本章これまでのブログ記事では「スキナーの言語行動」について書いきました。
そしてスキナーの言語行動は「話し手」の行動であり、「聞き手」の行動としてブログタイトルにもある「ルール支配行動」という名称をご紹介してきました。
ここまでのまとめは「スキナーの言語行動まとめページ(ABA:応用行動分析学の言語行動4)(https://en-tomo.com/2024/06/21/summary-of-skinner-verbal-behavior/)」から!
ブログタイトルに「ルール支配行動(Rule-governed behavior):るーるしはいこうどう」、
そして新しい言葉として「随伴性形成行動(Contingency-shaped behavior):ずいはんせいけいせいこうどう」という名称が出てきています。
この「ルール支配行動」と「随伴性形成行動」というワードは教科書でも対比して書かれることが多いテーマです
そして対比して知って行った方がわかりやすいというワードでもあります
本ブログでも「ルール支配行動」と「随伴性形成行動」というワードについて、1つのページ内で対比させてご紹介をして行きましょう。
ルール支配行動と随伴性形成行動
スキナーは人のオペラント行動の獲得過程は「ルール支配行動」と「随伴性形成行動」に分類できるとしました(参考 田中 善大,2020)。
※ オペラント行動についてはブログ内の検索ページを調べても出てきますが、簡単に言えば人間が自発的に行う行動のことです
上で書いているようにあくまで「ルール支配行動」と「随伴性形成行動」は「オペラント行動の学習過程」となります
そのため「レスポンデント条件付けで学習可能なレスポンデント行動の学習過程」は含みません
田中 善大 (2020) は、
随伴性形成行動は環境からのフィードバック、言い換えると行動随伴性によって形成、維持される行動であり、ヒトと他の動物に共通のものであるが、
一方、ルール支配行動は、随伴性を記述した言語刺激であるルール(rule)を弁別刺激とする行動であるため、ことばを持つヒト特有の行動となる
と述べました。
田中 善大 (2020) を参考にすれば「随伴性形成行動」はヒトや動物に共通する行動ですが、「ルール支配行動」はヒト特有の行動です。
杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998) は、
・ 随伴性形成行動・・・随伴性によって制御される行動、随伴性による制御とはルールがなくても随伴性が直接行動を制御すること
・ ルール支配行動・・・ルールによって制御される行動、ルールによる制御とはルールがそのルールの中に示された行動を制御すること
と述べています。
専門用語も出てきているので対比させた例を見て考えて行きましょう
随伴性形成行動とルール支配行動の例を参考に見てみます。
例えば、お腹が空いているときに降りた駅の近くでぷらぷらとご飯屋さんを探していたとして、
歩いていたところ良い匂いがし、そちらに歩いて行くと好みの外装のお店を見つけ、そのお店に入ったところ、そのお店の料理がもの凄く美味しくて、今後もその店に行く行動が維持する、と言った場合は「随伴性形成行動」です。
このように、
「随伴性形成行動」とは環境の刺激(例えば視覚聴覚等の5感)に従って行う行動となります。
上記の文章太文字の今後もその店に行く行動が維持するの部分は「随伴性形成行動」を行なった結果、料理が美味しかったことによって強化を受けていることを示す部分です。
対してルール支配行動は?
あなたが私に「あのお店美味しいよ」と教えてくれて、私がそのお店に入ったところ、そのお店の料理がもの凄く美味しくて、今後もその店に行く行動が維持する、と言った場合は「ルール支配行動」です。
上記の文章太文字の今後もその店に行く行動が維持するの部分は「ルール支配行動」を行なった結果、料理が美味しかったことによって強化を受けていることを示す部分となります。
このように、
「ルール支配行動」とは言語刺激に従って行う行動です。
※上の例では『あなたが私に「あのお店美味しいよ」』と教えてくれた言語刺激
※ レストランガイドの本の紹介を見てお店に行くことも「ルール支配行動」
本ブログ内でこれまで「三項随伴性」という言葉が何度も出てきました。
それは、
「A(Antecedent):先行状況」ー「B(Behavior):行動」ー「C:(Consequence):結果」
