本章ではこれまでシングルケースデザイン(以下SCD)の方法として、
Kpolovie Peter James (2016) の論文で紹介された5つ中、3つのSCDデザイン、そして「AーBデザイン」という4つの方法をご紹介してきました。
それらは以下のものでした。
・ AーBデザイン
・ A→B→A→B design(逆転デザイン)
・ Multiple-baseline design(多層ベースラインデザイン)
・ Changing-criterion design(基準変更デザイン)
またこれらをご紹介する前に「ベースライン」についてのブログページも作成いたしました。
「https://en-tomo.com/category/single-case-design-and-functional-analysis/」にて以上のSCDについて確認ができます。
本章ではシングルケースデザインに続き、自発的な行動の意味(目的)を分析する「機能分析(Functional Analysis)」について書いて行きましょう。
ABAで考える行動は「レスポンデント行動」と「オペラント行動」の2つの種類があります。
本ブログページでご紹介している機能分析を適用する主な行動は後者の「オペラント行動」です。
最初に本ブログページで「レスポンデント行動」と「オペラント行動」について簡単におさらいをしましょう。
そして「オペラント行動」は特定の目的を持つと考える、というところまで本ブログページでご紹介します。
「レスポンデント行動」と「オペラント行動」
これまで本ブログ内、例えば「ヒトがコントロール可能なオペラント行動とコントロール不可能なレスポンデント行動を分けて考える(ABA自閉症療育での行動の見方18)(https://en-tomo.com/2022/12/16/view-different-types-of-behavior/)」などで、
自発的な行動 = オペラント行動(オペラント条件付けで学習可能)
誘発的な行動 = レスポンデント行動(レスポンデント条件付けで学習可能)
ということをご紹介して来ました。
上でも書きましたが、
本ブログの章で扱う「機能分析」は上の「自発的な行動 = オペラント行動」を主にを扱います
「誘発的な行動 = レスポンデント行動」とは、
電気が流れ関節がビクッと動いた、虫が飛んできて目の近くに当たり瞬きした、蓋を開けると異臭がしたので息を止めた、CMで懐かしい音楽が聞こえてきて子どもの頃を思い出した、以前嫌なことが起こった状況に近いことが起こり不安になった、占い師に良くない未来を言われ「大丈夫か?」という思考が巡り出した、
など、自分自身で「行う/行わない」が選択できない誘発される行動です。
そのためレスポンデント行動は自分自身でコントロールすることが難しい行動となります。
対して「機能分析」で扱う「自発的な行動 = オペラント行動」は、
手を振る、上を見る、「こんにちわ」と言う、握手する、「これをください」と要求する、逃げる、「やめて」と拒絶する、薔薇の良い香りを嗅ぎに行く、背中が痒いのでかく、
など、自分自身で「行う/行わない」を選択できる行動です。
こちらのオペラント行動は自分自身でのコントロールが可能となります。
「オペラント行動」について少しややこしい点をあげるとすれば、
(1) 「考える」や「思う」などの私たちが普段は行動とは一般的に呼ばないことも「オペラント行動」として捉える(ABAでは生態が行うことを行動と考えるので、「レスポンデント条件付け」でも同じ)
(2) 「自傷行為」など、周りから見ると自分のためにならない行動も「オペラント行動」として捉える
(3) 無意識等と理由付けされる自発的に行った行動もオペラント行動として捉えることがある
などでしょうか?
上の3つの中の特に「(3) 無意識等と理由付けされる自発的に行った行動もオペラント行動として捉えることがある」は例えば、
相手がものすごい勢いで罵倒して来たので、こちらも怒りが湧いて来て「お前が悪いだろ」と言い返した
などの少し込み入ったエピソードです。
このようなエピソードは、
相手がものすごい勢いで罵倒して来た
という状況のもとで、
こちらも怒りが湧いて来た = 怒りは誘発され湧くので「レスポンデント行動」
そして、
「お前が悪いだろ」と言い返した = 怒りが誘発されたのちの行動は自発するものなので「オペラント行動」
と「レスポンデント行動」と「オペラント行動」がほぼ同時に(実はレスポンス行動が少し先行する)生起しているものの分けて捉える考え方をします。
本当に?
