本章1つ前のページ、「強化子選定、強化の練習ーアイコンタクト課題を通して実践する(ABA自閉症療育をやってみる2)(https://en-tomo.com/2024/07/12/reinforcer-selection-and-reinforcement-practice/)」にて、
本章次のページでは「エラーレスラーニング」のポイントをご紹介すると書きました。
強化子選定と同じく大切なテーマとなるので、本ブログページの内容から「エラーレスラーニング(無誤学習)」を実践してみましょう。
本ブログページでは、
・ エラーレスラーニングがどうして必要か?
・ エラーレスラーニングの2つの方向性
・ 刺激内プロンプトを実践する
・ 刺激外プロンプトを実践する
について書いて行きます。
本ブログページでは項目内にも記載がありますが「刺激内プロンプト」を実践してみましょう。
「刺激外プロンプト」については本ブログ内でも記載がありますが「刺激内プロンプト」を使用し、その上で必要であれば都度、使用してみてください。
エラーレスラーニングがどうして必要か?
狙いとは違った形で学習が成立(誤学習)することは誰でもあるでしょう?
いわゆる「勘違い」と言っても良いかもしれません。
しかし特に発達の遅れの大きいお子様の場合、こちらの狙いとは違った形で学習が成立(誤学習)してしまったとき、修正に時間がかかる場合があります。
例えば「りんご」カードを見せて「りんご」と言えるようになるために、私たちは「りんご」と言ったとき、抱っこをして褒めることで強化して練習をしていたとします。
しかし実は「りんご」に対して「りんご」と言ってもらうことを教えたつもりが、お子様は「何か言葉を言うことを求められている」という雰囲気(例えばお母様の姿勢や口元の動き)に対して「りんご」と言うことを覚えており、
日常生活で言葉を言って欲しいとき、かもちだされた雰囲気から「りんご」と言ってしまう、このようなことが誤学習です。
本来教えたかったことと違う狙っていない学習が成立する = 誤学習
言葉で「このときとはこうやったけど、このときはこうやから違う」ということを伝えることが難しい場合、修正に時間がかかることがあります
但し、誤学習自体が絶対悪というわけではありません。
例えば上のシチュエーションに反応してしまったというのは、課題自体がお子様にとって価値があったため、般化が過剰に起こってしまった例と言えるでしょう。
課題自体がお子様にとって価値があるのは悪くないので、誤学習自体が絶対悪とは私は思いません。
起こってしまう誤学習は仕方ないし捉え方によってはポジティブな側面もあるが、修正に時間がかかることがあるため、可能な限り防げる誤学習は防いでいこう!
というのが私自身の誤学習に対してのスタンスです。
なのでエラーレスラーニングするという意識は特に発達の遅れの大きなお子様の場合は必要になります。
エラーレスラーニングの2つの方向性
エラーレスラーニングは基本的には「プロンプト(Prompt)」と呼ばれるものを使用して行います。
「プロンプト」はABAではメジャーなワードのため、本ブログの検索窓で検索していただいてもかなりの数が出てくる言葉です。
「プロンプト」を簡単に言い換えれば、
課題が成功(正解)するためのヒント(手助け)
と言い換えられます。
エラーレスラーニングの2つの方向性として「刺激内プロンプト」と「刺激外プロンプト」を本ブログページではご紹介しましょう。
また読んでいただくだけでなく実際に実践いただけると幸いです。
刺激内プロンプトを実践する
本章2つ前のブログページ「お勉強を行う環境やアイテムを整える(ABA自閉症療育をご家庭でやろう1)(https://en-tomo.com/2024/07/05/arrange-the-environment-and-items-for-studying/)」、
でも準備した教材「クレヨン」と「A4を4等分した紙」を使い、
支援者が縦線を描いたら縦線を引いてもらう「支援者と同じものを作ることを達成させたい課題」を例として書いて行きます。
お子様に達成して欲しい行動(これを「ターゲット行動」と呼ぶ)は例えば「マネして」とか「一緒して」と言ってお子様の目の前で縦線を引きそれを見てもらい、「やって」とか「描いて」と言って同じようにお子様に縦線を描いてもらう課題です。
もしお子様がこれができるかどうかわからないから、お試しでやってみる、と言った場合それは「アセスメント」と呼ばれます。
アセスメントは日本語にすると「評価」や「査定」と言う意味です。
もしお子様にとってそれは難しい課題であり、練習課題だと捉えて行う場合は「介入(かいにゅう)」と呼ばれます。