行動を真ん中に置き、その前後の状況も含めて行動を捉える見方です。
ABAでは三項随伴性に基づき、
「〜のときに(先行状況)」、「〜をしたら(行動)」、「XXという結果になった(結果)」
という見方をし、
「XX(結果)」によってその直前の「〜をしたら(行動)」が、「〜のときに(先行状況)」のときに増えたり減ったりする、と考えます。
ABAとしては正しい言い方ではありませんが、
例えば「良い結果」が伴えばその状況でその行動は増えるでしょうし、
「悪い結果」が伴えばその状況でその行動は減るでしょう
「〜のときに(先行状況)」は少しわかりにくいかもしれないので説明をさせてください。
これは実際に私の友達が小学生のときにやってめちゃくちゃウケていたギャグがあるのですが、
ズボンは履いたままで陰部部分に両手を置いておき、両手をバンザイのように広げるとともに、「ち○毛、ボーン!」と大きな声でいうギャグがありました。
このギャグは友達の前で行ったら鉄板のギャグでした。
しかし例えば、友達の前で「ち○毛、ボーン!」のギャグをすればウケると思いますが、そのギャグを校長先生の前で行うと注意を受けると思います。
すると「友達の前ではやる」けど「校長先生の前ではやらない」と、「〜のときに(先行状況)」が分化して行くため、「〜のときに(先行状況)」も行動を決める上で重要な要因でしょう。
上の例で「友達の前ではやる」けど「校長先生の前ではやらない」となった場合で言えば、
校長先生の前で実際にギャグをやって怒られたという直接経験によって校長先生の前ではギャグをやらなくなった場合は直接体験によるものなので「随伴性形成行動」
お友達から「先生の前ではやらない方が良いよ」と言われ、校長先生の前ではギャグをやらなくなった場合はルールによるものなので「ルール支配行動」
です。
上の例ではお友達は「先生の前ではやらない方が良い」と言ったのですが、お友達から「そのギャグ、下品だけど、女の子にもやってみてよ!絶対ウケると思うよ」と言われたとしましょう。
ギャグをしていた男の子も「ち○毛、ボーン!」のギャグは異性に対して行うにはちょっと恥ずいと思っていましたが、
意を決して「ち○毛、ボーン!」のギャグを女子の前でもやってみました。
これを「〜のときに(先行状況)」、「〜をしたら(行動)」、「XXという結果になった(結果)」という三項随伴性の観点から見ると、
「〜のときに(先行状況)」は「お友達に女の子の前で」、
「〜をしたら(行動)」は「やってみてよと言われた」、
「XXという結果になった(結果)」は「絶対ウケると思うよ」
以上の三項随伴性が記述されたルールによって行動が制御されていると言えます。
William・O’ Donohue・Kyle E. Forguson (2001) はルールはいろいろな形をとると述べており、
一定のオペラント行動の自発ないし欠落に罰または強化子が随伴する状況を特定している
と述べています。
ルールについて「一定のオペラント行動の自発ないし欠落に罰または強化子が随伴する状況を特定している」とは、
ルールには「〜のとき(先行状況)、〜したら(行動)、〜になる(結果)」という行動をしたとき(またはしなかったとき)の状況が記載される、と言う意味です。
ここまでは「〜したら」ということを紹介してきましたが、ルールには「〜しなかったとき」というパターンもありますし、
また「良いこと(強化)」が伴うだけでなく、「悪いこと(罰)」が伴うというパターンもあります
例えば、
・あのスーパーによるの9時ごろ(先行状況)に行けば(行動)、半額商品が買える(結果)【行動を自発したら強化子が伴う例】
・校長先生の前で(先行状況)、「ち○毛、ボーン!」のギャグをしたら(行動)、叱られるよ(結果)【行動を自発したら罰が伴う例】
・集会のとき(先行状況)、静かに座って待っていたら(行動)、先生が褒めてくれるよ(結果)【行動を自発しなかった(欠落した)ら強化子が伴う例】
・ホテル宿泊に伴う食事は朝の8時までに(先行状況)、レストランに行かなければ(行動)、朝食は食べれないよ(結果)【行動を自発しなかった(欠落した)ら罰が伴う例】
上のようなものはルールの例ですが、
「〜のとき(先行状況)、〜したら(行動)、〜になる(結果)」という行動をしたとき(またはしなかったとき)の状況(強化もしくは罰が伴う)が記載されています。
しかし実際には「夜は早く寝なさい!」とお母様がお子様に言いつけ、お子様がそのルールに従うこともあるでしょう?
