本章ではこれまで2ページに渡って「受容課題」についてご紹介してきました。
本ブログページでは、
(1)DTTについて
(2)「マッチング課題」、「受容課題」、「表出課題」について
(3)強化について
(4)プロンプトについて
(5)トライアルレベルについて
(6)DTTのデータの記録について
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本ブログページでは以上6つについて簡易的にご紹介して行き、
ここまで学んで来た「受容課題」そしてこれから実践して行く「マッチング課題」と「表出課題」に厚みを出して行くことが狙いです
また上の(1)から(6)の5つのキーワードはブログ内で今まで何度も(ものによっては何度か)ご紹介してきましたが。
今このブログページを書きながら「DTTを行う際に知っておいた方が良いよな」というものを集めました。
もしご家庭でのABA自閉症療育に煮詰まってしまったときは検索窓から上のキーワードを検索し、ヒントとしていただければ幸いです。
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本ブログページの内容にあるキーワードをDTTを行う際少し頭においておいて欲しいです
(1)DTTについて
「DTT(Discrete Trial Teaching)」は日本語で「離散型試行訓練(りさんがたしこうくんれん)」や「非連続試行訓練(ひれんぞくしこうくんれん)、不連続試行訓練(ふれんぞくしこうくんれん)」などと訳されることが多いABAの療育手法です。
例えば山本 淳一・松崎 敦子 (2016) はDTTについて、
DTTは一元的なカリキュラムの下で明確な指示の提示があり、お子さんが行動をした後に強力な強化子(お子さんにとって価値を持つ結果)を伴わせると述べています。
上に「明確な指示の提示」という言葉がありますが、基本的には特に狙いがない場合は指示を出すときははっきりとわかりやすい形で出す方が良いでしょう。
※ 「基本的には特に狙いがない場合」というのは、曖昧な指示や注目を得ていない状況で突然出される全体指示、少し小声の指示等に反応できることを練習する場合は別
個人的には日本語訳としては「非連続施行訓練」がわかりやすいと思います。
「非連続」ですから、これは「連続してない」という意味を持っているわけです。
1施行1施行が連続して行われておらず、シンプルな設計で毎回を独立して1試行と捉え、毎回強化子を伴わせる連続していない1施行を積み重ねて行くトレーニング、と読み替えてもらっても大丈夫だと思います。
1施行は「1トライアル」と呼ばれることも多いです。
DTTの1トライアルの例は、
①支援者が「りんご」「ばなな」「ぶどう」のカードを提示し、「りんご どれ?」と指示を出す
②子どもが反応する(例えば「りんご」を選択し、正解する)
③その後、強化子が提示される(例えば「すごいね」などの賞賛などやくすぐりや好きなお菓子、おもちゃなどが与えられる)
上の①ー③をセットで全て行ったとき1トライアルとカウントします。
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DTTはそれぞれの独立した上の1トライアルを連続して行なっていき、正答率を上げて正しく答えられるよう練習して行く方法です。
独立した非連続の施行を連続して何度も何度も連続して行っていきます。
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「独立した非連続の試行を連続して」はかなりややこしい日本語かなと言った印象です
「非連続?連続??」となるかもしれませんが、DTTは上のようなものだと捉えてください
DTTの意味は「①指示②反応③強化子の提示」という区切られた連続しない(離散した、非連続の)1トライアルを連続し行うという形態を示した言葉です。
(2)「マッチング課題」、「受容課題」、「表出課題」について
DTTには、
・マッチング課題
・受容課題(じゅようかだい)
・表出課題(ひょうしゅつかだい)
という3つの大きなカテゴリーがあると覚えてもらって良いと思います。
いろいろな形の課題がありますが大きく上の3つのカテゴリーに分類して考えることができるでしょう。
「マッチング、受容課題を紹介、マッチング、受容課題は何をしているのかを意識する、課題設計のコツ(ABA自閉症療育テクニック17)(https://en-tomo.com/2023/06/30/be-aware-of-what-the-matching-and-acceptance-tasks-are-doing/)」
でもご紹介しましたが、
マッチング課題・・・視覚刺激ー視覚刺激のマッチングを行なっている課題
受容課題・・・視覚刺激ー音声刺激のマッチング課題
表出課題・・・例えば「くつ」の絵カードをお子様に見せ「これ何?」と聞き、お子様が「くつ」と基本的には言葉で答える課題
と書きました。
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難易度の順で言えば何をターゲットとするかにもよるところはあるものの、