「介入」は英語にすると「Intervention」です。
アセスメントの場合はやってもらい様子を見れば良い(様子を見る中で失敗するのも良い)と思いますが、介入の場合はプロンプトを使用し成功させて行きます。
そしてプロンプトは徐々に少なくして行って(これをプロンプトフェイディングと呼ぶ)、「ターゲット行動」を達成させるよう支援しましょう。
上の課題の刺激内プロンプトの例を下のイラストに示しました
上のイラストは「蛍光ペン(黄色)」でお子様に描いて欲しい線をお子様が描く紙にあらかじめ描いておくことにて「刺激内プロンプト」を実践する例です。
「教材(刺激)」の中(内)にプロンプトが入っているため「刺激内プロンプト」と呼ばれます。
左から、
・ お子様がそのままなぞってくれれば正解となる線
・ お子様に描いて欲しい線を半分描いたもの
・ お子様に描いて欲しい線の始点のみ描いたもの
・ 何もなし(本来お子様にできて欲しい設定)
を示しました。
1回できたら左のものにプロンプトフェイディングできれば良いですが、1回で移行できなくても構いません。
その場合は何度か連続して課題を行うことになると思いますが、連続して課題を行うときの1回目を「1トライアル目」、2回目を「2トライアル目」と呼び、トライアル数をカウントして行きます。
何トライアルでプロンプトをフェイディングして行かないといけないということはありませんし、1日で「ターゲット行動」を達成できなくても大丈夫です。
しかし、プロンプトは可能な限り迅速に抜いて行くのが「プロンプト依存(※ブログ内でも紹介あり「検索窓」で)」を防ぐ法則となるので、あまりにプロンプトが抜けない場合は「使用しているプロンプト」もしくは「強化は適切か?」、「ターゲットが難しすぎないか?」を見直す必要があります。
上の例では支援者が縦線を描いたら縦線を引いてもらう「支援者と同じものを作ることを達成させたい課題」を例として描いてもらいましたが、それが簡単な場合、
「ー」、「+」、「⚪︎」・・・2歳から4歳までであればこれらの記号
「◻︎」「△」・・・6歳までであればこれらの記号
もしそれらも可能であれば「ひらがな」や「数字」で実践をしてみてください。
また上のイラストのように「蛍光ペン」を使用した場合、「蛍光ペンをなぞれば良いのね」という誤学習が生じる可能性があります。
本当は『「マネして」とか「一緒して」と言ってお子様の目の前で縦線を引きそれを見てもらい、「やって」とか「描いて」と言って同じようにお子様に縦線を描いてもらうこと』がターゲットなので「蛍光ペンをなぞれば良い」は誤学習と言えるでしょう。
その場合は下記でご紹介する「刺激外プロンプト」も使用して徐々に刺激内プロンプトをフェイディングして行くことも1つの方向性です。
ここまでご紹介した刺激内プロンプトは「教材自体にプロンプトが仕込んである」という作りでした。
対してこれからご紹介する刺激外プロンプトは教材の外でプロンプトを行います。
刺激外プロンプトは「マンドトレーニング(要求語の練習)」や「DTT(知識を蓄える練習)」では刺激外プロンプトを用いることが多いでしょう。
私は個人的にはABA自閉症療育では刺激外プロンプトの方が使用頻度は多いのですが、
教材にプロンプト・フェイディングのステップが内在されていると、保護者の細かい力加減やタイミングの違いに左右されることなく効率的に子どもの学習に繋げられる。そのため特に保護者指導の療育では、刺激内プロンプトを可能な限り活用すべきであるとの意見があり(参考 熊 仁美・竹内 弓乃,2015)、
親御様へ方法をお伝えする際、刺激内プロンプトで可能な課題については刺激内プロンプトでの支援方法をお伝えしています。
刺激内プロンプトは教材を事前に整えないといけないため準備が必要ですが、とても有力な療育の選択肢となるでしょう
刺激外プロンプトを実践する
本項目では刺激外プロンプトの紹介を行います。
本項の内容は「本ブログページを見て刺激外プロンプトを絶対に実践してくれ」という内容とはなっておりません。
上で「刺激内プロンプトの実践」を推奨しましたが、もし刺激内プロンプトだけで行えるのであれば「刺激外プロンプト」は必要ないでしょう。
実践を行う中でそれでもエラーが出た場合、本項の刺激外プロンプトにてご対応ください。
刺激外プロンプトはお子様の5感、特に「視覚刺激」と「聴覚刺激」と「触覚刺激」に働きかけるものは多いでしょう。
詳しい使用方法の一例は、是非「プロンプトのコツ2つの方向性で考える!加えてエラーレスのプロンプト使用も紹介(ABA自閉症療育テクニック25)(https://en-tomo.com/2024/02/23/two-directions-of-prompts/)」をご参照いただきたいです。