「夜は早く寝なさい!」とお母様がお子様に言いつけ、お子様がそのルールに従うことは、
直接的にお母様からお子様へ「寝ないとどういう結果になるか」というところまでは説明はせず、「〜のとき(先行状況)、〜したら(行動)」の部分までしかこの場合は伝えられていません。
このようにそのときのお母様の様子や雰囲気から結果の部分を推測し、自分の中で「きっと言いつけを守らないと悪い結果になるかも」と言うこともあり得ます。
ここまでで「〜のとき(先行状況)、〜したら(行動)、〜になる(結果)」という行動をしたとき(またはしなかったとき)の状況(強化もしくは罰が伴う)が記載されているルールについて書きました。
ここまで書いてきたように「こうするとこうなる」というルールの記載についてスキナーは随伴性特定刺激と定義していました(参考 三田村 仰,2017)。
現在ABAではルールについて「〜のとき(先行状況)、〜したら(行動)、〜になる(結果)」という記述以外のものもルールとして捉えていることがあるので、それについては本章の先のどこかのブログページで書いて行きます。
また武藤 崇 (2011) はルール支配行動と随伴性形成行動の区別は行動の形態からは判断できないと述べました。
武藤 崇 (2011) は例えば料理の完成前に仕上げの調味料を入れる行動だけに注目しても、こおの行動がルール支配行動か随伴性形成行動か判断することはできないと述べています。
確かにそれはそうで、その人が最後に料理の完成前、仕上げの調味料を入れる行動が誰かから教えてもらった行動(ルール支配行動)なのか、いろいろ試して行く中で発見して行っている行動(随伴性形成行動)なのかは、周りから見て判断はできないでしょう
続いて「ルール支配行動」と「随伴性形成行動」のそれぞれの強みと弱みを見て行きます。
ルール支配行動と随伴性形成行動の強みと弱み
まず「ルール支配行動」と「随伴性形成行動」どちらが良いということではありません。
それぞれに強みと弱みがあります。
本項目では私が考えている「ルール支配行動」と「随伴性形成行動」の強みと弱みを2つの側面から書いて行きましょう。
1、生死や健康に対する強みと弱み
1つ目の側面は「生死や健康に対する強みと弱み」です。
随伴性形成行動のように体験をすることによって強化や罰を受け学習を重ねて行く、ということしかできない場合、死んでしまう確率は格段に上がるでしょう。
例えば私たちは「フグは毒があるので(専門的な調理をしたもの以外)食べるのは危ない」と知っていますが、これは直接、フグの毒を食べて身体症状の変化を感じ、一度辛さを味わったために「危ない」と学習しているわけではありませんね?
これは誰かに教えられたり本で読んだりして学習している人が多いはずです。
Joann C. Dahl・Jennifer C. Plumb・Ian Stewart・Tobias Lundgren (2009) は必ずしも直接的な経験によって世界に対して最も効果的な反応の仕方を学習できるとは限らないため、ルールは重要であるとし、
「薄い氷の上を歩いては行けない」というルールは誰もが聞いたことがあるし、従っていると述べています。
このようにルール支配行動は1回の機会で死んでしまう出来事を避けることに役立つでしょう。
では生死や健康に対してはルール支配行動の方が随伴性形成行動よりも優秀なのでしょうか?
一概に生死や健康に対してルール支配行動の方が随伴性形成行動よりも必ずしも優秀とは言えません。
例えば、パニック障がいのある方が数週間後のプレゼンに怯え、聴衆の前で自身がコントロールを失った姿を想像し、「あぁ、きっと上手くいかない」と考えていたとします。
そのような恐怖は不安やパニック症状を引き起こすことも自然ではありますが、実際にはそのような恐ろしい出来事は自分が想像しているだけで、まだ起きていません。
これはルールがあまり適応的ではない方向に動いてしまって、健康に害をなしている状態と言えるでしょう。
他にも「自分は人から醜くみられている」というルールを強めて行く中で、外に出られなくなる。
少し外に出てみたとき、外を歩いている人にあいさつをしたけれども、あいさつが返ってこなかった。
「これは自分が醜いからだ」と結論づけたなどもそうでしょう。
このとき、実際には5人中4人はあいさつを返しくれていたとしても、その5人中4人はあいさつを返しくれていたという直接的な体験(随伴性形成行動)には注意は行かず、
ルールが強すぎるが故に直接的な体験ではない自分の中にあるルールに重きを置いて反応し、ルール支配行動を続けてしまう、というのはあり得ます。
例えばこのような「心の状態」の方面で言えば、不適用を起こすのは不適切にルール支配行動が優位になったときがあるため、精神面では生死や健康に対してはルール支配行動の方が随伴性形成行動よりも優秀とは言えません。
2、学習スピードと柔軟性に対する強みと弱み
2つ目の側面は「学習スピードと柔軟性に対する強みと弱み」になります。
ルール支配行動は学習が早いです。
対して随伴性形成行動は体験の結果を通して学習して行きますので、試行回数も必要で学習に時間が必要になります。
例えばレシピを見て料理を作る行動はルール支配行動と言えるでしょう。
今回、レシピを見てAさんが作った料理は「アジの塩焼き(1匹丸焼き)」だとします。
Aさんはレシピを見て、①塩をつけて置き余分な水分を出して、②キッチンペーパーで出てきた水分を拭き取り、③皮目に包丁で切り込みを入れ塩を振り、④グリルでX分間焼きました。