(←簡単)「マッチング課題」 < 「受容課題」 < 「表出課題」(難しい→)
の順番で難しいです。
※ 例えば表出課題で「りんご」を言うことを練習しているお子様でも、まだ数の概念は年齢的に難しくそれは「マッチング課題」や「受容課題」でもやはり難しいと言った感じ
もし受容課題で難しければマッチング課題に落とす、
もし表出課題で難しければ受容課題に落とす。
マッチング課題ができれば次は受容課題、
受容課題ができれば次はマッチング課題。
基本線としてこのルートを知っておくと使えると思います。
(3)強化について
ブログ内で何度も何度も書いてきましたが、ABA自閉症療育の核は強化子です。
強化子はお子様の行動ののちに提示することで直前のお子様の行動を強めます。
この強化子を伴わせたい行動とは、本章1つ前のブログページでご紹介した受容課題で言えば、支援者が伝えた言葉に対応したアイテムを選択する(例えば触る)ことが強めたい行動です。
受容課題の場合は選択肢の中から支援者の伝えた対応したアイテムを選択する行動、
マッチング課題の場合は支援者が同じ(マッチングして欲しい)アイテムに対応したアイテムとマッチングする行動、
表出課題の場合は支援者が示した内容を言葉に出して答えてくれる行動になります。
そのためお子様が「プロンプト無し正答」、「プロンプト付き正答」いずれであってもターゲットを選択したのち、即時に強化しましょう。
即時というのは1秒以内を意識してください。
強化の練習については「強化子選定、強化の練習ーアイコンタクト課題を通して実践する(ABA自閉症療育をご家庭でやろう2)(https://en-tomo.com/2024/07/12/reinforcer-selection-and-reinforcement-practice/)」などを参考にしていただけると幸いです。
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(4)プロンプトについて
プロンプトについてこれまで本章内では、
「エラーレスラーニング(無語学習)を実践するー刺激内プロンプトと刺激外プロンプト(ABA自閉症療育をご家庭でやろう3)(https://en-tomo.com/2024/09/06/practice-errorless-learning/)」にて、刺激内プロンプトと刺激外プロンプトについて紹介しました。
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これまでのブログページでもたくさんプロンプトについてご紹介してきていますので、是非検索窓に入れて「プロンプト」と検索してみてください
プロンプトとは好ましい行動をより起こしやすくさせる刺激のことです(James E. Mazur , 2006)。
「刺激」というと小難しいので、これは例えば「目当ての行動を引き起こすための」、「関わり」とか「ヒント」とか「手助け」と読み替えてください。
プロンプトはヒントですので、最終的にはプロンプトがない状態でもできることを目指す必要があります。
このことをプロンプトフェイディングと呼ぶのですが、ずっとプロンプトを使用した状態を続けてしまうと「プロンプト依存」に陥ってしまう可能性があるので注意しましょう。
プロンプト依存とは、出現して欲しい適切な行動も、プロンプトを使用した状況で練習することをあまりにも続けてしまうと、プロンプトがなければ出現しなくなってしまう現象です。
O.Ivar Lovaas (2003) もプロンプト依存を避けるために指導者は全てのプロンプトを段階的に撤去しなければならないと述べています。
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(5)トライアルレベルについて
本章前のブログページの、
「DTT、受容課題を家で実践してみようー初めて受容課題をする場合やお子様がまだ言葉をほとんど知らない場合(ABA自閉症療育をやろう4)(https://en-tomo.com/2024/11/22/practice-dtt-acceptance-tasks-at-home1/)」
と、
「DTT、受容課題を家で実践してみようー受容課題を行ったことがある場合やお子様が既にいくつか知っている言葉がある場合(ABA自閉症療育をやろう5)(https://en-tomo.com/2024/11/29/practice-dtt-acceptance-tasks-at-home2/)」
で「トライアルレベル」という言葉が出てきました。
本ブログページ内でDTTは『1施行は「1トライアル」と呼ばれる』と述べました。
「トライアルレベル」とはこの「1トライアル」のレベルのことです。
例えば受容課題にて2枚のカード、「りんご」と「ぶどう」を並べて「りんごとって」と言ってりんごを選択してもらう課題よりも、
「りんご」と「ぶどう」と「バナナ」を並べて「りんごとって」と言ってりんごを選択してもらう課題の方が難しいでしょう?