上のようなエピソードがあり、もし誰かが『どうして「お前が悪いだろ」と言い返した
んだ?』と理由を聞いた場合、
・ 相手が罵倒して来たので無意識に言い返した
・ 相手が罵倒して来たので自然(まるで誘発されたかのように)と言葉が出てしまった
・ 相手が罵倒して来てこちらも憤り、気がついたら言い返していた
などと理由が説明されるかもしれません。
上のような理由付けは普段、生活の中でもありふれているように思います。
上のような理由付けをされたとしても受け入れることもできるでしょう?
「オペラント行動」でも「自分自身の意思とは関係なし」に動いてしまった、という理由付けも私たちの世界では普通に使われています。
本当に本当にそうでしょうか?
極端でいじわるな例ですが、以下の内容を考えてみましょう。
誰かが銃口をあなたに向け「何か言い返したら撃つ」と言う条件の下、相手がものすごい勢いで罵倒して来たとき
どうでしょう?
怒りが湧くところまでは例え銃口を向けられていても抑えられないかもしれません。
でもそののちの『「お前が悪いだろ」と言い返す』部分は抑えられるような気がしないでしょうか?
もしそうだとすれば、
こちらも怒りが湧いて来た = 怒りは誘発され湧くので「レスポンデント行動」
そして、
「お前が悪いだろ」と言い返した = 怒りが誘発されたのちの行動は自発するものなので「オペラント行動」
という考え方が適用できることがわかると思います。
オペラント行動は極端な状況だと抑えられる、つまり実は(本人は極端な状況を想定して考えたことがないためできないと思っている可能性もあるが)コントロール可能な行動です。
「無意識に言い返した」、「自然と言葉が出た」、「気がついたら言い返していた」というのは、言った本人も嘘をついているわけではないこともあるでしょう。
嘘をつくつもりで理由を述べているのではない可能性があることには注意する必要があると思いますが、上の例から少しレスポンデント行動とオペラント行動の区分けの理解が深まるのではないでしょうか?
※ もちろん「嘘」の時もあると思いますが・・・
また以上は1場面を切り取っていますが相手が罵って来たとき、通常、罵られた方は不快感を感じます。
もし「相手に罵られた場面」にて「不快感」を感じたとき、対応策として「言い返す」ということで乗り切って来たことがこれまで何度もあったら?
「何度も」あったということは「1場面を切り取って考える」とは違うように思います。
何度もある中で、
・ 「言い返す」ということはその人にとってその場を凌ぐことに本人は「何度も」成功したと感じていたとしたら?
・ 本人は「言い返す」が最良の解決法ではないと感じているものの、それ以外の方略を持っていない中で、まだ「言い返す」ことで少しマシな状態を作ることに「何度も」成功していたとすれば?
このようになると、これまでの行動履歴から「強化」を受けた強化歴(これを「強化履歴」という)も積み上がっており、
特にあまり思考を挟まずに行動するようになっている可能性も高いでしょう。
そのような場面でそう行動することはその人のルーチンになっている。
言い換えればやり慣れた行動です。
このようなケースでは「自分の意思で動いた」という感じは薄まり「無意識に動いた」という感覚が芽生えやすいのだろうなと個人的には思っています。
ここまでの話ではレスポンデント行動とオペラント行動が混ざり合って生起しているためややこしく見えたかもしれません。
しかし実際にはほとんどすべての行動はレスポンデント行動とオペラント行動は混ざり合っています。
このことも知っておきましょう。
例えば、以下を考えてみます。
例えばランチを探しているとき、ふと肉を焼く匂いがして来た
少し醤油も混ざったような肉を焼くその香りは、この前食べた「生姜焼き」のイメージを頭にポップアップさせた
今日のランチメニューは生姜焼きにした
などです。
「頭にポップアップ」する、イメージが湧くことはレスポンデント行動として考えられるでしょう。
ABAでは自身の意思に関係なく「誘発され湧く」イメージも行動で、誘発されて沸いたイメージは「レスポンデント行動」です。
但し「誘発され湧いた」のち、「実際に行動に移すかどうか?」はコントロール可能な範囲であり、「実際に行動に移した」ときそれはオペラント行動と考えます。
上のような何気ないオペラント行動にも自身でコントロールできないレスポンデント行動が関連している、ということを知っておきましょう。
「オペラント行動」は特定の目的を持つ
さてここまでで「レスポンデント行動」と「オペラント行動」について書いて来ました。
ここまでで「レスポンデント行動」と「オペラント行動」の特徴、そして見分けるときのコツについて書いて来たように思います。
もし「オペラント行動」は自分自身で選択して動くことができる行動であるとすれば?