刺激外プロンプトはプロンプトを出すタイミングが2つあります。
(1) お子様がエラーをしたとき、正解に導くためにプロンプトを使う
(2) お子様のエラーを見込んで、正解に導くためにプロンプトを使う
です。
上でご紹介した「蛍光ペン」を使用した「刺激内プロンプト」のみで上手くいかなかったときにどのように刺激外プロンプトの、
「(1) お子様がエラーをしたとき、正解に導くためにプロンプトを使う」と「(2) お子様のエラーを見込んで、正解に導くためにプロンプトを使う」をどう用いるか見ていきましょう。
「(1) お子様がエラーをしたとき、正解に導くためにプロンプトを使う」は、
課題を行なってみて、お子様がエラーをしたとき、プロンプトを使って正解させます。
例えばマネして縦線を描くことを求めたとき、お子様が横線を描いてしまった場合、これはエラーです。
そのとき手をそっと持って、一緒に縦線を描き「できたね」と強化子を伴わせるタイミングを作ります。
(1)を行ってみたら、次の試行の際はプロンプトを無くしてみて、プロンプトが無くともお子様ができるか見てみましょう。
このプロンプトを出すタイミングは「お子様がエラーしたことを確認したあと」です。
対して「(2) お子様のエラーを見込んで、正解に導くためにプロンプトを使う」は、
お子様は多分エラーするだろうというとき使用します。
このプロンプトを出すタイミングは「お子様がエラーしたことを確認するまえ」です。
(1)にて2、3回もやってエラーが続くようであればこちらを使ってください。
マネして縦線を描くことを求めたとき、
例えば「マネして」とか「一緒して」と言ってお子様の目の前で縦線を引きそれを見てもらい、「やって」とか「描いて」と言ったタイミングでお子様の手を持ち一緒に縦線を描きます。
そして、徐々にお子様の手を持つ力や時間を弱めて行き、今実践している刺激内プロンプト内にて一人で達成できることを目指してください(プロンプトフェイディング)。
そして強化子を伴わせます。
このときコツとしてはできるだけ早いタイミングで何度かトライアルを連続で実践してください。
そして、何度か連続でトライアルを行う中でプロンプトは徐々に弱くして行って欲しいです(プロンプトフェイディングの実践)。
上で『「蛍光ペン」を使用した場合、「蛍光ペンをなぞれば良いのね」という誤学習が生じる可能性がある』と書いたのですが、
その場合は上で書いた「刺激外プロンプト」も併せて実践してみてください
さいごに
本ブログページではエラーレスラーニング(無語学習)についての練習方法を書いてきました。
本ブログページでご紹介した2つのプロンプト、
・ 刺激内プロンプト
・ 刺激外プロンプト
いろいろなことを教えて行くとき応用できるので是非、教えるときにご活用ください。
また「刺激外プロンプト」は、
(1) お子様がエラーをしたとき、正解に導くためにプロンプトを使う
(2) お子様のエラーを見込んで、正解に導くためにプロンプトを使う
という2つのプロンプトを使用するときのタイミングがありました。
個人的にはなかなか課題が達成できないときはプロンプト依存を防ぐ意味でも「(2) お子様のエラーを見込んで、正解に導くためにプロンプトを使う」を基本活用し、プロンプトフェイディングを行い実践していって欲しいです
基本的にエラーレスラーニングではお子様は正解するたび、強化子が伴います。
そのため「(1) お子様がエラーをしたとき、正解に導くためにプロンプトを使う」の方向性では、
「お子様がエラーする」→「支援者がプロンプトする」→「お子様が正解する」→「強化子がもらえる」
ということがパターンになってしまいます。
そのためお子様の気持ちを代弁するのであれば「適当にやっても(エラーしても)楽しい結果(強化子)もらえるし別にええか」となってしまい、なかなか学習が進まない可能性があるでしょう。
これでは本末転倒です。
このようなときは「(2) お子様のエラーを見込んで、正解に導くためにプロンプトを使う」が有効に働きます。
最後に本文中にも書きましたが、
あまりにプロンプトが抜けない場合は「使用しているプロンプト」もしくは「強化は適切か?」、「ターゲットが難しすぎないか?」を見直す必要があることも覚えておいて下さい。
誤学習を防ぐエラーレスラーニングを実践しながらも、お子様の学習の達成度合いも見て、調整しながら日々の課題を行なっていってください。
本章次のページでは「DTTの受容課題」について実践をして行きましょう。
<参考文献>
・ 熊 仁美・竹内 弓乃 (2015) 「編:日本行動分析学会 責任編者:山本 淳一・武藤 崇・鎌倉 やよい ケースで学ぶ行動分析学による問題解決 金剛出版 p52-53」