これは枚数が増えたからですが同じように「1トライアル」と言っても、課題設定を変えることで「1トライアル」の難易度を変えることができます。
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トライアルの課題設定について以下ご紹介しましょう
マストライアル・・・ターゲットのみを大量に練習する
マストライアルは1ターゲットだけを連続して選択してもらう段階で、「大量試行」という名前の通り、決められたターゲットを連続して大量に練習するものです。
最初は選択肢が1つだけ、そののち、選択肢が2つ、3つと達成基準に達した段階で上げて行き、トライアルレベルを上げて行きます。
※ 「マストライアル」「ブロックローテーション」「ランダムローテーション」の達成基準は上でご紹介したURLも付いている「本章前のブログページ」の中に記載
ブロックローテーション・・・2つのターゲットを規則性のある順番で答え分ける
例えば3枚のカード「(A)でんしゃ」「(B)ひこうき」「(C)くるま」があったとします。
ターゲットは「(A)でんしゃ」のカードを伝えられ、3つの選択肢から選択することです。
※ ターゲットとは今教えている、まだ未習得の課題のこと
マストライアルでは1つの選択肢(でんしゃのみ)でも、2つの選択肢(でんしゃとひこうき)、3つの選択肢(でんしゃとひこうきとくるま)いずれの場合であっても、ターゲットの「でんしゃ」だけ選択させる課題を行ってきました。
ブロックローテーションではすでに習得済み(例えば「ひこうき」が習得済みだとする)の選択肢と現在ターゲットの「でんしゃ」、2つの選択肢を規則性のある順番で答え分けさせます。
(A)(A)(B)(B)(A)(A)(B)(B)(A)(A)
もしくは、
(A)(B)(B)(A)(A)(B)(B)(A)
↑上の順番でトライアルを組みましょう。
ターゲットの「でんしゃ」以外の選択肢が出てきても取り分けられるように練習をします。
ランダムローテーション・・・2つのターゲットを規則性のある順番で答え分ける
ブロックローテーションでは2つの選択肢を規則性のある順番で答え分けさせました。
ランダムローテーションでは3つの選択肢をランダムの順番で答え分けさせます。
例えば3枚のカード「(A)でんしゃ」「(B)ひこうき」「(C)くるま」があったとすれば、
(A)(B)(C)(A)(C)(A)(A)(B)(B)(A)
と言った感じです。
(A)の割合が多い(10回中5回)のは「(A)でんしゃ」がターゲットだから、になります。
ランダムローテーションで達成基準に達し、そののち例えば日を開けてもう一度ランダムローテーションを行いましょう。
2回連続でランダムローテーションを行い、達成基準に達した場合そのターゲットは「習得」として扱います。
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(6)DTTのデータの記録について
可能であればDTTを行っているとき、1トライアルにつき1つデータを記録するようにしましょう。
かなり細かく記録することもできますが、最初は簡易的な記録方法で良いと思います。
「プロンプト無し正当」・・・「+」
「プロンプト有り正当」・・・「p」
「エラー」・・・・・・・・・「ー」
最初は以上の3つのどれが出現したか、という記録で良いと思います。
加えて、休憩を入れた箇所に「/」を記載する、というところで充分でしょう。
最初から「正しく記録をつけれるようになってから記録をつけよう」と考えるとなかなか億劫になってしまいます。
そのためやっていく中で必要なものを取り入れて行く、というスタンスが良いでしょう。
もし記録をもっと細かくして行きたい、と言った場合は、
「プロンプト有り正当」・・・「p」
の部分の記載を細かくして行きます。
例えば、
・ 「コメントのプロンプト(例、間違いそうになったとき「あれ」と言って正解を促す)」・・・「C/p(Comment Prompt)」
・ 「視覚的に正解を示すプロンプト」(例、正解のカードの位置を取りやすい位置にする)」・・・「V/p(Visual Prompt)」
等、どういったプロンプトを使用したかを分類し記載することができます。
もし慣れてきたら上のような分類して記載することに挑戦してみてください。
個人的には上のような分類は「この方法でないと」、というスタンスではなく自分のやりやすいように行い、便利な記録方法を探索するような意識で、自分に合った方法を探して行くのが良いと思っています。
ただしチームで行う場合は「記録」の役割の1つは「情報共有」だと思うので、自分に合ったというよりは、チームに合ったスタンスを探って行きましょう
さいごに
本ブログページではここまで学んで来た「受容課題」とそしてこれから実践して行く「マッチング課題」と「表出課題」の厚みを出して行くことを狙い書いてきたページです。
「受容課題」、「マッチング課題」、「表出課題」というDTTを行うに当たり「こういうキーワードは知っておいた方が良いな」と思うものを集めたページがあると便利だなと思ったこともあり、本ブログページを作りました。
それは、
(1)DTTについて
(2)「マッチング課題」、「受容課題」、「表出課題」について
(3)強化について
(4)プロンプトについて
(5)トライアルレベルについて
(6)DTTのデータの記録について
でした。
実際にはこのブログページでご紹介したワード以外にもたくさん知って欲しいものはあるのですが、DTTをする上で特に知っていて欲しいというものを本ブログページで集めました。
本ブログページで出てきた言葉は、検索窓に入れて検索していただければ本ブログ内の他記事でもひっかかるものがほとんどです。
是非、興味のある人は検索してみてください。
今回は解説ページでしたが本章は「ABA自閉症療育をご家庭でやろう」の章です。
次の本章ブログページでは実践となります。
本章次のページでは「DTTのマッチング課題」について実践をして行きましょう。
本章次回のブログ記事もどうぞよろしくお願いいたします!
<参考文献>
・ James E. Mazur (2006) LEARNING AND BEHAVIOR:6Th ed. 【邦訳 磯 博行・坂上貴之・川合伸幸 訳 (2008) メイザーの学習と行動 日本語版 第3版 二瓶社】
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】
・ 山本 淳一・松崎 敦子 (2016) 第2章 発達障害の支援の基本 早期発達支援プログラム 【編集 下山 晴彦・村瀬 嘉代子・森岡 正芳 (2016) 必携 発達障害支援ハンドブック 金剛出版】