior Analysis for Parents 【邦訳: 井上 雅彦・奥田 健次(2009/改訂版2015) 自閉症スペクトラムへのABA入門 親と教師のためのガイド 株式会社シナノ パブリッシング プレス】
・ 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)行動分析学入門 産業図書
・ 山上 敏子 (2007) 方法としての行動療法 金剛出版