この場合はルール支配行動と言えるでしょう。
次にBさんをご紹介します。
BさんもAさんと同じ調理工程にて「アジの塩焼き」を作りました。
しかしBさんはレシピを見て作ったわけではなく、これまで培ってきた料理経験から行動し同じ調理工程で行いました。
この場合は随伴性形成行動と言えるでしょう。
上で武藤 崇 (2011) を引用しルール支配行動と随伴性形成行動の区別は行動の形態からは判断できないと書きましたが、
ルール支配行動でも随伴性形成行動でも同じ調理工程にて「アジの塩焼き」を作ることは可能です。
その「アジの塩焼き」がとても美味しかったとき、この味に辿り着くまでのスピードは「ルール支配行動」のAさんの方が早いと言えるでしょう。
対して「随伴性形成行動」のBさんのように何度も作った末にその味に辿り着くのには時間がかかります。
これは「ルール支配行動」の方が早くて「随伴性形成行動」の方が結果に辿り着く(学習した結果が出るまで)までのスピードが速いことを示してるのですが、
例えばアジの塩焼きを誰かに食べさせたところ「もう少し、塩気が少なくて、ちょっとスパイシーな味にして欲しいな」と言われたとします。
Aさんはもともとレシピに沿って作ったためそのオーダーに応えることはかなり難しいでしょう。
でもBさんはこれまで培ってきた料理経験から行動していますので、もっと柔軟に行動を変えることが可能で、オーダーに応えることはAさんよりできる可能性が高いです。
このような視点で見ればルール支配行動は確かに学習は早いのですが、随伴性形成行動と比べて行動の柔軟性が無いと言えるでしょう。
これらはそれぞれルール支配行動と随伴性形成行動の強みと弱みと言える部分です。
さいごに
本ブログの内容から私なりに「ルール支配行動」と「随伴性形成行動」を分かりやすく記述すれば、
ルールの存在があり、そのルールに従って行動したときそれはルール支配行動
ルールがない状態で環境から受けた視覚情報や聴覚情報、嗅覚・味覚・触覚やその他の身体感覚に従った直接経験によって行動したときそれは随伴性形成行動
と言えます。
本ブログで「ルール支配行動」と「随伴性形成行動」について解説してきたのですが、いかがだったでしょうか?
本章1つ前のブログページでも同じような内容を書きましたが、「言語行動」と同じく「ルール支配行動」も特に自閉症療育の中では少しマイノリティなイメージです。
しかし「言語行動」や「ルール支配行動」も私は同じくらい自閉症療育にとって大切な、そして使える知識だと考えています。
本ブログページでは「ルール支配行動」と「随伴性形成行動」の強みと弱みを解説をしてきたました。
本ブログページ内で、
「
現在ABAではルールについて「〜のとき(先行状況)、〜したら(行動)、〜になる(結果)」という記述以外のものもルールとして捉えていることがあるので、それについては本章の次のブログページで書いて行きます
」
と書きましたが、このことについては本章の先のどこかのブログページで書いて行きます。
本ブログページでは「ルール支配行動」と「随伴性形成行動」の強みと弱みを解説をしてきたのですが、次のページではルールはポータブル(持ち運び可能)である、という側面を書いて行きましょう。
【参考文献】
・ Joann C. Dahl・Jennifer C. Plumb・Ian Stewart・Tobias Lundgren (2009) The Art and Science of Valuing in Psychotherapy: Helping Clients Discover, Explore, and Commit to Valued Action Using Acceptance and Commitment Therapy 【邦訳: 熊野 宏昭・大月 友・土井 理美・嶋 大樹 (2020) ACTにおける価値とは クライアントの価値に基づく行動を支援するためのセラピストガイド 星和書店】
・ 松本 明生 (2007) 第四章 ルール支配行動ー言葉による行動の制御を考える 【大河内 浩人・武藤 崇 編著 行動分析 ミネルヴァ図書】
・ 三田村 仰 (2017) はじめてまなぶ行動療法 金剛出版
・ 武藤 崇 (2011)ACTハンドブック 臨床行動変化によるマインドフルネスなアプローチ 星和書店
・ Steven C. Hayes・Kirk D. Strosahl・Kelly G. Wilson (2012) Acceptance and Commitment Therapy The Process and Practice of Mindful Change 【邦訳: 武藤 崇・三田村 仰・大月 友 (2014) アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)第2版ーマインドフルな変化のためのプロセスと実践ー 星和書店】
・ 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)行動分析学入門 産業図書
・ 田中 善大 (2020) 第四章 ACTの基礎理論:ルール支配行動 【谷 晋二(編著) 言語と行動の心理学 行動分析学を学ぶ 金剛出版】
・ William・O’ Donohue・Kyle E. Forguson (2001) The Psychology of B.F.Skinner 【邦訳: 佐久間 徹 (2005) スキナーの心理学 応用行動分析(ABA)の誕生,二瓶社】