そこにはどれくらい意識しているかの量にさこそあれど「目的」が存在します。
「どれくらい意識しているかの量にさこそあれど」というのは例えば、
上で書いた、
「無意識に言い返した」、「自然と言葉が出た」、「気がついたら言い返していた」というのは、言った本人も嘘をついているわけではないかもしれません
もし「相手に罵られた場面」にて「不快感」を感じたとき、対応策として「言い返す」ということで乗り切って来たことがこれまで何度も何度もあったら?
このようになると、これまでの行動履歴から「強化」を受けた強化歴も積み上がっており、特に思考を挟まずに行動するようになっている可能性も高いでしょう
そのような場面でのその人のルーチンになっているということです
そのようなとき「自分の意思で動いた」という感じは薄まり「無意識に動いた」という感覚が芽生えやすいのだろうなと個人的には思っています
の内容のことです。
上オレンジ部分は「どれくらい意識しているかの量」が少ない、つまり自発的に行っているオペラント行動ではあるものの、あまり意識せずに動いている意識量の少ないパターン例と言えるでしょう。
但し自発的に行うオペラント行動ですので、意識量の大小に関わらず「目的」が存在するのです。
さて、
「機能分析」では「行動の機能」を分析します。
「行動の機能を分析する」は基本的に、
(1)その行動の前後の文脈
(2)そしてそののちの行動の変化
の2つを観察して行うのですが、言い換えると「行動の機能」とは「行動の目的」や「行動した意味」です。
そして過去の研究からオペラント行動の機能はざっくりと4つに分けて考えることができることが分かっています。
このことはABAもしくは療育をしている人はよく聞く話なので知っているかもしれません。
講習会とかでもよく上がるトピックです。
誰かを参考文献として使うとすれば例えば、
V. Mark Durand ・Daniel B. Crimmins (1988) は自閉症者への自傷行為への研究で「Motivation Assessment Scale :動機付け評価尺度(MAS)」を開発しました。
「MAS」はお子様の自傷行為の機能(意味)について、
「注意引き行動」
「要求行動 ※事物獲得行動とも呼ばれる」
「逃避・回避行動」
「感覚刺激行動 ※自己強化行動、感覚強化行動とも呼ばれる」
のどれにあたるかの4つの分類を定めた質問紙です。
これらの分類はV. Mark Durand他 (1988) でも書かれていますがこれまでの経験則から産まれています。
特にABA自閉症療育の入門としてはこれらの分類は優秀です。
これからもう少し深く本章で「機能分析」について書いていきますが、基本的に障がいを持つ方への「支援」となったとき、この分類はベーシックな知識と言っても過言ではありません。
V. Mark Durand他 (1988) は自閉症者の自傷行動を4つに分類したのですが、この4つの分類は「自閉症者」や「自傷行為」にしか使えないのでしょうか?
そんなことはありません。
例えばあなたが友達と楽しい話題について話していて、友達と仲良くなることを意図していなくともその時間を持っていたとすればそれは「注意引き行動」
もしあなたが「今日遅くなるから車で迎えに来てくれない?」と言ったとき、相手が承諾してくれる、それは「要求行動」
あなたが「今日はちょっと暑いな」と言ったとしても相手が「そうやな」と言うものの、エアコンをつけてくれず、たまらずあなた自身がエアコンをつけたり、着ていた上着を脱いだとすればそれは「逃避」
「逃避」とはその瞬間、あなたの嫌悪事態が低減・消失されないときに、嫌悪事態の低減・消失を目的として行われる行動です。
「今日はちょっと暑いな」と言ったとしても相手が「そうやな」と言うものの、エアコンをつけてくれないことがわかっているとき、あらかじめ「エアコンをつけておいてくれ」とお願いするとか、少し薄着で行くと言う工夫をする場合、これは「回避」
「回避」は予測される嫌悪事態の低減・消失を目的として行われる行動です。
ランニングをすると社会(例えば他者から「痩せているね等の体型維持の結果」や「尊敬するわ等の賞賛を受ける」など)から受ける恩恵は関係なく、ランニングを行うことの爽快感から、自分自身で気持ちの良さを感じ行動が維持している場合、これは「感覚刺激行動、自己強化行動」
上の例以外に他にも、
・ 自転車に乗って買い物に行くいつもの行動も?(要求行動)
・ 少し不安になって、自分が将来もらえる年金の額を計算することは?(逃避もしくは回避行動)
・ 気持ちが良いため、ストレッチをすることは?(感覚刺激行動、自己強化行動)
・ SNSで料理をUPし、誰かから良いねをもらったとき、ちょっと嬉しいなと思うことは?(注意引き行動)
V. Mark Durand他 (1988) はお子様の自傷行為の機能(意味)について行動の機能を4つに分類したのですが、
ここまでご紹介して来たように私たちが普段何気に行っている行動にも4つの機能は適用できるのです。
ここまで「オペラント行動」は特定の目的を持つと考える、と書いて来ました。
次の本章ブログページでは機能分析では「先行状況」「行動」「結果」の三項随伴性を用いてオペラント行動を観察する必要がある、
という点について書いて行きましょう
さいごに
本ブログページでは「レスポンデント行動」と「オペラント行動」のおさらいとして2つの行動の区分けについて書いて来ました。
本ブログページでは「レスポンデント行動」と「オペラント行動」について、
自発的な行動 = オペラント行動(オペラント条件付けで学習可能)
自分自身で「行う/行わない」を選択できる行動で、自分自身でのコントロールが可能
誘発的な行動 = レスポンデント行動(レスポンデント条件付けで学習可能)
自分自身で「行う/行わない」が選択できない誘発される行動で、自分自身でコントロールすることが難しい
と区分けしご紹介して来ました。
また日常で行っている行動はこの2つの「レスポンデント行動」と「オペラント行動」が混ざり合っていることもご紹介しています。
「オペラント行動」は「機能」を持つのですが、機能は「目的」と読み替えられます。
本章タイトルにもある「機能分析」は主にオペラント行動の機能を分析するための方法です。
そしてV. Mark Durand他 (1988) を参考にオペラント行動は、
「注意引き行動」
「要求行動 ※事物獲得行動とも呼ばれる」
「逃避・回避行動」
「感覚刺激行動 ※自己強化行動、感覚強化行動とも呼ばれる」
の4つの機能に分類できることもご紹介しました。
オペラント行動を機能分析するとき、行動を単体で見るということはしません。
行動の前、これを「先行状況」と言います。
そして行動ののちに伴う「結果」の部分も大切です。
この「先行状況」「行動」「結果」の3つの単位で行動を捉える見方を「三項随伴性(さんこうずいはんせい)」と呼びます。
「機能分析」では「三項随伴性」で行動を捉え、そして、そののちの行動の変化(例えば増えたか減ったかなど)を観察し、機能を分析して行くのです。
本章の次のページでは「先行状況」「行動」「結果」の3つの単位で行動を捉える見方を「三項随伴性」について書いて行きましょう。
<参考文献>
・ Kpolovie Peter James (2016)SINGLE-SUBJECT RESEARCH METHOD: THE NEEDED SIMPLIFICATION. British Journal of Education, Vol.4, No.6, pp.68-95, June 2016
・ V. Mark Durand・Daniel B. Crimmins (1988) Identifying the Variables Maintaining Self-Injurious Behavior. Journal of Autism and Developmental Disorders, Vol. 18, No. 1